生命の唄~Beast Roar~   作:一本歯下駄

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『良い報せです』

『なんだいナイアル』

『戦力増強の目途が立ちました』

『は?』

『【ロキ・ファミリア】を追放された間抜けが居るそうです』

『……はい?』

『だから――――』

『いや待ってくれ、ファミリアを追放されるようなのを戦力として数えるのはどうかと思うんだけど』

『でも戦力欲しいでしょう? 一人だと大変でしょうし。僕はアルを気遣っているんですよ?』

『………………嘘臭い』


『追放』

 遠征合宿の合格者はゼロ。班評価の程は未だ不明とは言え、今回の遠征合宿に於いて最も期待されていたジョゼット班はベート・ローガの暗闇からの強襲に対応しきれずに撃破され、他の班もアイズ等の強襲によって全滅させられてしまった。

 

 カエデ達が目を覚ましたのはダンジョン内の夜が明け、水晶が眩き始めた頃であった。

 

 五人全員が立ち上がるでもなく寝ころんだまま十八階層の空を彷彿させる天井を眺めながらぼんやりとしており、他の班のメンバーがそれとなくカエデ達に声をかけてこれからの指示をしていったのを聞き流し、寝ころんだまま天井を見上げてカエデが呟く。

 

「……全滅しちゃいましたね」

「そうね……水風船を武器にするって剣姫ってどんだけよ……」

「はぁ、アレックス、君は身勝手に動き過ぎだ」

「あぁ? 雑魚に足並み合わせられるかよ」

「皆さん元気ですね……」

 

 横並びに並べられたラウル班、徐に身を起こして周囲を見回せばテント等は回収され、撤収準備が始まっている。他の失格になった班のメンバーが何人も集まって反省会をしていたり、後片付けをしている様子を見たカエデが口を開いた。

 

「手伝った方が良いですかね」

「……とりあえずアンタは水浴びしてきなさいよ。と言うかアタシも水浴び行くわ」

 

 泥だらけになったカエデを横目で見たグレースが気だるげに身を起こして立ち上がり、横に居たアリソンの腕を掴んで立たせて周囲を見回す。

 周辺で動き回る【ロキ・ファミリア】団員はラウル班が目を覚ました事に気付いて声をかけてきて以降は、関わってこようとはせずに自分の作業に従事している。

 

「ラウルが居ないわね。何処行ったのよ」

「とりあえずヴェトスさん、ラウルさんが来たらお願いしていいですか?」

「あぁ、別に構わないよ」

 

 ヴェネディクトスが仰向けに寝転がったまま手を振るのを尻目に、カエデの首根っこを掴んだグレースとアリソンが去って行く。

 アレックスが身を起こして伸びをしてから舌打ちして立ち上がった。

 

「アレックス、問題は起こさないでくれよ」

「知るか」

 

 ヴェネディクトスを一睨みして去って行ったアレックスを見送って、漸くヴェネディクトスは身を起こして溜息を吐いた。

 

「まぁ、今回は難易度がかなり高めだったらしいから仕方ないか」

 

 

 

 

 

「水浴びってどこでするんですか?」

 

 首根っこ掴まれたまま運ばれているカエデの質問に対し、グレースは半眼でカエデを見てから呟く。

 

「十八階層の泉の所よ、今は他の子らが警戒してくれるから覗きの心配はないわね」

 

 十八階層の泉にて女性冒険者達が集まって水浴び場として利用している場所がいくつか点在しており、その内の一つ【ロキ・ファミリア】が現在使用している泉の周辺では【ロキ・ファミリア】の女性団員達が覗きに対しての警戒網を敷いている。

 安心して水浴びが出来る様にと言う配慮の様な物に対し、カエデが首を傾げて呟く。

 

「覗き?」

 

 意味を理解していない様子のカエデを見たグレースが呆れ顔を浮かべ、カエデを揺さ振る。

 

「アンタはガキンチョだから気にしてないかもだけど、女ってのは普通裸を見られるのを嫌うのよ」

「……そうなんですか?」

「そういうもんよ、つかアンタは少しは羞恥心ってのを身に着けなさいよ。みっともないわ」

「…………?」

 

