生命の唄~Beast Roar~ 作:一本歯下駄
『ワシはヒヅチじゃと言うておろうに……唐突に何じゃ。後飯をくれ。もう二週間飲まず食わずじゃ。本当に死んでしまう』
『裏切りの理由を聞かせて。後食べ物に関しては平気でしょう? 二週間飲まず食わずで平然としてる貴女が死ぬとは思えない』
『阿呆め、教えるか。どうせ利用するつもりじゃろ。普通に腹が減ったんじゃが……』
『そうね、利用するわ。ところで、貴女の言うあの子って白毛の狼人?』
『………………』
『アマネ、貴女……嘘が下手ね。セオロの密林から一人でのこのことオラリオに向かっていくのを仲間が確認したわ。貴女を見つけた川の上流を探してたら見つけたの』
『…………(一人で? ワンコは何をやっとるんじゃあ奴……)』
『それで、どうする?』
『どう……とは?』
『その子を捕まえる様に指示はしておいたけど。目の前で八つ裂きにでもすれば言う事を聞いてくれる?』
『……はんっ、あの子には
『…………無理ね。こっちには
『は? ……おい、神の恩恵? オヌシは神を殺したいのではないのか? 何故、神の恩恵なんぞ』
『あぁ、神様の遊びの一環らしいわ。その神様曰く。天界に神を全員送還したら自身の勝ち。自身の作戦を邪魔されて送還されたら相手の勝ち。そんな遊びに興じているのよ。それに利用されてやってるってだけよ。胸糞悪い話だけどね。……だから神は嫌いなんだ』
『糞っ、カエデに手を出したら只ではおかんぞ貴様』
『まぁ、精々祈ってなさいな。どうせ神に祈ったって碌な事になりはしないけどね』
『バベル』の三十階層に用意された神々が集まる
『眷属への二つ名の命名』
神々が狂喜乱舞する宴の始まりを告げた神エラトーは、手元の資料をちら見してから騒ぎ立てる神々を見て肩を竦めた。
「私の眷属も今回の命名に参加するから、可愛いのをよろしくね」
「えー」「どうしよっかなぁ」「俺の
「貴方達は……」
騒ぐ神々を余所に、ロキはただ只管にフレイヤと睨み合っていた。
交差する視線の中、互いに視線のみでやりとりをしている。
『殺してやるわフレイヤ』
『あら怖い顔ね、どうしちゃったのかしら』
『何惚けとるんや糞ビッチ』
『ふふ、もしかして……妬いてるの?』
『なんやあの殺したい笑顔』
どす黒いオーラを纏ってフレイヤを睨むロキの姿に、周囲の神々がロキから密かに距離をとっている。
そんな様子を知りながらもヘファイストスはロキから溢れ出るどす黒い瘴気にも似たオーラの真っただ中で内心溜息を吐いた。
これ、私もロキと同じ様にドン引きされてないかしら?
そんな事を思いつつも、ロキと立場が同じである事を示す為にロキのすぐそばに座っているヘファイストス。天界に於いて悪戯の対象にされた事もあるし。裏切られた事も無い訳ではないが。それでも裏切ろうとは思えないし思わない。
そんな恐ろしい雰囲気の真っただ中のロキやフレイヤの睨み合いを、エラトーは一瞬だけちら見してから。無かったことにした。
触らぬ悪神と美神に祟り無し……と。
周囲の神々にも『絶対に突くな、やめろ』と視線で脅しておく。
天界に居た頃から互いに協力して神々を嵌めたり。時に互いに盛大に裏切りあってみたり。殺し合いにまで発展する悪友とも言うべきあの二人に関わっていては、命がいくつあっても足りない。
まぁ、神は死んでも問題ないのだが。下界を楽しんでいる今、ちょっかいかけて二人の騒動に巻き込まれればどうなるかなんて解り切った事。手を出す間抜けは……居ない。いや、多分居る。刹那的に生きる神々をしてこの騒動に進んで突っ込みそうな神が何人も……やめろ、やめて、お願いだから。臆病で平和主義の神々の心の声がまるで手に取る様にわかる。
それを見つつもヘファイストスとエラトーが視線を交差させる。
『ねぇ、
『嫌よ、死にたくないもの』
『……貴女が原因?』
『違うわ、なんで私がトラブルメーカーみたいに言われなきゃいけないのかしら』
エラトーが溜息を零してからこれ見よがしに咳払いをしてから、ギルドの職員のまとめた今回の
「えー、【ナイアル・ファミリア】のアルスフェア。種族は
「うっそだろおい」「え? マジだったの?」「本当だと言ったじゃないですか」「嘘にしか聞こえねぇよ」「マジか……マジかぁ」
信じられない、そんな風に言いつつも、神々の無駄に優れた頭脳はどんな二つ名にするかを既に決めている様子なのを確認してエラトーは口を開いた。
