生命の唄~Beast Roar~ 作:一本歯下駄
『お断りじゃと言うておろう、早うこの枷を外せ。其れと、ワシの名は
『……オマエは神が憎くないのか?』
『否定はしまい。しかし
『……ふざけるな、神々が
『はぁ、ワシはあの
『何故だっ!! オマエは仲間の血肉すら糧として
『知るか。其れより枷を外せ。ワシはオヌシの
『……その
『……知らんと言うておろうに、さっさと枷を外せ。それともう三日も飲まず食わずは辛いんじゃが。何時まで月を肴に空腹を我慢させる積りじゃ。ワシとて飲み食いせねば死ぬんじゃが』
『貴女が頷くまで解放する積りは有りません』
『……はぁ、強情じゃの死にぞこない』
『
『……ワシはヒヅチじゃ。アマネでは無い。間違えるな小娘』
『
『………………』
ヘファイストスは並んで歩くロキの方へ視線を向けて驚きの表情を浮かべた。
「え? 貴女、今なんて言ったの?」
ロキに伝えられた情報が信じられずに足を止めれば、ロキは肩を竦めてヘラヘラと笑う。
「せやから、カエデたんが
何でも無い様に笑いながら言うロキに、ヘファイストスは額に手を当てて呟いた。
「……嘘でしょ、カエデが冒険者になってから、まだ一ヶ月も経ってないのよ?」
「せやで。最短記録更新や。
笑いながら、いや、不自然に笑顔を浮かべながら言うロキの姿にヘファイストスは唖然としながら立ち尽くした。
何の事は無い、本日の
そこから何の事は無い世間話の様などうでも良い話をし始めたロキを不審に思いつつも、肩を並べて会場の入口扉前に辿り着いた所で、ロキがとんでもない事を言い出したのだ。
『カエデたんが
何の事は無い、世間話の延長の様なタイミングでの爆弾の投下にヘファイストスも目を剥くほどに驚いてしまった。
深呼吸をして精神を落ち着かせてから、ヘファイストスは口を開いた。
「よかったじゃない」
本心からの言葉に、ロキも笑顔を浮かべる。目が一切笑っていないのが気になるが……
「せやなー……」
「何処で証を?」
偉業の欠片を入手していたのは聞いていたが、もう一つ同じだけの偉業を成し遂げたのだとすれば凄まじい速度だが……
「上の女神が、親切に試練を用意してくれたんよー……『インファントドラゴンの
ロキはそう言いながらも右手を真上に向けて笑顔を深める。いや、それはもはや笑顔等とは呼べない程に歪んだ憎悪の表情である。一応笑顔に見えなくはない。しかし溢れ出る憎悪と悪意が間違いなく笑顔とは呼ばせない程に至ったその表情は天界で悪神として名を馳せているさ中に時折浮かべていた表情である。とても下界の
そんなロキを見ながら、ロキの指が向けられた先の天井を見上げ、精密に掘り込まれた硝子が贅沢にも使われた照明を見て目を細めてから。ロキの示すモノがソレではなく。このバベルの最上階に坐す女神の事だと気付いたヘファイストスは溜息を吐いた。
「もう、手出ししてきてるのね」
「せやでー」
「しかも、インファントドラゴン
インファントドラゴンの
『偉業の証』が得られる偉業なんていうのは神々が口をそろえて『不可能だ』と口にする様な事を成さなければならない。
『不可能』だからこそ、ソレを成す冒険者を神々は絶賛するのだから……
第一に、インファントドラゴンの耐久がどれほどなのかを考えれば、
その鱗や皮を傷付けるだけでも
ソレを成した? どうやって?
其れも気になるが、
まぁ、あの
「それで、私はどうすれば良いのかしら?」
「悪いんやけど予定を早めるわ。後【ハデス・ファミリア】もカエデたん狙っとるみたいでな……ぶっ潰しときたいんよ」
「は? え? ちょっと待ちなさい。【ハデス・ファミリア】? 何であのファミリアが出てくるのよ」
カエデの事について知っているのは【ロキ・ファミリア】と自分、後はフレイヤぐらいだと思っていたのだが……【ハデス・ファミリア】? 一体何処から?
