生命の唄~Beast Roar~ 作:一本歯下駄
師と弟子の二人
それとついでに義弟も、首を長くして待ってる
早く、はやく行かなきゃ
急いでいるのに土砂降りの雨で足止め
お酒片手に待っていた
雨が上がるのを待っていた
【ヘファイストス・ファミリア】の本拠でもある店舗のショーケースの中には、数百万ヴァリスから数千万ヴァリスはする超高級武具が並んでおり、駆け出しから熟練の冒険者までが分け隔てなくショーケースの中に並ぶ値段相応の性能の武具の数々を、まるで子供の様に眺めている姿が多々あった。
そんな【ヘファイストス・ファミリア】の売り場にて、カエデは何気なしに眺めていた造りの良さそうな剥ぎ取り用ナイフの値札を見て硬直していた。
「……いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……にひゃくごじゅうまん?」
二百五十万ヴァリス。
師が愛用していた刀が5万ヴァリスかそこら。カエデが形見として持ってきた刀に至っては2,500ヴァリスである。
師の愛用した刀が五十本、形見の刀に至っては千本分の値段である。
良い物なのだろうが、只の剥ぎ取り用ナイフにしか見えない。
『Ήφαιστος』と言う模様が小さな柄の部分に精密に掘り込まれている以外に変わった所は見受けられないが、他とは何かが違うのだろう。
安物を見分ける事ぐらいは出来るが、高価な物となるとさっぱりわからない。
良い物ではあっても、剥ぎ取り用ナイフに二百五十万は高すぎな気もするが……
村で過ごしていた頃の主な収入はモンスターの討伐証を、村に訪れる冒険者に売る事ぐらいだった。
『オラリオ』にある『ダンジョン』で出現するモンスターと、『オラリオ』の外に居るモンスターの明確な違いは魔石の有無であり、『魔石』を利用した産業で世界の中心と謳われる『オラリオ』は、同時に『魔石』の唯一の産地でもある。
『ダンジョン』に出現するモンスターからは『魔石』が回収でき、それを『ギルド』で換金する事が冒険者の主な収入源であるが、『オラリオ』の外のモンスターには『魔石』が存在しない。
では、『オラリオ』の外でモンスター退治を行う退治屋や無所属の冒険者はどの様にヴァリスを稼ぐのかと言えば、モンスターの特徴的部位をはぎ取ってきて、外のギルドに持ち込む事でヴァリスと交換して貰えるのを利用する。
『オラリオ』の外での代表的モンスターと言えばゴブリンが有名だろう。
緑色の肌をした小型の人型のモンスターで繁殖能力が異常に高く、3匹見つけたらその十倍の数が居るのを覚悟しなくてはならない程だと言う。
数で押し込もうとする戦術をとる事で有名であるが、一匹一匹の戦闘能力は訓練を受けていない大人でも武器さえあれば倒せる程度である。数に囲まれて殴り殺される事もあるので油断はできないが、一匹一匹は大した事ない。
そんなゴブリンの、外での相場はゴブリンの右耳一つ、5ヴァリスである。
『ダンジョン』に出現するゴブリンはファルナが無ければ通常のゴブリンと比べ物にならない程強いものの、ファルナがあるのなら武器さえあれば倒せると条件はほぼ同じである。
そんなゴブリンからとれる魔石の相場は一つ、50ヴァリスと外の十倍である。
其の為に、『オラリオ』の内と外では物価が大分違う。
それに加え、カエデが手に入れた討伐証はそのまま『外のギルド』に持っていく訳では無く、村を訪れた通りすがりの無所属の冒険者に、相場の半額程度で売り払い、冒険者が『外のギルド』で換金すると言った流だった。
結果的に、カエデやヒヅチが手にする金額はゴブリンの右耳一つで2ヴァリスと雀の涙であった。
無論、ゴブリン以外にも、オーク等も稀に討伐していたし、ゴブリン自体は知らぬ間に溢れかえる事があるので塵も積もれば何とやらと、意外にも稼ぎは悪くなかった。
オラリオの冒険者とは比べ物にならない金額ではあるのだが。