 よく分かっていない様子のカエデに深々と溜息を零して手を離すグレース。よろめきながらも自分の足で立ったカエデがふと呟いた。

 

「ワタシ達の荷物は何処でしょうか?」

 

 ラウルが運んでいたバックパックも含め、ラウル班の物資類が何処にも見当たらなかったのを思い出して首を傾げるカエデ。アリソンが笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「あぁ、それなら他の皆さんが回収したそうなので大丈夫ですよ」

「ふぅん」

 

 興味無さ気に前を見たグレース。視線の先には槍を手に周囲を警戒している【ロキ・ファミリア】の女性冒険者の姿。グレースが片手を上げれば、女性冒険者も片手を上げて挨拶を返す。

 

「目が覚めたみたいね。予定は聞いてるのよね?」

「はい」

 

 返答を返したカエデを見て苦笑を浮かべてから、女性冒険者は奥を指し示した。

 

「まだ時間はあるけど、撤収は一時間後だから短めに済ませてね」

 

 横を通り過ぎ、森の奥へ進み行けば何人もの女性団員が泉で水浴びをしているのが見て取れる。そう言えば撤収作業としてテント等を片付けていたのは男性ばかりだったなとカエデが気付いてなるほどと呟いている。

 

 

「着替えはあそこでするみた……アリソン、アンタここで着替えてどうすんのよ」

「えぇ、だって泥汚れ落とす為に洗いますしいちいちあっちで脱いでーなんてやってられないじゃないですか」

 

 グレースの視線の先、同性しかいないから良いかと言わんばかりに装備品の軽鎧なんかを外し、インナーも脱ぎ捨てて泉に歩いて行ったアリソンに呆れ顔を浮かべ、グレースがカエデの方を見ればカエデも同様に泥まみれになった水干を脱いで水場で泥を落としている。

 

「……確かに同性しか居ないけど、アンタらアマゾネスかって……まぁいいか」

 

 普段の言動がしっかりと女性らしいと言われるアリソンだが、どことなく異性を意識しない言動が多い様な気がする事に少しひっかかりを覚えつつもグレースはこそこそと岩陰に隠れて装備を外す。

 たとえ同性とはいえ裸体を晒すのに多少の抵抗があるグレースは、他二人が羞恥心と言うものを何処かに置き忘れてきている事を鑑みて自分がおかしいのかと首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

「ラウル、お前の班のアイツだが」

 

 天幕を片付けている団員を眺めつつ、近場の水晶の上に腕組みをして立つガレスの言葉に、水晶に腰かけたラウルは苦い笑みを浮かべて口を開いた。

 

「やっぱ追放ッスか?」

「そうだな。アレックスには伝えたか?」

「まだッス……地上に戻ってからッスかねぇ」

 

 今回の遠征合宿によって追放が決まったアレックス。だが本人はそんな事覚えていないのだろう。ガレスとラウルの視線の先には、目覚めてからいつも通り手伝いに入るでもなく木の上からテントを片付けるのを眺めているアレックスの様子が見て取れる。

 ヴェネディクトスが先程カエデ達が水浴びに向かった事を伝えてきて、その後に片付けの手伝いをしているにも関わらず、アレックスはやはり手伝う素振りは一切ない。

 

「で、アレックスはどうだった?」

「仲間を仲間だと思わない様な感じだったッス」

「そうか……ロキが悲しむだろうな」

「……でも、このまま団員として居られても困るッスけど」

 

 アレックスがあのまま【ロキ・ファミリア】の団員として活動を続けてもいずれ何かしらの大きなトラブルを起こすのは間違いない。現状に於いてもトラブルが絶えないのだから。

 木の上でくつろいでいる身勝手なアレックスを眺めていたガレスがふと何かに気付いて目を細めて口を開いた。

 

「む? あそこの奴らは何をしとるんだ?」

「ん? あれは……何してるんスかね」

 

 ガレスの言葉に反応して異常に気付いたラウル。視線の先には数人の男性団員が集まってこそこそと森の中に消えて行く姿が見て取れた。手伝うでもなく身勝手な行動を起こしている団員に対し、ラウルが呆れ顔を浮かべ、ガレスが何かに気付いた様に顎に手を当てた。