「後なー恵比寿んとこも怪しいんよな。【
あまりの惨状に口を半開きにしつつも、思考を回す。
【ハデス・ファミリア】に【恵比寿・ファミリア】?
【ハデス・ファミリア】はファミリアの眷属総出でカエデを狙いダンジョン内で襲撃をしかけてきた。
撃退はしたが主神やら眷属達には雲隠れされてしまい行方知れず。
【恵比寿・ファミリア】は【ハデス・ファミリア】の【
そして仕舞には【フレイヤ・ファミリア】の【
但しカエデ自身が確実に【
どの情報も良い話を覆い隠す所か、良い話が消し飛ぶ様な内容でヘファイストスは溜息を零した。
「今日の
「【ハデス・ファミリア】は潰しときたいわな……【
【魔弓の射手】ジョゼット・ミザンナが【
あのエルフは一時期有名だった頃に【
「まぁ、今回の
ニカっと笑みを浮かべたロキに、ヘファイストスは深々と溜息を吐いた。
「それじゃ第ー……何次かは知らないけど。
「なぁ、最近良い噂聞か無くね?」「
司会進行役としてぴょんと立ち上がって宣言した木蔦の冠を頭に乗せ、半長靴を纏った幼い容姿の女神を気にした様子も無く、好き勝手に話し合う神々を見た幼い容姿の女神、タレイアが徐々に涙目になっていく。
その様子を知りながらも、ロキとヘファイストスは全く違う方向に視線をやっていた。
二人の視線の先、其処には悠々とした様子で席に着く男神の姿があった。
【ハデス・ファミリア】の主神、神ハデス。
黒々とした艶やかな鴉羽色の髪を肩で切り揃えた美丈夫の青年神、表面上は無表情であるがその顔色は若干青褪めており優れない。
他にも二人が視線を巡らせれば、ひときわ目立つ女神の姿があった。
その周囲の神々は口を閉ざし、男神も女神もどちらもその美の女神に視線を奪われ、美しさに吐息を零すと言う動作を繰り返す。
そんな周囲の事をさも当然と受け入れつつ、この場に滅多に顔を見せる事の無い美しさを体現した、ではなく美しさ其の物とも言える女神フレイヤ。
そのまま視線を他に向ければ、胡散臭い雰囲気を撒き散らす男神の姿もある。
ニヤニヤとした笑みを浮かべて、ロキとは違った意味で胡散臭い臭いを周囲に撒き散らす茶髪に青いポロシャツにジーンズ、安っぽいスニーカーと言う恰好をした商売系ファミリアの主神、神恵比寿。こちらも若干顔色が優れない。自ら進んで行商をしつつもギリギリのタイミングで
そんな三人の神の様子を見つつも、ロキとヘファイストスは一瞬視線を交差させる。
警戒すべきは? フレイヤ一択。 異議無しやな。
そんな会話を視線だけで済ませてフレイヤを見れば、二人の視線に気づいたフレイヤがゆったりとした動作でロキを見て、微笑みを浮かべた。
その微笑みに周囲の神々が更に深く悩ましげな吐息を零して見とれているのを軽蔑の視線を向けたロキが眺めてから、口元に獰猛な笑みを浮かべてフレイヤを見据える。
そんなロキやヘファイストス、睨み合うフレイヤが一様に視線を交わらせて互いに威圧しあっていると、唐突に女神タレイアが泣き始めた。
「うぁぁぁん、皆ひどいよぉぉぉおお」
司会進行を行おうと必死にアピールしていた女神タレイアが泣き始めた所で、神々は自分勝手に話すのをやめてタレイアに注目する。
「ひぐっ……えぐっ……」
ぽろぽろと涙を流すタレイアを眺めつつ。全ての神々が次の言葉を待つ。
「もうやだぁあああああああああ」
叫び声と共に司会席に置かれていたメガホンを思いっきり投げて、そのまま司会席からぴょんと飛び降りて走り去っていく。
「んでさー、
何時もの光景である。
