生命の唄~Beast Roar~ 作:一本歯下駄
『……オヌシ、暇なのか? 五日前にも来とったが』
『何を言ってるさネ、アチキは必死に時間を作って会いに来てるだけさネ。カエデは何処さネ?』
『はぁ……こやつは本当に……はぁ……』
『二回も溜息吐いたさネッ!? どんだけアチキの事嫌いさネッ!!』
『嫌いではないぞ? 嫌いではな……カエデなら水浴びでもしとるんじゃ……おい待て何処に行くオヌシ、は? 覗き? ……ワシの刀はオヌシを斬る為にあるのではないのじゃがな……仕方あるまい』
リヴェリアの私室にて開かれている勉強会に参加しているカエデは、行儀良く膝の上に手を置いて姿勢を正して座っている。
机を挟み前に立つリヴェリアはカエデの周りに解答に繋がる物が何もないのを確認してから、カエデの前に置かれた『ダンジョンの基礎』の本を手に取る。
「それでは、試験を始める。質問はあるか?」
「無いです」
「よし、じゃあまず一問目からだ」
本が閉じられている事を再度、確認してからリヴェリアはカエデに告げる。
「ダンジョンの上層で出現するモンスターを答えろ、ついでに各モンスターの特徴も答えろ」
「はい」
一階層から五階層にかけて出現するのは『ゴブリン』『コボルト』の二種類。
『ゴブリン』は小柄な体躯を持つモンスターで一階層では基本一匹から三匹で行動し、二階層で五匹、三階層では最大八匹の集団行動をとる事が確認されています。
基本的な能力は低いものの、最低限の集団行動における基礎的な動きを行い、ダンジョン最弱でありながら『最弱』の肩書に油断した冒険者を数多屠っている危険なモンスターです。
武装は無く、主に殴り攻撃が主体になりますが、稀に冒険者の死体から武装をはぎ取って使用する事もあるため、冒険者が主に持ち歩く剥ぎ取り用ナイフ等を主武装にしている場合があります。
『コボルト』は犬頭のモンスターで、ゴブリンより大柄であり。一階層では一匹から二匹、二階層では四匹前後、三階層以降はゴブリンとの共同戦線を張ってくる事が確認されています。
基本的な能力はゴブリンよりも上ではあるものの、集団戦闘における基礎をまるっきり無視した戦い方を行う為、単体ではコボルト、集団ではゴブリンの方が危険度が高いとされています。
武装はゴブリン同様無いですが、ゴブリンと違い鋭い爪や牙を持っておりひっかき攻撃や噛みつき攻撃を行ってきます。殴り攻撃と違い、ひっかき攻撃は出血を伴う攻撃の為、気付かぬ間に出血による能力低下が発生する事もある為、怪我に対する対応が重要となります。噛みつき攻撃はそのまま噛み千切られると言う事は無いにしろ、噛みつかれた際にそのまま押し倒され、武装解除されてしまう危険もある為、噛みつき攻撃には最大限の注意を払う必要があります。
二階層より『ダンジョンリザード』が出現します。
『ダンジョンリザード』は大柄な体躯で基本的に動きは鈍いですが、ダンジョンの天井などに張り付いて潜み、油断した冒険者を上から圧死させる等と言った攻撃を行ってきます。
武装は無く、爪や牙も持たないですが、天井からのとびかかり攻撃の威力は非常に高く、油断した冒険者の首の骨を圧し折ってそのまま即死させる事もある危険なモンスターです。
他には近づいてきて体当たりをしかけてきますが、基本的に動き自体は機敏ではないので危険度は低いです。
しかし天井からの奇襲攻撃の危険性は非常に高く、ゴブリン、コボルトとの乱戦時に奇襲攻撃される事も多く、注意する必要があります。
六階層より『フロッグシューター』『ウォーシャドウ』が出現します。追加情報として六階層より『
『フロッグシューター』は巨大な単眼のカエルで、攻撃法は飛び掛かりによる体当たりもしくは舌を伸ばし相手に叩き付ける舌攻撃の二種類が基本であり、この階層より中距離における攻撃法を持った種別のモンスターが登場しはじめます。舌攻撃、体当たり共に威力は大した事は無いものの、乱戦時に舌攻撃を受け、体勢を崩す事で危険な状況に陥る冒険者も数多く、乱戦時の舌攻撃には注意を払う必要があり、可能ならば最優先撃破を狙うべきモンスターです。
