生命の唄~Beast Roar~   作:一本歯下駄

40 / 130
『ベートもう少しトラブル控えて欲しいなーなんてウチ思うんやけどなー』

『五月蠅ぇよ、俺が何しようが俺の勝手だろうが』

『ふぅん……それで、今回は()()()()怒ったんだい?』

『五月蠅ぇっつってんだろ。聞こえなかったのかよ』

『素直じゃないな』

『んだとババア』

『まぁ、落ち着け。とりあえずギルドで罰則依頼を受けて来い……話はそれからだ』

『チッ』


『牙』

 苛立ちを発散すべく繰り出したただの前蹴りは、反応する間も与えずに狙った対象の胴体部分に直撃し、内臓やら何やらをぶちまけながら真っ二つになって吹っ飛んでいく。

 そんなヘルハウンドの事を苛立たしげに睨みつけながら、ベートは悪態をついた。

 

「クソが……何で俺が」

 

 【凶狼(ヴァナルガンド)】ベート・ローガは今現在、ギルドからの冒険者依頼(クエスト)の消化の為にダンジョンに足を運んでいた。

 

 冒険者依頼(クエスト)の内容は『十八階層リヴィラの街への物資の輸送』である。

 

 本来なら準一級(レベル4)冒険者であるベートが受ける事は絶対に無い様な依頼であり、報酬も依頼された物資の輸送程度なんぞの報酬金なんてたかが知れている。

 何故そんな依頼を受ける事になったのかと言えば、ギルド側からの罰則依頼と言う形で強制受託させられたのである。

 

 そんな苛立ちを、物資の受け渡しが完了してから地上に依頼達成の報告に向かう途中に出会うモンスターを片っ端から魔石を砕いて潰す事で発散しようとしているが、ヘルハウンドを見る度に余計な苛立ちが募り、結果的に苛立ちの発散どころか逆に苛立ちが加速すると言う逆効果に至っている。

 

 他のダンジョンのドロップ品収集の依頼があったらそちらをやっていただろう。

 

 だが生憎とドロップ品収集系の依頼は全て【ガネーシャ・ファミリア】が片付けており、オラリオ近場の盗賊討伐やモンスター討伐等の討伐依頼は【酒乱群狼(スォームアジテイター)】が片っ端から受けては掃滅していたらしく、一つも存在しなかった。

 唯一あったのは今ベートが完了してきた『十八階層リヴィラの街への物資の輸送』と、オラリオから一ヶ月近くかかる離れた町の『オーク討伐依頼』だけである。

 

 『オーク討伐依頼』は、前任の【酒乱群狼(スォームアジテイター)】が『ゴブリン討滅依頼』として受託していた依頼だったが、実際のモンスターがオークであった為に【酒乱群狼(スォームアジテイター)】が依頼主を惨殺した挙句にモンスターには手をつけずにギルドに押しかけてブチギレてギルド職員数人とギルド長を半殺しにすると言う惨劇を生み出した依頼の成れの果てだとかどうとか。

 

 無論、冒険者のベートが本気で走り抜ければ一週間かからずに行って帰って来れるが、一週間も迷宮に潜らず走り続けて、経験値にもならない雑魚をわざわざ探し回って蹴り潰してくるなんて面倒過ぎる。しかも討伐証として魔石ではなくオークの鼻を切り取って来ないといけないなんて面倒にも程がある。

 

 それなら半日程度で走り抜けられる輸送依頼を受ける方がまだマシだと判断した訳であるが、依頼主はリヴィラの街を取り仕切っているボールス・エルダーだったらしく、顔を合わせた瞬間に苦虫を噛み潰した様な表情で『なんで上級冒険者がこんな依頼なんかを……』と悪態をついてきたのだ。

 

 どうせ、自分よりレベルが下の冒険者だったらいちゃもんをつけて依頼料を減らす積りだったのだろう。思いっきり睨みつけてやれば黙って依頼の達成証を渡してきた。

 

