なにもみえない   作:百花 蓮

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 日向は木ノ葉にて最強。


裏切り者、限界、残り火

 ダンゾウに付き従っていた〝仮面〟。

 ミズナを襲った犯人と疑えるその人物とともに、小日向ムカイの暗殺の任務に就いた。

 

 その〝仮面〟を指名したときのダンゾウの表情は読めなかった。だが、真相を掴もうとしている姿を、笑っているように思えてならなかった。

 

「こいつのために生きていると言っても過言ではねぇな」

 

 タバコの煙が空に消える。

 もう片方には銀色の瓶が――( )アルコールの匂いが鼻をついた。

 

 周囲には十人ほどの霧の忍が倒れていた。

 全て己が倒したものだ。

 

「おとなしく投降しろ……」

 

「おっと、それはできねぇ。裏切り者の末路はお前もわかっているだろ? ……うちはイタチ」

 

「…………」

 

 いくら火影が寛大だからといっても、限度がある。

 

「それとも、結局は日の当たる場所でしか生きていない。ということか?」

 

「…………」

 

 皮肉めいた笑みを浮かべて、小日向ムカイは笑っていた。

 忍の世界で裏切りは重罪だ。

 自首くらいでは許されるはずもない。死罪は免れない。

 

「今をときめく()()()の天才が刺客とは、光栄の至りだな」

 

 タバコの火が消され、ボトルの蓋が閉められる。

 ムカイのチャクラの量が、急激に増えたような気がした。

 

「今まで話してたのが親父の影分身だと知って、息子は今頃怒ってるだろうな」

 

 隙のない鋭い目つきに、今まで潜り抜けてきた任務の数が自ずと知れる。

 

「こりゃ、早く帰って言い訳しなきゃだ……」

 

 重心が落とされる。

 日向一族に伝わる柔拳の構えだった。

 

「なぜ、お前ほどの忍びがスパイに……?」

 

 いつでも応戦できるよう、クナイに手をかける。

 事前に相手の情報は収集している。

 

 小日向ムカイは手練れだ。だが、接近戦に持ち込まれさえしなければ、十分に勝ち目があった。

 

「おっさんになると色々あるんだ。そしてその色々ってのは、歳をとってみなきゃわからねぇもんだ。だから今、お前に話したところで半分も理解できやしねぇよ」

 

「病気の息子はどうなる?」

 

「そういう色々のために、オレはここで死ぬわけにはいかねぇんだ。たとえ、お前を殺してもな」

 

 左眼の周囲に無数の線が走る。

 

「白眼!!」

 

 本人曰く先祖返り。

 本来ならば開眼などできないほどに日向一族の血は薄いはずだった。だが、小日向ムカイは、その左眼だけ、白眼を使える。

 

 その柔拳の間合いに入れば、命の保障などはない。

 取るべきは遠距離からの先制。素早く印を結ぶ。

 

 ――『火遁・豪火球の術』。

 

 炎は敵を覆い尽くすほどに広がる。

 日々の鍛錬により、容易には躱しきれないほどの大きさにまで、術の範囲は広がっていた。

 

 だが――裂ける。

 

 中心から縦に線が引かれ、まるで敵を避けるように、炎の進路は変わっていた。

 

「敵のチャクラを絶つ柔拳を操るということは、その流れを熟知するということ。術はチャクラの塊。流れを読めれば、割ることはそう難しくねぇ」

 

 特別な術はない。

 その体術のみで、豪火球は打ち破られた。

 

「悪いが手加減はできねぇ」

 

 歯噛みをする。

 体術において、相手は圧倒的に上手、いや、次元が違う。鍛錬を欠いたつもりはないものの、今までのそれでは辿り着けない領域に相手はいる。

 

 距離を詰められるのは一瞬。

 相手の狙いはおそらく点穴。点穴をうたれれば、チャクラの流れが断たれてしまう。この男ほどの手練れが、それを外すとは思えない。

 

 初撃、身を捩って躱す。

 だが、次の一手がすぐさま襲いかかる。胸、肩、脇腹。次々と繰り出される攻撃に対応が迫られる。反撃の余裕がない。

 