『ウォーシャドウ』は身長160C程の細長い人型モンスターであり、その姿は名の通り
七階層より『ニードルラビット』『パープルモス』『キラーアント』が出現します。
『ニードルラビット』は文字通り、額に角の生えた兎の姿をしたモンスターで、その角を使った突進攻撃は直撃すれば鉄板を貫通する程の威力を持っており、乱戦時に視覚外から突撃される等と言った形で命を落とした冒険者も数多いです。動きもそこそこ素早く、体躯も総じて小型な事もあり、攻撃を当て辛く、防ぎ難いと言う特徴はあるものの反面、耐久は非常に低いため、短剣の一撃でも倒せる程に脆いので攻撃を誘発させてカウンターを叩き込む戦法をとる事で比較的安全に狩る事が可能です。しかし数が揃うと非常に厄介であり六匹以上の集団の場合は一度撤退する事も視野に入れるべきモンスターです。
『パープルモス』は毒の鱗粉と言う攻撃を放ってくるモンスターで、直接攻撃を行ってくる事は殆どありません。しかし毒の鱗粉は非常に危険であり、毒状態になった場合、疲労感や吐き気と言った
『キラーアント』は4本の足に2本の細い腕、赤一色に染まっているその姿は蟻によく似ています。その甲殻は非常に硬く下手な武器ではその甲殻に弾かれダメージを与える事が出来ない上に六階層に出現するウォーシャドウと同等の攻撃能力まで有しています。更に致命傷を負う等と言った危険に晒された場合、特殊なフェロモンを放ち周囲の同一種類の個体を呼び寄せる性質を持っています。その範囲は七階層の半域を覆う程であり、フェロモンを放たれた場合、その階層のキラーアントを全て呼び寄せる結果に繋がり、非常に危険です。その甲殻の防御力、高い攻撃力、特殊行動の三点から冒険者の間では『新米殺し』の名で呼ばれる事もあり、キラーアントによる死者の数は全体の中で最も高い割合を占めていると噂されています。特殊行動に対する対処法は即死させる以外に無いですが、その硬い甲殻を突破して即死させる為には攻撃性魔法か、ウォーハンマーやウォーピック等の強撃による甲殻貫通や甲殻破壊攻撃による即死を狙うのが一番です。剣を使って討伐する場合は甲殻の隙間を狙って攻撃を繰り出すのが基本ですが、首を狙って即死させない限りは微弱にフェロモンを出されてしまう事も多く、剣や槍、弓等での討伐はかなりの難易度となります。その甲殻を無視して敵を斬り裂く事の出来る武装があれば特に苦労はしないでしょう。
『ブルー・パピリオ』は上層における
八階層から九階層にかけては新しいモンスターの出現はありませんが、一階層から五階層にかけて登場した『ゴブリン』『コボルト』が出現しますが、その能力は非常に高くなっており、集団戦における『ゴブリン』の危険度、『コボルト』の爪の鋭さは比較にならず、『コボルト』の噛みつき攻撃は下手をすれば肉を噛み千切られる危険性も孕んでおり今まで以上の警戒が必要となります。
十階層より『オーク』『インプ』『バットパット』が出現します。
追加情報として十階層より以下三階層にわたって『薄霧』『霧』『濃霧』の三つの『
もう一つ『
更に
『オーク』は大柄な体躯に強靭な筋力、見た目は太っちょな豚ではあるものの、その脂肪の下には非常に引き締まった筋肉が存在し、見た目程鈍重と言う訳では無い為、鈍重と決めつけてかかると痛い目を見る事も多いモンスターです。また、この階層より存在する
『インプ』は小悪魔の様な姿をした非常に狡猾で『ゴブリン』以上の知能を持っているうえ、数も多いと言う厄介な性質を持ったモンスターです。『ゴブリン』同様単体での能力は高くないものの、集団戦における危険度は『ゴブリン』とは比較にならず、背後をとるだけに飽きたらず死角を狙って積極的に誘導をしようとしたり、他のモンスターを呼び寄せる等、小賢しい戦い方をしてくるため、かなり厄介なモンスターです。個体能力は低めなので確実に一体一体仕留める事が推奨されます。
