なにもみえない   作:百花 蓮

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 短い時間で連続投稿をすればストレスが二分の一で済むことに気がつきました。


踏み絵、弟、急転

 『砂』への任務だった。

 

 『霧』と『砂』とが軍事同盟を結ぼうとしているという情報を手に入れたため、その場所に忍び込み、調査を行うという任務だった。

 

「ビックリしたよ? イタチと一緒に任務だなんて……」

 

「ああ……」

 

 メンバーには彼女がいた。

 小日向ムカイが抜けた穴を埋めるために配属されたイタチだったが、直前まで、誰と共に任務を行うかは聞かされていなかった。

 

「ええ、でも、身体、大丈夫なの? 昨日まで……」

 

 小日向ムカイと戦って、一時は動けないほどボロボロだった。

 つきっきりで看病をした彼女には、迷惑をかけてしまったか。

 

「問題ない」

 

 そう言うと彼女は眉間にシワを寄せた。

 流石にいい顔はしないか。

 

 だが、次の瞬間には思いもよらない行動に出る。

 

「とおっ!!」

 

 クナイを持って突っ込んで来る。

 

 素早く身をかわし、彼女の刃物を持つ手首を掴み、捻る。

 クナイを取り落として、その次にはもう、彼女は残った方の手を上げた。

 

「どうだ?」

 

「降参、こーさん。まあ、一応大丈夫かな?」

 

「なら、よかった」

 

 相も変わらず無茶ばかりを自分にさせる彼女へと、苦笑を浮かべる。

 その信頼は快いが、それを向けられるたびに、心の中で不安が芽吹いていた。いつも通り、見て見ぬフリをし、堪えておく。

 

「あ、他の人も、もうすぐ来るみたいだよ!」

 

 彼女の感知能力で捉えたのだろう。

 普通ならば、気配も感じない距離のはずだ。彼女の能力は任務の上で、やはり心強いものに違いない。

 

 全員が集まり、簡単な挨拶を済ませて任務に移った。

 

 任務の際、自らは小隊のメンバーと喋ることはあまりなかった。

 あったとしても必要最低限。雑談などは全くと言っていいほどなかった。

 

 だが、彼女は違った。

 

 和やかに他のメンバーと会話をする彼女がいた。

 ときおり、冗談を交えつつ、おどけて自らの失敗談を語ったり、など。そうすると、話し相手は先輩として助言をくれたり、苦笑をしつつ自らも苦手だった、苦手であると語ったりする。

 

 一体感が生まれる、というのは悪いことではない。

 一度瓦解したら、立て直すために時間を要する、という点を除けば、物事が円滑に進んでいくために必要なことだった。

 

 彼女の持つ会話術は、己にはないものである。

 それが彼女の強みであるということは、忍者学校(アカデミー)の頃から知っている。

 

 それがどうしても眩しくて、そうやって歩みを進める彼女のことを遠ざけてしまった。あの事件の前の話だ。

 まだまだ未熟だった。それだけの話だろう。

 

「ねぇ、イタチ!!」

 

「どうした?」

 

 そんな仲間の輪を離れて、彼女は声をかけてきた。

 その周りに気を遣う様子から、なるべく人には聞かれたくない話だとはわかった。

 

「うーん。もしさ、どこかの一族がクーデターを起こすとしてさ……。この『霧』と『砂』との軍事同盟、どんなアクションを起こすと思う?」

 

 万が一、聞かれても誤魔化せるようボヤかしてはいる。だがだ、彼女の言い分を理解するには十分なものだった。

 

「まさか……」

 

 この軍事同盟は、『岩』や『雲』といった仮想敵国に対する身の振り方を決めるというもの。

 忍界で軋轢を生むには十分で、締結後、第四次忍界大戦に直行することもありうる。何としても止めなければならないものであった。

 

 いや、平時には忍の需要はなくなるものだ。特に『砂』は、これから隠れ里への資本が縮小していくという話もある。

 火種が、欲しいのかもしれない。

 

「ただの邪推で、ただの杞憂かもしれない。でも、私が何回も『砂』に行っているわけで……」

 

