生命の唄~Beast Roar~ 作:一本歯下駄
『アタイかい? そうだよ依頼k……ってアンタッ【ソーマ・ファミリア】の団長のっグッ!?!?』
『それ以上余計な口聞いたら潰すさネ』
『待て待てっ! その姉ちゃん殺す気かよっ!」
『チッコイツ、オラリオの冒険者だったさネ……まあ良いさネ。この子の護衛依頼さネ。この子の指示に従って動けさネ』
『ゲホッゲホッ……アタイはまだ受けるなんて……』
『前金で300万ヴァリス払うさネ。ほら此処に置いとくさネ』
『……は?』
『後金で500万ヴァリス。受けろさネ』
『…………受けなかったら?』
『鉈と爪、どっちがお好みさネ? アチキは鉈をお奨めするさネ。一撃で首をポーンッてしてやるさネ』
夕食を終え一服した後に団長と副団長の指示で別室へと集まり『遠征合宿』についての説明をされ、渡された資料をペラペラと捲り眺めながら。フィンとリヴェリアが退室した瞬間、ラウル・ノールドは深々と溜息を零した。
「これ、キツいッス」
そんなラウルの横で同じく資料を眺めていたジョゼットが呆れ顔を浮かべて呟いた。
「次期団長候補なのだからそれぐらい御してみれば良いでしょう」
「うへぇ」
ラウルが次期団長として期待されている事を知っている者達がうんうんと頷き。ラウルが苦渋の表情を浮かべる。
【ロキ・ファミリア】の資料室にて今回の『遠征合宿』の
今回の『遠征合宿』の特別賞品に良い物があると笑みを浮かべたフィン達の様子に団員達の目にやる気がみなぎる中、あからさまにやる気を失った。と言うより入室時からやる気が無さそうなラウルにいつも通り真面目に資料に目を通すジョゼットは肩を竦めた。
「ラウル、貴方のパーティーは大分良い編成でしょう」
其れを考えると【強襲虎爪】アレックス・ガードルが
「いや、だってグレースとアレックスの二人ッスよ? 相性最悪じゃないッスか……」
団員の相性を考えれば話は別だ。
グレースは基本は問題ない団員だが怒りっぽい性格の女性で、一度怒るとかなりの時間怒りが収まらないのだ。そしてアレックスは……。
「まあ確かにアレックスは……」
視線を逸らして他の
「はぁ……」
典型的な増長した冒険者。
【ロキ・ファミリア】で
そう言った団員は基本的に
最初はベートであり、ベートに叩き潰された時点で増長が止まれば良いが。ガレスに注意されても、リヴェリアに釘を刺されても、フィンに最終通告を言い渡されても増長が止まらない者も居る。
それ所か反発してより増長する者も居なくはない。
入団直後は真面目だったり周囲と足並みを揃えて行動できても、
ロキや団長達はその辺りをしっかり見極めて入団の可否を決めているとは言え、人の心を見通すのは神にも無理やとロキが言うだけはあり。やはり
アレックスが
本来なら
「何よりベートさんも邪魔役に参加してるじゃないッスか。アレックス、半殺しじゃ済まないッスよ……」
「……上手く御してください」
最終勧告を受けている今、アレックスがベートを怒らせたらほぼ確実にアレックスは完膚なきまでに潰される。二度と冒険者として活動出来ない程に痛め付けられてもおかしくは無い。少なくともベートには何度もアレックスについて見逃してやれと言う団長命令が出されており。ベートの怒りを買っているのは間違いない。今回の『遠征合宿』を機にアレックスを潰すと言う展開が予測できる。
頭を抱えたラウルの肩を何人もの団員がぽんと慰める様に叩いては部屋を出て行く。最後に残されたラウルにジョゼットは肩を竦めて他の団員と同じ様にラウルの肩にぽんと手を置いて呟いた。
「諦めてください」
「せめて頑張ってとか言ってくれないッスかねっ!?」
【ロキ・ファミリア】の鍛錬場、カエデは入口を何度か見ては首を傾げていた。いつもならアイズが来ていてもおかしくない時間なのに今日はアイズが来ていない。何故だろうかと首を傾げつつも誰も居ないなら良いかと鍛錬場として踏み固められた地面を盛大に駆け抜けつつも斬撃を虚空に放っていく。
