なにもみえない   作:百花 蓮

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注意、主人公が不快感を及ぼす行動をします。


仇敵

 あれからいろいろ大変だった。

 

 私は自分の意思を表明して、任務に行くことになった。

 フガクさんは少し驚いていたようだったし、イタチはどこか渋るような相槌で私の決意を聞き届けていた。

 

 ただ、サスケだけは私に期待を向けてくれる。それだけでも、私が頑張る必要があるんだ。頑張る価値はあるんだ。だから何もせずに留まり続けている理由はない。

 

 知識やら、身体能力やら、忍術やらの簡単な、形だけのテストを受けて、私は忍に混ぜてもらった。

 動かない標的への的当てとか、ただの『分身の術』とか、首を傾げるような内容だったし。たぶん、落とす気はなかったのだろう。

 

「本当に行くんだな、ミズナ」

 

「うん、行く。でも、驚いたよ。まさか逆になるなんてね」

 

 靴を履き、身支度を整えるのが私で、家から送り出すのがイタチ。

 惜しいことに、本当に惜しいことに、これからイタチは一週間、私のいない一週間、お休みだ。

 働き過ぎのイタチにと、フガクさんが気を使って無理やり休みを取らせたのだ。

 

 狙いすましたような日程。これは上層部を恨むしかない。

 

「姉さん!」

 

 そう言って、急いで駆け寄ってくるサスケだ。

 今は朝早い時間。いつもならサスケは寝ているのに、私のために起きてきてくれたのだ。私のために。

 ふふ、嬉しい。

 

「サスケ。兄さんに、いっぱい修行つけてもらうんだよ?」

 

「うん!!」

 

 お別れに、私のいなくなる時間のぶんだけサスケの頭を撫でておく。

 

 私がいない間、心配だけど、完全無欠のあのイタチがなんとかしてくれるはずだ。

 憂いはない。悔いはない。安心して、私は一歩踏み出せる。

 

 そんな出立だというのに、困ったように、イタチがこちらを見つめていることがわかる。

 相も変わらず、しょうがない人だ。自分を責めている姿を簡単に想像できる。

 

 私は顔を上げ、真っ正面にイタチをとらえる。

 

「大丈夫。あなたのせいじゃないから。あなたは悪くない。あなたはなにも間違ってなんかはない。……あなたはあなたの信じる道を行って―( )―お願い。〝夢〟を追って……。諦めることは、()()許さないから……」

 

 もう、あなただけの〝夢〟じゃない。

 

 

 その言葉に込めた意味が、伝わったのかはわからない。

 ただ、これだけは言える。

 

 ()()()()()()()()()()()()である限り、この日はきっとやってきたのだ。

 ()()()()()()()()()()()()である限り、避けられない出来事だったのだ。

 

 だから歩みを止めてはならない。

 私を言い訳にしてはならない。

 私にも覚悟ができている。ただ待っているだけはやめだ。置いていかれるのはやめだ。

 

 なにを犠牲にしようと、必ず―( )―。

 

 この想いが伝わったのかはわからない。

 けれど、イタチは笑って……。

 

「必ず帰って来い、ミズナ」

 

 そして、私は躊躇する。

 これに頷くことは、なにか違う気がしたのだ。

 

 もちろんのこと、今回の任務はただの演習。戦争に行くわけではない。よほど運が悪くでもない限り、無事に帰って来れるはずだ。

 

 しかし、そうだ。もっと言うべきことがある。

 私は思いついた。ただ首を振るより、それよりずっといい言葉を―( )

 

「大丈夫。私はいつでも、あなたたちのそば( )にいるから……それを忘れないで―( )―?」

 

 だから私はそう答えた。

 

 

 ***

 

 

 私のいつも乗り越える、うちはの集落を囲う塀の前に、男が一人立っていた。

 

「久しぶりだな」

 

「……うちは、シスイぃ……ッ!!」

 

「いや、そう怖い顔、するなって……」

 