 苛立ちの原因は様々だが、苛立ちをぶつけられるモンスターには堪ったものでは無いのだろう。

 

 まぁ、苛立ちをそのまま殺気として振り撒いているので、不用意に近づいたモンスター側に問題があるのだが。

 

 ……モンスターが反応出来ない速度で高速接近して辻斬りならぬ辻蹴りをしているので、モンスター側の非を問えるかどうかは賛否分れそうではあるのだが。

 

 そんな苛立ちを群れていたヘルハウンドを蹴り潰して、ベートは十二階層に通じる通路の先を見据えて唾を吐き捨てる。

 

「面倒臭ぇな」

 

 ベートの視線の先には不自然な境界線を生み出す白い濃霧が存在した。

 

 その中では全く視線が通らないと言う面倒な迷宮の悪意(ダンジョントラップ)がベートの行く先に揺蕩っている。

 

 可能なら蹴り飛ばしたい所ではあるが、この濃霧はどう足掻こうが消し去る事は出来やしない。

 

 同じファミリアに所属する【魔弓の射手】なんかは透視能力(ペセプション)等でこの霧の中でも普通に視認できるらしいが、ベートはそう言った特殊なスキルは持っていない。

 

 基本的に狼人(ウェアウルフ)が取得するスキルしか持っていない以上、この霧はベートにとって苛立ちの対象にしかならない。

 

 準一(レベル4)冒険者と言うのは伊達では無いので、上層と中層は目を瞑っていても余裕と言えるのだが面倒な事に変わりない。

 

「……チッ、皮と牙か……まぁ、要らねぇな」

 

 何かが転がる小さな音を捕えたベートが霧から視線を外して先程蹴り潰したヘルハウンドの方を見れば、ちんけな牙と、蹴った時に裂けた皮がドロップしているのが見えた。

 

 必要ないと判断してその場に放置して霧の中に足を踏み出す。

 

 もしほかの冒険者が見つければ勝手に拾ってくだろうし、見つけられなければそのまま迷宮に呑まれるだけである。ゴミ掃除の必要が無いのでこの迷宮は非常に便利と言えば便利だろう。

 

 霧の中に一歩踏み出してベートは舌打ちをしてから頭の中で地図を広げる。

 

 霧の迷宮の悪意(ダンジョントラップ)の関係で、十一階層、十二階層は地図が完璧に埋まっている訳では無い。

 

 特に十二階層なんて霧の所為で迷って行方不明になる事も珍しくは無い。まぁ、そう言う場合は透視能力(ペセプション)を持つ冒険者を雇って捜索されるのだが……

 

 そんな十二階層と十一階層の地図を頭の中で広げながら足を進めつつ、帰り道をどうするか考えようとして、考える間も無く近道を選ぶ。

 

 最短ルートには『罠の細道』が存在するが、あそこは四人以上の人が同時に侵入すると通路の前後からモンスターが湧く細道である。基本的にパーティーは使用しないが、四人未満のパーティーが利用する通路である。後はベートの様にソロで活動している冒険者等か……

 もしくは四人以上でもあらかじめ湧かせて潰しておけば一定時間は四人以上で侵入してもモンスターが湧かなくなるので【ロキ・ファミリア】の長期遠征などを行う場合は事前に()()しておいて大人数で利用する事もある。

 時折ではあるが通路の前後から同時に二つのパーティーが侵入して意図せず発生させると言う事故が発生する場所でもあるので、ベートが侵入した際に反対側から三人以上が侵入してくれば意図せず罠を発動させることになるだろうが、出てくるモンスターなんぞ上層の雑魚である。迷宮の孤王(モンスターレックス)と呼ばれる事も有るインファントドラゴンならまだしも、只の雑魚なら全部潰す事が出来るし、反対から入ってきた冒険者から文句を言われようが、そう言った()()が起きる事も有ると言う事を理解しながらも侵入した()()()()である。ベートの知った事ではない。

 

 そんな風に考えながらも駆け足気味に濃霧の中を走り抜ける。

 