 

「何やってるんスか。全く」

「覗きにでも行ったのか」

 

 ガレスの言葉に一瞬目を見開き、ラウルはもう一度数人の男性団員が消えて行った方向に視線をやって気が付く。彼らが消えて行った森の方向には、現在【ロキ・ファミリア】の女性団員達が水浴びをする為に警戒網を張っている泉が存在する。

 

「あぁ~……恒例のアレっすか」

「みたいだな。まぁ普通に撃退されるだろう」

 

 遠征合宿中、十八階層に辿り着いた班の中で、女性団員が無防備に水浴びをすると言うイベントが存在し、一部男性団員はそれをどうにかして眺めようと挑むと言うのは遠征合宿恒例行事の様な物である。

 十八階層に辿り着けなかった男性団員達に対して自慢したりするのだろうが、成功する確率は非常に低いとしか言えない。

 と言うよりは恒例行事過ぎて女性団員も手慣れた様子で覗き魔達を捕縛してしまうので成功者は少ない。

 あえて注意してやめさせる気もないガレスとラウルは溜息を零して撤収準備を真面目に行う第三級(レベル2)団員の顔と名前を記憶しておく。後でフィンとリヴェリアに提出する書類に対して評価を少し上方修正してから出そうと心に決めて。

 

 

 

 

 

 水浴びの為の泉はかなり広く、隅っこで複数のエルフが集まって静かに水浴びをしている光景もあれば、アマゾネスが水浴び序でに泳いでいたりする光景が見て取れる。

 各々の種族毎に水浴びの仕方も傾向が見て取れ、その中でもエルフとアマゾネスの二つの種族は水浴びの仕方からして性格が相反しているのもなんとなく察しがつく。

 

 そんな中、尻尾の泥汚れを落とすのに夢中になっているカエデ。そのカエデが髪の毛に付いた泥に無頓着な所に気付いてグレースがカエデの髪の泥を洗い落としている。

 

「アンタ尻尾ばっかじゃなくて髪も綺麗にしなさいよ」

「でも尻尾の方が気になるので」

 

 尻尾を水に浸し、何度も綺麗に水で洗い流しているカエデに流石のグレースも眉を顰め面倒臭そうに桶で水を汲んでカエデの頭の上からぶっかけた。

 

「げほっ……グレースさん、いきなりはびっくりするんでやめてください」

「あぁはいはい。アリソン、アンタはどう? 綺麗になった?」

 

 カエデの文句に適当に返事をしたグレースの視線の先、アリソンが髪に付いた泥を落とし終えて耳を澄ましている光景が目に入ってきた。

 グレースが目を細めアリソンに近づこうとして、カエデが身を震わせ始め飛び散る水に嫌そうな顔をしてカエデの耳を摘まむ。

 

「ちょっと、水飛んでるんだけど」

「耳、耳は掴まないでください」

 

 耳を摘ままれ、引っ張られて嫌そうな顔をしたカエデ。既に泥汚れも殆ど落ちていつも通りの真っ白い毛並が水で濡れてぺったりとしているのを見てから、アリソンの様子が変な事を思い出してグレースはカエデの耳を放してアリソンに近づいた。

 

「どうしたのよ」

「……捕まえろーだとかそっちに行ったぞーだとかって騒がしいみたいなんですよね」

「モンスターですか?」

 

 耳を撫でながら近づいてきたカエデの質問に対しグレースが呆れ顔を浮かべた。

 水浴び中に警戒網が張られており、その団員達が『捕まえろ』だとか『そっちに行った』だとか言っているのであれば、間違いなく覗きにきた男連中だと想像がつくはずだが、カエデは首を傾げつつも岩の上に置かれた武器の方に視線を向けている。

 

「絶対違うわよ。馬鹿な男連中が覗きでも決行しようとしたんじゃない?」

 

 男連中も必死よねと肩を竦めたグレースに対し、アリソンとカエデが首を傾げる。

 