「…………」

 

 彼女は、父――うちはフガクに用意された任務だけを受けていた。

 そして、それは極秘裏に、一族にさえ知らされてはいない。

 『砂』に赴くことが主なもので、己にさえも、そこで何をしているかはわからない。

 

 だから、わかった。

 この任務に彼女が参加させられている理由がだ。

 

「この任務、絶対に成功させる……」

 

「イタチ……」

 

 彼女がもし、なにかしら里に不都合なことを起こせば黒に決まる。一種の踏み絵のようなもので、里が一族を見極めるためのものだろう。

 

 一族は里によく思われてはいないゆえに、なんの意図のないミスでさえ、無理やりにこじつけられる可能性さえ考えられた。決して油断などできない。

 

「でも……別にいいんだよ――」

 

 ――私のことは。

 

 なぜ、そんなことを言うのかがわからなかった。いや、そう言って気負わないようにさせてくれようとしているのはわかる。

 

 だが、その自己犠牲的な発言が、どこから来るのかわからなかった。彼女のことがわからなかった。

 

「私はあなたの味方だから」

 

 その言葉には苦しめられる。事実、今、彼女の生殺与奪の権を握るのは自身である。

 己の行動が、彼女の未来に影響する。場合によっては……。

 

 そして、それを彼女が望んで受け入れることがわかる。わかってしまう。それがどこか悔しかった。

 

「絶対に成功させるぞ?」

 

 なんにせよ、それが第一だった。

 

「ん、わかった……。イタチがそう言うなら」

 

 まるで自分というものがないように、いや、まるで己の言が元々自分の意思であったかのように、彼女は実直に従うのだろう。

 その空々しい笑顔に、本心が見えない。触れることができない。

 

 思えば、彼女はいつも笑っていた。

 彼女の涙を直接見たのは、九尾事件のあとのあの時だけだった。

 

「……この任務のことは、やっぱり誰にも話さない方がいいよね」

 

「ああ……いや、シスイだけには話しておく」

 

「そう……」

 

 彼女がいれば、自身がいれば、この任務に失敗はない。

 確信めいたものがある。

 

「頼りにしてるわ」

 

「お前のこともな」

 

 彼女の能力は高い。

 だからこそ、翻弄された。そして今も、されている。

 いつになれば終わるかもわからない戦いだった。終わらせるには全てを変えるしかないのかもしれない。自分自身も……。

 

 この密談を気にして見に来た仲間がいたが、深く踏み込まれることはなく、ただ彼女との関係性を揶揄させるだけに留まった。

 

 その後、無理やり会話の輪に引きずり込まれ、終始、彼女と共に茶化されるだけに時間を費やされたことは遺憾だった。

 

 だが、それ以外の物事は順調に進んでいく。

 

「わかるか? 会話の内容は……」

 

「ええ、互いの立場の擦り合わせ……ね。大事な話はまだみたい……」

 

 彼女の偵察能力は、凄まじいの一言だった。

 影分身が使えることが第一に、その感知能力でトラップさえも看破する。そして、そのトラップを回避する技能もある。

 

 だが、彼女からの情報だけでは信憑性に欠けると里に判断される可能性があった。

 だからこそ、他のメンバーは別行動で偵察をしている。そこは彼女が説得した。

 

 どうしたかといえば、話を色恋の方向に転がしただけだ。そうして気を遣われる形でここに残されることになった。

 いや、そうなる前準備として、子どもは任務の邪魔だという考えに至る誘導を、失敗談を交えた往路の雑談で彼女は仕込んでいた。

 

 気を遣う、という理由なら人は動きやすい。その前段階に刷り込まれたマイナスの情報より与えられた不安を取り除く、ていの良い理由になる。

 

 彼女は人を動かすことが得意、なのかもしれない。

 

「……と、ええ、六時の方向にトラップ……、ああ、なんとか回避したみたいね……」

 

「…………」

 

 彼女はあの、影分身と感覚を共有する術を、今、使っている。

 だが、前回とは違い、隣にいる彼女が本体で、影分身に情報を送っている。

 影分身は別れた他の仲間と行動を共にし、先導役をつとめていた。

 