横目で睨み合う悪神と美神、その間に挟まれた鍛冶神に憐れみの視線を送りながら、であるが。
「じゃあ二つ名を決めていくけどー」
「【
即座にナイアルが望みの二つ名を告げるが、ソレを無視するかのように神々が次々に二つ名を上げていく。どれもこれも『臆病者』や『弱虫』等と、逃亡によって偉業の証を得た事を意識した二つ名である。その二つ名に納得の表情のエラトーや神々だが、ナイアルが不気味に笑みを浮かべて口を開いた。
ヘファイストスが視線で助けを求めてきているが。エラトーは悪神と美神に挟まれても鉄面皮の如く表情を変えずに居るヘファイストス程精神面は強くない。要するに助けるの無理だからこっち見ないで。
「あぁ、唐突に此処で本来の姿を見せたくなってしまいました。どうしましょう」「やめろっ!?」「俺らを発狂させる気かっ!?」「発狂したら一回死ねばいいじゃないですか?」「ばっか野郎っ!! 死んだら天界に送還だろっ!!」「えぇ、だから天界に帰ればいいじゃないですかぁ……」
「ナイアル、力づくで眷属の二つ名を決めようとするのやめてくれないかしら」
「嫌です」
エラトーの懇願に即答で否と答えたナイアルを見て、エラトーは溜息を吐いた。
「はぁ……えーじゃあ【ナイアル・ファミリア】のアルスフェア君の二つ名はー【
エラトーはそう言うとナイアルに背を向けて鼻歌を歌い始める。
「あー、異論無いんで次行って貰って良いよ」「だってなぁ……発狂したくないしなぁ……」「ナイアル自重しろ」「嫌です」「真顔でそう言われんのムカつく」「マジ、ナイアルって害悪」「せっかくの命名式なのにしょっぱなからこんなんかよ……」「萎えるわー」
好き勝手言い散らす神々だが、エラトーも同意見である。
発言力の強い神は半ば強引に眷属の二つ名を決める為、神々が考えた
誰、とは言わないが。胡散臭い商売の神とか、地上でも魅了と言うチートを使い振るう美神とか、悪逆非道が嘘の様に丸くなった壁……もとい元悪神とか。今回のナイアルもその一人。本来の姿をちら見せするだけで神々ですら
神は基本的に不変ではあるが、発狂もすれば死にもする。ただポンッと元の姿、能力のまま再度出現するだけである。
但し地上に於いて死亡した場合は天界に強制送還され、二度と地上に下りてくる事は出来ない。其の為地上で発狂しようモノなら取り返しがつかないのだ。
神ナイアルの卑怯っぷりに神々が文句を垂れるがエラトーがソレを遮って次の眷属の名を呼ぶ。
「えっと……【ソーマ・ファミリア】の――
【†区行†】【
神々が誇るハイセンスな二つ名があげられ、付けられていくのを尻目にロキはふとフレイヤを睨むのをやめて手をあげた。
「【蒼薔薇の歌姫】とかえぇんちゃう?」「あら、ロキにしては素敵な二つ名ね」「「「…………」」」「あぁ? なんやフレイヤ、アンタ喧嘩売っとるんか?」「褒めただけよ」「チッ」「「「…………(え? 何があったのこの二人……)」」」
【ミューズ・ファミリア】のクリスティーヌ・ローレライの二つ名が【蒼薔薇の歌姫】に決まり、二人の睨み合いが再開される。
素敵な二つ名なのだが……ちょっと睨み合いをやめて欲しいなーと二人にアイコンタクトを送ろうとして、二人の威圧感に一瞬で心折られエラトーは視線を二人から逸らす。
「次ー、あら? これでラスト……ラストはー……【ロキ・ファミリア】のカエデ・ハバリ。種族は
「マジかー、またロキの所かよ」「
名前:カエデ・ハバリ
種族:
性別:女性
年齢:9歳前後
偉業の証:『インファントドラゴン
追記事項:インファントドラゴンの頭骨を粉砕し即死させた模様
報告者:【
特徴:白毛、赤目
書かれた特徴と特記事項、期間等を見た神々がざわめきだす。
「ロキ、どういう事なの?」
好き勝手言い合う神々を無視してエラトーが勇気を振り絞って本人に問いかければ、ロキはフレイヤを強く睨んでからエラトーの方に顔を向けてにんまり笑みを浮かべて口を開いた。
「嘘はなーんも書いとらんで? マジもマジ。大マジで約三週間、十九日で基礎アビリティD以上達成と偉業の証入手をしてみせたで?」
自信満々に壁を……胸を張ったロキの言葉に神々が同時にえーと呆れ顔を浮かべる。
いくらなんでも噓くさすぎる。其れはもう恵比寿が可愛く見えるレベルで胡散臭い。