「必死? 覗きに?」

「見て楽しい物でもあるんでしょうか?」

 

 本気で言っているらしい二人の様子にグレースが顔を引き攣らせている間に、森の中で男性団員の悲痛な叫びがいくつか響き、静かになる。

 

 無事、捕まったらしい事を確認してグレースは二人の耳を掴んだ。

 

「痛いですグレースちゃんっ!」

「離してくださいっ!」

「とりあえずアンタ達は羞恥心を学びなさい、一緒に居るこっちが恥ずかしいったらないわ」

 

 

 

 

 

 地上に続々帰還してくるメンバーを迎え入れるべく、【ロキ・ファミリア】正門に仁王立ちしていたロキは左右に立つフィンとリヴェリアの様子をちらりと見てから口を開いた。

 

「んじゃ頼むわ」

「あぁわかった」

 

 リヴェリアが無言で頷き、フィンが表情を引き締める。

 三人の他にも何人かの第二級(レベル3)団員が待機しており、出迎えにしては物々しい。

 

 仁王立ちするロキの前で、正門が開かれていく。

 

 既に先駆けとして本拠に帰還していたベートから報告は全て聞いている。今回の遠征合宿では合格者は一班も無く、最も期待されていたジョゼット班も夜襲で全滅した事、いくつかの班にはベート曰く()()()()()()()が居た事。

 そして、ラウル班のアレックス・ガードルの行動について。

 

 下手をすれば仲間を危険に晒す事も平然と行い、ラウル班に致命的な被害を齎したと言う報告。致命的な大怪我こそ無かったらしいが、カエデがアリソンの攻撃を喰らう原因を作ったり、身勝手に一人で突撃して連携のれの字すら存在しない行動を繰り返したり。

 既に約束したとはいえアレックスは今回の遠征合宿で失格になったら追放するとは伝えてあったはずである。それなのに反省の色が一切見えなかった事。

 

 フィンも、リヴェリアも、ガレスも、そしてロキも。全員が一致して決めた事だ。これが最後の機会であり、()()()()のだと。

 

 

 

 

 

 一晩ぶりの黄昏の館を目の前にして第三級(レベル2)団員達は漸く終わったと疲労を感じさせる吐息を零し、第二級(レベル3)冒険者達は自身の賭けの内容で儲けが出なかった事に嘆いたり、予想通りの結果でほくそ笑んだりしている。

 準一級(レベル4)達はベートだけ先駆けとして帰還し、残りのメンバーは自分が一番点数を集めたに違いないと笑みを零す。

 開かれゆく正門を見ながら、カエデは深々と溜息を零した。

 

 やっぱり駄目だった。良好な点もいくつかあったが、どうにも連携と言うのは難しい。ヒヅチは常にカエデに合わせて動く事が多く、カエデが出来ない事を頼む事は無かった。その為か合わせて貰う事には慣れているが合わせるのが苦手だ。

 

 開かれた門の先でロキが仁王立ちしており、左右にはリヴェリアとフィンが立っている。リヴェリアのすぐそばに荷物が纏められたバックパックが置かれているのに気が付いてカエデが首を傾げた。

 まるでこれから何処かに出かけると言う様に膨れ上がったバックパック。だがリヴェリアの恰好は普段着のまま。それに本拠待機になっていた第二級(レベル3)の団員達も左右で待機している。

 

 物々しい雰囲気に気圧されそうになりつつも、先頭に立っていたガレスが歩みを進め門の内側へと入った。

 

「全員無事帰還した」

「おかえりガレス」

「よく帰った」

 

 ガレスが三人に並ぶ様に立ち、遠征合宿の班の方へ振り返る。十八階層に正式に辿り着いたのはジョゼット班、アリシア班、ナルヴィ班、クルス班、ラウル班の五つ。失格になった後に辿り着いた班が五つ。

 合計50人の団員達を見てフィンが一歩前に出た。

 

「今回の遠征合宿において十八階層到達はジョゼット班、アリシア班、ナルヴィ班、クルス班、ラウル班、以上の五つも班が達成した。残念な事に合格班は居なかった様子ではあるけれど、君達の頑張りから評価を下して大規模遠征メンバーを選出する事になった。中層にまで到着して失格になってしまった他の班からも選出するかもしれない事を留意しておいて欲しい、皆ご苦労だった」