「そんな顔しないで……? ふふ、イタチが守ってくれれば安心安全でしょ?」

 

「…………」

 

 確かに指摘したデメリットはクリアできていた。

 

 動けなくとも、それを守る仲間がいればいい。単純明快な解決策を彼女は無邪気に押し付けてきた。

 

「私は命を、イタチに預けてる……」

 

「大げさだ……」

 

 離れた安全な場所で、要である感知能力を持った彼女の護衛。

 与えられた役割の中では簡単なものに部類される。

 なにも役割がないのでは問題があるためだろう、彼女が提案すれば、すんなりと仲間に受け入れられ、その役割に就くことになった。

 

 やはり、下地を作ったおかげか、彼女の感知能力を完全には信用しない仲間たちは、『霧』と『砂』との密談を、自分たちで確かめに行った。

 

 彼女はそのサポートに徹するだけ。彼女ならば、完璧にそれをこなすだろう。

 

 そして、何事もなかった。

 密談は肝心な部分を決めるところまでは進まずに解散。

 

 仲間の誰も罠にかかることもなく、任務は終わった。

 

「なんだか拍子抜けだね?」

 

「……まだ国境は越えてない」

 

「ええ、でも、追い手もいないし、大丈夫だと思うよ?」

 

「そうか……」

 

 もし彼女が()()()でなければ、忍としての活躍は間違いなかったはずだろう。間違いなく彼女は、その〝眼〟があらずとも、優秀な忍であった。

 そして彼女の実力が、任務を通して認められていくのではないかと思うと、歯痒くてならない。

 

 だが自らには、止めることはかなわなかった。

 

「ミズナ……」

 

 呼びかける。彼女は先頭を行っていた。

 

「どうしたの?」

 

 顔だけをこちらに向ける。前を向いていようとも、いなくとも、彼女には感知能力がある。

 構わずに、彼女は前に進んでいた。

 

「まだ、任務はやるのか?」

 

「え……? 任務、もう終わるけど……」

 

 食い違う。

 もう一度、今度こそ伝わるよう言い直すため口を開こうとする。が、その前に、こちらの表情を読んでか、彼女は言葉を汲み取り直した。

 

「……あ、えっと、まだ、中途半端だから……。でも、私でも――そう、今日の任務でもちゃんと――イタチの役に立てるみたいだから……」

 

 ――まだ、続ける。

 

 役に立ってほしいと思ったことなど一度もなかった。

 そばに居てくれるだけで十分だった。

 だが、彼女は止まらなかった。

 

「……わかった」

 

 他ならぬ、彼女の意思なら、尊重するべきなのだろう。言葉を押し付け、気持ちを押し付け、彼女の行く道を強いることなどあってはいけない。

 

 ただ、一つ。

 彼女は彼女自身のために、生きていってほしい。

 

「イタチ。だから、私のことをいつでも頼っていいんだよ? 私はあなたの味方だから……」

 

 だから、そのあり方を認めるわけにはいかなかった。

 

「オレは大丈夫だ」

 

 だから、そっけなく、そう返した。

 

 

 ***

 

 

 イタチは暗部に入った。

 イタチの暗部入りの話は瞬く間に、うちは一族じゅうに広がった。

 

 本来なら、だれが暗部に所属するかは極秘中の極秘である。家族であろうと伝えることなどあってはならない。

 それが、なぜ()()()じゅうにひろまっているかといえば、これにはフガクさんの深謀遠慮が関わってくる。

 

 ()()()に燻る不満を、イタチの暗部入り――すなわち()()()の者が里の中枢に入り込んだことを宣揚することにより、少しでも落ち着かせようという、実に単純明快な理由によるものだった。

 

 効果のほどはよくわからない。

 

 変わらない日々が続くものだと思っていたが、イタチはこれまで以上に休みが取れなくなった。

 それが私にとっての大問題なのは言うまでもなかった。

 

 そんなイタチの貴重な休日を使って、私たちはサスケの修行に付き合っていた。

 