例え司会進行の女神が泣こうが、男神が吐こうが。神々は知った事かと自分勝手に会話を弾ませる。コレを静めたくば、威圧するなり脅すなりする必要があるが。彼の女神、タレイアはそんな事が出来る女神ではない。しかも神々に無視されて傷心になってしまう打たれ弱い女神でもある。どうしてそんな女神に司会進行を任せたのか……
「はぁ、ちょっとウチのタレイアが司会進行できそうにないから、代わりに進行役をするわ」
タレイアが出て行った扉が完全にしまったのを確認した一人の女神が立ち上がっててを叩く。
「はいはい、皆静かにー。
立ち上がったのは女神タレイアと同じく【ミューズ・ファミリア】を形成する神々の一人、女神エラトーである。
「
エラトーの言葉をガン無視で話を続ける神々にエラトーが溜息を吐く。
「はぁ……ちょっと其処のセト、そのメガホン返しなさい」「あっはい」
頭に瘤の出来た神セトからエラトーがメガホンを取り上げると。そのまま息を吸い込み始める。
ソレを見た瞬間、フレイヤとロキ、ヘファイストスが一様に耳を塞ぐ。
「そろそろ黙りなさい」
頭が割れるのではないかと言うほどの大音量で、エラトーの声が響き渡る。その声に神々が一様に動きを止めた。
「もう一度欲しいかしら?」
「「「いいえ、大丈夫です」」」
口を揃えた神々が司会席に立つエラトーの方を見る。ようやく始められるとエラトーがメガホンを司会席に置いて口を開いた。
「えー、では。
わーわーどんどんぱふぱふーと妙な擬音で神々がはやし立てるのをジトッとした目で見たエラトーは溜息を吐いた。
「はぁ……じゃあ最初の報告事項から。最近近隣の『ラキア』王国の動向報告について。今の担当の【ナイアル・ファミリア】のナイアル。頼むわ」
エラトーの言葉にスッと手をあげて立ち上がったのはぴっちりと
「では、不肖ながら私から報告を」
立ち上がったのは規模の小さい商業ファミリアの【ナイアル・ファミリア】の主神ナイアルである。
不気味な笑みを浮かべたその姿に神々が一瞬眉を顰めるも、ナイアルは気にした様子も無く口を開いた。
「【アレス・ファミリア】、ラキア王国に潜入していた私の眷属からの報告によればラキア王国内にて謎の殺傷事件が発生している模様です。王国近隣の支配地域の街や村に於いても殺傷事件が発生しており。今回の軍備においては
その報告を受け、神々が「ほー」だの「え? 殺傷事件に
「殺傷事件の詳細につきましては……つい一か月程前から発生し始め、現段階に至るまでに
その言葉に神々が怪訝そうな表情を浮かべる。
ラキア王国騎士団長クラス、オラリオで言うなれば
「これにつきまして、犯人は推定
現在オラリオにおける
「追加報告としまして潜入調査を行っていた私の
その報告に神々がどよめく。
【ナイアル・ファミリア】の眷属は、
それぞれが個性的な眷属ばかりである【ナイアル・ファミリア】の眷属が四人中三人仕留められた? 相手がどれほど手練れだったとしてもオラリオが誇る一級冒険者でもない限りは早々仕留められないと思われていたナイアルの眷属が、オラリオの外で仕留められた?
「状況については、最年少のアルスフェアが回収してきてくれました」
神々のどよめきがさらに大きくなる。
アルスフェア。神ナイアルの眷属である
特に
「アルスフェア曰く、『瞬く間もなく闇から現れ出でて【
そこまで言うと、ナイアルは指一つ立てて「あーそう言えば」と続ける。
「なんでかは知らないですけど。アルスフェアが『偉業の証』を手に入れてたんですよねぇ? 不思議ですよねぇ?
