生命の唄~Beast Roar~   作:一本歯下駄

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『ヒヅチー、最近正義のあすとらるふぁみりあ?がなんか『やり過ぎです』って文句言ってくるさネ。凄く面倒臭いさネ』

『ふむ? その糞を口から垂れ流してそうなファミリアとやらがどうしたんじゃ?』

『……!?(なんかヒヅチの口からありえない単語が聞こえた気が……ちょっと酒の飲み過ぎかもしれないさネ……少し飲酒を控えた方が良いさネ……?)』

『どうした?』

『いや、なんでもないさネ、最近あすとらるとかいう女神が『ホオヅキ、貴女はやり過ぎなのです。喧嘩で相手を殺すのはやめなさい』って悪を下すのは良くとも命を奪うのはやり過ぎだー正義に反するーとかどうとか五月蠅いさネ』

『なんじゃ、そんな口から糞を垂れ流す様な神がオラリオにはおるのか。何故ソイツを殺さんのじゃ? 正義なんて糞を垂れ流しておるんじゃ、どうせ碌な神ではあるまい』

『気のせいじゃなかったさネ!!?? と言うかオマエどんだけ正義嫌に偏見をもってるさネ!?』


『大罪人』

 ダンジョン第十階層。

 

 階層の形状自体は八階層、九階層と同じでルームの数が七階層以前よりも増え、一つ一つのルームの大きさも今までの倍近くまで大きくなる。ルームを繋ぐ通路は少なく短くなる。天井までの高さも3Mから4M程度だったのが10M近くになる。

 木色の壁面には苔がまとわりつき、地面も短い草の生えた草原になり、八階層、九階層では陽光を思わせる光源が天井より降り注いでいたが、十階層においては朝霧を連想させる程度の光度であり、薄霧に包まれた階層である。

 

 出現モンスターは大柄な体躯に豚の様な顔、分厚い脂肪とその下に隠された強靭な筋肉によってタフネスを発揮する『オーク』に、小賢しく数と悪知恵で冒険者を苦しめる小さな悪魔『インプ』、朝霧に紛れ冒険者の集中力を低下させる怪音波を放つ『パットバット』と言った厄介なモンスターばかりが出現し、初めて訪れる冒険者を翻弄する。

 

 迷宮の悪意(ダンジョンギミック)もより凶悪性を増し『怪物の宴(モンスターパーティー)』と言う悪意が冒険者に牙を剥く。また迷宮の武器庫(ランドフォーム)と呼ばれる一見そこらの岩や木にしか見えない設置物も数多存在し、モンスターが触れる事で天然武器(ネイチャーウェポン)へと変貌を遂げ、モンスターの攻撃能力が跳ね上がる事で危険性は振り切れる程に跳ね上がっている。

 

 

 

 そんなダンジョン十階層にて、幼い狼人が低い唸り声と共にオークの首を跳ね飛ばした。

 

 三匹居たオークの内、一匹が迷宮の武器庫(ランドフォーム)の岩に触れ、その形状を岩の棍棒へと変化させている隙をついて容赦無く首を跳ね飛ばして、仲間の首が跳んだ事で困惑した二匹の足首をウィンドパイプを遠心力で振り回しながら接近してその勢いだけで圧し折り、足首が破壊された事で体勢を崩した一匹の首を切断、残った一匹が手に持っていた木製の棍棒を投げつけてきたが、それをウィンドパイプで弾いてから一気に駆け寄り、捕まえようと腕を伸ばすオークの伸び切った手を切断し、流れる様に首を刎ねる。

 

 一連の流れを終えた幼い狼人、カエデ・ハバリはウィンドパイプを右手で持ち肩で担ぐと、左手で懐から投げナイフを取り出し薄霧の向こう、天井付近を飛んでいるらしいパットバットらしき影に投げつけて撃墜した。

 

「……もう、大丈夫でしょうか?」

 

 カエデが一息吐き、耳を澄ませていると、モンスターを相手に大立ち回りを繰り広げている間、弓を片手にソレを眺めていたジョゼットがカエデに声をかけた。

 