 この間合いのままでは、勝ち目がない。

 時間とともに詰みへと近づいていく、嫌な感覚に支配される。

 なんとか隙を見つけ反撃をする――( )否、勝機はそこにない。

 

 『写輪眼』は発動している。

 だからこそ、その幻術を警戒し、相手はこちらと目を合わせない。視線が合いかけるたびに、その卓越した反射神経と運動能力により、素早く視線をそらしていく。

 

 狙うべきは、その意識的な動作の瞬間。

 相手の視線を読み、動きを調節し、もう一度、仕掛ける。そして、躱される。

 

 わずかに攻めの手が緩む。

 その隙とも取れない隙を突き、後ろに大きく跳躍した。

 

 木ノ葉にある盆地。その岩場で戦っている。

 草の生えない地面に着地をし、なおも間合いを詰めようとする小日向ムカイにクナイを投げる。

 

 ――八本。

 

 チャクラコントロールによって強化された膂力により、一度に襲うクナイはどれも脅威には違いない。

 

 だが、小日向ムカイは、たった一つの動きでそれらの全てを逸らしてみせる。

 一本のクナイが弾かれただけだった。だが、そのクナイから波及するように、クナイがクナイを弾き、弾き、弾き、弾き――( )遂にはどのクナイも対象を捉えることはなかった。

 

 全て織り込み済み。

 

 そして、小日向ムカイが視線を動かした先に自分が――( )

 

 当たり前のように敵は視線を逸らしていく。こちらから、やや大袈裟気味に。

 

 ――そして、小日向ムカイが視線を逸らした先にはあの〝仮面〟がいた。

 

 ダンゾウの部下であり、今回の協力者でもあるあの〝仮面〟だ。

 当然のように、当然であるはずはないが、その〝仮面〟は『写輪眼』を持っている。

 

「……う、く……っ!!」

 

 咄嗟に、小日向ムカイは跳躍した。

 凄まじい脚力で、その視線間のチャクラの流れを振り払うように後ろに飛ぶ。

 

「……あぶねぇ。この気配の消し方……いや、別人か……」

 

 そうひとりごちる声には今までの余裕がない。

 かろうじてだが、小日向ムカイはその『写輪眼』の与える縛りから逃れていた。

 

 岩場であるここには、隠れられる場所などいくらでもある。

 自らが陽動となり、遠距離から〝仮面〟が小日向ムカイを幻術に嵌める。一度、幻術に嵌めさえすれば、動きに綻びが生まれる。あとはどうとでもなる。そういう手はずだった。

 

 絶好の機会だったはずだ。だが、それは既に棒に振られた。アドバンテージが失われた。

 あとは純粋な実力のみでこの男を倒さなければならない。

 

「さすがに一人はないと思ったが、こう上手く隠れられてるとはな……」

 

 苦虫を噛み潰したようにムカイはそう言った。

 追い詰められているのは、おそらくこちらだけではない。

 精神的な優位を完全にとられているわけではないことを確認する。

 

「…………」

 

 もはや、ばれた以上、隠れている意味はないと判断したのか、〝仮面〟が前に出る。

 

「『写輪眼』ってことは()()()だろうが……。知らないな……」

 

「…………」

 

 尚も軽口を叩く小日向ムカイのセリフを無視して、〝仮面〟は手裏剣を手にする。

 空にばら撒くようにして、数十の手裏剣が宙を舞う。小日向ムカイに襲いかかる。

 

「さすがに、それは当たらないぜ?」

 

 木の葉のように不規則に襲う手裏剣にも、小日向ムカイは余裕な態度だ。近距離を得意とするがゆえに、遠距離の攻撃を相手が選ぶからだろう。どう対処するかは心得ている。

 踊るように、軽やかに、手裏剣と手裏剣の合間を縫って、柔拳の領域に相手を捉えようとする。ようとしていた。

 

 その寸前で、小日向ムカイは動きを止める。

 ああ、明らかに、手裏剣に仕込まれているチャクラの量がおかしい。おそらくそれを、『白眼』で認識したから。

 

「――『風遁・風幻刃』」(かげやいば  )

 

