彼を思う   作:お餅さんです

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十話 「悩む大空」

 

 

「ここからは僕と二人だけにしてもらおうかな♪」

 

 

 そう彼が言った瞬間私の守護者達は一様に反対し声を荒げた。

 特に雷の守護者であるガンマは猛烈に反対していた。

 罠に違いないと、行く必要等ないと。

 

 

 私もそう思う。

 だけどそれはここに来る前から予想がついていた。

 

 私は初めから罠にかかる気でいたから。

 

 そうする事で最良の未来に繋げる事が出来ると分かっていたから。

 

 

 きっと私はこの後部屋に入るなり何かしらの罠によって白蘭に操られる。

 ガンマ達は悲しむだろう。

 分かっているにも関わらずその事を告げられない事が申し訳なく思う。

 

 だけどこうでもしないと白蘭を倒す事など出来はしない。

 しかるべき時に来る十年前のボンゴレファミリー、沢田綱吉さん達の為にも

 

 私は喜んで罠に向かおう。

 

 

 

 

 そう、ここにくるまでは思ってた。

 

 守護者達を説得し部屋に入る所はよかった。

 暫く他愛のないやり取りをしたのも。

 そして形だけでも本題に入ろうとする私に何かしようと近づいて来るのも。

 

 だけど、

 

 何故そんなにも、

 

 

 

「つらそうな目をするのですか」

 

 彼がここに来て初めて目に見えて動揺し始めた。

 図星だったんだろう。

 バレるとは思ってなかった。

 そんな驚き

 

 仕方ないか。

 次いで直ぐに納得した表情を取り、話し出した。

 

 

「やっぱ騙せなかったか。流石現大空のアルコバレーノだけあるよね」

 

 そう言って彼は少し罰の悪そうな顔で微笑み、それに対し私は純粋に驚いていた。

 

 何か様子が可笑しいとは思っていたがあの彼がこんな表情をするとは思っていなかった。

 

 

「あれ、その顔からして本当に可笑しいと思っただけかな? しまったなぁ、また桔梗に怒られる。てっきり幻騎士の時の様な感じだと思ったんだけど…」

 

「…全てを、話して頂けますか」

 

 彼は少し考えた素振りを見せるも、もう隠す必要は無いと判断したのか静かに話し始めた。

 

 

「ユニちゃんは、もう僕が持ってる力の事を知ってるよね?」

 

 無言で首を縦にふる。

 白蘭の力、それは『別のパラレルワールドの自分との情報や意識の共有』。

 それだけを聞いてもよく分からないし自分が存在する並行世界に限るといった欠点もあるがその有用性は計り知れない。

 

 

「この力はね、正ちゃんって言う僕の親友が十年前に十年バズーカーで何度か僕に会ったせいで偶々発現した力なんだ」

 

 それも知っている。

 彼が言っているのは彼の晴れの守護者、入江正一さんの事だろう。

 一度沢田さんや雲雀恭弥さん達と一緒に非公式の場で会ったことがあり、その際に全ては僕の責任だと涙ながらに謝罪を受けた。

 

 そんな予想もつかない、更に言えば一般市民だった入江正一さんの手元にマフィアの重要武器が渡ってしまい、そのせいで此方の世界に足を踏み入れる様になってしまったとくれば明らかに此方側の不手際だ。

 

 そのときは最終的に雲雀恭弥さんの非難の視線に耐えきれなくなった綱吉さんと正一さんによるジャパニーズドゲザの応酬が私が止めるまでつづいた。

 

 

 

「僕はその力を使って早速見たよ。ここ以外の世界を。そのお蔭でほら、それしか能の無い僕でも今じゃ一つのファミリーのボスをやってるし他の世界の僕はもう世界を征服しちゃった」

 

「だけどね、気になったんだ。少し進んだ世界の僕。つまりは…未来は見えないのかな、って」

 

 彼は言葉を区切るたびに声を小さくし顔を俯かせていく。

 

 

「それで、どうだったんですか」

 

 そんな彼に私は非情にも続きを求める。

 

 彼の反応を見れば大体の見当はつく。

 

 だけど聞かなければならないと思った。

 

 例えこの情報を持ち帰る事が出来なくとも、

 