 私が適当な曲芸にしか使えないような時間差手裏剣術を披露して、イタチに苦笑されたり、イタチがクナイにクナイを当てて軌道を曲げ、死角の的に当てるような手裏剣術を見せてくれたりと、そんな一日だった。

 

 そこから、サスケに教えるにあたり、基本が大事だと力説すれば、渋面をされてしまった。なにがいけなかったのだろう。

 

 〝やっぱり男の子だから、実用性より、派手さが大事なのかな〟とイタチに問えば、〝お前が言うのか〟と言うような目で見つめられた。少しだけ、ショックだった。

 

 帰り道。

 私がこっそり、影分身の印を結んでいるその時だった。

 

「どうした?」

 

 ふと、イタチが足を止めた。

 サスケがジッと見ている建物があったからだろう。

 

 ちなみに、イタチはサスケを負ぶっている。はしゃぎ過ぎたサスケが転んでケガをしてしまったからだ。

 私がちゃんとしていれば、きっと防げた。悔やんでも悔やみきれない。

 

「ここでしょ? 父さんが働いてる所」

 

「木ノ葉警務部隊の本部だ」

 

「警務部隊……ね」

 

 そういえば、昔、イタチの家にお世話になり始めた頃、いろいろと尋問されたことがあった。無論、あの事件のことだ。

 

 正直、もうよく覚えていないけれども、いい思い出でないことはわかる。気分が少し悪くなる。

 

「……ミズナ」

 

「ええ、大丈夫よ……」

 

 敏いイタチが私のことを気にかけてくれる。それだけで気分は少し楽になった。もう、イタチには感謝しかない。

 

「ふふ、ありがとう」

 

「ああ……」

 

 そんな私たちのやり取りを余所に、思い出したようにサスケは言った。

 

「ねぇ、前から気になってたんだけど、なんで警務部隊のマークにうちは一族の家紋が入っているの?」

 

「なんだ……気づいてたのか」

 

「あ……私も気になってた……!」

 

「…………」

 

「冗談。いや、ほんとに……。ごめん」

 

 最近、私が何かを言うと、イタチがこういう風に黙り込むことが多かった。

 そして、無言の圧力に屈して、私が謝ることになる。

 

 少しだけ好きなやり取りで、私は性懲りもなく繰り返していた。

 

 まあ、本当に冗談だと、証明するため、ここは私が説明してあげようか。

 

「えーっとね……里ができたとき辺りの、うちは一族――( )まあ要するに、私たちのご先祖様が警務部隊を作ったってわけでしょう? だから、警務部隊のシンボルには、うちはの家紋が使われている」

 

「ああ、そうだな。だからこそ、この家紋は、昔からこの里の治安を預かり守ってきた、誇り高き一族の(あかし)でもあるんだよ」

 

 補足的に、イタチは家紋の意義を語る。

 それは、私が考えてみたこともなかったものだった。

 

 そしたら、どうしてか、サスケは難しい表情をして固まっていた。いったい何を考えているのだろう。

 

「うちは、といえば警務部隊。昔と比べたら、一族の人数も少ないけど、一族の大半がこの警務部隊に伝統的に所属してる。まあ、最近は平和だから、仕事が少ないみたいだけどね」

 

 それと里の暗部の影響も大きい。

 より里の機密の関わってくるような内容の事件は暗部の管轄になるそうだ。

 

 だが、その警務部隊の管轄になるか、暗部の管轄になるのかのボーダーラインも曖昧。そして、決定権は里にある。

 最近ではその扱える事件の範囲が縮小され、名ばかりの警務部隊へ、有名無実の名誉職へと変わってきている。

 

「だが、治安維持に貢献しているのも事実だ。忍の起こす犯罪を取り締まれるのは、さらに優秀な忍だけだからな」

 

 血継限界を持つ一族。それというだけで他の忍とは一線を画した力を持ててしまう。個人としても、一族としても。それは、(のろ)いにも近いものだと、私は思う。

 

 サスケは十分に、イタチと私の言葉を噛み砕いているようだった。

 