「みたいですね……魔石回収しますが、カエデさん。一つ良いでしょうか?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「いえ、投げナイフをかなり消耗してますよね? 補給しますか?」

 

「はい、お願いします……ありがとうございます」

 

 ジョゼットから投げナイフを数本受け取り、懐の内側の皮のベルトの投げナイフを納める鞘に収めながら、カエデは周りを見回した。

 カエデが見回す十階層のフロア、現在階層は三方向に他のルームへと通じる通路があるフロアの筈だが、フロア中央に立つカエデから見てどの方向を見ても薄霧の所為で視界が通らず通路を視認する事が出来ない。

 

 それにしても不思議な霧である。

 薄霧、その霧に包まれていれば湿気が多そうなモノなのだが、まったく湿気を感じない。霧は出ているが呼吸に湿り気を感じる事も無ければ、尻尾が湿って不快感を覚える事も無い。

 これが自然現象で発生する霧とは別物であると言う事が解り、視界の中に映る薄霧と、体で感じる空気の差にどうにも違和感が残る。

 思わず尻尾の先を摘まんでぽつりと呟いた。

 

「なんか、変な感じがします」

「そうですか? ……あぁ、そうですね。私は迷宮の独自の空気に慣れてますから気にしませんが。カエデさんは気になりますか。湿り気も無いのに霧が発生していると言うこの状況、かなり違和感がありますよね」

「はい」

 

 ジョゼットの言葉に頷きながら、カエデは周囲を見回してみる。

 ラウルとフィンも同じフロアで警戒しているはずだが、その姿も確認できず、カエデは首を傾げた。

 

「ラウルさんとフィンさんは何処でしょうか?」

 

「あぁ、二人ならあそこにいますが……呼びますか?」

 

 ジョゼットが指差す先を見ても、薄霧が漂っているだけで二人の姿を確認できない。

 目を細めてどうにか姿を見ようとすると、薄霧の向こうに人影が確認でき、ラウルとフィンの二人が歩いてきた。

 

「うん、問題は無いみたいだね……パットバットが厄介……じゃないみたいだね、普通にこの薄霧の中で落とす辺り流石だよ」

 

 フィンが苦笑しながら、数本の投げナイフをひらひらと示した。

 その投げナイフは先程カエデがパットバットを落とすのに利用した物で、どうやらフィンとラウルが回収してくれたみたいで、カエデがお礼を言えばラウルが苦笑を浮かべた。

 

「お礼は良いッスよ。ソレが仕事ッスから……いやー、それにしてもジョゼットみたいに遠知能力(ペセプション)も無いのにこの霧の中でパットバットを落とすなんて流石ッスね」

 

「……? 何ですかそれ?」

 

 ラウルの言葉に首を傾げれば、ジョゼットが肩を竦めた。

 

遠知能力(ペセプション)と言うのは視界を遮られても視認可能にすると言う補助系のスキルです。私が習得しているスキルの一つですね」

 

 遠知能力(ペセプション)とは、五感の内の一つ『視覚』性能強化効果のあるスキルであり、習得者は目を瞑っていても相手を独特の視界を用いる事で視認可能になると言うスキルである。

 単純に霧や暗闇と言った特殊条件下の中でも独特の感覚を用いて視認しているのと同じ状況を作り出す任意発動(アクティブトリガー)のスキルである。

 

 猫人(キャットピープル)が習得する猫の目(キャッツアイ)等とよく比較されるが、あちらは暗闇条件下であっても普通に視認可能になり、動体視力が強化されると言うものである。

 

 動体視力強化の効果がかなり汎用性が高いので猫の目(キャッツアイ)の方が便利とされており、遠知能力は濃霧の中でも平然と行動できるので便利と言えば便利だが、ごく一部階層でしか役に立たないので微妙なスキルである。

 

「……ジョゼットさんって、この霧の中でも()()()()()ですか?