 意気揚々と、うちはの集落から出発しようとしたのにこれだ。

 なんで私がこんなやつの相手をしなくちゃならない。顰蹙を買って当然だろう。

 

「ああ、わかるさ。オレ、嫌われてるだろう?」

 

「別に……」

 

「気を遣わなくてもいい。あれだろ? 大切なお兄ちゃんが取られたみたいで――」

 

「滅べ」

 

 拾った石ころを投げた。

 だが、さすがは、うちはシスイと言ったところか、簡単に少し体を傾けるだけで避けてしまう。

 当たらない。

 

「すまない、すまない。今日は話があってきたんだ」

 

 今までのからかい調子とは違う。真剣な声色だった。

 石を投げる。当たらない。

 きっとこいつの言うことだ。里のため、うちはのためと、ロクでもない内容に決まっている。

 

「聞いてあげない……」

 

 だから、突っぱねる。

 私にとって、それはどうでもいいことなのだ。

 石を投げる。当たらない。うちはシスイの頭の上を通り過ぎて行った。

 

 私にとって大事なのは、ただ一つ。家族のこと、その中でも特に重要なのが、兄弟との関係だ。

 

 まず第一目的、イタチの〝夢〟に力を貸すこと。無理にでも叶えさせる。そのためなら私はなんだってする。

 そしてもう一つ。サスケのカッコいいお姉ちゃんでいることだ。だから、もう置いて行かれたままは嫌だし、逃げない。そう、逃げない。うん、できるだけ。

 

 そんな思いを知ってか知らずか、シスイは石を避けたまま、膝を折る。手を地面に突く。

 話って、なんだ。一体なにをしようというのだ、この男は。

 

()()()を代表して、お前に謝罪をさせてもらう」

 

 そのまま深々と頭を下げた。

 日常生活を送る上で、それは滅多に取ることのないであろう姿勢だ。

 おそらくその姿勢は、こう呼ぶのだろう―( )―土下座と。

 

「なんのつもり?」

 

 齢九にして、中忍か上忍かは知らないが、強い忍に土下座をされているのだ。忍は簡単に頭を下げるものでもないし。

 これで動揺しない人はいないだろう。

 

「独り善がりかもしれないが、こうしないと、俺の気がすまないんだ。お前が苦しんでることは知ってる。昔のお前はもっと喋るやつだったし、もっと明るいやつだった。辛い想いをしてるってこともわかるさ。……その原因が()()()にあるってことも」

 

 馬鹿だ。こいつは馬鹿だ。私のことを誤解している、それを抜きにしようとも、確かに、こいつは馬鹿なのだろう。

 私はそう思った。

 

 私が望んだわけでもないのに、こんなことをしているのだ。それも、考える必要のないことに責任を感じて。

 そんなもの、そんな些細な関係なんか、ないものと切り捨てて、知らぬ存ぜぬで通せばいい。

 

 

 ああ、気分が悪い。

 

 

「だけど、()()()を見捨てないでくれ。()()()であることに誇りを持てとは言わない。けど、()()()であるということを、決して捨てないでくれ」

 

 今、わかった。私はこいつのことが嫌いだ。

 表現するなら、そうだ。だれに照らされるでもなく輝いて、どんなに明るい場所だろうと、たとえ太陽に照らされていようと、その輝きは目に見える。

 

 その在り方に、陰りはあろうと闇はない。

 それが、うちはシスイなのだろう。

 

 それは掛け値なしに立派なことだ。けれど、だからこそ、私はこいつのことが嫌いだ。絶対に早死にするし。

 

 反射的に、私はこいつの頭を踏みつけていた。

 大丈夫、靴は脱いでる。

 

 絶対にこの頭を上げさせてなるものか。

 本当に、自分はワガママで不甲斐ない。それが、うちはシスイという人物を通して痛いほどに浮き彫りになる。

 

 だから、今の私の顔を見せるつもりはない。

 なんでこんなに、私は涙もろくなったのだろうか。

 

「頼む……。里のためにも、()()()のためにも、お前の力が必要だ……! 力を、貸してくれ」

 