そんなカエデが使っていた剥ぎ取りナイフの値段は200ヴァリスの安物で、元は投擲用ナイフであった物をヒヅチが研ぎ直して剥ぎ取りに使っていた。
そんな投擲用ナイフ一本の値段も1500ヴァリスと、カエデの使っていた物の倍以上の値段である。
無論、カエデの使っていたナイフとは比べ物にならない良品ではあるのだが……
「高い……これ投げるの……?」
投擲用、そう銘打たれて無造作に並べられた一本を手に取って唸る。
カエデの使っている『大鉈』よりも良い切れ味を持っていると思う。間違いない。
軽く投げただけで目標に深々と突き刺さるだろう。これが安価な投擲ナイフとして販売されているのが信じられない。
他にも投擲斧や、手裏剣と言う全てが刃で構成された投擲武器まで並べられており、どれもこれもカエデの『大鉈』なんかより幾倍も素晴らしい刃を備えている。
「…………」
錆び付いて刃も毀れ、欠けてしまってもなお、『大鉈』には愛着もあり、自慢できる一本であったのだが、ここに並ぶ投擲武器の数々を見ていると、『大鉈』が劣っている事をまざまざと見せつけられ、正直泣きそうである。
武器の新調と言う事で【ヘファイストス・ファミリア】を訪れたロキ、カエデ、フィン、ラウルの4人は、ロキがヘファイストスと挨拶をする為にラウルを引き連れていき、フィンとカエデの二人は売り場で適当に剣を見ておく事となった。
しかし、と言うか当然の事ながら、一級冒険者が使う武具をメインで取り扱っているこの店で、カエデの様な駆け出しが使う武具は並んでいない。
投げナイフ一本ですら駆け出しには辛い金額である。そこで、フィンはカエデが興味を持った武具に近づいて眺めているのを、保護者気分で付いて回っていた。
最初にカエデが興味を持ったのはカエデの使っているのと同タイプの片刃の剣。
カエデの使っている刀身が切っ先に行くほどに厚く、幅広になっている物は一本も無く、細身でスラリとした刀身のそれを見て、その美しさに目を奪われ、値札を見て硬直。
暫くするとカエデはすっと視線を逸らし、逸らした先の剥ぎ取り用ナイフに目を止めた。
そしてまた動きを止め、近くの樽に無造作に入れられた投擲ナイフを見つけ、そちらに近づいて値札を目にして「高い……これ投げるの……?」等と呟いている。
そんな風にカエデが投擲用のナイフを眺めている横で、フィンが苦笑を浮かべている。
「そうだね、ここの店で取り扱っているのは一級冒険者の使う物ばかりだから、カエデにはちょっと高い様に見えるかな?」
「『大鉈』、凄く良い剣だと思ってました……」
しょんぼり、正にそんな擬音が似合いそうな程に意気消沈した様子のカエデを見て、フィンは腕を組む。
「んー……『大鉈』? カエデの剣だっけ……うぅん」
カエデの持つ『大鉈』は確かに一級冒険者が使う武器に比べれば、確かに劣っている。
だが、駆け出し冒険者の持つギルドの支給品に比べれば遥かに良い物で、下手をすれば
「カエデの剣は十分に名剣と言えるよ。来る前にも説明したけど、ここにあるのは『オラリオ』でも一級品ばかりだから劣って見えるかもしれないけどね」
「そうなんですか?」
「そうだよ、カエデの持つ『大鉈』は
元は三等級品にも届きかねない名剣ではあったのだろう。耐久力を見てもそれに匹敵しかねない程なのだから、だが錆や欠け等で損傷している『大鉈』は駆け出しの持つ支給品にも劣るのだが……
カエデは手に持っていた投擲用ナイフを樽に戻して、もう一度、最初に見た片刃の剣の並ぶ棚の前に立つ。
どれもこれも、美しい刃文を浮かべ、見ているだけで切断されてしまいそうな程に鋭い刀の数々に目を奪われてから、困った様な表情を浮かべてフィンを見た。
「ワタシには、この剣は使いこなせないです」
「そうかな……?」
フィンの見立てでは、技術と言う一面だけを切り取ってみれば、カエデは
現時点でもその剣技は素晴らしいの一言に尽きるのだが。自己評価が低いのだろうか?