 

「見えてる……と言うと語弊がありますね。私も霧の向こうは()()()()()、ですが()()()()()()

 

 ジョゼットの言葉に首を傾げるが、ジョゼットも困った様に眉を顰める。

 『コウモリであるとはどのようなことか』と言う『言語化不可能』な『感覚質(クオリア)』が関係してくるため、説明のしようがない。

 ジョゼットからすれば『霧の中で見えない部分も、意識すれば認識できる』と言うモノであり、どの様に説明するべきか悩ましいモノがある。

 

 カエデにどう答えようか迷っていると、ジョゼットの認識可能範囲に複数の人影が入ってきた事に気付いてジョゼットは弓を構える。

 ジョゼットが弓を構えるより以前にフィンがその人影に気付いていたらしく剣を片手に薄霧の向こうに視線を向けて眉を顰めた。

 

 薄霧の中、モンスターに気付かれない様に足音や気配を殺す事は珍しくない。

 しかし、つい先ほどまで戦闘音が響いていたフロアに対して近づく場合は他の冒険者とのトラブル回避の為に声をかける場合も多い。しかし警戒範囲に近づいてきた冒険者らしい三人の人物は足音も殺し、霧に紛れて潜む様にフロアの中に侵入してきた。

 

 フィンの勘が告げている。これは敵だと。

 

 フィンは警戒しつつも口を開いた。

 

「そこの冒険者、僕は【ロキ・ファミリア】の【勇者(ブレイバー)】だ。周りの者も【ロキ・ファミリア】の団員だ。武器を納めてくれ。それ以上武装解除せずに近づいてくるのなら敵対者と判断する」

 

 薄霧の中、武器を片手に足音を殺して近づいてくる。モンスターだと誤認されている()()()()()可能性を考えて声をあげたフィンに対する返答は無く。相手は霧の中散開し始めた。

 

 相手の武装を見てジョゼットは確信した。

 光を反射しない様に刀身に白い艶消しの塗料の塗られた短剣を手に、霧の中に紛れる様に白い外套に付属して顔を隠す頭巾の様なモノまでしている。

 そんな真っ白い姿だが、ほぼその行動は真っ黒その物である。

 

 フィンの言葉にカエデが首を傾げ、ラウルはバッグの肩紐を片方外して剣を抜いた。

 

「……聞こえなかったッスかね?」

 

「いや、これは……カエデ、ジョゼットの傍に。ジョゼットはカエデを守って、ラウル。警戒態勢」

 

 目つきを鋭くし、口早に指示を出すと、フィンは剣を納めて組み立て式の槍を取り出すと瞬く間に組み上げ一本の槍にして穂先を霧の中に潜んでいる者の一人に向けた。

 カエデはウィンドパイプを鞘に納めて機動性を確保した後、左手に逆手持ちで防御用のダガーナイフを握りしめる。ジョゼットは弓を霧の中に隠れた積りになっているらしい者を睨みつける。

 ラウルがサポーターバッグをジョゼットの近くに放り捨てて遮蔽物として利用出来る様にした上で剣を抜いて最後の一人に剣を向ける。

 

 フィンもジョゼットもラウルも一切油断なく霧の中に視線をやって警戒しているが、カエデだけは霧の中に気配を感じ取る事が出来ずに困惑しながらも三人の警戒している方向から三人組であると判断して何時攻撃がきても良い様に警戒心を強める。

 

「もう一度繰り返す。武装解除し姿を現すか、ここから立ち去るんだ」

 

 フィンの警告に、相手は反応を示さない。それ所か、明確に殺気を放ち始めた。

 

「っ!?」

「カエデさん、大丈夫です。落ち着いてください」

 

 霧の中、カエデの感覚ではとらえられない白い刺客達からの唐突な殺気にカエデが怯むも、ジョゼットが直ぐに声をかければ、カエデは息を整えてジョゼットの射撃の邪魔をしない様に姿勢を低くしつつも直ぐに動ける様に構えた。

 

 ジョゼットがぽつりと呟いた。

 

「団長、数が増えてます……八人」

 

「面倒だね……強さは?」

 