 何より面倒なのは霧の所為で速度が出せない事である。まぁ、自身の速力で壁にぶち当たった所で耐久的に致命傷にはならないだろうが、苛立つ事に変わりは無い。

 

 駆け足気味とはいえ駆け出し(レベル1)冒険者が見れば『それが駆け足なのか』と驚愕すべき速度で走るベートの耳に、遠くの方から聞いた事のある咆哮が聞こえてきた。

 

「ケッ、インファントドラゴンかよ……」

 

 聞こえてきた咆哮、竜種特有の振動を伴ったその咆哮が聞こえてきたのはベートが向かう細道の方からである。

 

 少し不自然さを感じさせる音ではあったが、その咆哮は間違いなくインファントドラゴンのモノであると断言できる。

 

 音を良く聞けば、くぐもってはいるが冒険者と戦っているらしい音だと確認でき、ベートは眉を顰めた。

 

 今朝早くにわざわざ挨拶をしていたカエデの姿が脳裏に過るが、アイツが潜るのはせいぜいが十階層だろう。流石に濃霧の迷宮の悪意(ダンジョントラップ)の所為で危険度が跳ね上がるこの階層にまでフィンがカエデを連れ込む理由は無い。

 

 爆発音と共に微かに冒険者の悲鳴が聞こえ、一度ベートは足を止めた。

 

「チッ」

 

 このまま進めば、間違いなく見たくも無い景色を見る事になるだろう。一瞬、脳裏を過ったのはベートの部族の末路。頬に刻まれた『牙』を意味する刺青を撫でてから眉を顰めて踵を返そうとする。

 

 『牙』の刺青を刻んだベートの部族、放浪の獣人部族『平原の獣民』。

 

 周りの他の狼人の部族からは『変わり者の集まり』と言う目で見られていた部族であった。

 

 狼人の中で『白毛の狼人』は『白き禍憑き』等と呼ばれて迫害されており、自らの部族で白毛の狼人が産まれようモノなら、その日の内に殺されて居なかった事にするのが普通なのだ。

 

 だが『平原の獣民』の中では白毛は迫害の対象では無かった。特別扱いされる事もないが普通に群れの仲間として扱われていたのだ。それが他の狼人の部族から『変わり者の集まり』等と呼ばれていた所以でもある。

 

 ――『牙』の刺青――

 

 ベートの部族の中で強さを認められた戦士に刻まれる『牙』の刺青。

 

 過去、古代よりはるか以前、狼人同士の部族争いのさ中、『黒き巨狼』と言う部族が引き連れていた『白牙』と言う白毛の個体。

 狼人の部族同士の争い、その中で猛威を振るったのはその『白牙』と言う個体だった。

 

 黒毛に蒼眼の狼人の集団にたった一匹だけ白毛に紅眼の狼人が交じっている。異質なその光景に、殆どの部族は首を傾げた。そんな中『白牙』は、部族争いの中で『黒き巨狼』の部族に手を出した部族を片っ端から虐殺しはじめたのだ。

 ソレを目にした他の狼人の部族はアレを仕留めれば名をあげられるのではと次々に『白牙』に挑みかかり……ひとつ残らず壊滅した。

 

 たった一匹、血に塗れて佇むその『白牙』に殆どの狼人は畏れを抱いた。本能に刻まれる程の畏怖を振り撒いた『白牙』と言う存在によって、狼人達の中で『白毛』は恐怖の対象となり、自らの部族に生まれ落ちれば殺してしまうと言う凶行に走らせる事となる。

 

 そんな中、一部の部族はその『白牙』に憧憬を抱いた。

 

 そんな『白牙』に憧れ、同じ強さを求めた部族が長い時を経て尚、その話を伝承と言う形で残していたのが『平原の獣民』であり、ベートの部族でもあった。

 

 ベートも幼い頃に伝承として話に聞いた『黒き巨狼』と『白牙』の伝承。『牙』の刺青を授かる際に聞かされた『弱肉強食』の理論。

 