「どうしてそう思うんだい?」
「……体格が足りてないです……」
「あぁ、なるほど」
並べられている剣、刀、槍、槌、斧、弓。小剣やナイフならまだしも、それ以外の武具はどれもカエデの体格で振り回すには些か長すぎる。
そんな風に話していると、店の奥からラウルが歩いてきた。
「団長、カエデちゃん。準備ができたみたいッス」
【
下っ端口調が特徴的ではあるが、冒険者としては特筆すべき点が無い。と言うよりは神々から見てもそんなに特筆した点が無い所為で普通の、ある意味で特徴的な二つ名をつけられた、変わった冒険者である。
「あぁ、行こうかカエデ」
「はい」
「こっちッス」
勝手知ったるなんとやら、ラウルは普段と変わらぬ柔和な笑みを浮かべフィンとカエデを導く。
奥に続く扉の横に立つ【ヘファイストス・ファミリア】の店員に軽く手をあげてその横を通り過ぎるラウルとフィン、律儀に頭を下げたカエデもそれに続く。
「あのウェアウルフ、白いのなんて珍しいな」
「見た事ない奴だったな新顔か?」
「【
「羨ましいよな、駆け出しの癖にこんな所で買い物なんてよ」
「あんま大声で言うなよ、難癖つけられたら堪んないぜ」
「わかってるって」
有名な【ロキ・ファミリア】の主神に団長が連れていた見知らぬ白いウェアウルフを見た他の客が、こそこそと噂話を始める。
ヘファイストスの私室にて、ヘファイストスは椅子に腰かけたまま入室してきた三人を出迎えた。
ロキはへらへら笑いながらカエデに手招きをして、カエデは前に出る。
「この子がカエデたんやで、カエデたんこっちがヘファイストスや」
「初めまして」
「あら、随分と礼儀正しい子ね」
ロキと同じ、ロキよりも若干暗い色合いの赤い髪をし、顔の半分を隠すような大きな眼帯で右目を隠した女神に、カエデは深々を頭を下げる。
そんなカエデを見たヘファイストスはロキを見てから、顔をあげたカエデを見る。
説明の通り、カエデには死の気配が漂っている。
事前にカエデ・ハバリがどんな子なのかと言うのをロキに聞いていたヘファイストスは特に驚きはしなかったが、カエデの容姿に引っかかりを覚えた。
もう一度、頭の先から爪先までを観察して、引っかかりが何かを見つけようとして腰の剣に目が留まる。
その剣を見て目を細める。
どこかで見た事のある造りをした片刃の剣。
「その剣……」
「……? これですか?」
ヘファイストスが刀を凝視している事に気付いたカエデが鞘ごと外して示すと、ヘファイストスは立ち上った。
「どしたんファイたん?」
ヘファイストスはロキに答えず、無言でカエデに近づく。
カエデが手に持つ『大鉈』をじっと見てから口を開いた。
「その剣、見せて貰ってもいいかしら?」
「はい、良いです」
カエデが『大鉈』を手渡すと、ヘファイストスは鞘をじっくりと眺めてから、鞘から抜き放つ。
錆が浮き、刃は毀れ、欠けも目立つその刀身をじっくり眺める。
「銘を確認させて貰ってもいいかしら?」
「はい」
カエデの返答を聞き、ヘファイストスは手早く手入れ道具を机の引き出しから取り出し、慣れた手つきで柄を外した。
その柄に刻まれた銘と製作者の名を見て、ヘファイストスは呟く。
「やっぱり」
「いや、やっぱりってなんやねんファイたん」
ロキの言葉に答えず、ヘファイストスはカエデを見据える。
「貴女の名前、アイリスだったりしないかしら?」
「……? いえ、ワタシはカエデと言いますが……」
「嘘は……吐いてないみたいね」
ヘファイストスは腕を組み、考える。
ロキの紹介でやってきた『カエデ・ハバリ』と言う名のウェアウルフ。
この少女はほぼ間違いなく『アイリス・シャクヤク』だろう。
ヘファイストスの元眷属『ツツジ・シャクヤク』の娘。
先程感じた引っかかりの正体。その視点で見ればわかる。
毛色は全く違うが、口元や耳の形、探せば探すだけ元眷属の青年に似ている部分が多々ある。
では、何故この子は自分の事を『アイリス』ではなく『カエデ』と名乗るのだろうか?