ましてや最短一年二ヵ月と言う記録を同じく【ロキ・ファミリア】の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインが二ヵ月短縮し一年と言う短期間での
そこから僅か一ヶ月にも満たない期間での
「……ロキ、
「しとらんで」
神々の胡乱気な視線がロキに突き刺さるが、ロキは気にした様子もなくへらへら笑みを浮かべて立ち上がった。
「
「うぇっ!?」「マジで?」「うっそだぁ……嘘だぁ」「何それ羨ましい」
ロキの言葉に神々が騒ぎ立てるが、エラトーがメガホンを片手に持てば直ぐに静まる。
「ロキ、そのスキルの詳細は?」
「言うと思うん? カエデたんの
小馬鹿にした様に鼻を鳴らしたロキに神々が苛立ちの視線を向けるも。オラリオ最大の探索系ファミリアの片割れ【ロキ・ファミリア】と言う地位を持つロキ相手に変な口をきけはしない。
そんな中でも神々の中には配られた資料の中のカエデ・ハバリの写真を見てニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている者や、どうやって勧誘しようかなーと近くの神と相談する者までいる。
そんな神々をロキが睨みつける。
「はぁ……まぁ良いわ。おめでとう。その子がどんな
エラトーは娯楽系ファミリアの主神の一人として、上位冒険者を求めてもいなければ、凄い眷属が欲しいだなんて思っていない為、騒ぎだけ起こさなければ別に良いかと最短記録云々は完全にスルーして話を進めようとするが、探索系ファミリアの主神達は黙っていない。
「ロキ、この子俺の所にくれよ」「俺も欲しいぞー」「
「今
神々が好き勝手言い合う中、唐突にロキが大声で叫ぶ。
地雷を踏み抜いた神相手に威圧しながらも口元を歪め獰猛な笑みを浮かべる。
「もういっぺん言ってみぃ」
「あっ……いや……その……」
「ほれ、言うてみいや」
「……ごめんなさい」
「次口開いたらアンタ殺すわ」
殺気と悪意を振り撒くその姿は天界に居た頃に大暴れしていた悪神その物であり、彼の頃の恐怖を思い出した一部の神が震え上がり、エラトーが額に手を当てて頭を振る。
「やめて、その殺気。私が死ぬわ。と言うか吐きそう」
「
「そうね、あの子の事を
「……チッ」
ロキの言葉にフレイヤが同意の言葉を漏らせばロキが盛大に舌打ちをする。
そんな中、唐突にハデスが椅子を蹴倒して立ち上がった。
ロキも、エラトーも、フレイヤも、全ての神々が唐突に立ち上がったハデスに視線を向ける。恵比寿だけ欠伸をしていた。
「おぉ……どうしたハデス」「冥界の管理人さんどうしました?」「顔色悪いぞオマエ、いや天界に居た頃も悪かったけど」
「…………」
「ん? え? 何だって?」「声小っちゃい」「聞こえなかったぞ?」「マジで顔色悪いぞ。恵比寿じゃネェんだからさ」「え? 僕の顔色悪い?」「恵比寿、オマエ死にそうな顔してるぞ」「後セトも、死体に見えるぐらいだ」「うっそだろオマエ、セトならさっき……」「「「セトぉ」」」「死んでねぇからっ!!」
ぼそぼそと、小さな声で呟かれた言葉に神々が首を傾げ、流れる様に雑談に流れていく。ついでにいじり倒されているセトは顔を真っ赤にして叫んでいた。
そんな中、神ハデスは顔を上げてロキを睨みつける。睨まれたロキは逆にハデスを睨み返す。
互いに盛大に視線を交わらせ火花を散らす様子に神々もただ事では無いと口を閉ざし始め、気が付けば常に神々の声が響く
「ロキ、あの眷属を今すぐ殺せ」
小さく、ぼそぼそと呟かれた言葉に神々が息を飲み。ロキはハデスを射殺す様な視線を向けて口を開いた。
「なんや? 聞こえへんかったなぁ」
「もう一度言う。ロキ、
今度こそ、神々は呼吸すら止めて驚愕した。
ロキの表情等、見るまでも無く天界に居た頃の悪神としての顔が盛大に現れており、下界の
ソレを無視するかの様にハデスが口を開いた。
「もう一度言う。あの眷属を――『マジで死にたいらしいなぁ』――…………」
憎悪が練り込まれた笑みを向けられたハデスは口を閉ざして俯いた。
神々はその憎悪が此方に向かない事を祈り始める。
「神様助けてー」「おい俺らが神様じゃねぇか」「じゃあ誰か
盛大に大きくなっていく騒ぎの中、ロキに睨まれ俯いて黙っていたハデスが顔を上げた。
「ロキ、一つ聞きたい」
「なんや? 遺言か?」
「……オマエの所為でどれだけ俺が天界で苦労したと思っている」