「……三級(レベル2)が二人、二級(レベル3)が一人、残りは駆け出し(レベル1)ですかね……いえ、追加一人……大柄2M超え……鉄塊を背負ってます。レベルは私より上ですね」

 

 ジョゼットの言葉にフィンは眉を顰めた。

 

 薄霧で視認できないが

 

 身長2M越えの大柄な体躯で、鉄塊を背負っている。推定二級(レベル3)を超える実力者。

 頭に浮かんだのは警戒していた【フレイヤ・ファミリア】の【猛者(おうじゃ)】オッタルである。

 

 ここで仕掛けてきたか……いや、待て。それだとおかしい。

 

 今仕掛けてきた相手が【フレイヤ・ファミリア】だとすればおかしい。

 【フレイヤ・ファミリア】は駆け出し(レベル1)冒険者が所属していないファミリアだ。

 ファミリアを構成する団員は全て神フレイヤが気に入り他の神から奪い取った眷属で構成され、最低でもフレイヤから仕掛けられる()()を突破しなければフレイヤが奪う事は無い。其の為、【フレイヤ・ファミリア】を構築している団員は最低三級(レベル2)以上である。

 故に襲撃者に駆け出し(レベル1)が含まれている時点で【フレイヤ・ファミリア】では無い。

 

 しかも、カエデは相手から差し向けられた殺気を感じてようやく警戒状態へと移行した。

 

 五感の優れる狼人、その中でも飛び抜けて五感が優れたカエデに悟られずに行動できる辺り、ただの駆け出し(レベル1)では無く暗殺技術を学んだ特殊な暗殺者、それも相当手練れの刺客であろう。

 

 眉唾物の噂話に登場する『冒険者暗殺組織』が脳裏を過り眉を顰めた。

 

 『蓋』を破壊した神々に対して密かに怒りを抱き続けた()()()()()の血筋が密かに神々に報復すべく、神の眷属を無差別に仕留めていると言う眉唾物の話。

 実際、冒険者の不審死は珍しくないが、頻繁に起きない上に大体がファミリア同士に抗争による暗殺の場合が多い。だからこそ嘘八百であると言われている噂。

 最近器の昇格(ランクアップ)を果たした【ナイアル・ファミリア】に所属する団員、アルスフェアと言う少年が『冒険者暗殺組織』に所属していたと言う噂を聞いた時はそんな物ある訳がないと鼻で笑ったものだが……

 

 暫く互いに警戒し合うこう着状態が続く。

 

 出来うるならばこちらから打って出て相手を蹴散らしたい所ではあるのだが、もしここで【ロキ・ファミリア】から手を出せば面倒な事になる。フィンの勘がそう言っている。

 

 相手が相当手練れの刺客である。

 

 ここから予測できるのは相手が聴覚をあえて失っている可能性。

 迷宮で聴覚を()()のはある意味において自殺行為だが、怪音波対策として耳栓をつける事もある。

 ここでオラリオにおいて探索系ファミリア最大規模の片割れである【ロキ・ファミリア】である此方から相手に手を出した場合、此方が『警告をした』と言い張っても相手側が『警告が聞こえなかった(警告されなかった)』と言い訳をする可能性が高い。

 

 本来ならそんな言い訳なんぞ蹴散らせるのだが……

 

 どうも勘が不味いと告げている。

 

「再度、警告する。今すぐ武器を納めて立ち去るんだ。今なら見逃してあげるよ」

 

 手を出すのは不味いが、同時に手を出されるのも不味い。

 嫌な勘ばかり冴え渡る。

 

 フィンは握り締めた槍を握り直し、カエデをどの様に地上まで連れて行くか思案する。

 

 ここでカエデを抱えてフィンが走り抜けるのが早いが、相手の狙いがカエデであっても、置いていくラウルとジョゼットが推定準一級(レベル4)以上の冒険者から逃走しきれるかと言う不安が残る。

 勘は『逃げ切れない』と告げている。

 

 少なくとも『ラウルは生き残るがジョゼットが死亡または致命傷を負う』。

 