 私だけの自己満足に終わるとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「滅んでたよ。僕を含めて、全部」

 

 彼は顔を上げる事なくそう告げた。

 

 

「ボンゴレはね、Ⅰ世の時に何かやらかしてたみたいでさ。ボンゴレを潰した後直ぐに行き場を失った怒りとか恨みっていうのかな、そういうのが僕達に全部向かってきてね」

 

「抵抗はしたけど、ボンゴレは世界有数のファミリー。そんな所を相手にしてた後にいきなり来たからさ。やって来た奴らは全員倒したけど、僕や僕のファミリーの幹部はみんな死んだかずっと集中治療室にいないと生きていけなくなって、」

 

 

 

「僕のファミリーは空中分解」

 

「ボンゴレ、そしてその頃にはボンゴレと同じくらい成長していた僕のファミリーの突然の消滅。これを機にのし上がろうとする有象無象のファミリー達。行き場を無くしたボンゴレや僕のファミリーの残党達。その動揺は大規模な抗争になり、裏の世界に収まり切らず表へ。やがて暫くしない内に世界全土に広がり」

 

 彼の顔が上がってくる。

 

 

 

「世紀末って訳だよ」

 

 その口元は上がっており、笑っている様にも見えるが目はどこまでも哀愁を帯び、自身の無力さに苛まれているのが分かる。

 

 

「ですが、貴方の力があれば…」

 

 

「そう、僕の力ならその滅んだ世界達を徹底的に分析して自分達に訪れた時に活かす事が出来る。…でもやっぱりだめなんだ。いくら分析してその脅威を凌いだとしても直ぐに別の勢力が向かってきて同じ事を繰り返す」

 

「シモン、エヴォカトーレ、バルテスカ、他にも色々ね。僕の力にも限界はある。僕の存在する世界の全てが滅べば失敗を活かす何て事ももう出来ない。…僕を倒せばこの世界も含め、僕に支配された世界が全て元に戻る君達はそう思ってたんじゃないかな?」

 

「…それは少し違うよ。この世界が最後なのは君達だけじゃない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正真正銘、僕もこの世界が最後なんだ

「さらに言うなら僕を倒しても世界は元に戻らない。他の世界は僕の仕業によって滅びたんじゃなくて僕以外の要因が介入してきた事で滅びたからね」

 

 

 驚愕、疑惑、憤怒、悲哀。

 

 頭の中で様々な思いが浮かんでは消える。

 

 彼が、あの白蘭が言ったんだ。

 

 信じられる訳がない。

 

 だけど彼の今の顔は、

 

 あまりにも残酷過ぎる真実を私に突き付けてくる。

 

 私は知っているだろう。

 

 彼の力の有用性を。

 

 ならもし本当にそうなのだとしたら、

 

 私には

 

 

 

 一体何が出来るというのだろうか。

 

 自身の死ぬ気の炎を使い尽くす事で亡くなった、これから亡くなるであろうアルコバレーノを蘇らせる?

 

 本当にそれだけで解決出来ることなのか、

 

 この世界だけならまだ分からないが他の世界は?

 それに彼は本当に倒すべき存在なのか?

 

 

 

 …私は、何が出来るんだ。

 

 ボンゴレのみなさん、ジッリョネロのみんなに

 

 一体、何が出来るというんだろうか…

 

 

 

「ごめんね、泣かないでよ」

 

 彼が近くにまで寄り、ハンカチでいつの間にか頬を伝う涙を拭ってくれた。

 

 少しくすぐったくあったが、気分が晴れる訳ではなかった。

 

 

「それに、全部が丸く収まる方法はあるよ」

 

 だけどそれも彼が告げた一言で変わる。

 

 彼の顔にはさっきまでは無かった本当の笑みが浮かび無条件で私を安心させてくれる。

 

 もう大丈夫だと、そう言われてる様な気さえするほど。

 

 

 だけど

 

 何処かで見た事がある気がする。

 

 何処だったろうか。

 

 …あぁ、そうだ

 

 思いだした。

 

 この笑顔は確か

 

 

「僕がみんなを守るから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユニ』

 

『うれしい時こそ、心から笑いなさい』

 

 お母様が亡くなる頃にしていた顔だ。

 

 


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