「は?」
唐突に大声で叫んだハデスに、神々が口を閉ざす。ヘファイストスが腕組みをして何かを思い出す様に考え込み。フレイヤは「あぁ~……成程」と呟いている。
「ウチ、天界でアンタになんかしたか? あんたに何かした記憶なんて無いで? そもそも会った記憶も無いんやけど?」
と言うかそもそも神ロキは天界に於いて神ハデスと面識は無い。せいぜい通りすがりに『なんや顔色わっるいのが居るなぁ』ぐらいの感想を抱く程度の間柄でしかない。要するに他人である。
それなのにハデスはロキを強く睨み、『覚えていないだとっ!?』と驚きの表情を浮かべている。
「覚えていないのかっ!!」
「えー……何をやねん」
「オマエが、
天界でしでかした事? 数えきれないぐらいあるが……ハデスに直接何かした記憶も無ければ、ハデスを利用して何かした記憶も無い。ハデスに嫌がらせした? そんな事した覚えはない。
「いや、アンタに何かした記憶なんかあらへんのやけど」
「貴様が、天界で仕出かしたあの事件っ!! よくもまぁぬけぬけと言えるなっ!!」
激怒しているらしいハデスの様子にロキは訝しげな表情を浮かべる。
あれ? なんかウチ、恨み買っとる?
元々、知らない内にカエデに目をつけて手を出してきたのでムカついたのが始まりなのだが、ロキ自身に恨みを抱いているらしい状況を見てロキの怒気が引っ込む。
「……ウチ、アンタに何したん? ちょいマジで覚えとらんわ」
割と真面目にハデスに何かした記憶は微塵も無い。何故そんな恨みを抱いているのか理解も出来ないのだが……
「
魂の整理ー……あー、千年前の九尾の五十八代目が引き起こした大量殺人のアレか。
天界に下界から一度に沢山魂が流れてきて仕事が回らずに周りの神々に助けを求めて来たやつか……
「あっ」
腕組みをして考え込んでいたヘファイストスが唐突に声をあげた。ロキは其方に振り向けばヘファイストスが苦虫を噛み潰した様な表情をしていた。
「どしたんファイたん?」
「ロキ、貴女、あの時魂をやたらめったら適当にばら撒いたでしょ?」
「うん? せやけど……それがどした――あっ」
記憶を辿れば、千年前、五十八代目の引き起こした天界に魂が溢れるあの事件の折にロキは『仕事手伝ってくれ』と言われたのでとりあえず真面目にやる気も無かったし適当にそこらに魂をばら撒いてみたり、適当に魂を裁いてみたり。仕事の邪魔をしていたのを思い出した。
確か神ハデスは冥界の管理人で……魂を裁く責任者……
成程、恨まれるのも当然である。
「貴様があんな事をしでかした所為で……俺は……俺は……」
プルプルを震えるハデスにロキは気まずげに視線を逸らす。別にハデスを苦しめる積りは無かったのだ。ちょっとした暇潰しの積りで……
その代償は全てハデスが支払っていた。
ロキがばら撒いた魂を再度回収する為に走り回り。滞っていた魂の流通の為に寝る間も惜しんでの仕事所か、一日七十二時間分の仕事を片付ける事、早数百年。
神々が地上に娯楽を見出して下りて以降も神ハデスは只管に魂の管理を行っていた。
ハデスの眷属も同様。
ただ只管に魂を正しき流れに乗せる毎日。
時折、発狂した眷属や手伝いの神が奇声を上げて立ち上がり、ソレを他の眷属や神が殴り殺す。殺された眷属や神は何事も無かったかのように再生して仕事を再開する。
ブラックよりもなお黒い天界での魂整理の仕事。
ただでさえ大変だったソレ、ロキがしっちゃかめっちゃかにしてくれた所為で仕事が終わらない所か、増える一方。
いや、増えたのは何もロキの所為だけではない。ロキの所為で仕事が倍増したのは否定しないが、他の神々も
「そうだ、お前等
余計な事。
簡単に言うと
魂の流通システムをざっくり説明すると『寿命を迎えた魂を裁いて地上に流す』だけである。
まぁ数が膨大だし小さな命すらも管理していると果てしなく終わりの無い仕事なのだが……
最も魂の管理が面倒なのは当然の如く『人』の魂である。
『虫』や『小動物』の魂は其処まで情報も無ければ特に何かある訳でも無い。要するに右から左で構わないのだが、『人』の魂だけは別である。
『罪人』『善人』『凡人』と、区別し始めればそれも数千数万通りの区別方法が存在する魂は、それに適した処置を施さなければならないのだが……
其れは慣れてしまえばもんだいない。それにその部分は下界の
では、天界の神々の仕出かしたことは?