『バットパット』は蝙蝠型モンスターで、飛行能力を有している為討伐が難しく、『薄霧』ならまだしも『霧』『濃霧』の状態の階層ではまともに視認する事も出来ず唐突に『霧』の中から奇襲を受ける事も少なくありません。その上、集中力を乱す怪音波を放ってくる事もあり厄介さと言う意味では最も高く、気が付かぬうちに集中力を乱された上で奇襲を受けてなすすべなく牙で仕留められると言った報告も上がっています。討伐には弓やクロスボウ、
十一階層より『シルバーバック』『バトルボア』『ハード・アーマード』が出現します。また
追加情報として十一階層では『霧』の『
『シルバーバック』は白毛の野猿の様なモンスターで、高い筋力を持つモンスターです。『オーク』同様、
『バトルボア』は巨大な猪型モンスターで、勢いの乗った突進は下手をすれば
『ハード・アーマード』は
『インファントドラゴン』は体高は約150C、体長は4Mを超す小竜で、上層における『
十二階層より『トロール』が出現します。
追加情報として『濃霧』の『
『トロール』は『オーク』よりも大柄であり筋肉質な体をしたモンスターで、単独行動をしている事が多い代わりに、上層の
「以上が上層で出現が確認されているモンスターとなります」
「うむ、上出来だな」
ほぼ完璧な答えを回答してみせたカエデの頭を撫でてやれば、気持ちよさ気に目を細め、自らすり寄ってくるのを見ながら、リヴェリアは軽く頷く。
「次は【ステイタス】について説明してみろ」
「はい」
ファルナを与えられた際に指標となるべきモノであり、人々が今までに得てきた【
基本的に【ステイタス】は主神の手によって
また、【ステイタス】はその冒険者の歩んできた人生そのものであり、軌跡を描くモノであります。
追加情報として、【ステイタス】を知られる事で不利になる場面も多い事から、仲間同士でも【ステイタス】を教え合う事は滅多にありません。
【ステイタス】の記載事項は、
第一に『二つ名』と『名前』
この名前は眷属本人が認識する己の名が刻まれる為、結婚や離婚等で家名が変化した際に【ステイタス】の更新と共に変化する事が確認されています。
『二つ名』は初めての
基本的に『二つ名』は
第二に『
これは神の名でもある為、誰の眷属かと言う事を示すモノでもあります。
第三に『種族』
基本的な『ヒューマン』の他に『
第三に『レベル』
現在オラリオにおいて最大とされているのは【ロキ・ファミリア】と探索ファミリア最大を競い合う【フレイヤ・ファミリア】に所属している【
第四に『基礎アビリティ』
基礎能力値の事であり、『力』『耐久』『魔力』『敏捷』『器用』の五項目に分かれています。
【
熟練度0~99がI、100~199がHと言った形で、100を区切りとし上位の表示へと切り替わります。
基本的に基礎アビリティの熟練度はその項目毎に上昇条件が違い、『耐久』であれば攻撃を食らう等の耐える事、『魔力』であれば魔法の使用等で魔力を消費し続ける事でその項目に応じた【
基本的に熟練度に二段階以上の差がある場合は勝つ事はほぼ困難であるとされており、『力』ステイタスがEの冒険者とCの冒険者が腕相撲をした場合、どれだけ条件を変化させようと、EがCに勝利する事は不可能とされています。ですが、冒険者同士の抗争等に於いてはそれだけで勝利が決まる事はありません。
また『
第五に『発展アビリティ』
有名な『発展アビリティ』は多数ありますが、種類は千差万別であり神々も知らぬ新たな『発展アビリティ』は常に発見され続けており、神々の興味を引く対象にもなっています。
【狩人】一度【
【鍛冶】鍛冶の際にボーナスが得られる
【剣士】剣の使用時にステイタスの強化、剣の技量の上昇等
その他、数えきれぬほどの『発展アビリティ』の存在が示唆されています。
第六に『スキル』
『スキル』とは【ステイタス】の数値とは別に、一定条件の特殊効果や作用を肉体にもたらす能力であり、【ステイタス】が器そのものを強化するとしたら、『スキル』は器の中で特殊な化学変化を起こさせるモノであります。