その言葉に神々の胡乱気な視線が突き刺さる。
さすがに嘘臭過ぎる。
「はは、信じて貰おうなんて思っては居ないですよ……まぁ、本当なんですがね」
それから、ナイアルは肩を竦めて席に着き、思い出したかのように片手をあげて口を開いた。
「あぁ、私のファミリアはこれ以上潜入調査を続ける事は不可能ですので、
「と言う事みたいね。ラキア王国内で起きてる殺人事件、ありえないと思うけど『
『
「まだ残ってんのかよ」「しぶと過ぎぃ」「水場の黴かよ……」「黒光りするアレみたいだなぁ」
好き勝手呟く神々の様子をちらりと見てからエラトーが口を開いた。
「【ナイアル・ファミリア】に代わってラキア王国監視に就いてくれるファミリアは居るかしら?」
誰もやりたがらない雑務に皆が静まりかえる。そんな様子を見たエラトーは一つ手を叩くと目があった一人の男神を指差した。
「今、フレイヤの胸に視線をやったそこの貴方。この件お願いね?」
「うぇっ!? 何でっ!?」
「あら、やってくれるのかしら?」
「はいっ!! 喜んでっ!!」
フレイヤの胸に視線を向けていた男神が文句を言おうと口を開こうとすると、合わせる様にフレイヤがその男神に笑顔を向ける。途端に嬉しそうに尻尾を振る幻覚を振り撒きながら男神が承諾する。
「ありがと、フレイヤ。大好きよ」
「どういたしまして」
「はっ、俺はいったい何を……」
男神が正気を取り戻した時には既に決定事項として書記席に座ったトートが無言のまま『アレス監視役』と言う名誉有る雑務の任を執り行うファミリア名を【ナイアル・ファミリア】からその男神のファミリア名へと手早く書き換えてしまう。
ちくしょーと嘆く声を無視してエラトーが口を開いた。
「えー、次の話は?」
「はい」
手をあげて立ち上がったのは胡散臭い雰囲気を撒き散らす神恵比寿である。
「おえー」「うわっ」「せんせー、神セトが恵比寿君の余りの胡散臭さに吐きましたー」「うぇっぷ……俺も気持ち悪くなってきた」「やべぇ……誰かあの胡散臭さをどうにかしてくれよぅ」
瞬間、神々が吐いたりえずいたり、口を押えたりと好き勝手騒ぎはじめ神恵比寿が引きつった笑みを浮かべる。
「ちょっと待ってくんない? 僕そんなに胡散臭い?」
「「「うん」」」
その言葉に悲しげに眼を細めてから、恵比寿は咳払いして口を開く。
「えー僕から質問ね。ギルドが
恵比寿のその言葉が聞こえた瞬間、空気が引き締まる。
ギルドの
ギルドがとある眷属に対して発行した一つの依頼から発展した事件の事である。
「まず第一に、ウラノス、何やってんの?」
笑みが深まり、胡散臭い雰囲気を撒き散らしながらも、その目に宿っているのは明確な怒りである。
この場に居ない『神ウラノス』に問いかける言葉に神々の注目も集まる。
『……済まない事をした』
何処からともなく、響く神ウラノスの声に神々が次々に騒ぎ出す。
「なんてことしてくれたんだよ」「あの【
次々に『ギルド』、【ウラノス・ファミリア】を批難する神々。
最初に地上に降り立った神の一柱神ウラノスは神々に疎まれている。最初に降り立ち、最初に『古代のエイユウ達との決定的な確執を作り上げ』、後続の神々が期待した古代のエイユウ達との出会いをフイにしたあげく、『神の恩恵』や『神々の地上におけるルール』を生み出した上『冒険者ギルド』として最初期から絶対の地位を確保して現在に至るまでその地位を維持し続けている事に嫉妬した神々による批難の数々。
ウラノス自身もそれに思うところがあるのか反論することなく批難を受け止めている。いや、聞いていないのか? この場に居ない為、判別もできない。
この場に居ないのにはちゃんとした理由があるのだが、それでも苛立ちが押さえられないのか神々の批難が徐々に大きくなる。
それに冷静な声色の恵比寿が待ったをかけた。
「ストップストップ、今は僕の発言中なんだよねぇ……黙っててくんない?」
恵比寿の雰囲気に神々が口を閉ざしたのを見て、恵比寿はエラトーに視線を向ける。
「で? 今回の件について言い訳は?」
「なんで私を見るのよ……ウラノス、答えて」