昨日、ラウルの班に組み分けられる事が決まった後に班での顔合わせは明日行うと宣言されたため、結局カエデは他のメンバーとは顔合わせが出来ていない。どんな人なんだろうと言う期待感と仲良く出来るかと言う不安感を感じつつも、いつも通り日の出前に目覚めて鍛錬所で鍛錬を行っていた。
そんな中、中心で小刻みにステップを踏みながら想像の敵を切り刻むカエデはふと足を止めて入口の方を見た。カエデの視線の先で扉が開かれ、欠伸を噛み殺しながらバリバリと頭を掻きながら鍛錬場に入ってきたのはベートである。
「おはようございます。ベートさん」
「ふぁああ……あ? ああ」
返事なのかなんなのか分らないベートの曖昧な返答っぽいものを受けてから、カエデは鍛錬所の隅へと移動する。そんな様子を見たベートは眉を顰めつつ鍛錬場を見回して口を開いた。
「アイズは居ねえのか?」
「アイズさんですか? 今日は見てないです」
「……へえ」
カエデの返答に耳を揺らしてから。ベートはその場で剣を抜こうとして動きを止める。ベートの視線の先でカエデが深く息を吸っている光景があった。
ベートが後から聞いた話であるが、カエデの使う技には
出来うるならば。その技法を自身も知りたいと思いカエデの呼吸を眺めてみるがさっぱりわからずにベートは眉を顰めてから剣の柄に手をかけつつもカエデをじーっと見つめる。何かとっかかりでもあればと。
じーっと見つめられているのに気が付いたカエデは一瞬体を震わせてから、恐る恐るベートの方へと視線を向けて口を開いた。
「えっと……何ですか?」
「なんでもね……いや」
なんでもない。そんな風に誤魔化そうとしたベートはニヤリと笑みを浮かべてカエデの方を見た。
「一人で体動かすのもつまんねえだろ、相手してやるよ。かかって来いよ」
挑発交じりに笑みを浮かべたベートの言葉にカエデが困惑した表情を浮かべてから、直ぐに表情を引き締めてベートを見据えた。
「鍛錬のお相手をして頂ける……と言う事ですか?」
「あぁ、体を温めるぐらいは出来るだろうしな」
ベートの言葉は単純な挑発である。つまりお前の相手をするのは体を温める事前運動程度ぐらいにしかならないと言うもの。其れに対してカエデは一瞬眉を顰めて不快感を示すも直ぐに表情を引き締めて口を開いた。
「良いんですか?」
「はっ、好きにしろ。やりたくないなら別にかまやしねえよ」
興味が逸れた、そんな風に呆れ顔を浮かべたベート。あまりにもあからさまな挑発にカエデは少し考えてから頭を下げた。
「いえ、やります」
確かに見下される様な挑発に苛立ちを覚えなかったかと言えば。やはり戦いに身を置く者として不快感を覚えなくはない。しかし事実としてベートはカエデよりも強い。レベル差と言う形で如実に示されているソレに逆らうのは馬鹿らしいし。それにこれは鍛錬。最悪殺される事は無いだろうし、本気で挑んでも相手を殺すに至る事は無いだろう。ガレスとの鍛錬と似た様なものだろうと意識を切り替えてカエデは鍛錬用の模擬剣をとってこようと倉庫の方へ足を運ぼうとしてベートに呼び止められた。
「何処行くんだよ」
「模擬剣を」
「はっ、必要ねえよ。其の剣で良いだろ」
ベートの指差す剣。それはカエデが手にしているバスタードソードである。昨日寝る前にしっかり手入れを行って切れ味が落ちていない事を確認した鋭い刃を誇る剣を鍛錬に使えと言う言葉にカエデは眉を顰めるが。ベートが鼻で笑った。
「はんっ、
非常に解りやすい挑発。その挑発にカエデは眉を顰めてから。バスタードソードの切っ先をベートに向けた。
怒りと言う程でもないにしろ。ベートの刺々しい雰囲気に呑まれて切っ先を向けたカエデに、ベートは上手くいったとほくそ笑みつつも腰の剣から手を離して特に構えもとらずに自然体で立つ。
「怪我、しても知りません」
「やれるもんならやってみろ」