 『白牙』は『平原の獣民』の抱く『弱肉強食』の理論の中でも『絶対強者』として君臨していたモノである。

 

 他の狼人の部族はその『白牙』の伝承を忘れ去り、残ったのは『白毛』に対する迫害心のみになってしまっている。

 

 ベートの父親はそんな他の狼人の部族を『恐怖に打ち勝てなかった弱者』と笑っていたが……

 

 其の末路はあっけないモノで、より強いモノに全てを蹂躙されると言うまさに『弱肉強食』の理論そのままであった訳だが。

 

 

 

「面倒くせぇな」

 

 踵を返そうとしていた足を止め、悲鳴が聞こえなくなり。時折インファントドラゴンの暴れる音だけが聞こえる様になった通路の先を振り返ってから、悪態をついてから別の近道へと走り出した。

 

 

 

 ベートがギルドから罰則を喰らう原因は、他の狼人を道端で半殺しにした事が原因である。

 

 オラリオに出て来たばかりの駆け出し(レベル1)ですらない、冒険者志望のファミリアに未所属の狼人の少年が道端でベートに声をかけて来たのが始まりである。

 

 その狼人の少年は、オラリオでも有名である【凶狼(ヴァナルガンド)】を見て声をかけてきたのだ。『憧れてます』と、それに対しベートは無視した。

 少年はあからさまに無視された事に落胆した様子でベートから離れようとしたのだが、真昼間から酒盛りをして酔っていたらしい狼人の中年の冒険者がその少年を呼び止めて大声で【ロキ・ファミリア】を貶す事を口にした。

 

 ……正確にはカエデ・ハバリを貶す事を、である。

 

『あそこのファミリアは白い禍憑きを眷属にした所だから行かない方が正解だぜ』『聞いたか? あの白い禍憑きが初めてダンジョンに来た時にソイツが入ってすぐ、他の新米冒険者が入口で重症負ったらしいぜ』『やっぱ禍憑きなんかに関わるべきじゃねえよな』『あの【ロキ・ファミリア】も禍憑きなんて所属しちまったんだ、直ぐに落ちぶれるさ』『実際、最近怪我人が増えてるじゃねぇか』『盗賊も惨殺されてるみたいだしよ、冒険者も何人も惨殺されてるみたいだぜ?』『白い禍憑きがオラリオに来てから良い話なんて一個もねぇしよ』『お前も白いのには気をつけろよ。関わる所か近づくだけで危ないぜ?』

 

 その狼人の冒険者の声は、大きく聞こえた。正しく言うならあからさまに【ロキ・ファミリア】に対して挑発的な言動をしているのを聞いた周りの人達がこれから起きる惨劇を察してそそくさと逃げ出した所為でその狼人の冒険者と少年のみが残されていただけだが。

 

 少年は驚きの表情と共に『白い禍憑きが所属? そのファミリアって頭おかしいんじゃ……』と口にした。

 

 それを聞いたベートはその二人に殺気を向けて黙れと言ったが、冒険者は酔っていたのか鼻で笑い、少年も『禍憑きなんて所属してるんですか?』と質問してきた。苛立ちが募ったベートは冒険者と少年を殴り飛ばした。

 

 冒険者の方は酒に酔っていたと言う事と、所属していたファミリアの主神がロキに土下座しに来て赦しを乞うたが、問題は無所属だった少年の方である。

 

 如何なる理由があれ、無所属に手を出したベートに非があるとギルドからの厳重注意と罰則が科せられる事になった。

 ロキはこれに対して『喧嘩売ってきたんはその少年(ガキ)やろ。なんでベートに罰則があるんや』といちゃもんをつけたが、ベートは常々オラリオ内で問題を起こす事が多く、何度もギルドが見逃してきたがこれ以上は無理だから一応罰則だけは受けてくれとの事で、ロキもベートが普段からトラブルを起こしている事を理解していた為にベートの罰則を受け入れたと言う形に収まった。

 

