生命の唄~Beast Roar~ 作:一本歯下駄
『生死は?』
『死んでない。ホオヅキと同じだ
『ふぅむ。その娘は、そのままにしといてくれ』
『トート、放置しろというのか?』
『最近、儂、めっちゃ怪しまれててなぁ……。此処で見つけたーなんて情報誌に乗せたら本拠を潰されそうじゃし……』
『あー……。了解。じゃあこのまま触らずに放置しておく。誰かが見つけるだろうな…………見つけるよな?』
燃え盛る街並みを目にし、其処で火に焼かれる焼死体を踏みつけてアレックスは笑みを浮かべた。
この火は、アレックスを焼かない。この火はアレックスに力を与えてくれる。故に彼はこの炎を恐れる必要は何処にもない。
「はっ、遅かったじゃねえか」
アレックスの手の平から零れ落ちる炎が足元の黒焦げの人型を焼いていく中、瓦礫の山を乗り越えて燻る炎を踏みつぶしたグレース・クラウトスはアレックスを強く睨み付け、鼻で笑った。
「はんっ、待たせたわね。今からあんたを殺すわ」
グレースの後ろから歩みでたカエデ・ハバリが悲し気な目でアレックスを見据える。その憐れむ様な瞳を見たアレックスの額に青筋が浮かぶ。
「おい、テメェ……なんだよその目は」
「……アレックスさん。もうやめましょう、こんな事、何の意味も無いです」
無関係な人々を巻き込み、炎で焼き尽くす事に何の意味があるのか。カエデのその言葉に対し、アレックスは口元を歪め、カエデを強く睨み付けながら口を開いた。
「だから言ってんだろ。
嘲笑の笑みの浮かんだアレックスの表情を見たカエデが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、顔を伏せる。
その様子を見て、グレースは肩を竦め、鉄の棒とナイフを打ち合わせてカエデに言い放った。
「はんっ、あんな事言う奴を止める、なんておめでたい事言わないわよね。ほら、さっさとアイツを殺すわよ」
グレースの責める様な口調に身を震わせ、カエデはゆっくりと罅の入った大剣を構える。もう、彼を止める手段は殺す以外ないのか? 本当に止める為に殺さなくてはならないのか、悩み、苦悩し、カエデは顔を上げて魔法を詠唱文を口にした。
「『
詠唱の完了と共に、カエデを包み込む様に冷気が放たれ、炎とせめぎ合う。キラキラとした
「何怯えてんだよ。今から死ぬのが怖ぇのか?」
カエデの悩み、苦悩を今から殺される事への恐怖による怯えだと誤認したアレックスの言葉に、カエデは身を震わせ、剣の切っ先をアレックスに向けたまま、覚悟も決められず、剣を向けるという行為だけを行う。
二人のやり取りを苛立たし気に見ていたグレースが、肩を竦めてから呟きを零し、一直線にアレックスに突っ込んでいく。カエデがグレースに続いて突っ込んでいき、アレックスがどう猛な笑みでそれを迎え撃った。
「殺すわ」
「…………ごめんなさい」
「謝るな糞餓鬼ィッ!! 二人とも此処で焼け死にやがれえぇぇぇぇええっ!!」
燃え盛る業火を一直線に引き裂き突き進むグレースに、冷気と
最初に攻撃を繰り出したのはアレックス。腕を振るい炎の壁を呼び出してグレースとカエデを焼き尽くさんとするが、グレースが振るう鉄の棒が炎を呆気なく砕き散らし、アレックスが目を見開いて驚きを露わにする間にグレースの一撃がアレックスの側頭部を捉えた。
「燃え尽きろっ!! なっ!? なんで効かな──ぐぎゃっ」
「こんなちんけな火如きで怯むと思うな糞虎ぁっ!!!!」
アレックスの体が大きく揺らぐが、即座にアレックスの足元から炎が溢れだしグレースを押し返さんとする。それを冷気で押しとどめたカエデが素早く大剣でアレックスの足を打ち払い、転倒を誘う。
素早い身のこなしでカエデの足払いから立て直す。幾度となく、カエデには足払いや急所打ちでの戦闘不能に陥らされていた経験があるアレックス。故にカエデの動きから予測するのは簡単だ。殺す気なんて一切感じられない、