「ねぇ、姉さんも、兄さんも、ここに入るの?」

 

 少しだけ、イタチが表情を歪ませたのがわかった。

 入らない。

 暗部に所属したわけだから、警務部隊には入るわけがない。

 

 一族を取り巻く状況が、それを許すはずがなかった。

 だからここは、私が先に答えるべきだろう。

 

「私は入らないよ? お掃除とか、お洗濯とか、お料理とかも、私がやってるでしょう? それと他にも、ちょっと今、お願いされてやってることがあってね」

 

「じゃあ、それが終わったら?」

 

「それはイタチ――兄さん次第かなぁ?」

 

 イタチの役に立ちたい、というのは、今も昔も変わらない。これからも、きっと、だ。

 だから、そう言う他は私にできない。

 

「じゃあ、兄さんは?」

 

 そうやって、イタチに話を振られてしまった。

 察するに、イタチが入ったら、私も入るとでも思ったのだろう。サスケの中で、イタチと私の関係が、どう映っているのか、少しだけ気になった。

 

「オレはもう、違う部署に所属してる」

 

「……じゃあ、もう警務部隊には入れないの?」

 

 少しだけイタチは考えたようだった。

 別に暗部をやめれば、入れないこともないのだろう。それが許されるかどうかは知らないけど。

 

「いや……さぁ、どうかなぁ……」

 

 だから、そんな曖昧な反応になってしまったのだろう。イタチにとって、返答の難しい話をしているには違いなかった。

 

「……そうしなよ!」

 

 無邪気にも、サスケはそう言う。そこには体裁も、立場も、(しがらみ)もない。ただ純粋に希望を持ったサスケがいた。

 

「大きくなったら、オレも警務部隊に入るから、さ!!」

 

 未来のことを語るサスケに、私まで嬉しくなる。

 警務部隊は、そんなに好きではないけれど、サスケがそう言うのなら、少しだけ見方を変えることもできるような気さえしてくる。

 

「明日の入学式には、父さんも来てくれる。オレの夢への第一歩だ!!」

 

 ――〝夢〟。

 

「サスケェ……」

 

 私は歓喜した。サスケも遂に『夢』を語る日がやってきたのだ。

 これで忍者学校(アカデミー)の自己紹介で口ごもる心配もない。

 イタチの冷たい目線が刺さっている気がするが、気にしない。

 

 『夢』だ。『夢』なのだ。そして私は『家族』なのだ。これは叶える手伝いをしなければならない!!

 

「サスケ、わかった。私もできる限りの協力はする。絶対叶えてみせましょう!」

 

 兄さんは……、まあ、兄さんだから、なんとかするでしょう。兄さんだし……。

 

「う、うん」

 

 なぜかサスケは曖昧な返事をした。イタチは肩をすくめるばかりだ。

 なにかおかしなことでも言ったのだろうか、わからない。

 

「とっ……」

 

 影分身が遂に解けた。

 これはきっと、奴が来る。

 

「すまない、いいか?」

 

「うちはシスイ……っ!!」

 

 キシャーっと、私は威嚇する。

 私はこいつが嫌いだ。とてもとても、嫌いだ。

 

「イタチに話がある」

 

「どうした?」

 

「詳しくは後だ。悪いな……お前たちの兄さんを、少し借りていくぞ」

 

「ぐぬぬ……っ」

 

 なにか差し迫ったようなのはわかる。だが、つい、イタチの服の袖を握ってしまう私だった。

 

 シスイはすでにどこかへと駆けて行ってしまった。

 

「サスケを頼む。先に帰ってるんだ」

 

「あっ……」

 

 サッと、流れるように私の手が払われてしまう。そうして、おぶっていたサスケを私に渡すと、イタチは行ってしまう。

 

「姉さん……?」

 

 気遣うようにサスケはそう言った。

 

「もう、なんなのよ……ぉ」

 

 泣きたかった。

 というか、ちょっぴり泣いていた。

 

 

 ***

 

 

 うちはシスイが死体で発見されたのは、その翌朝のことだった。

 

 


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