 カエデとラウル、ジョゼットを地上まで逃がし、自分だけ残る。

 この場合は……可能性がかなり高そうだが。これだけ手練れの刺客を用意する様なファミリアがソレを考えていないとは思えない。ほぼ間違いなく待ち伏せされているだろう。

 

 別の手段としてこの場で交戦した場合。こちらから仕掛けるのは『ファミリアが危機的状況に晒される』。

 相手から仕掛けてくるのを待つ……少なくともそれが最善手だろう。

 

 そんな風に考えを纏めて槍を握りしめたフィンに対し、霧の向うから男の声がかけられた。

 

「……白い狼人を引き渡せ」

 

 その男の要求に、カエデが息を飲む声が聞こえ、ジョゼットがカエデに小声で尋ねる。

 

「お知り合いの声でしたか?」

 

 その質問にカエデが首を横に振って答えたのを見てジョゼットがピンと弦を鳴らして呟いた。

 

「そうですか、なら敵ですね」

「ジョゼット」

「わかってます」

 

 完全に敵対者として排除行動に移ろうとしたジョゼットに釘を刺してから、フィンは霧の奥の人物に声をかけた。

 

「この子は僕達の仲間でね、君達に渡す訳にはいかない。どういった理由で欲しているか理由(わけ)を聞いてもいいかい?」

 

 余裕ぶった気配を微塵も隠さず、呟いた言葉に霧の中に潜む相手が苛立ったのか殺気が揺らめいたのを感じてフィンは口元に笑みを浮かべた。

 

「……神が大罪人である白い狼人を然るべき時に裁くべく、欲している」

 

 霧の中から聞こえた声に、カエデが反応した。殺気をぶつけられながらも霧の奥を見据えて呟いた。

 

「大罪人……? ワタシは何も悪い事はしてな――「嘘を吐くなッ!!」――ッ!?」

 

 カエデの言葉に怒鳴り、膨れ上がった殺気と威圧感にカエデが一瞬で戦意を失いダガーナイフをとり落として震えながら膝を着いてしまう。ラウルとジョゼットも怯み一瞬硬直した後、ジョゼットが戦意を完全に失ったカエデを抱えてラウルがジョゼットのカバーに入る為にジョゼットの傍による。フィンは霧の中から向けられた殺気と威圧感から相手が自身と同じ一級(レベル6)冒険者であると察して舌打ちをした。

 

 先程まで微かな殺気以外を消していたその男が霧の中から現れた。

 霧の中から白い外套を纏い、顔を口元まで隠す頭巾で完全に隠した身長2M越えの大男が現れ、フィンは思わず呟いた。

 

「【ハデス・ファミリア】の【処刑人(ディミオス)】アレクトル……?」

 

 【ハデス・ファミリア】、()()治安系ファミリアではあるが、治安維持の為に団員を警邏させる訳でも無く、本拠も持たずに活動範囲がオラリオ内外問わないファミリアであり、活動内容がいまいち不明なファミリアである。

 

 主神が冥界の管理者である神ハデスであり、その特徴から闇派閥(イヴィルス)への関与や所属が疑われていたが、闇派閥(イヴィルス)の資金源を断つ事で闇派閥(イヴィルス)との関与を完全に否定して、闇派閥(イヴィルス)の壊滅に貢献したファミリアなのだが……

 

 その【ハデス・ファミリア】の団長【処刑人(ディミオス)】アレクトルは闇派閥(イヴィルス)の資金源となっていたオラリオの外の国々の貴族連中を片っ端から問答無用で『死刑』に処した事で悪名が知れ渡った人物である。

 種族は牛人(カウズ)の男であり、自分や【猛者(おうじゃ)】オッタルが台頭する以前は最も最強に近い狂信者と呼ばれた人物だ。

 鉄塊と称される事もあるがそれは『処刑人の大斧』と呼ばれ、見た目は処刑道具の一種である『断頭台(ギロチン)』の刃として利用されている傾斜のある鋭い刃のついた鉄塊である刃に強引に柄を取り付けただけと言う武骨であり怖気を齎す見た目をした『斬首刑の大斧(ギロチンアックス)()()に、顔の部分が覗き穴の存在しない苦悶の表情を浮かべた人を模して造られた赤錆びた全身鎧(フルプレートアーマー)と言うインパクトの強い武装をしている。