恵比寿の視線から逃れる様に司会席を下りると、司会席に薄らと神ウラノスの姿が投影される。その投影されたウラノスはゆっくりと司会席から立ち上がり、神々が腰掛ける円卓の中央まで滑る様に移動する。
その様子を黙って見る神々の前で、ウラノスはゆっくりとした動作で膝を突く。
見守る神々の前で、ウラノスはそのまま両手を床に突き、ほれぼれとする様な動作で頭を下げる。
其れは極東で知られる最上級の謝罪の形。神々がネタで繰り広げる事も有る謝罪。
名を『土下座』と言う。
『すまなかったっ!!』
その土下座を見た恵比寿はゆったりした動作で立ち上がり、中央で土下座の姿勢のまま固まったウラノスの幻影の前に歩み出でて、ウラノスの頭に唾を吐きかけた。
恵比寿が吐きかけた唾はウラノスの幻影をすり抜けてウラノスの目の前の床にぴしゃりとつく。ソレを見つつもウラノスは顔を上げない。
「なぁにがすまなかっただってぇ?」
『…………』
「あのさぁ? 僕の眷属、何人か【
「それ以外にも急にやってきて唐突に『【恵比寿・ファミリア】で緊急で換金所を代替してほしい』とかさぁ? 僕の所はそれなりに余裕はあったよ? けどねぇ、冒険者が詰めかけてきてパンクしかけたんだよねぇ? っていうか一部団員が何でか【恵比寿・ファミリア】は換金金額を誤魔化してるだのなんだの騒いで文句つけてきたんだよねぇ?」
「ギルドが
嫌らしい笑みを浮かべつつ、神ウラノスをねめつける恵比寿の様子に神々が呆れたように肩を竦める。
商売系ファミリアの【恵比寿・ファミリア】主神恵比寿は、温厚な神として知られているが一たび怒ると相当根に持つ。特に今回のギルドの失態で割を食う羽目になったのは【恵比寿・ファミリア】である。
換金所の代替を
ギルドの換金所の方が高値で買い取りをしてくれる。【恵比寿・ファミリア】はギルドと違って収集品換金の際に
どれもこれもギルドの失態の所為であるのに、あたかも【恵比寿・ファミリア】が悪いとでも言わんばかりの態度で接してくる冒険者達。
それに辟易するのは【恵比寿・ファミリア】に所属する眷属達である。
そしてキレるのは恵比寿である。
「僕の眷属……君も知ってるよねぇ? 【恵比寿・ファミリア】は
【恵比寿・ファミリア】は幹部クラスの眷属にしか
ソレは『冒険者ギルド』と呼ばれる【ウラノス・ファミリア】と同じく、『商業ギルド』を取り仕切る【恵比寿・ファミリア】なりの誠意の示し方であり、ごく一部の眷属を除いて
正確には『オラリオで商売をする人物は何者であれ【恵比寿・ファミリア】の一員として扱う』と言う契約に基づいたモノである。
冒険者が横暴な態度で店に値切りをしたりする等と言った行為から商売人を守る為にギルドが執行している『冒険者法』とは別に、商売人は全て恵比寿の眷属として扱い、有事があった場合は無所属であろうが商売人が関係したトラブルは【恵比寿・ファミリア】が出張ってきて解決しても良いと言うもの。
どうしても力ある冒険者より、力なき商売人の方が立場が低い。『冒険者法』で守られていても不十分だと常々口にしていた恵比寿が神ウラノスとの話し合いの末に決定したその
『商売人を守る法』。【恵比寿・ファミリア】とは『オラリオで取引する全ての商人を守る盾』である。
ごく一部の【恵比寿・ファミリア】の眷属を除いて、他の眷属はただの一般人。
今回の件で【恵比寿・ファミリア】が急きょ代理の換金所として用意したのは『傘下として守っている一般人の店』であったのだ。
無論、
結果として、換金所で起きたトラブルが原因で『一般の商売人が商売をやめてしまう』と言う事態に陥った。
商売人が減る事を嘆いた恵比寿は、そりゃキレるだろう。
「それでさぁ「ストップ、恵比寿」はい?」
キレており、このままウラノスの頭を踏みつけかねない程の勢いで捲し立てていた恵比寿を止めたのはエラトーである。
「ウラノス、結論は?」
『……今回の件で【恵比寿・ファミリア】が負った損害は全てギルドが賄おう』
「ふぅん……」
納得してません。そんな表情の恵比寿をエラトーがやんわり止める。