「俺をっ、嘗めるなぁっ!!」
足技は、
グレースが追撃をしかけんと鉄の棒を振り上げているのを見たアレックスが、息を大きく吸う。激しく燃え上がる腹の内の炎を吐き出す様に、アレックスが拳を振りぬいた。
ゴシャリという音。アレックスの放った拳は反射的な防御を行おうとしたグレースの鼻っ面を砕き折り、そのままグレースの体が跳ね跳んでいく。意識はあるのか派手に吹き飛びながらもグレースが姿勢を立て直そうとするも、顔面の中心を穿たれていた為か足から着地に成功しつつもそのまま姿勢を整えるまでにいかずに転がっていく。
「グレースさんっ!」
「テメェの相手は此処に居んだろうがぁっ!!」
派手に吹き飛ばされて炎を散らしながら吹き飛んだグレースの姿に驚き、グレースの名を叫ぶカエデに対し、瞬時に引き戻された拳が再度放たれる。カエデの反応速度の方が上だったのだろう、カエデがその拳を綺麗に逸らしてからアレックスの肘を破壊する為に大剣を振るおうとして────剣が砕けた。
破片を散らしながら無残に砕け散った大剣に身を震わせつつカエデが後退し始め、その隙を狙うアレックスの一撃がカエデの腹に突き刺さる。
氷の砕ける音と共にカエデが弾き飛ばされ、空中で姿勢を立て直して足から着地。即座に徒手空拳の構えをとるも既にアレックスが爆炎をまといながら一直線にカエデに迫ってきていた。
「死いぃぃねぇぇぇええっ!!」
殺意に満ちた一撃に対し、カエデは一瞬怯んでしまう。目を見開き、怯んだ体に鞭打ち回避行動をとろうとし始めるが、それより早くアレックスの追撃がカエデに突き刺さった。
二度目も氷の砕ける甲高い音を響かせ、カエデが吹き飛んでいく。アレックスが舌打ちをして追撃を再度狙おうと腰を落とした所に、横合いからグレースがとびかかる。
「あんたが、死ねっ!!」
「うるせぇっ! 俺が死ぬ訳ねぇだろっ!! 雑魚は黙って、燃え尽きろぉぉおっ!!」
互いに吠え、咆哮を轟かせてぶつかり合い、グレースが打ち負けて後退する。アレックスの狙いはカエデ一人であるが、其処に居るのならグレースも糧にせんと食らいつくそうとしている。
カエデは
グレースは同レベルなだけでなく、アレックスが
対するアレックスはカエデに対してレベル差というアドバンテージを持ち、グレースに対しては才能というアドバンテージを持つ。それに加え『烈火の呼氣』による強烈な一撃がアレックスをさらに優位にさせている。
動き自体は悪くなくとも、レベルの低いカエデの消耗は大きく、防御を度外視したグレースも既に満身創痍と言える。対するアレックスはほぼ無傷、まるで倒れる様子を見せない。
このままでは、カエデとグレースの方が先に力尽きる。この
は確実に負ける。
カエデが剣を握り込み、震えた。
「はぁ? 『領域魔法』だと? ナイアル、お前はいったい何を言っているのだ」
炎の壁に遮られ、内側の確認ができない領域。その外側の炎の淵を眺める神ガネーシャの前に突如として現れた神ナイアルの言葉にガネーシャは眉を顰めつつも団員たちに避難指示を続ける様に命令した。
てきぱきと避難させるべき群衆を想い動く神をにこやかで
紫色の寝間着姿に、蝶ネクタイとナイトキャップを被った不気味な男神、ナイアルは再度口を開いた。
「この炎の原因は私のファミリアの団員となったアレックス・ガートルの所為です。この炎は『領域魔法』と呼ばれる新種の魔法であり、本人の資質に左右されない強力無比な効力を持ち合わせています」
「……その話はわかった。だが何故お前の子供はこんな事をしでかした。主神として止めるべき事案ではないのか」
アレックス・ガートルの暴走という証言。そしてアレックスが使用した魔法の情報提供、ステイタスに関して記憶している事全てをガネーシャに伝えた神ナイアルに対するガネーシャの反応は芳しくない。