 その後の話は簡単でどちらか、オラリオ遠方の討伐依頼かダンジョン内の雑務依頼かのどちらかを選べと言われ、仕方なく雑務の方を選んだのだが……

 

 荷物を届けた帰りに希少(レア)モンスターと出会った。それだけなら運が良いとドロップアイテム狙いでインファントドラゴンを倒しに行く事も考えたが、他の冒険者が戦っているのなら話は別だ。

 横取りなんぞとケチつけられたくは無いし、その場に居合わせていた所為で『なんで助けてくれなかったんだ』等と自分勝手な文句を言ってくる冒険者も居なくはないので関わり合いになりたくないのだ。

 

 そんな事を考えながら駆け足で進んでいると、霧の中から声が聞こえ、思わず足を止めた。

 

「クソッ、あの白い狼人、十二階層に下りやがった。ここだと濃霧で面倒くせぇしよ」

「さっき、馬鹿が細道の罠発動させてやがったぞ」

「マジかよ、白い狼人に関わると碌な事無いって噂、マジなんだな」

「つか、マジで下りたのか?」

「あぁ、さっさと見つけて捕まえねぇと、【勇者(ブレイバー)】の足止めももう限界っぽいし、既にイサルコさんが捕まっちまってるからヤバイぞ」

「クソっ、霧の所為で見えやしねえ……【魔弓の射手】をどうにかこっちに引き込めてりゃこんな事にもなんなかったのによ」

「つってもイサルコさんの魔法、地味に使い勝手が悪いじゃんか」

 

 ベートは白い狼人と言う単語に反応し、その会話が聞こえた方向に無言で足を進める。

 

 距離的に同じフロア内に居る形だろうが、相手は此方に気が付いていない様子である。ジョゼットの様に透視能力(ペセプション)を持っていないらしい。

 

 もう直ぐ声の主の姿が見えるだろうと言う至近距離に近づいた辺りでベートは口を開いた。

 

「オイ、其処の雑魚二人」

「っ!?」「誰だっ!!」

 

 反応したのか剣を抜く音が聞こえ、ベートは相手に軽く殺気を向けつつ視認できる距離に近づいた。

 

「白い狼人ってのは誰の事だ?」

「げっ!? 【凶狼(ヴァナルガンド)】ッ!?」

「誰だソイツ」

 

 霧の中で話し込んで居たのはどうやら赤毛の狼人と、茶髪のヒューマンの二人組だった。

 同じ白を基調とした装束の様なモノに身を包み、フードを外している様子で二人の顔を見てベートは内心鼻で笑った。

 

 少なくともベートが名前や容姿を覚えていない以上、只の雑魚でしかないのは確定である。三級(レベル2)ともなれば微妙だが、二級(レベル3)ぐらいであれば特徴から名前ぐらいは思い出せるはずである。

 しかしその二人の特徴は何処の誰にも引っ掛かる訳でも無い。つまりベートが覚える必要性すら感じなかった三級(レベル2)の雑魚か、三級(レベル2)ですらない雑魚でしかない。

 

 感じる雰囲気からも自身よりも強いとは微塵も思えない程度でしかない。

 

「【凶狼(ヴァナルガンド)】……ってもしかして【ロキ・ファミリア】のっ!?」

「そうだよ、糞っ。こんな所で準一級(レベル4)冒険者なんて冗談じゃねぇぞ」

 

 二人して踵を返して逃げ出そうとしたのを見て、ベートは一気に殺気を強める。

 

 只それだけなのに二人は足を止め、その場でガタガタと震え始めた。ソレを見てただの雑魚かと鼻で笑ってからベートは口を開いた。

 

「おい、白い狼人ってのは誰の事だ?」

「おっオマエには関係ないっ……こっこの件は俺達のファミリ……ファミリアの……問題で」

「おい、そっちの雑魚は」

 

 震えながらもなんとか口を開いた赤毛の狼人を睨んで黙らせてから、もう一人のヒューマンに声をかける。

 