異色の毛色、これだけで説明がつくだろう。
アルビノ個体は地上の子供達の間で忌み子としてちょくちょく処分されている。
だが、あの『ツツジ』が自ら進んで子を捨てるだろうか? 断言できる、それはない。
ツツジは村長の息子だった。
村の鍛冶師の家の娘と恋に落ち、婚約を誓い合った。
その鍛冶師の娘と婚約の約束を取り付けたものの、親が「俺よりも鍛冶の腕が劣る奴に俺の娘はやらん」と言ってツツジと娘の婚約を否定した。
ツツジはどうすれば認めて貰えるのかを考えた。
この世で最も優れた鍛冶師の集まる【ヘファイストス・ファミリア】の情報を商人伝いに聞き。
【ヘファイストス・ファミリア】の優れた鍛冶師達が挑み続ける神の打った剣、儀式の剣に挑んでいる事を知った。
その後すぐ、迷う事無くその剣を折り、彼女の父親に自分を認めさせると、村を飛び出した。
そんな事があったからか、村人と折り合いがあまり良くは無かったらしい。
父親である村長は理解ある人でツツジがどんな子か知っていたから許したそうだが、村長の弟、ツツジの叔父は執拗に村を出たツツジに「村を捨てた奴に村長は相応しくない」と非難を浴びせたらしい。
それを受けて自らも上に立つ人間ではないと理解していたツツジは村の鍛冶師を継いで村長の座を引き渡した。
それと同時に叔父は「村長は息子が掟破りを行う様な教育しか行えない無能者だ」と非難し、自分こそが村長に相応しいとツツジの父親を攻め立てたそうだ。
父親の立場まで悪くなってしまい、ツツジは酷く落ち込んでいた。
とはいえ、叔父の村での評判は悪くは無いが、ツツジの父親ほど交渉に長けておらず、村長を挿げ替えると言う事にはならなかったし。
ツツジは村を追いだされることはなかった。
それ以降は、叔父が口煩いと愚痴を手紙に書いてくるぐらいだったのだが……
ヘファイストスが想像出来る範囲で、ツツジの状況を鑑みるに村の掟をこれ以上破る事は出来なかった、と言った所か……
捨てろと強要され、これ以上父親の立場を悪く出来ないと考え……信頼できる者に子を託した、多分そうだろう。
居候等と呼んでいた剣士の女性が居たはずだ。その人物に我が子を託したのであれば……
手紙が届かない訳を薄らとだが理解した。
「この剣、どうしたのかしら?」
銘を見た瞬間から考え込んでいたヘファイストスはカエデに目線だけを向けた。
「師から贈られました」
「師? その師っていう子はどこからこの剣を?」
「えっと……商人から……」
師と言うのがあの手紙に書かれていた『腕の立つ女剣士』だったのなら……間違いない。
だが商人?
「商人? ツツジからじゃなくて?」
「つつじ? えっと、ワンコさんっていう商人の方が持ってきましたが」
成程、ツツジは自らの名を伝える事無く、商人としてカエデに剣を渡したのだろう。
そう理解したヘファイストスは剣を見る。錆びて欠けて毀れて、それでも折れなかった剣を……
「ファイたん、どないしたん?」
ロキの声を聞き、ヘファイストスは剣を机に置く。
「この剣、私の元眷属の打った剣なのよ」
「ほー……ん? 『
「言ったでしょう?