 

 今回の遠征合宿に於いて合格した班は、大規模遠征におけるサポーターとしての役割が与えられるかもしれなかったが、合格班が居なかった為に各個人の能力を見て決めると告げたフィンの言葉に団員達がざわめく。

 ざわめく団員達の中でカエデがぼんやりとフィンを眺めていると、フィンが一歩下がり、代わりにリヴェリアが一歩前に出て口を開いた。

 

「さて皆疲れているだろう。風呂の準備は出来ている。今日の所はすぐに休息をとる様に。荷物の点検や後片付け等は暇をしていた者達にやらせるので気にしなくても良い」

 

 賭け事をしていた(暇をしていた)者達に後片付けを任せるので休憩しても良いと言うリヴェリアの言葉に第三級(レベル2)団員達が喜びの声を上げる。

 

「それでは……解散だ、皆しっかりと休む様に」

 

 リヴェリアの宣言を聞き終え、皆が思い思いに黄昏の館の方へ向かいだす。その流れに身を任せる様にカエデがグレースの背中についていく。

 

 そんなさ中、アレックスの叫び声が響き皆が足を止めた。

 

「離しやがれっ! 何しやがんだっ!」

 

 カエデが振り向くが人混みに紛れて何が起きているのかわからない。そんな中で比較的背が高いグレースが眉を顰めて呟く。

 

「アレックスの奴、なんか捕まってるみたいなんだけど」

「私見えませんね……そうだ、カエデちゃん、肩車しましょう」

 

 自分が見えないので肩車してカエデに見て貰おうとしたアリソン。素早くしゃがんだアリソンに肩車してもらい人垣の上から声の聞こえた方向を見れば、グレースの言った通りにアレックスが第二級(レベル3)の中でも屈強な団員二人に腕と肩を掴まれて地面に跪かされている。

 

「何してるんでしょうか……」

 

 視線の先ではロキがゆっくりとアレックスに歩み寄っており、その様子を第三級(レベル2)の者達が遠巻きに眺め、第二級(レベル3)冒険者が警戒する様にアレックスの周囲を固めている。

 解散を言い渡された直後の出来事に混乱が広がりそうになるが、第二級(レベル3)団員の何人かが落ち着く様に声掛けを行っている。良く見れば黄昏の館の窓なんかから待機組となっていた団員も正面門で起きている騒動を眺めている。

 

 

 

 

 

 団員達の中から素早く摘まみ出され、目の前で組み伏せられたアレックスを見ながらフィンはゆっくりとアレックスの前に歩みを進めた。

 

「さてアレックス。君は約束を覚えているかい?」

「あぁ? 何しやがんだよさっさと放せぐぅっ……いってぇなテメェ等放しやがれっ!」

 

 フィンに対して唾を吐きかけそうな態度を見せたアレックスに対し、腕を掴んで抑えていた団員が力を込めて黙らせる。

 その様子を見ていたロキが笑みの表情を浮かべたままアレックスの後ろに回り込んだ。

 

「アレックス、アンタにはチャンスをやったつもりやったんやで」

「あぁ? んだよロキ、さっさとこいつ等を――」

「チャンスを、ふいにしたんはアンタや」

 

 ロキの横から無言のラウルが歩み出てアレックスの身に着けていた鎧を外し、服を捲り上げる。露出した背中を見てロキが目を細め、状況を理解できていない団員達のざわめきが広がる。

 

「アレックス。君は追放される。何か言いたい事はあるかい?」

「は?」

 

 押さえつけられたまま惚けた表情を浮かべたアレックス。しかしその表情は直ぐに怒りに表情に塗り潰されて消え去った。

 

「冗談言ってんじゃねぇ、俺が追放だなんて――」

「冗談だったらよかったなアレックス」

 

 怒りの表情を浮かべて暴れようとするアレックスの背中、露出しているその背中に向かってロキはゆっくりと指揮棒の様に指を振る。背中に指を這わせ呟く。淡い輝きが生まれ、アレックスの背中にロックされていたステイタスが映し出された。