「っ!! さぁっ……俺は何もっ!?!?」

「さっさと教えろっつって……くっそ、気絶しやがった」

 

 殺気を強めれば、ヒューマンの方がぶくぶくと泡を吹き始め、パタリと倒れてしまった。

 その倒れたヒューマンの頭を爪先で小突くも反応が無い。

 仕方が無く赤毛の狼人の方に視線を向け、睨む。

 

「んで、白毛の狼人ってのは誰の事だ? 答える気がねえなら……分ってんだろォな?」

「ひぃっ!? まっ、待ってくれ!! 主神の指示なんだっ!!」

 

 目の前の鼻先を掠るように蹴りを繰り出してみれば、酷く脅えた様子で震えだし、そのままペラペラと事の概要を話しだしたのを見てベートは眉間に皺を寄せた。

 

 

 二週間程前にオラリオに罪人になる可能性のある子がやってきたと主神が呟き。【監視者】が監視を行っていたが、途中で【幸運の招き猫(ハッピーキャット)】の妨害に遭い断念。

 その後はその子は何処のファミリアにも受け入れられず何処かで野垂れ死にするだろうと判断され放置される事になったが、一週間ほどしてからダンジョンに例の子が潜り始めたと言う噂を聞き調査を行えばその子がダンジョンで経験値を稼ぐべく戦っている姿を確認し、主神が直ぐに止めさせろと指示をだした。

 しかし所属しているファミリアが探索系ファミリアの最強の片割れ【ロキ・ファミリア】である事が発覚し、真正面から白毛の狼人をファミリアから追い出せと言った所で聞いてもらえないと判断し、半ば強引に攫って時が来た後に処刑する事に決定。

 団長の【処刑人(ディミオス)】が中心となって白毛の狼人の強奪作戦を立案し、今現在その作戦中だと言う。

 【処刑人(ディミオス)】と主力が【勇者(ブレイバー)】と【超凡夫(ハイ・ノービス)】を足止めし、【魔弓の射手】と白い狼人を引き剥がし。更にそこから【魔弓の射手】を【縛鎖(ばくさ)】の呪詛(カース)で操り、目的の人物のみを攫って離脱。ついでに幻術で別のファミリアの所為であると誤認させる事で発覚までの時間稼ぎをする積りだった。

 

 しかし、幼いはずの白毛の狼人が、駆け出し(レベル1)とは言え冒険者歴5年以上のベテラン二人がかりで挑んでも手も足もでず、【縛鎖(ばくさ)】イサルコも同時に挑みかかるも三人を手玉にとって反撃までしてきたため、イサルコの指示で撤退。

 

 【魔弓の射手】に対する幻術を変更し、白毛の狼人を半殺しにしてもらおうとするも、思い通りに動かずにイサルコが捕獲されてそのまま離脱されてしまう。残った白毛の狼人を襲撃しようか迷ったが、唐突に現れた怪しい巨大な影が白毛の狼人に『十二階層に行け』の様な事を指示してその後此方に襲い掛かってきてほんの少しの間気絶していたので慌てて十二階層で白毛の狼人の捜索を行っていたらしい。

 

 そこでベートと鉢合わせして……

 

「成る程、テメェら【ロキ・ファミリア(おれら)】に喧嘩売ったって事か」

「ヒィッ!? まっ、待ってくれ、俺は団長の指示に従っただけでヘグッ!?」

 

 言い訳がましくきゃんきゃん吼えようとした狼人の腹に一撃叩き込めば、呆気無く気絶して倒れて動かなくなった。ソレを見てからベートは一気に走り出す。

 

 放置した二人がモンスターに襲われようがどうなろうがもうベートとは関係ない。わざわざ敵対者を助ける義理なんてありはしないのだから。

 

 それよりも問題はカエデの事である。

 二人の話が正しければこの階層に来ている可能性が高い。

 そして大柄な影、団長並の身長の大柄な奴だったと言う謎の人物。

 

 誰かなんて知りはしないがまともな奴じゃないだろう。

 