発現するスキルの多くは、名称に差異はあっても冒険者たちの間で共有されている効果効用が多いです。
また、種族特有の『スキル』が存在し、有名なモノは『エルフ』『ドワーフ』『アマゾネス』『獣人種』に偏っています。
『エルフ』特有の『スキル』は魔法の威力の上昇、魔法の範囲を上昇等の魔法関連の『スキル』が多数存在しています。
『ドワーフ』特有の『スキル』は防御力の上昇、体力の上昇と言った防御関係の『スキル』が多数存在しています。
『アマゾネス』特有の『スキル』はどれも攻撃力を上昇させる効果が多く、攻撃関係の『スキル』が多数存在しています。
獣人関係のスキルは種族毎に多種多様であり、一部のみとなりますが
『
高度からの落下ダメージ軽減や足音の消音化と言った特殊行動補助の『スキル』が主だっています。
『
基本的に自身よりは周りの仲間を補助する『スキル』が多いです。
『
基本的に自身のみを強化する『スキル』が多く、個人戦闘用の『スキル』を習得します。
オラリオに『
『
戦闘時、時間経過と共にステイタスが上昇していく『スキル』を習得すると噂されています。
第七に『魔法』
『魔法』は先天系と後天系の二つに大別することができ、先天系の『魔法』を習得できるのは『魔法種族』と呼ばれる『エルフ』と獣人種の中でも『
『魔法種族』はその潜在的長所から修行・儀式による『魔法』の早期習得が見込め、属性に偏りが見られる分、総じて強力かつ規模の高い効果が多いモノを習得できる。『
後天系は『ファルナ』を媒介にして芽吹く可能性、自己実現である。規則性は皆無、無限の岐路がそこにはあり、【
『魔法』は魔法の才能『
『魔法種族』の『エルフ』『
『魔法』の種類は大雑把に分けて『攻性魔法』『補助魔法』『治療魔法』『付与魔法』『装備魔法』の五種類に分類されます。
また『
『攻性魔法』は単純に詠唱完了と共に攻撃性の破壊を巻き起こす現象を引き起こす魔法であり、冒険者が口にする『魔法』は基本的にこれにあたります。
『補助魔法』はステイタスの一時的上昇効果や、防御系の壁の設置等といった補助を行う『魔法』全般をそう呼びます。
『治療魔法』または『回復魔法』は文字通り怪我の治療や治癒等の効果を持った『魔法』です。もっとも有用であるとされていますが習得者が比較的に少なく、習得している冒険者は各ファミリアで優遇されています。
『付与魔法』は自分の肉体もしくは指定した対象に対して特定属性の魔法効果を付与する魔法で、【ロキ・ファミリア】に所属する【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインの使用する『エアリエル』と言う風属性の
『装備魔法』はオラリオにおいても習得者が過去・現在においても五名しか確認されていない特殊魔法で、込めた魔力分だけ魔法効果を発動する『魔剣』に相当する装備品を作り出す魔法です。『魔剣』と違い形状は様々であり【ロキ・ファミリア】に所属している【魔弓の射手】ジョゼット・ミザンナの使用する『妖精弓の打ち手』と言う魔法は『エルフ』特有の『魔法』に相当する追尾・単射の効果を持つ矢を放つ弓を作り出す魔法であり、発動回数は作成者の『基礎アビリティ』『器用』に応じて変動する……らしい、と言うのが確認されています。オラリオにおいても習得者数が少なすぎてどんなものなのか判別されていないモノの為、不明な点が多い魔法でもあります。
他に確認されている『装備魔法』として【ソーマ・ファミリア】に所属していた“ホオヅキ”と呼ばれる冒険者が『酒乱の盃』と言う、込めた魔力に応じて『お酒』が出てくると言う盃を作り出す『装備魔法』を習得している事が確認されており、『装備魔法』の多様性は様々と言われています。
基本的に『魔法』には『詠唱』が必要であり、発現の際にステイタスの『魔法』に刻まれた固有の『詠唱』を行う事で『魔法』の効果が発動します。