眷属の暴走を許すのは、主神としてしっかりと手綱を握っていなかったからである。その事を責めるよりも、目の前の事態の収拾を優先すべきなのを理解しているが故に、ガネーシャは眉を顰めつつも神ナイアルに問いかけた。
「それで、この魔法の解除方法はないのか?」
「ありません。
ナイアルの言葉にガネーシャが困った様に溜息を零し、
「アレックス・ガートルはなぜこのような事を?」
「……死ぬのが怖い。それは誰しもが持つ感情では?」
「何を言っているのだ」
「彼は
答えとも呼べないような内容にガネーシャが溜息を零している間に、【ガネーシャ・ファミリア】の団員が
「やめた方が良いですよ。この魔法は
「その特定条件ってなんや?」
ガネーシャとナイアルの間にひょっこりと顔を出した赤髪の女神。その姿を一瞥したガネーシャは吐息を零してからこの場は任せると呟いて団員達への指示出しの方へ集中し始める。対してナイアルはロキの方に向き直り、気色の悪い微笑みを浮かべた。
「お久しぶりですロキ。相変わらず、恐ろしい形相をしていらっしゃる」
「誰の所為やド阿呆」
ド直球な、飾り気の一切感じられない殺意に満ちたロキの形相に不気味な笑みで答えるナイアル。火花が散り合い、神ガネーシャが
「
ロキの言葉にナイアルが目を見開き、気色の悪い笑みから困ったような笑みに切り替え、頬を掻きながら口を開いた。
「いや、逆に聞いても良いでしょうか。なぜあんなおかしな事になっているので?」
「はぁ? なにがや」
「……私が囁く必要もなく、勝手に
自身の手で引き起こした出来事であるなら
「最低の屑やな」
「邪神ですから」
此度の出来事はナイアルの仕業ではない。少なくともナイアルの主張ではそうであるが、それをロキが認めるかは話が別だ。
「この魔法について教えろ」
「良いですよ。効力を隅から隅までお話しましょう」
無言で背中に突き付けられた杖の感触にナイアルが両手を挙げて降参を示しながら口を開く。語られる内容を吟味するロキと、ナイアルの背後から鋭い殺気をぶつけるリヴェリアの二人に対し、ナイアルは辟易した様に溜息を零した。
「こんなの予定外なんですけどねぇ。まあ、
アレックス・ガートルの魔法は『領域魔法』であり、同時に『
『領域魔法』とは言うが、性質は
アレックスの呼び起こす代物は
火種から始まる、業火。アレックスの小さな、けれども無視しきれない
『火に焼かれた命の数だけ効果範囲増大』
火種に焼かれ、命を落とした
『逃走の意図を持つ者に燃焼効果』
たとえ
巻き込まれたはずのグレース・クラウトスやカエデ・ハバリには『抵抗心』が残っているのだろう。故に彼女等は正しく炎に焼かれず、耐える事ができる。逆にペコラ・カルネイロはそもそも『勝とう』という意思が薄弱過ぎる。故に炎に巻かれている。
『効果範囲内における
この炎が燃え盛る領域内では、炎が燃え尽きるまでアレックスの意図したとおりに炎属性の
「簡単に状況を説明します。この炎は対象を焼き尽くす事で範囲を広げます」
つまり、中で焼け死んだ人の数だけ、範囲は広がっていく。当然だが、この魔法はかなり特殊な代物であり、
火を止める方法は
「つまりですね、現状
耐久に優れ、火に巻かれても不快感を訴える程度で平然そうにしているペコラが居る。それがこの炎を
「内側でアレックスを殺す事が出来ないのなら、外で出来るのはペコラ・カルネイロを
「はぁ? 制御不可能て、んな阿呆な魔法ある訳が……」
でも、実際目の前にありますよね? そう呟くナイアルの言葉にロキが眉を顰める。リヴェリアも不愉快そうに睨むが、睨まれたナイアルは楽し気に肩で笑い。呟いた。
「まあ、同じ『領域魔法』でなら
一時的に姿を隠す事に成功し、炎を狂ったように放ちながら笑うアレックスの姿を炎の隙間から見据えるグレースとカエデ。
「あっついのよほんとに……糞っ、なんなのこの炎は……カエデ、無事?」