 その指示通りにカエデが動いている可能性は低いが。もし本当にこの階層に来ているのなら……

 

 あのインファントドラゴンと戦っていた人物が誰かなんて気にも留めなかった。

 

 可能性は低いだろうが、もしカエデであるのなら……助けないとまずい。

 

 鍛錬の様子を見るにカエデは相当強い。だが、主にゴブリンを相手にしていたか、人間相手の鍛錬だったらしく、大型の相手との戦闘経験は少なそうではあった。

 

 インファントドラゴンはオークなんかよりよっぽど大型で、なおかつ竜種である。

 

 人型の相手しかしてきていないカエデには荷が重い所の話ではないだろう。

 

 二度目、とは言え今回は組織だった妨害なのでフィンとジョゼットを責めるのは酷だろうが、それでも二人を殴り飛ばしたいと思った。

 

 

 走りながら一気に駆けて行けば、直ぐに先程ベートが引き返した場所へと戻ってきた。

 

 もう既に音は何も聞こえない。実はカエデはあそこに居ないのでは? もしかしたらフィンやラウルとどうにか合流しているのでは?

 

 一瞬だけ希望的観測をしてみるも、直ぐに打ち消す。

 

 希望的観測して助かるのならいくらでもしてやる。そんなのしてたって助かりゃしないし、助けられもしない。

 だからこそ強くなりたいと思ったし、()()()()()()()()()()()()()()()なんて近くに居るだけでも不愉快なのだ。 




モチベ回復の為に少し書きたい話を書きました。つまり遠回りしたって事だよ……
 割と悪いと思ってる。カエデちゃんの活躍が見たかったんだよね? 皆。

 ……ごめん、本音はこっち。戦闘描写難しすぎて難航中なんだ(震え声)


 オラリオ・ラプソティア?始めました。
 一番好きなのはギタ・マイヤーズです。あの子可愛いですね。
 ベルくん、ヘスティア、アイズさんの三人はSSRゲットしましたが……
 原作キャラのSSRばっか出る癖に、ギタさん所か他のラプソティアのキャラはイベントで手に入れたSR以外持ってないって言う……ちょっとガチャ率渋すぎない?

 ギタさんのSRほすぃ……

 後、レオって女の子なんですね。唯一の男キャラかと思ってました(驚愕)



『獣人』
 獣の様な特色が体に現れた種族。獣の種類に応じて能力や性格等が違い、ヒューマンに比べて身体能力が高めである。どの種族も五感に優れており、ヒューマンに比べて冒険者としてかなり活躍しやすい種族。神々にも人気が高くどのファミリアでも歓迎される。

 犬人(シアンスロープ)猫人(キャットピープル)牛人(カウズ)猪人(ボアズ)狼人(ウェアウルフ)狐人(ルナール)狸人(ラクーン)羊人(ムートン)兎人(ラパン)虎人(ワータイガー)等、その種類はかなりの数に上る。

 代表的なのは『犬人(シアンスロープ)』と『猫人(キャットピープル)』、『狼人(ウェアウルフ)』の三種族であろう。

 他人の援護をするのに適したスキルや能力を持つ『犬人(シアンスロープ)

 特殊系のスキル発現率が高い上、対迷宮の悪意(ダンジョントラップ)種族とも言われる『猫人(キャットピープル)

 身体能力の高さ、優れた戦闘能力、五感にも優れる戦闘種族にも数えられる『狼人(ウェアウルフ)

 この三つが主にオラリオで活躍している。

 オラリオ最強(レベル7)の【猛者(おうじゃ)】オッタルによって『猪人(ボアズ)』もそれなりに有名ではあるが、上記三種族程数が居るわけでは無い。

 希少(レア)種族の狐人(ルナール)はそもそもオラリオにおいてもごく少数、両手で数えれれる程度の人数が居るかいないかであり見かける事は少ない。

 性格が戦闘に向かない種族の羊人(ムートン)兎人(ラパン)牛人(カウズ)等は冒険者として名を馳せる者は少ない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。