挑発を重ねるベートに鋭い視線を向けているカエデ。その視線が交差して――合図も無くカエデが踏み出した。
感心気味に笑みを深めたベートの視界の中、カエデが真っ直ぐ一直線に剣の切っ先をピタリとベートの首に向けたまま突っ込んでくる。ベートは特に何か反応するでもなくカエデの足捌きや呼吸に意識を向ける。
カエデがベートを攻撃範囲にとらえた瞬間、閃光の如く突きが放たれる。ベートは特に表情を変化させるでも無く素手のままカエデの鋭い突きを横から叩いて逸らす。
特に手甲も無い素手であるのに刃で手を傷付ける事も無く、それこそ羽虫を払うかのように逸らされたバスタードソードの切っ先がベートの直ぐ横の空間を突き抉り、瞬時に刃の向きが変わりベートの首を凪ぐ軌跡を描く一閃へと変化する。
剣の切っ先でベートの首を掻く様に振るうカエデの視界の中、ベートは払った手をカエデの振るう剣に添えて――そのままカエデに接近する。
「っ!?」
「遅えよ」
剣の内側に潜り込まれた。そう判断してカエデは離脱を図ろうと剣の軌道を逸らしてベートの牽制を行おうとするも既にベートは剣の腹に手を添えつつカエデに密着する様に動き、ほぼ零距離からベートはカエデの腹に蹴りを叩き込む。
直撃――ではない。何かで防がれた。そんな感覚を覚えつつカエデが不自然に吹き飛んだのを見て。ベートの口角が上がり獰猛な笑みを浮かべた。
カエデは腹に直撃しかけたベートの蹴りに対して身を捻って手甲を挟み込む事で被害を抑えつつ後ろへ流れる勢いを其の儘に真後ろに転がって吹き飛ぶ振りをしつつベートの出方を窺う。追撃が来るなら迎撃しようと意識を向けていたがベートは特に追撃をするでもなく獰猛な笑みを浮かべてカエデを見据えている。
地面に手をついて一瞬で立ち上がりバスタードソードを下段の構えで構える。
カエデの攻撃に対してベートは見てから反応するだけで余裕を持って対応されてしまう。ならばベートの攻撃に合わせて反撃をしようと言う魂胆で防御重視の構えに切り替えつつカエデは初撃の際とは打って変わってじりじりと慎重にベートにすり寄って行く。
「はんっ、こねえのか?」
軽い挑発を交えるベートに対し、カエデは丹田の呼氣を意識して頭を冷やす。ベートに睨まれた最初の時からほんの少し乱れていた
「へぇ……」
真正面からカエデと視線を交わらせていたベートはカエデの目の色が変化していくのを見て思わず呟いた。
挑発に反応して苛立ちの様な色が浮かんでいたカエデの目が最初と違い、今のカエデの目には冷静な色以外が見受けられない。それ所か澄み渡った真っ赤な目にベートは意識を一瞬奪われた。
瞬時の踏み込み。じりじりと間合いを計っていたカエデが、ベートの意識が一瞬逸れたのを鋭敏に感じ取り大きく一歩踏み込みながらベートの足回りを狙う。
ベートは後ろに下がるでもなくカエデの方へ接近して素手のままカエデの剣を持つ手首をガシリと掴んでから、地面から引っこ抜く様にカエデを放り投げる。
「っ?!」
カエデは手首が掴まれた瞬間には既に体が宙に浮いているのに気が付いて慌てて身を捻って着地点を探そうとし、何とか足から地面に着地して立ち上がった瞬間に、目の前にベートの足裏が存在して動きを止めた。
「終わりだな」
「……はい」
目と鼻の先にベートの履く
「負けました」
まるで遊ばれるように。と言うより完全に遊ばれていたと言う事実に悔しさを感じつつもカエデはベートを見上げる。視線の先ベートはニヤリと笑みを浮かべて口を開いた。
「まあ、準備運動ぐらいにはなったな」
安っぽい挑発に眉を顰めたカエデに、ベートは鼻をならした。
「んで、まだやるのか?」
「……はい、もう一度――
一度目は手も足もでなかったが。次こそは、そんな風に意気込んでベートに挑もうとするカエデは遠くから聞こえた音にびくりと体を震わせてから鍛錬所の入口に視線を向ける。
「あん?」