「……はい」
炎の柱が幾つも立ち並び、まるで獄炎の迷宮の様な状態に陥っている中で、グレースが肩で息をしながらカエデに問いかければ、息も絶え絶えなカエデの返事がか細く聞こえる。
「厄介ね……」
これまでの戦闘において、問題点はいくつも見つかった。
まず、炎の性質。この炎はグレースに
だがカエデにとっては
「まあいいわ。あたしのナイフをー……あ、これもうダメっぽいわね」
グレースがカエデに差し出したナイフは、既にへしゃげて柄だけになっていた。それに気づかずに何度もアレックスに殴りかかっていたグレースは少し唸り、溜息をついてからカエデに柄だけになったナイフを手渡す。
「そういやさ、あんた装備魔法で剣作れるでしょ。それはどうなのよ」
「……できます、けど」
「けど?」
困ったような表情を浮かべたカエデに対し、グレースが胡乱げな視線を向ける。悩んでいる様子のカエデを見て、グレースが溜息を零した。
「何迷ってんのよ。もうそこらに都合よく武器が転がってるなんて期待できないのよ。使えるもんは全部使えばいいのよ、ほら早くしなさい」
急かすグレースの言葉に、カエデが躊躇いがちに口を開く。
「あの剣は、殺してしまう剣なので……」
カエデが生み出す装備魔法、『薄氷刀・白牙』には特殊な効力が存在する。
まるでガラスの様な耐久性の無さと引き換えに、その刀身は切った対象者の『耐久』を無視した斬撃
簡単に言えば、ペコラの様な特殊なスキルでの
もしその剣ならば、何の抵抗もなくアレックスを切り捨てられる。だが、それでは殺してしまう。
殺さずに止めようとしているカエデが、その装備魔法を使うのには抵抗があるのだ。
カエデの話を聞いたグレースが呆れ顔を浮かべ、それから空を見上げて深々と溜息を零す。
「あぁ、糞。殺した方が簡単じゃない。何がいけないのよ」
「人を殺すのはよくない事で────」
「あんたは
気でも狂ってるんじゃないの。そう締めくくり、グレースが立ち上がった。
「生きるか死ぬかの瀬戸際で、よくもまあ理想を語れるわね。あんた余裕そうじゃない」
「っ、違います。ワタシは────」
「何が違うのよ。手があるのに打たないなんて、余裕ぶってるようにしか見えないわ」
グレースがカエデを苛立たし気に睨む。最初から二人で殺す気でいっていれば、何度もアレックスを殺す機会はあった。だがカエデがとどめを拒み、グレースがとどめを刺そうとすれば横からそれとなく邪魔をする。
グレース一人では手の打ちようがないのに、カエデが最後に踏みとどまって邪魔してくるのが、これ以上ない程に苛立たしい。
「なんか無い訳? 殺したくないなら他に手を用意しなさいよ。我儘ばっか言ってないでよ。ムカつくわ」
グレースの睨みつけに怯み、怯えた表情を浮かべるカエデが、はっとなった様に顔を上げて呟いた。
「『
「はぁ? ……あぁ、装備魔法についてるアレ? あんたも出来るの? というか効果は?」
「…………わかんないです」
「はぁぁあ??」
カエデのもつ『薄氷刀・白牙』には
その話を聞いたグレースは呆れを通り越してカエデを殴りつけた。
「ぐぅっ……」
「邪魔、あんたマジで、あんたの事嫌いじゃないし。好ましく思ってたけど、今のあんたマジで邪魔。もっとまともな意見出しなさいよ。何? 効力不明で制御不可能な
「ちがいます、ワタシは……アレックスさんを、殺したくなくて……」
それが我儘だというのだと、青筋を浮かべたグレースがカエデを睨み、カエデが身を震わせる。
そんな二人が、その場から一斉に飛びのいた。瞬間、業火がカエデとグレースの居た場所を薙ぎ払う。
「見つけたぞ。全く、逃げ足ばっかり優れやがって。さっさと、燃え尽きて死ね」
二度目の薙ぎ払う業火をグレースが握り拳で真正面から
「カエデぇっ!! もう手がないんだから、あんたが選べぇっ!!