『詠唱』は『一文』『短文』『中文』『長文』『超長文』の五段階に分かれています。
基本的に『魔法』は『詠唱』の時間が長いほど威力を増し、逆に『詠唱』の時間が短いほどすぐに発動出来るという利便性があります。
第八に『偉業の証』と『偉業の欠片』
『偉業の証』とは『神々が称賛する様な偉業』を成し遂げる事で得られるモノであり、『偉業の欠片』は『神々が認める事』を成し遂げた際に得られるもので、『
『偉業の欠片』は複数集まる事で『偉業の証』に変化します。
『偉業の証』を得る事が『
「以上がステイタスの説明です」
「ふむ……途中、不要な説明も混ざっていたが、問題は無いだろう」
「不要……?」
「『装備魔法』の【ソーマ・ファミリア】のくだりだ、まあ、合格だな」
「はい、ありがとうございます」
深々と頭を下げたカエデに、リヴェリアは微笑みかける。
カエデが【ロキ・ファミリア】を訪れて今日で五日。たった五日である。
勉強を始めたのが四日前、四日間でこれだけの情報を頭に詰め込み、しかと理解しているのは目を見張るモノがある。
ましてや、今回は上層のみに絞ったが、カエデは中層のモンスターや特徴、『
「よくやったな、これは何か褒美をやらなくてはな……」
「いえ、それよりも『ダンジョンの基礎』を返して頂きたいなと……」
頭を上げたカエデの視線の先にはリヴェリアの持つ『ダンジョンの基礎』の本。
まさか、
「……いや、これは私が預かる。少し頑張り過ぎだ」
「…………わかりました」
ほんの僅かに不服そうな感情の混じった返事をしたカエデの視線はやはり『ダンジョンの基礎』に向いたままである。
「はぁ」
暇があれば剣を振るい鍛錬を積むか、本を読み知識の収集を行う。ここ四日間でのカエデの行動だ。
リヴェリアとの勉強会と朝食・昼食・夕食を除き、基本的に鍛錬所か部屋のどちらかで鍛錬か勉強。
【ロキ・ファミリア】の内部でのカエデの行動はかなり際立っていると言える。
実際、ファミリア団員の中から不気味だと言う声も上がる程に……
アイズは鍛錬ばかり行っていた為、アイズも不気味がられていたが、カエデの場合は聞き分けが良い部分も相まってと言うより、聞き分けが良いのに行動が極端だと言う部分から不気味がられているらしい。
今朝はラウルと笑い合って食事をとって居る姿があった事は皆噂にしていたので知っているだろうが、それ以外の時は鍛錬か勉強、どちらかに集中している……いや、し過ぎていると言っていい。
少し、気を抜く場も作るべきだろう。どの道、ダンジョンの勉強はほぼ完璧にこなしている事もあり、これ以上勉強に時間を費やす必要はない。それをそのままカエデに伝えれば鍛錬にひた走る可能性があるのが怖いのだが……
「と、そう言えば試験の前に相談があると言っていたが、何の相談だ?」
試験を行う前、カエデが『試験の後に相談したい事があります』と言っていたのを思い出し、問いかければ困った様に眉根を寄せたカエデがリヴェリアを見上げた。
「早朝の鍛錬の際にずっと誰かに見られている感じがありまして……良くは分らないのですが……その、ワタシじゃなくて……ワタシを見ている様な……?」
「……? カエデじゃないカエデを見ている? 視線な……」
自身でもよく分っていないのか……
「どこからの視線かわかるか?」
「えっと……高い所から見下ろされている様な……そんな感じがします」
「……高い所?」
高い所から見下ろす……? 高い所、最上階のロキの部屋か? ロキは上から見下ろすよりは同じ目線に立つ事を好むだろうし……
高い所からの視線、留意しておく必要があるだろう。
カエデが行動を開始する早朝に活動する団員は夜間警邏を行っていた者ぐらいだろうから、その者達から話を聞いてみるか?
「何時からだ?」
「えっと……今朝からです」
「……わかった、此方でも調べてみる事にしよう。安心しろ、下手人はしかと捕まえておく、何か変わった事があったら伝えろ」
「はい」
色々と独自設定が入ってます。ご了承ください。