そういうと、ヘファイストスは錆が浮いている銘の刻まれた部分を指差す。
「ここに、銘と名が刻まれてるわ」
ロキがそこを見て、首を傾げた。
「なんやわざわざ『
ロキが目にした刀身、錆で見づらくなっているそこに刻まれた銘はわざわざ『
『
神々が与える『
それを子供達でも分る様に共通語に訳すのも、主神の役目である。
ロキは刻まれた『
「カエデたん、この剣の名前って『大鉈』やったよね?」
「はい、そうですが」
「……んー? なんか別の銘刻まれとるで?」
「……そうなんですか?」
その柄には『大鉈』と言うシンプルな銘ではなく、『アイ・ラブ・アイリス』と刻まれている。
製作者の名前は『ツツジ・シャクヤク』で間違いないだろう。どこかで聞いた名前だが……
ロキが感じた引っかかりを引っ張り上げてみれば、知っている名前だった。
【
最近、武器を壊しては新しい武器を購入するを短期間で多数行い、鍛冶師を泣かせ、鍛冶師の間で密かに【
めちゃくちゃ壊れにくい武器を作る鍛冶師で、ゼウス・ファミリアが全盛期の時にヘファイストス・ファミリアを抜けてオラリオを去ったと聞いた。ロキは本人に会った事は無い。
じゃあ、この『アイ・ラブ・アイリス』が剣の銘になるのだろうが……
「けったいな名前やな……カエデたん、この剣の名前って誰に教えてもらったん? 師から教えてもろたん?」
「ワンコさんがそう言ってました……師もそれで良いって」
「さっきも思うたんやけど、ワンコさんって誰やねん」
カエデの口から出て来た名前に思わず突っ込むロキ。
「えっと……いつもお酒臭くて、フードにお面つけた変な商人さんです」
「なんすかソレ、ロキの事ッスか?」「ラウル後でぶん殴るわ」「なんでッスか!」
ロキと眷属がじゃれ合うのを見ながら眉を顰める。
フードにお面はわかる。お酒臭い? ……自棄酒だろうか? いや、
ヘファイストスは『大鉈』に柄を取り付け、机に置いた。
「名前を隠してるから、ワンコさんって呼ぶ様に言われてました……」
「間違いなく偽名だろうね」
フィンの言葉に首を傾げるカエデ、偽名が何かを理解していないのだろう。
最後の確認も兼ねて、ヘファイストスはカエデに聞く。
「その、ワンコって商人にその剣を売ってもらったのね?」
「はい、ワンコさんが剣を持ってきました」
軽く溜息を吐く。これは、伝えない方が良い。
「なるほど……」
「んでファイたん、説明してくれるん?」
ロキの興味津々な様子に、ヘファイストスはより深々と溜息を吐いた。
神々は暇を持て余していて、楽しい事が好きなのだ。
そしてロキも暇を持て余し楽しい事が、大好きなのだ。
このツツジを取り巻く環境は神々にとって娯楽になりかねない……
これを伝えれば、カエデにとって良くない事になる。
とはいえ、ロキはカエデの行動の妨害となる事はしないだろう。
むしろ妨害しようモノなら天界に居たあの頃の様に神々を潰すだろう。暇潰しとして手の込んだ、どちらが潰れるのか分らないドキドキハラハラした楽しむ潰しあいではなく、本気で、潰しに行く。
悪神と恐れられたロキが、悪神として本気を出せばどうなるのか……想像はしたくない。
カエデの父親がツツジ・シャクヤクであり、カエデの本来の名がアイリスである事をロキに説明しても問題は無さそうだが……
「ごめんなさい、話す気は無いわ。そうね……もしさっきの事を追及しないでいてくれたら、
ツツジの子だと言うのなら、その子が儚い命を伸ばす為に、生きようと足掻くのなら。
ヘファイストスに出来るのは鍛冶師としてその身を守る防具を、その道を切り開く事の出来る剣を作る事だけである。
「マジか! カエデたん、ここは
「すぺり……?」
流石に
「いくらすると思ってるの」
「数千万やな」
「数千万!? 流石にそんな物受け取れないですよ!?」
驚いて尻尾を逆立たせたカエデの姿に、一瞬、ツツジの姿が重なった。