あたしが死ぬ前に、さっさと選んで。そう叫ぶと同時にグレースがアレックスを釘付けにするべく突っ込んでいった。
「ワタシは……」
人を、斬りたくない。人を斬る感触と、化け物を斬る感触が、同じだから。
過去にヒヅチを斬ったあの時、ヒヅチは死ななかった。だから
だからこそ、恐ろしい。
もし、もしも
殺した方が、手っ取り早くて、確実である。それは理解できる。けれどもそのために化け物になりたいかと言えば、否だ。
「…………」
では、我儘を。カエデ・ハバリが殺したくないという理由だけで、グレース・クラウトスの命を削り取るのが正解か?
「ワタシは」
殺す? アレックス・ガートルを? ワタシの手で?
「ワタシは…………」
アレックスとグレースが激しく殴り合う。何度も吹き飛ばされても、立ち上がってアレックスに食らいつくグレース。彼女の背中を見据え、声が震えた。
「どうすればいいの……」
アレックスを殺したくない。グレースに死んでほしくない。自分も死にたくない。
悩み、苦悩し、震える手で魔法を手繰り寄せるカエデに対し、アレックスにぴったりと張り付いて殴り合うグレースが叫んだ。
「あぁもうっ!! カエデっ!!
あと一分も持たない。早く選べと、カエデの背を殴りつける様に、押す言葉。カエデが、震えながら顔を上げ、両手を前に突き出した。
「『乞い願え。望みに応え、鋭き白牙、諸刃の剣と成らん』」
両手の先に生み出されたのは、簡素で、鍔の無い湾曲した刀。飾り気なんぞ無い処か、刃渡りも短い小太刀とも呼べる小さな刀。カエデが脳裏に描いたのは、ヒヅチ・ハバリを血の海に沈めたあの日握っていた、刀。
手が震える。この氷の刀で、アレックスを切り捨てれば、それで終わり。だけれども、殺したくはない。
奥歯を噛みしめ、苦悩するカエデの横に、吹き飛んできたグレースが叩きつけられる。グレースは口から血を零し、震える足で立ち上がってカエデを横目で見て、呆れ顔を浮かべて肩を竦めた。
「んで、どうするのよ。あたし、多分次突っ込んだら死ぬけど」
「グレースさん……ごめんなさい」
「謝るなら、さっさとこいつ止めてくんない? あ、血が必要なんだっけ? じゃああたしの血あげるわ」
無造作に、カエデの持つ小太刀に腕から滴る血をぶちまけ、グレースが膝を突いた。
「死んだら、容赦しないし。あんたの耳を千切れるまで引っ張るから、覚悟しときなさいよ」
「……はい」
足音が響き、炎を侍らせたアレックスがカエデとグレースの前に立った。
「話し合いは終わりか? にしてもよく頑張ったなぁ? ま、お前らは
目の前で嗤う姿に、カエデは真っすぐにアレックスを睨み返した。
「あん? なんだよその目は」
「今から、貴方を止めます」
宣言し、心に刻む。覚悟を刻み付け、決意を満たし、カエデが両手で、グレースの血によって増強された『薄氷刀・白牙』を構える。
苛立たし気にカエデを睨みつけ、すぐにその口元に笑みを浮かべたアレックスが両手を大きく広げて叫んだ。
「やってみろよ、テメェの魔法と、俺の魔法。どっちが強いか確かめようぜ」
もし、俺を止めれたら。その時は認めてやる。そう口にしてから、アレックスは牙を覗かせる様な獰猛な表情を浮かべ、続けた。
「ま、
「『愛おしき者、望むは一つ。砕け逝く我が身に一筋の涙を』」
カエデの
アレックスの魔法はシンプルに
『アレックスと敵対する者』には効力が薄くなります。正確には『アレックスと渡り合う者』ですかね。
グレースには効力が効かないのは『勝てない』と諦める事も『逃げなきゃ』と弱気になる事もなく、真正面からぶつかっていくからこそ効力が無力化された感じ。
カエデの場合は『諦め』を抱いていないためそもそもの話、効力が発揮されないのと火耐性の防具を身に着けていたことでダメージが激減していた事。
ペコラさんは『勝つ』という意思が薄弱過ぎる。そもそも『応援が来るまで持ちこたえる』と言った消極的過ぎるのが原因。
野良冒険者の方は駆け出しだった為、レベル2が暴れてる=勝てない&逃げなきゃと思った為、効果発揮での炎上。