彼を思う   作:お餅さんです

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十一話 「溢れた雲」

 チョイスも終わりボンゴレ達が逃げる際に転送システムを壊していったので安全の為暫くこの孤島から脱出出来なくなった。

 

 だがこの一見失態にも思える状況も今も口元に笑みを浮かべているこの方からすれば予想の範疇を出ない。

 

 この方の力の詳細はここにいる全員が知っている。勿論私も。

だがその力はもはや意味をなさない。

 

 別のパラレルワールドと繋がっている感覚はあるのだがあくまで別のパラレルワールドに存在する自分と記憶や知識を共有する力が故に、既に他のパラレルワールドのこの方が滅んでいる為使ったとしても何も知る事はない。

 

 そうにも関わらずここまで正確に状況を予想出来るとは流石と言わざるを得ない。

本人は自分自身の力ではないと謙遜しているが何も知らぬ我々からすれば十分過ぎる。

 

 だからこそ

 

 

「本当に、これしかないのですか」

 

 聞かざるをえなかった。

 

 真6弔花だけでなくこの作戦を知っている者全てが思いつつも言わなかった事を。

 

 幸いザクロは負傷が激しい幻騎士の治療に行き、ブルーベルとデイジーは破壊音が聞こえてる事から最終戦に向けて今も訓練を行っており、他の部下達は転送システムの修理に励んでいる。

 

 現在私と彼の二人きりだからこそ言えた事だがだからと言って不用意に出していい言葉ではなかった。

 

 でも、

 

 貴方ほどの力を、知識を、技術をお持ちならばもっと別の方法があったのではないかと。

 

 自分の無知を棚に上げた考えなのは分かっている。

 

 だが悔しいのだ。

 

 彼の言う事を忠実に実行するしかない自分が。

 

 進言はしよう

 

 助言もいとわない

 

 だがいつもと違いこればっかりは私には思いつく事が出来なかった。

 

 そしてそんな私を彼は何も責めなかった。

 

 

「そうだね…みんなには悪いと思ってるよ。きっと他のみんなも僕を気遣って言わないだけだろうからね」

 

「…言った君を責めてるんじゃないからね? まぁ、ちょっと空気読めないかなとかは思ったけども、想像してたのと実際なるのとでは違うからね。そう思うとよく言ってくれたとも思うよ」

 

「みんな最近ピリピリしてて気まずかったし、さっきだって非道な悪役って事で幻騎士を殺した様に見せたり骸君が足止めしたときにみんなの視線でメンタルボロボロだしさ」

 

「流石真6弔花のリーダーだよね」

 

 

 …違うのです。

 

 茶化さないで下さい。

 

 そんな言葉が聞きたいのではないんです。

 

 貴方はいつもそうだ。

 

 いつも私達の事を第一に考えられて、

 

 自分を最後に持ってくる。

 

 そんな貴方だから今まで私達はついて来ました。

 

 だけど、

 

 

 

「もう、やめませんか?」

 

「え、」

 

 

 

「他の世界何てどうでもいいではないですか」

 

「私達には分かりませんし、今の貴方様には僅かに感じる事しか出来ない。それに聞けば他の世界の貴方様は傍若無人の人でなし、その他の人間も自分の私利私欲に囚われ勝手に滅んだ愚か者達」

 

「…何故そんな世界を貴方様が助けなければならないのですか。これから来る敵なら私達が全力で排除します。必要なら転送システムが治り次第ボンゴレ達に協力を申し出ればいいのです。あちらには事情を知るユニ様がおられます。それにあのボンゴレⅩ世なら誠実に頼めばきっと…」

 

 私は何を言っているんだろうか。

 

 今まで仲間が誰も死ななかった訳ではない。

 真6弔花のメンバーですら死にかけた者はいた。

 

 もしこれで彼が頷けば彼らの思いを無駄にする事になる。

 

 消えていった彼らは恐らくそれでも責める事はしないだろう。

 

 そんな打算的な考えをした自分が、

 

 仲間の死を損得勘定に入れてしまうような汚い自分が、

 

 

「…申し訳ありません。失言でした」

 

 たまらなく恥ずかしい。

 

 

「…」

 

 俯く顔を上げられない。

 合わせる顔が無いとはこの事だ。

 ザクロ達は早く戻らないだろうか、今すぐここから離れたいのに足が縫い止められた様に動かす事が出来ない。

 

 

「このファミリーは僕と君とで作ったんだ。覚えてるかい?」

 

 急に喋り出した彼の問いに顔を見返す事しか出来ない。

 

 

「僕は知識はあってもそれをちゃんと扱う為の自信がなくて、仕方なく資金稼ぎの序でにやってたマフィアと繋がってる悪党狩りをしていたときに偶然君を見つけたんだ」

 

 勿論覚えている。

 私はあのとき死にかけた。

 彼は私が生きようとしたからだと言っているが彼のお蔭で今の私があるのは事実だ。

 この記憶と事実だけは何年経とうとも色褪せることはない。

 

 

「君を見つけた時、僕はショックだったよ」

 

 …聞いたことがない。

 普段自分の事は滅多に話すことがない彼からの告白に少し動揺する。

 

 

「君達表の人間を裏の世界に引っ張ってはいけないって勝手に思っててさ。あのときファミリーをつくる目処が立ってなくてそれなのに時間だけはどんどん過ぎてく、そんなときに今みたいに大きくなっても一人で運営をこなせるような君に会えたからさ」

 

「…どれだけ恨んだかわからないよ。表の君に頼るしかなかった自分を、自分が本当にどうしようもなくなったときに君と会わせるような世界を」

 

「…君の言う通りだよ。僕だって他の世界はどうだっていい。この世界すら恨んでる…でも、」

 

 

 

 

「ここには君達がいるから。他の僕のように壊れかけてた僕を、君達が支えてくれたから」

 

 

 

「…一応もう一回聞いておこうかな。もうすぐ主人公達にやられるような中ボスの僕だけど、」

 

 

 

 

「桔梗、一緒に来ないかい?」

 

 …あなたはズルい人です。

 

 そんな事を聞いてしまえば

 

 ついて行くしかないじゃないですか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元よりそのつもりでございます」

 

「白蘭様」

 

 

 最後の最期まで。

 

 


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