「ぐっ!?」

 

 仕込まれた刃が飛び出すように、手裏剣たちのリーチが伸びる。

 切断に特化したチャクラ性質変化、風。それは刃物のリーチを伸ばすにうってつけのものだった。

 

 時限式。避けられたと一度認識した手裏剣が、再度襲う。慢心をつき、隙をつく。

 タチの悪い、効率的な術だった。

 

 心臓、肝臓、腎臓、頸動脈まで、人体の急所へ正確無比に刃が迫る。

 やはり、小日向ムカイは優秀な忍であった。不意であるはずの攻撃も、その被害を最小限にとどめさせる。

 傷はできれど、致命傷には至らない。高い身体能力で、その風の刃を凌ぎ切った。

 

「なかなか、やってくれるじゃねぇか……」

 

 

 その瞬間、小日向ムカイの右側後方、刃が閃く。

 

 

 時間差二段、死角を狙ったその斬撃に、小日向ムカイは一瞥もくれず刃を手で受け止めて応える。

 

「弱点を克服するために行うのが〝修練〟というものだ。まず、この片目だけ発現した『白眼』の死角を克服するのがオレの〝修練〟の第一歩だった。あまり、おっさん舐めんじゃないぞ?」

 

 そのまま握力の差で刃を奪い取り、放る。血液が滴る。

 振り向きざまに掌底を放とうとするが、射程範囲から〝仮面〟はすでに離脱していた。

 

 切った手札の全てに対処している――( )小日向ムカイのその実力に戦慄する。

 

 体術は言わずもがな。忍術は叩き割られた。手裏剣術さえその実力に無駄とさえ思える。幻術は発動まで漕ぎ着けずに。不意打ちでさえ、こうも利かない。

 

 ――手詰まり。

 

 その言葉が脳裏をよぎる。

 

 死線の数々を掻い潜ってきた彼の実力は、おそらく一族の長を務める者たちにも引けを取らない。

 上忍でも上澄み。そこには日々の鍛錬や、経験といったものだけでは語れない何かがある。

 

 だからこそ、諦めるわけにはいかない。

 その程度に屈しているのなら、此の先はない。

 

 打開するための策を捻る。

 いま、持ち得る手札で、最大効率の方法を考える。いま持てるチャクラで、術で、忍具で。目的は、小日向ムカイを打破するだけだ。それだけだ。

 

 そして、駆け出した。

 

 チャクラによる肉体強化、それによる常人ならざる瞬発力。だが、小日向ムカイの対応能力を超えるものでは決してない。

 

 約瞬き一回分。

 その速度でのクナイの斬撃。無論のこと、小日向ムカイほどの実力者であれば、それがまともに当たるはずがない。

 

「どうした? 死にたいのか?」

 

 近距離の圧倒的有利を信じて疑わない。

 だからこそ、標的がこちらに移される。確実に倒せる方から倒しておく、それが戦闘における常識であるから。

 

「八卦一掌」

 

 直撃。

 だが、同時に(カラス)が舞う。

 小日向ムカイが、あの〝仮面〟に気を取られているあの間に入れ替わった。

 

「影分身……!?」

 

 チャクラを均等に分けるそれは、『白眼』をもってしても見分けられない。

 (カラス)に隠れたその陰から、クナイの一撃を叩き込む。

 

「ぐっ……」

 

 右手前からの攻撃に、小日向ムカイは狼狽えていた。

 頸動脈を精緻に狙った攻撃に、完全に隙を突かれ、回避行動が遅れていた。

 

 血が飛び散る。

 忍は返り血を受けない。そう反射的に、一歩足を引く。

 小日向ムカイは、首元を手で押さえ、タタラを踏んで数歩下がった。

 

「ああ、やられたな……。なるほど、右眼は閉じておけっていうことか……。死角はカバーしてあるつもりだったが……はたけカカシに見習えばよかったな……。ああ……参考になった。次からはそうしよう」

 

 そう小日向ムカイは次を語る。

 

 

 ――浅かった。

 

 

 一撃で倒し得るには至らない。

 〝仮面〟の攻撃でわかったように、小日向ムカイの死角をとろうと、決して有効打になりはしない。

 

