幼女戦記が酷いことになる   作:へっぽこ鉛筆

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「はーい、ターニャちゃん、笑顔でダブルピース」

「(ひぐぅ)タ、ターニャ、デクレチャフ・・・みんなのために、がんばります♪」

資本主義の前に、搾取される少女たち、男達に消費される彼女の行き着く先は・・・

それでも彼女は笑顔を作る。社会という理論の中、救われることのない明日を夢見て




 


ターニャちゃんを働かせてみよう 【JSアイドル労働編】

「兵站視察・・・ですか?」

 

 上官であるレルゲン大佐にたいし、軍則の見本のような直立不動のまま、ターニャ・デグレチャフは訝しげな顔をした。

 

「そうだ。秋津島皇国から出張した“こんびに”なるものを視察して欲しい・・・あと、それと――」

 

 そこで言葉を切る。さらに、訝しく思うターニャは頬を引きつらせる。あの、レンゲン大佐が言いよどむのは珍しいことだ。真面目で実直な性格の彼が、齟齬を感じる命令

 

 嫌な予感がした。しかし、ターニャ・デグレチャフ少佐はその命令を受けることにした。

 

 副官のヴァイス中尉が、わずかに横目で少女を覗き込む。

 

 

 

「こんびに・・・とは、やはり“コンビニ”なの、だろうなぁ・・・」

 

 

 ブツブツと小さな唇が、誰に言うでもなく動く、彼女が意味のわからない単語を言うのはいつものことだ。この、評価の難しい上官を知る彼は、何も言わずに書類を小脇に抱え、黙って随伴することにした。

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ、クソ野郎共(ファッキング・ガイズ)

 

「こ、これが、コンビニ・・・コンビニというものなのかッ!?」

 

 ちょっとした雑貨屋のような簡易店舗の中、マガジン、日用品・・・さらには、物資の流通が統制されている現在では貴重品となりつつある食料品と嗜好品・・・タバコとコーヒー豆が並ぶ店内をみて、ターニャ・デグレチャフ少佐が、その碧眼を輝かせる。隣のセレブリャコーフ中尉が不気味なものを見たような顔をした。

 

「はい、おっしゃる通りです。お客様・・・我々はコンビニ、コンビニエンスストアー、誰にでも売り、なんでも揃う。街の便利なお店です。」

 

 やたらと丁寧な東洋人の店主が揉み手をしながら進み出た。それに右手を出して握手するデグレチャフ少佐、他の店員も東洋人だった。

 

「貴様がオーナーか、私は、SVが対応すると思ったのだが」

 

「いえいえ、私はオーナでもありますが、ここは基幹店でもありますから、立場としては本部の営業部を兼任しています。まぁ、左遷に近いですけどね。」

 

 朗らかに笑う、コンビニDMZのカワグチという店長、珍しい事だが尊敬をにじませる言葉使いのターニャは、軽く店内を見渡す。イギリスのコーンビーフに、アメリカのスパム、更には、雑貨はちり紙から、何故か電球まで品揃えは薄く広く取り揃えてはいるが、銃と弾薬の類はおいていなかった。

 

「カワグチ店長、随分と生鮮食品の品揃えが充実しているみたいだが、流通はどうしているのだ?」

 

「ドライ商品は空輸か、輸送装甲車があります。さらに、現地にフランチャイズ専用の生産所と製造工場があります。そこから納入してもらっています。」

 

「それだと、フランチャイズの品質管理に問題が出ないか?チルド商品の衛生管理は、どうしている。」

 

「そのあたりも、本社直属の製品管理部が徹底しております。この、サンドイッチ一つでも、本社の直営のモノと品質は変わりません。」

 

 にこやかに、だが、剣を打ち鳴らすような会話に、店員と セレブリャコーフ中尉の表情が凍りつく、が

 

「パーフェクトだ。カワグチ店長、完璧なマネジメントはいつ見ても清々しいものがある。」

 

「お褒めに預かり、光栄です。」

 

 お互いが笑顔をもって握手を交わす。何か、共通するものがあるのだろうか、誰にも分からないが、さらに、珍しいものを見るような表情を中尉が見せるが、誰も気にもしなかった。

 

「では、視察も終わりだな。中尉、帰るとするか・・・」

 

「あのー、デグレチャフ少佐どの・・・まだ、体験視察の方が終わっていないのですが・・・」

 

「何を言っている。セレブリャコーフ中尉、視察は終わりではないか?それとも、まだ見学する場所でもあるのか?」

 

 困った顔をする店長のカワグチが交互に見比べる。アメミヤという店員が子供サイズの青と白のストライプのユニフォームを持っていた。

 

 

 

「いらっしゃいませ。」

 

 帝国、連邦、協商連合、さらには民兵たちの戦線が混在する激戦区、その非戦闘区域に幼女の声が響き渡る。

 

「おい、あれ・・・デグレチャフ少佐殿――」

 

「ほら、例のプロパガンダだよ。戦意向上のために、新装開店のキャンペーンガールとして・・・」

 

 そこで、デグレチャフ少佐が、噂話をする兵隊二人を睨みつける。立ち読みをしているふたりは、慌てて視線を逸らし雑誌に視線を落とした。読んでいるものは、アメリカのプレイボーイだった。