そんなカエデの様子に眉を顰めつつもベートはカエデ同様に入口に視線を向ければ。そこには数人の狼人の姿があった。ベートも知っている【ロキ・ファミリア】に所属している
狼人の集団、そいつらは此方を認めて近づいてくるのを見てベートはあからさまに舌打ちをかました。
その舌打ちにカエデが身を震わせて顔を俯かせた。
「チッ、なんの用だよ」
カエデを睨む狼人の集団から二人が前に出て来た。入団直後は見える奴だったが
「ベートさん……なんで
「そうですよ。禍憑きなんて関わるだけでも危ないじゃないですか」
その二人の言葉を皮切りに次々に飛び出すのは禍憑きに対する文句。どうしてそんなのと態々関わるのか。ベートの部族『平原の獣民』も白き禍憑きに滅ぼされたんじゃないのかだの。ベートに言わせればくだらないの一言で斬り捨ててしまう様な事をのたまう奴等に苛立ちが加速してベートの雰囲気がより刺々しくなっていく。
カエデは身を縮こまらせ耳を伏せて一歩また一歩と少しずつこの場を離れようとしている。
その様子はよりベートを苛立たせた。
唐突にやってきて禍憑きがどうとか、ファミリアに禍憑きが居たら碌な事にならないから追い出したいから協力して欲しいだのうだうだのたまう奴等。
不幸な目に遭うのは、自分が弱いからだ。強けりゃ不運も糞も無い。自分が弱いから被る不幸を誰かの所為にして自分の所為じゃないと目を逸らすベートが大嫌いな
そんな自分勝手な主張に言い返すでもなく身を縮こまらせて逃げようとするカエデ・ハバリ。
逃げるまでも無くこんな奴等叩きのめせばいいのにそれをしない。
「だから、ベートさんもロキに――「黙れ」――っ!」
禍憑きがファミリアに居れば不利益を被る。実際カエデ・ハバリがダンジョンに潜った初日、他のファミリアの団員が入口で大怪我を負った。それ以外にもやれダンジョン内で武器が壊れただの。
「ベートさんは何でそんな――グボォッ!?」
どれもこれも自分の不注意や弱さからくる不幸を並べ立てて禍憑きを責め立てる様な事を口にする姿にベートは無言でベートに言い寄ろうとした狼人の腹に蹴りを叩き込んでぶっ飛ばす。カエデに喰らわせたような加減した一撃では無く。死ぬか死なないかの瀬戸際の一撃。反応する間も無くぶっ飛んで鍛錬所入口横の壁に叩き付けられて悶絶するでもなく沈黙した狼人の姿に他の狼人達は体を震わせた。
「黙れっつってんのが聞こえなかったか? ああ?」
「「「っ!?」」」
びくりと体を震わせて、狼人達はそそくさと尻尾を巻いて逃げ出していく。弱いくせに弱さを認められずに
視線を向けられたのに気が付いたのか。カエデがびくりと体を震わせてからベートから距離をとる。
「おい、カエデ」
その様子に苛立ちが募る。俯いたカエデの頭を鋭く睨みながらベートは獰猛な表情を浮かべて口を開いた。
「いちいち雑魚が喚いてる事なんて気にしてんじゃねえ」
どれだけ吠えようが雑魚は雑魚だ。弱い奴程良く吠える。そして強いならばそんな負け犬の遠吠えなんかに耳を貸す必要は無い。
「てめえは一ヶ月で
その言葉にカエデはほんの少し顔を上げ。ベートと視線を交差させてから身を震わせて視線を彷徨わせる。
「でも……」
「はんっ、てめえは自分が禍憑きで不幸を撒き散らすとでも言いたいのかよ」
再度俯いたカエデの様子をベートは鼻で笑った。そんなの気にしてるのかと。
「くっだらねぇな」
本当にくだらない。ベートは心底呆れたとでも言う様に肩を竦める。
「てめえが本当に不幸撒き散らす禍憑きだってんだったら……その不幸如きで死んじまったり、不幸を嘆く様な雑魚なんか相手してんじゃねえよ」
「……どういう意味ですか」
不幸云々と騒ぐ奴らの共通点なんて一つだけだ。皆、只の雑魚だって話である。
何故こんな不幸な目に遭わなきゃいけないんだ。仲間が死んでしまった。家族が殺された。部族が滅びた。そんな風に嘆く奴らを何度も見て来た。自らの弱さを棚上げにしながら怨嗟と後悔の泣き声を上げる暇があるなら、何故強くなろうとしないのか。そんなのが仲間に居たらまた――思考が一瞬別の所へ飛びかけてベートは奥歯を噛み締めて獰猛に笑みを浮かべて口を開いた。