 だからこそ、透過能力を持つ左眼の『白眼』の視界の範囲外、そして、普通の眼であるその右眼の視野内にあたる右前方数度の範囲。そこに(カラス)で死角を作り、狙った。

 

 間違いなく、当たりだった。

 反応は遅れて、攻撃は届いた。

 

 だが、本来ならば死に至るその一撃を、驚異的な直感か、少し深い程度の傷に抑え、目の前にまだ、小日向ムカイは立っている。

 

 全身に、切り傷。掌では血が滲む。首筋からは、今できたばかりの傷からは、赤い液体がまだ止まらずに滴り落ちる。

 

 満身創痍。なのかもしれない。

 対してこちらは傷もなく、血も流れず、疲労感だけ。いや、冷静に、己の身体を顧みれば、体力的な疲労はさほどではないことがわかる。

 

 

 だというのに――( )

 

 

 ――勝ちが見えない。

 

 

 これ以上の策はなかった。

 まともに挑めど勝てないのは明白だ。

 傷つけど、その気迫に陰りは見えない。体術勝負に持ち込まれたら負けてしまうと簡単に予想がつく。

 

 追い詰めたのは事実だ。今までの策は悪くなかった。だが、地力が足りなかった。己の力では及ばない。

 まだまだ、未熟だった。

 

 〝仮面〟が、小日向ムカイに挑みかかった。

 この傷だらけの状態なら、倒せると踏んだのかもしれない。

 小手先なし、クナイを手に斬りかかる。

 

 まずい。間に合うかはわからない。だが、止まってはいられなかった。

 

 とられた回避行動は緩慢だった。

 あれだけのダメージを受けたのだから当然だと、そう切り捨てられるほどの違い。

 その違いで、〝仮面〟のクナイは小日向ムカイの脳天を割る。

 

 

 ――丸太に変わった。

 

 

 いつの間にか影分身が仕込まれていた。

 背後から〝仮面〟に掌底が迫る。すんでのところでたどり着いたが、完全なフォローには間に合わない。

 不恰好に、掌底を受けてしまう。

 

「八卦一掌」

 

 日向の柔拳、というのは内部に響く。点穴を突き、流れを断ち、相手のチャクラを使いものにならなくする。

 受ければ、戦力外は必至だろう。

 

「二掌、四掌」

 

 肩に、腕に、胸に、脇腹に、次々と身に当てられる。

 内臓が傷つき、血がせり上がり、だが、吐き出す暇もない。

 

「八掌――とっ……!」

 

 手裏剣が小日向ムカイに襲いかかった。

 死角である右後方から。

 だが、易々と手裏剣を躱す。ネタは割れ、風の刃にあたるという下手も打たない。

 

「……っ!?」

 

 それどころか、攻撃をやめ、その手裏剣の主のもとへ軽やかに跳ぶ。

 ああ、確かに、柔拳を打ち込まれたこの身体では反撃などかなわない。優先順位からして妥当か。

 

「ずいぶんと舐めてくれたな?」

 

 逃げきれない。

 そのまま小日向ムカイに距離を詰められ、柔拳の範囲に入る。もはや、勝ち目などない。

 

 数度の回避。数度の抵抗。

 だが、どれも虚しく、いなされ、数えるほどもなく、首を掴まれる。

 

 それは攻撃と言うには生温かった。

 ギリギリと首を絞められたまま、その小日向ムカイの片腕の腕力だけで宙吊りにされる。

 バタバタともがくも意味がなく、徐々に動きが緩慢に、その力が抜けていく、命が失われていくのがわかった。

 

 

 

 何分たっただろう。

 ガックリと項垂れる〝仮面〟を片手に、まるで物のように、人だったそれを放り投げる。

 そして、小日向ムカイはこちらへと振り向く。

 

「チャクラもまともに練れねぇはずだ。どうだ? おとなしく降参するっていうのは?」

 

「断る。降参したところで、生かしてはくれないのだろう?」

 

「違いねぇ」

 

 かろうじて、立ち上がれはしたが、これ以上の戦闘は、自分には不可能だとわかる。

 