 

「おい、何してんだよ」

 

 本来ならこんな屋外でステイタスを晒すなんて事は決してしない。他者にステイタスを見られると言うリスクを考えれば決して団員達が数多存在するこの場でステイタスを暴く真似はしないはずだった。

 だが笑みを浮かべたままロキは其れを行った。漸く状況を理解し始めたのか焦りをにじませたアレックスの言葉に、ロキは笑みを浮かべたまま口を開いた。

 

「アレックス」

「……なんだよ」

「追放や」

 

 アレックスが眉を顰め、鼻で笑う。

 

「冗談だよな? 俺は強ぇぞ……俺を追放だなんてそんな――」

「追放や。嘘も冗談も無いで。ウチは嘘も吐くし冗談も言うで? せやけどこういう冗談は言わんわ」

「……なにが」

「ウチは眷属()相手に()()()()()なんて言わん言うとるやろ」

 

 目を見開き、冗談では無く本気なのだと理解したアレックスが必死に暴れようとする。だが左右から抑え込む団員はレベルが一つ上で、なおかつ基礎アビリティ力の高い団員であり、アレックスは身を捩るので精一杯である。

 

「おいっ! やめろっ!」

「これでアンタはウチの子やのうてただの野良冒険者(のら)や」

 

 ロキの指先が淡くアレックスの背に触れ、アレックスの背に映し出されていたステイタスの輝きが失せていく。

 ロキの視線の先、晒されたアレックスの背中にあったはずの『笑う道化』のエンブレムは消え去り、暗転したステイタスが薄らと残るのみ。

 これでアレックス・ガードルは【ロキ・ファミリア】の団員ではなく野良冒険者となった。

 

 見守っていた第三級(レベル2)冒険者達が息を飲む。唐突に始まった追放式に困惑が隠せない。

 

「…………嘘だろ」

「嘘やない。ほんまや。あぁ、放してええで」

 

 ロキの言葉に従い、アレックスを抑え込んでいた団員が手を離す。

 自由の身となり、枷が失われ、しがらみを失って、力すらも失ったアレックスの目の前にバックパックがドスリと音を立てて置かれた。

 

 呆然と、身を起こして自身の両手を眺めていたアレックスが目の前に置かれた荷物が詰まったバックパックを見て震えながら顔を上げた。

 

「なんだこれ……」

「お前の荷物だ。部屋は此方で片づけておいた、荷物はそれで全てのはずだ」

「――――っ!?」

 

 もう一度バックパックを眺め、アレックスが立ち上がり、後ろを振り返る。

 

 アレックスが振り返った先にはラウルの姿。その後ろのロキが無表情でアレックスを見ていた。

 困惑、驚愕、怒り、様々な感情が吹き荒れるアレックスの表情。ロキは口を開いた。

 

「ラウル。ソイツ摘まみ出しといてぇな」

 

 ソイツ、興味の無い見知らぬ他人に向ける様に笑みすら浮かべない無表情で宣言したロキ。

 アレックスが口を開くより前にラウルがアレックスの側頭部を蹴り抜く。意識を一瞬で刈り取られて倒れ伏したアレックスをラウルが無言で担ぎ、アレックスの荷物の纏められたバックパックを片手で持って門の外へ。

 

 そのままアレックスを門の外へ寝かせ、直ぐ横にバックパックを置く。

 

 ラウルが門の内側へ戻ると同時に門が閉じられ、気絶したアレックスが【ロキ・ファミリア】正門前に残された。

 

 第三級(レベル2)冒険者が困惑するさ中、アレックス・ガートルは【ロキ・ファミリア】を追放されて放り出される事になった。




 ナイアルさんが絶賛ロックオン。ナイアルファミリアの目的は未だ不明(のはず)なのでどう転ぶんでしょうねぇ。
 むしろ現時点でナイアルの目的わかる人とか居たら怖いよ……想定は出来てもヒントは無いから確証持てないはずだし。

 遠征合宿イベントも終わったので日常パート……なんかほっこりする様なの書きたいなぁ。

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