 

 今はその全身鎧(フルプレートアーマー)では無く、白い外套の下には艶消しされた革鎧(レザーアーマー)を使っている様子だが……背中の武装はまさしく『斬首刑の大斧(ギロチンアックス)』その物である。

 

 【ハデス・ファミリア】は規模は小規模で所属人数はせいぜいが30人程度。団長は上位に食い込む程の一級(レベル6)冒険者だが、ファミリア同士に抗争には一切興味を示さず、手を出された場合のみ敵対するのみ。

 

 唯一【ソーマ・ファミリア】と事を構えたぐらいか?

 

 確か【酒乱群狼(スォーム・アジテイター)】を罪人と称して処刑しようとして、その時【ソーマ・ファミリア】に対して敵対心を持っていた複数の小・中規模の上位ファミリアを煽って四十近いファミリアで連合を組んで一級冒険者(レベル5)冒険者30人と、【処刑人(ディミオス)】アレクトルで、当時準一級(レベル4)冒険者だった【酒乱群狼(スォーム・アジテイター)】率いる【ソーマ・ファミリア】と戦争遊戯(ウォーゲーム)をしたのだ。結果は【ハデス・ファミリア】の集めたファミリア連合側のボロ負け。結果として二度と【ソーマ・ファミリア】及びに【酒乱群狼(スォーム・アジテイター)】に手を出さないと言う契約を結ばされている。

 

【ロキ・ファミリア】とは敵対していない所か、関与もせずにファミリアの規模で競い合う気も無い様なファミリアだが、独特の価値観で動いているらしく、神ハデスが『罪人』と定めた人を殺そうとする危険なファミリアである。とはいえ、神ハデスが『罪人』として殺そうとする眷属や人物は大体が本当に罪を犯した人物であり、死刑に処すのはやり過ぎな嫌いがあるが、一応『治安系ファミリア』と呼べる活動をしていたのだ。

 

 だからこそ()()治安系ファミリアであると言われているファミリアだが……

 

 カエデ・ハバリが罪人?

 

「……一つ聞きたい、どんな罪を犯して罪人となったんだい?」

 

 フィンの質問に、【処刑人(ディミオス)】アレクトルは鼻を鳴らして呟いた。

 

「貴様も……貴様の主神ロキも……その罪に加担していながら知らぬだと?」

 

 アレクトルは声色からしてもあからさまに苛立ちを覚えたように『斬首刑の大斧(ギロチン・アックス)』の内の一本の柄を掴み、その巨大な刃をフィンに向けた。

 

「来たるべき時に備え、生命を謳歌するのならよし。だが、来たるべき時を否定しようモノならば、それは天命に抗うが如し大罪也。故に白き狼人、お前は大罪人だ。来たるべき時、お前は我らが神の手で冥界へと送られねばならぬ……故に【勇者(ブレイバー)】よ、大人しく我等に大罪人の身柄を引き渡せ。抗わぬのであれば【勇者(ブレイバー)】……そして神ロキの罪を問う事はしないと約束しよう。白い狼人よ、我等が神に来たるべき時に冥界へと送り出されろ。其れこそお前が行える唯一の贖罪也。罪を贖えば、お前には平穏無事なる来世を約束しよう」

 

 ソレはつまり、カエデが()()()()()()、つまり『寿命の終わり』に対して『神の恩恵(ファルナ)』を頼って()()、つまり『足掻く(生きる)事』が『大罪』であると言っているのだ。

 

 アレクトルの言葉にカエデの表情が凍りついた。

 フィンはカエデをちらりと見てから肩を竦めて呟いた。

 

「カエデ君、()()はそう言ってるけど、君はどう思う?」

 

 戦意を失ってジョゼットに支えられていたカエデが震えながらもアレクトルを睨みつけて声を発した。

 