「どうやら、『写輪眼』もまともに使えねぇようだな……」

 

 そう言いながら、こちらの眼を決して見ないのは不測の事態を警戒してか。

 不意を打たれないか、そう警戒しながらも、ゆっくりと、小日向ムカイはこちらへと視線を向ける。

 

 たとえ、ここで『写輪眼』を使おうとも、見え見えの幻術には、小日向ムカイは引っかかってはくれないことには違いない。

 

「……だが、よくその状態で立ち上がれるな……」

 

 歩けもしない、動けもしない。

 指先の一つでも動かしてしまえば、痛みが全身に響き、再び倒れてしまいそうなほど。

 

 それでも、この両足で、ここに立っていなければならなかった。

 

 

 数歩の距離。手を伸ばせば届く距離。

 死が近づいてくるのだと、そう錯覚を起こすほど。

 

 その存在は強大だった。

 

 

「――終わりだ」

 

 

 トドメに放たれた柔拳。

 

 

 その直前にしゃがみ込む。脱力し、倒れこむように。

 その動作に、柔拳を躱すほどの速度はない。

 

 

 だが、眼前で、その柔拳は止まっていた。

 

 

「なぜ……? お前が――」

 

 

 

 その目は、己の背後に釘付けにされている。

 

 

 それは一瞬のうちに起こった。

 動作に淀みの生まれた小日向ムカイは、強襲される。抵抗する暇さえ与えず、襲撃者は、小日向ムカイの左眼へと指を滑らせ、血飛沫と共にその『白眼』を抜き取った。

 

 液体の入った瓶にそれを落として、しまいこむ。

 

 一切の滞りも、迷いもない。

 

 ああ、間違いなく、あの探していた犯人はこいつだ。あったはずの遺体はすでに消えている。死んだはずの〝仮面〟がそこにはいた。

 

 

「がっ……はっ……!?」

 

 

 小日向ムカイが倒れる。

 あれほどの強さを誇っていた忍だったが、その幕切れはあっけなくとさえ思えてしまう。

 

 自死、だった。

 自らのクナイで腹を切り裂き、その傷により倒れていた。

 原因は、幻術かなにかだろう。はたまた、情報を流していた里から、なにかを仕込まれていたのかもしれない。

 

「し、死体を偽造か……。オレの『白眼』でも気付けないとは……一体、なんの術だったんだ……?」

 

「…………」

 

 〝仮面〟は答えない。

 それが忍術か、別のなにかなのか。それは決して、己にも知らされてはいなかった。

 

「うちはの秘術ってやつか……」

 

 そう小日向ムカイはどこか納得したように、それでもまだ不満のようにこぼした。

 〝仮面〟はそれにも、無視を徹底していた。

 

「こ、こんなことになっちまったが……。う、裏切りはオレ一人の了見だ……。嫁や息子は関係ねぇ……」

 

 誰にとも呟くでもなく、小日向ムカイは言う。

 

「虫の良い話だがなぁ……」

 

 その手がなにかを探しているように思えた。

 それを察し、〝仮面〟は小日向ムカイの懐から、乱暴に一本のタバコを取り出し、咥えさせる。

 

「火を……」

 

 ライターの火は使わない。

 それは弱い火遁だった。

 だが、タバコの火には少し強すぎる。一気に半分燃えてしまう勢いの火で……。

 

「ハハッ、容赦ねぇ……な……」

 

 それが最後の言葉だった。

 

 優秀だった忍は、裏切り者と、里に仇なす者となってしまった一人の忍は、そうして死んでいった。

 最期には何を思っていたのか、その表情に、曇りは見えない。

 そのあり方は、己の心に一つの影を落とし。

 

 嫌になるくらい、空は晴れていた。




???「こやつは日向ではない。小日向だ」

???「白眼をもう片方残している。その意味がわかるかな?」


 そういえば、この間、ほのぼのタグを追加したんです。ええ、ほのぼのですよ。ほのぼの。
 良いですよねぇ。

 みなさん、たくさんの評価とお気に入りをありがとうございました。こう、目に見える形であると、まだもうちょっと頑張れる気がしてきます。

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