『
本来であれば、『人』は生まれ落ちた瞬間に『寿命』、詰る所『裁かれる時』が定められている。
寿命が尽き、天界へと送られた魂は『裁き』を受けて然るべき処置が行われる……。
もし寿命より早く死ぬ事があれば天界で『裁きを待つ』事になる。
では、
簡単に言えば仕事が止まる。それもその魂を裁かねば他の魂に手をつけられなくなってしまうのだ。
要するに仕事が滞る、そりゃぁもう冗談じゃないぐらいに。
「俺がどんな思いで下界に下りてきたと思っているっ!!」
天界で、ハデスとハデスの眷属。逃げ出した死の神々、タナトスやツクヨミ等の神々に代り
なのに……なのに。
下界で
本来
『商売人』や『鍛冶師』、『薬師』や『歌手』等にも神々は分け隔てなく気に入った
これによって起きたのは単純、『冒険者』は死にやすいからあまり気にならないが、それ以外の死ににくい癖に寿命を延ばして、なおかつ病気に耐性を持つ所為で普通に生活してるだけじゃ死なない奴らが出始めた。
何が起きたか? 『裁きの時』になっても『魂』が天界に存在しないと言うトラブルだ。
ハデスも、ハデスの眷属も、
そして怒った。激おこである。
そしてハデスは下界に下りる事にした。
『寿命きてんだからさっさと死ね』と言う為に……
ハデスは地上でできた眷属に
年老いた人は死を恐れる。それは王族も貴族も平民も変わりはしない。だからこそ
そうやって資金源になっていた貴族連中を殺した理由は一つ。
『お前ら寿命きてんだろ? じゃあ死んで天界で裁かれろ、仕事が滞る』
只それだけである。
ソレを聞いたロキは呆れ顔を浮かべてハデスを見る。
「あんた……真面目過ぎやろ」
そう言えば天界でのハデスの評判は『糞真面目』だったか。というか『仕事馬鹿』だったか?
ゼウスや他の神々が『もうちょっと遊んで良いんじゃね?』と言っても『魂の流動が滞る』と言って仕事を一切やめなかった真面目っぷりに神々も呆れていたのだが……
「お前らもそうだぞ、もう寿命が来てる眷属が居たら殺せ、さっさと」
ハデスにそう言われた神々が鼻で笑って「お断りしますー」とふざけたように口を開くのを、鬼の形相で睨むハデス。
それを見つつも、ロキは口を開いた。
「理由は分ったわ……せやけどカエデたん殺すなんて事は出来へん。と言うかさせへんわ……と言うかぶっ殺す」
なるほど、理由はわかった。自身の身から出た錆なのも理解した。
だが知った事か。とりあえずカエデに手を出した
そんな風に獰猛な笑みを浮かべたロキが宣言する。
「覚悟しぃや?
エラトーがそっとエチケット袋に朝食を戻し、ヘファイストスは若干ハデスに同情しつつもカエデに手を出すなら許す気は無いとハデスを睨み、フレイヤが「ロキ……貴女何やってるのよ」と呆れた表情を浮かべている。
うわぁ……中編になっちゃったよ(白目)
予想外に長い。自分で書いてて思った。1万字超えたぁ!?って。
酷く長くなっちゃったなぁ……下で終わる……よね? 終わるよね?