 

「少佐殿、良くお似合いですよ。売上にも、かなり貢献してます。」

 

「そのようだな。中尉・・・しかし、接客と言うのは、どちらかというと、私は管理職なんだがな・・・」

 

 そんな小言に首をかしげるセレブリャコーフ中尉とお揃いの青と白のストライプ、コンビニの制服を着ているふたりの少女、束の間の休息・・・もない。

 

 セレブリャコーフ中尉が、カウンター商材のからあげをあげ、デグレチャフ少佐は、なんとFF商品の廃棄をしている。

 

「やはり、廃棄ロスが多いな・・・賞味期限の過ぎたモノは大隊に持って帰って・・・」

 

 意外にも米飯商品の動きが良好だった。オニギリ・・・ライスボールなど、誰が買って誰が食うのかは謎だが、それと、カウンターの肉まん類の売れ行きも好調だ。まぁ、ピロシキの売れ行きも良い。これは連邦の連中が買っていくのだが

 

 さらに意外なモノが好評だった。

 

「少佐殿、少佐殿・・・春の新作のコスメ商品が入荷してますよ。」

 

「ああ、カワグチと相談してフェア商品としてフェイスを作るべきかもな。しかし・・・こんなものが、ね。」

 

 ファンデーションやアイライナーを手に取り見比べた。セレブリャコーフ中尉は、女性魔道士の必需品・・・高高度の紫外線を避ける日焼け止めの試供品を持ちはしゃいでいる。まぁ、この年齢で肌が紫外線と寒風でボロボロになるのは勘弁してもらいたい。

 

 それでも、この手の化粧品・・・コスメ商品の動きが良好なのが意外だったが、確かにこの時代にしては女性隊員(WAC)女性隊員の比率が高い、魔道士の数は限られ選り好みできないからだ。そして、その殆どが花も恥じらうお年頃、このようなアイテムに対しては魔導探知レーダー並に敏感だった。

 

「どうしました。少佐殿?」

 

 ニンマリと中尉が他のWACと女性の武器・・・化粧道具を持ち、こちらににじり寄ってくる。

 

「ふふふっ、少佐殿・・・肌、スベスベ・・・」

 

 セレブリャコーフ中尉の手のひらが頬を撫でる。パフを持った手で、目がキラキラと輝いている。

 

「少佐殿~、動かないでくださいね~」スキンケアで、肌を滑らかにしてから、日焼け止めを塗られた、他のWACはアイライナーとリップグロスを選んでいる。まずい、これはまずいぞ。

 

 いつぞやのプロパガンダ写真を撮った時の無力感を味わいながら、すでに、着せ替え人形状態だ。

 

 女性隊員の黄色い歓声。そして、なにか背後から悪寒を感じる。

 

「ほう・・・お綺麗ですね、少佐殿・・・」

 

 ギギギと錆びた機械のように振り返れば・・・

 

 明るい声ののカワグチ店長がカメラを構えて、こちらに笑顔を見せていた。

 

 戦場で恐れることのなく鉄火をくぐり抜けてきた501大隊の隊員が、それを見て恐怖に震えた。

 

 

 

 

「いやー、オープニングセールは大成功でしたね。」

 

 バックヤードの机に突っ伏しているデグレチャフ少佐とセレブリャコーフ中尉の隣を通り抜け、朗らかな声が聞こえる。コンビニの目立つ場所には、大きく引き伸ばされた彼女たちの、サンプルポスターが大きく貼られていた。

 

「しかし、数量限定ですが、良いノベリティーでした。まさか、お二人の生写真が、あんなに人気があるとは・・・ナニに使うんですかね」

 

 ふたりの唸るような怨嗟の声が上がった。販促物として配った生写真・・・700マルク以上お買い上げで1枚もらえる。二人の水着やら学生服やらの生写真・・・ちなみにハズレはコンビニの制服姿だった。

 

 そして、ナニに使われているかも明白だった。大量の商品を買い込んだ兵たちの舐めるような視線を思い出し、デグレチャフ少佐の身体に怖気がはしる。

 

 きっと今頃・・・それを考えただけで、胃の中のものが逆流しそうになる。いや、セレブリャコーフ中尉は、まだいい・・・ある意味健全だ。しかし、私のメイド服やスクール水着の写真で・・・いや、考えるのはやめよう。

 

 気の毒そうに、POSで商品管理をするアマミヤ・・・そう言えば、彼女もキャンペーンガールとして恥ずかしい水着を着せられていたな。

 

 おかげで、売上目標を大きく上回ったのだが、店長のカワグチが何かを思いついたのか手を打つ

 

「ああ、また1周年などの時も、お願いできませんかね。」

 

「誰がするかッ!!」

 

 彼の言葉に、バックヤードの中、彼女たちの絶叫がこだました。

 

 

 

 

 

 ちなみに、特別手当としてもらえた給金は、それなりの金額だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「コンビニはいいぞー、まさに資本主義の生み出した寵児だ。」

「あの、少佐殿、何を言ってるんですか?」

「最近は、コーヒーも美味しくなったしな。イートンで営業をサボるのも最高だ」

「はぁ・・・しかし、連邦との競合地にそんなものができるなんて」

「マルクス・レーニンの敗北だな。実にめでたい」

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