「落ち着きなさいな……全く。ウラノスも今回の【
『ソレについては言う事は無い』
顔を上げてきっぱりと言い切った神ウラノスの様子に、一部の神々が苛立たしげな視線を向ける。
苛立たしげな視線を向けた神々はどの神々も
「チッ、まともな返答じゃなかったね。まぁいいや。僕からはこれだけだよ」
苛立たしげな様子を隠しもせず、席に戻った恵比寿にエラトーが深々を溜息を吐いた。
「まぁ、私は知らないけど今回のウラノスの所の所為で被害被ったファミリアは後でウラノスの所に殴り込みでもすればいいんじゃない? 【
冗談めかしてそう言ってから、エラトーは司会席に戻って机をパンパンと叩く。
「それで? 他にはないかしら?」
其の問いかけに一部の神が手をあげて次々に用件を述べていく。
【デメテル・ファミリア】がセオロの密林に保有していた管理地でもあり採取地に侵入して荒し回ったファミリアが居る事。
【恵比寿・ファミリア】を騙って偽の『
その際に中層のヘルハウンドが上層に侵入して、複数の
オラリオ外部に逃亡したファミリアの主神が簀巻きにされて【
その主神が天界に帰った事。
新しく楽曲が完成したから近々コンサートを行う事。
俺がガネーシャである事。
『フライングガネーシャ』の三号機の初飛行を記念して『ガネーシャの日』を制定しようと言う意見。
近々発売される『薄い本』の予約状況について。
上層十二階層の細道の辺りで意図的な崩落痕が確認されたこと。
更にその付近でインファントドラゴンが確認され、三つのファミリアの冒険者パーティーが壊滅したこと。
希望する『薄い本』は何があるか等。
神々の行うどうでも良い物から重要なモノまで、様々な話合いと言う名の意見のぶつけ合いに、若干疲労感を感じつつも、エラトーはようやく
「えー、じゃあ。二つ名命名……開始しましょうか?」
神々が狂喜乱舞する宴の始まりの宣言に、集まった全ての神々が叫び、祈り、願う。
今回の命名に参加する
そして関係無い神々はどんな悶え苦しむような二つ名を付けてやろうかとニヤニヤ眺める。
思った以上に長くなってしまった……ヤベェ……しかも全然進行してネェ。ヤベェ。
ヤベェって感想以外でてこねぇ、ヤベェ(白目)
神々のやり取り、こんな感じで良いのか?
あ、三月ぐらいまで現実の方がかなり忙しくなりそうです。なので更新が遅れる可能性がありますが。その時は生暖かい目で見守ってください。出来うる限り全力を持ってして事にあたりますが……もしかしたらもあり得ます。
【恵比寿・ファミリア】
『商業ファミリア』の中心ファミリア。
オラリオの商売人を庇護するファミリアであり、無所属の商売人は殆どが【恵比寿・ファミリア】の所属として扱われている。
主神の恵比寿は胡散臭さが人の形になった神と言われるほどに胡散臭い。
青いポロシャツにジーンズ、安っぽいスニーカーを履いた茶髪の軽薄そうな青年神。
団長は【八相縁起】と言う二つ名の
副団長は二枚看板とも言われる【
実際に
生産系ファミリア最大規模の【デメテル・ファミリア】と密接な関係がある。
【恵比寿・ファミリア】は交易ルートを、【デメテル・ファミリア】は高品質の野菜や果物等を互いに提供しあっている。
そのためか、二つのどちらかのファミリアと敵対すると、連動してもう片方も敵対することになる。
『冒険者ギルド』【ウラノス・ファミリア】と『商業ギルド』【恵比寿・ファミリア】として密接な関係を築き上げている。ときおり、ギルドの失態の尻拭い等をさせられたりしており仲が悪い様に見える。
【恵比寿・ファミリア】と敵対した場合、もれなくオラリオ内部の取引の一切合財を止められてしまい。お金があっても買い物が出来ないと言う事態に陥る。
特に食料品関係は【恵比寿・ファミリア】が流通ルートを全て抑えている為、下手に敵に回すと街中で兵糧攻めをされてファミリアが壊滅しかねない程……
オラリオ外部でも『行商』と言う形で外の商売人とも強い繋がりを持っており、本気で怒らせるとオラリオの外ですら何処に行っても『取引』が出来なくなるほど。
【