「てめえが撒き散らしてる不幸なんて気にしねえぐらい強え奴とだけつるんでりゃ良いんだよ」
カエデの所為で不幸になっただなんてベートは絶対に口にしない。不幸な目に遭うのは。不幸になってしまうのは『自分が弱いから』だ。それ以外に理由は無いのだとベートは嗤う。その言葉にカエデが少し顔を上げて呟いた。
「強い人……?」
ベートの嗤う顔に視線を泳がせるカエデに、ベートは口を開いた。
「フィンもリヴェリアも、ガレスも、アイズも、俺だってそうだ。てめえが禍憑きだなんて気にしちゃいねえんだよ」
そんな事気にしてねえでもっと強くなれ。嗤うベートにカエデが驚きの表情を浮かべて顔を上げた。真正面からベートとカエデの視線が交差する。
困惑と驚愕の入り混じったカエデの目に映るベートの姿は強かった。揺らがない。禍憑きがなんだ? その程度の不幸なんか力づくでどうにかできると。
「はんっ、判ったら雑魚の言葉なんて気にしてんじゃねえよ」
それだけ言うとベートは踵を返す。これ以上話す事は無いと言わんばかりの態度。カエデは声を震わせてベートの背中に声をかけた。
「ベートさんは……」
「あん?」
カエデの言葉に足を止めて肩越しに振り返るベート。そんなベートにカエデは身を震わせてからゆっくりと脅える様に質問を投げかけた。
「ワタシが傍に居ても良いんですか?」
全ての狼人達から禍憑きと蔑まれ傍に居る事すら拒絶されるのが当たり前の自身に対して変わらず接するベートはカエデの生きてきた人生の中でも特殊な人物だった。
挨拶をしても返されないのが普通で、まるで腫物でも扱うかのように余所余所しくされるか、最悪の場合は蔑む言葉が返されるばかりの中。同じ狼人でもベートだけはまるで『無いモノ』の様に扱ってきた。他の狼人は全て蔑みの視線を向ける中。ベートだけはそんな視線すら寄こす事は無かった。
それ所か、
だからだろうか。カエデがほんの少しの期待を抱いたのは。
肩越しにカエデに振り返っていたベートは呆れ顔で口を開いた。
「てめえみてえな雑魚なんか近くに居たら邪魔なだけだ」
冷たく突き放される様なモノ言いにカエデが震える。そんなカエデにベートは鼻を鳴らして嗤う。
「ま、強くなったら考えてやるよ」
それだけ言うと、ベートはカエデから視線を外してひらひらと手を振って去っていく。そんな後姿を驚愕の表情で見送ったカエデは顔を伏せる。
――強くなったら――
今のカエデでは到底勝てないベート・ローガが戦っている所はダンジョンの下層、それよりも更に下の深層と呼ばれるダンジョンの奥深く。今のカエデでは足を踏み入れる事も叶わない場所。
そんな場所に行くベートの傍にカエデが居れば間違いなく足を引っ張るだろう。足手纏いは不要。その言葉を噛み締めてカエデは顔を上げた。
今回の『遠征合宿』、失敗する訳にはいかない。成功すれば大規模遠征に参加できる。
少しでも――ほんの少しでも良い。追いつきたい。そんな風に考えてから。カエデは頭を振ってその考えを散らす。
今の自身にそんな事を考えている余裕はない。次の
抜き身のままだったバスタードソードで虚空を払い。たった今抱いた想いを斬り捨てる。
誓いはただ一つ『ワタシは絶対に
ホオヅキ=サンは平常運転となっております。外付け良心回路ヒイラギちゃんのおかげでほんの少しマシに……? なおこの後別行動する模様。救いは無かった。
ベートさんとカエデちゃん接近イベント……ダメだったよ(小声)
よそ見する暇は無いと自分で斬り捨てちゃうから。勿体ない。
……初っ端からダンジョンで事前練習としてラウル班で潜ってメンバー紹介がてら戦闘描写から入ろうかなってしたら無理だったでござる。多人数戦を上手く文章で描写するの難しいッスねぇ……。