「知らないです……足掻く(生きる)のが大罪だなんて……知らないです……ワタシは……例え足掻く(生きる)事が大罪だとしても、知らない、関係無い。足掻く(生きる)のをやめて、諦める(死ぬ)事なんてできない」

 

 その言葉にフィンは満足げに頷き、ラウルがにっこり笑う。ジョゼットはカエデの頭を撫でてカエデを一人で立たせた。

 震える足で立ち、カエデはアレクトルを睨みつける。

 

「邪魔、しないでください」

 

 その言葉に、アレクトルは一つ呟いた。

 

「そうか」

 

 『斬首刑の大斧(ギロチン・アックス)』を片手に一本ずつ、両手に二刀流として持ち上げる。

 片側だけで刃渡りが優に2Mはある巨大なソレ。アレクトルは軽々と両手に持っているが、重量は推して知るべしである。

 ガレスの使うバトルアックスなんて目ではない程の巨大で武骨な処刑道具にフィンは組み立て式の槍を向ける。

 ジョゼットが腰に結わえてあった『妖精弓』を手に取り、ラウルが長剣を両手で構える。

 カエデも落としたダガーナイフを拾い上げ左手に逆手に持つ。

 

「ならば、此処で罪を贖え。罪深き者共よ」

 

 アレクトルが呟くと同時に、【ハデス・ファミリア】の眷属達が霧を突き破って襲い掛かってきた。




 うむ、皆楽しんでくれてるんかな?
 感想とかもっと欲しいよネ。『楽しいよ』とか『面白いよ』とか、そう言った感じの感想が沢山あると嬉しいんですがね。モチベに繋がるかも?

 後は誤字報告、毎回ありがとです。





『エルフ』
 森の民、等とも呼ばれる事もある種族。
 森の中に置いてのエルフの戦闘能力は非常に高く、木々を軽々と飛び移りながら外敵に矢や魔法を放ち無双を誇っている種族であった。
 特徴は長寿種であり他の種族の数倍程度の寿命を持っている事。
 子供が出来にくく、種族の数が増えにくい特徴もある。

 エルフの中には『ハイエルフ』と呼ばれる。エルフの中においても特殊な立ち位置の者達が存在し、ハイエルフは独自の専用魔法を習得する。

 基礎アビリティに置いて、力・耐久が非常に伸びにくい代わりに、魔力・器用は非常に伸びやすく。俊敏も悪く無い伸びを持つ。
 特に耐久は下手をすれば『E』にすら届かない事も多く、殆どのエルフが『G』止まりである。
 代わりに魔力はほぼ確実に『A』に届き、才能有る者は『S』に届くと言われている。
 数少ない『魔法種族』でもあり、『神の恩恵』を授かった際に確実に『魔法』が一つは発現する上、『習得枠(スロット)』が最大数の三つ開口して居る事が多い。

 古代のエルフは、長寿種と言う特徴を活かし、習熟に非常に時間のかかる『神の恩恵』に頼る事の無い『古代の魔術』を使いこなす種族でもあった。


 古代の時代に置いて、エルフは『蓋』の作成に否定的であり、殆どのエルフは故郷の森に引きこもり、『蓋』の作成にかかわったエルフは極少数。それこそ片手で数えられる程度でしかなかった。

 当時のエルフの王の言い分として以下の文が挙げられている。
『森の中であればエルフに敵う者等居るはずも無し。故に蓋の作成に協力する意味も無い。同胞を無駄に死なせる事に加担する気は無い』

 要約すると
『森の中に引きこもっている分にはモンスターなんて脅威じゃねぇから、蓋作るのに協力する気はないよ。だって犠牲出ちゃうし』

 この事が原因で、現代においてもエルフは『いけ好かない種族』等と他の種族から嫌われており、エルフ側も他の種族との寿命の差等からエルフの方が優れた種であると他種族を見下したりする事も有り、エルフと他種族は比較的に仲が悪い。

 とりわけ『蓋』の作成に全面協力したドワーフとは相性が非常に悪い事があげられる。

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