 思わず、ため息が溢れる。

 

 計画的犯行だ。

 なぜだか知らないが、こいつは私にどうやっても接触したかったんだ。

 そして、頼まれるのは十中八九、後ろめたい内容。

 

 まず、私の家族がいるから、家に押しかけるのはダメだ。

 そして、この場所を選んだのは、この私が()()()()()()()()()()()()()()()を選んだのは、()()()()()()()()()ため。

 だからチャンスは今日限り。結構早くに家を出たはずだけど、それより前にここに陣取っていた。

 全く、なにしてるんだか。

 

「イタチは、このこと、知ってる?」

 

「いや……」

 

 足を下ろして靴を履く。

 気まずそうなその返事には、呆れてしまう。

 私のことをなにも知らないのか、いや、もしかしたらこの男は、そうすることが卑怯な行為だと思っているのかもしれない。

 

 そうだとしたら、見上げ果てたやつだ。

 

 少しだけ、ほんの少しだけ、うちはシスイという人物のことを見直してしまった。むろん、私からすれば悪い方に。

 嫌いなものは嫌いだし。

 

「じゃあ、協力してあげる――」

 

 私は決めた。

 ちゃんと前に進むって、決めた。置いては行かれない。むしろ、置いていくくらいでちょうどいい。

 

 うちはシスイは顔をあげる。もう少し時間がかかると思っていたのかもしれない。私のことを歓喜の混じった疑心の目でマジマジと見つめていた。

 大丈夫、私はちゃんと笑えている。

 

 そして、私は手を差し出す。

 

「私はイタチのために、なにをすればいい?」

 

「お前……」

 

「勘違いしないで、あなたのためじゃないから……」

 

「ああ、()()()のためだ」

 

 なんだろう、この、噛み合ってない感じは。

 

 

 ***

 

 

 砂隠れの里。

 現在の一国一里制において、五つある大国のうちの一つ、風の国における軍事力としての役割を担っている。

 

 しかし、国のほとんどが砂漠。資源に乏しく、五大国の中で経済力も最低。そしてそれに相関し、人口も他の大国ほど多くはない。

 

 そんな国だが、そんな国だからこそか、国のトップの大名たちは、あの悲惨な戦争―( )―第三次忍界対戦の後から軍縮に力を入れている。

 軍事力を維持するには、どうしてもお金がかかる。武器を買わなければならないし、人材の育成だってタダじゃない。

 こうした高額な費用を削減できれば、国はもっと楽になるという算段だ。

 

 砂隠れの里と木ノ葉隠れの里の同盟にも、やはりこの問題が絡んでいるのかもしれない。

 木ノ葉に頼れば、そのぶん、砂がいらなくなる。そのぶん、軍事費が削減できる。

 

 現状、自国で軍事力を賄うよりも、他国にある里に任務を委託した方がずっと安上がりで済む。

 背景には、その方が砂が弱体化して好都合だとか、軍事力を失った風の国を食いものにしようだとか、そんな考えもあったりするかもしれないけど、それは知らない。

 ただ、そっちの方が安いという事実がある、とだけ言っておこう。

 

 まあ、ともかく。つまりどういうことかというと、砂隠れの里は今、危機的な状況下にある。ジリジリと資金が削られ、あらゆる面で縮小を余儀なくされている。

 まだ大丈夫、と言っていられはするものの、五年後、はたまた十年後にはどうなっているかわからない。今、なんとか対策を打ち出さなければ、近い将来、痛い目を見ることは必至だ。

 

 もっとも、こう考えてはみたものの、こんなふうなお国柄的事情は、私の与り知るところではない。勝手にやっていればいい。

 

「というわけで、オレたちの役割は以上。なにか質問はないか?」

 

 私の現在の上司である上忍―( )―小日向ムカイはそう尋ねる。

 小日向というのは、()()()と同じく血継限界、三大瞳術の一つ―( )―『(びゃく)(がん)』を持つ一族である日向一族、その遠縁であることをあらわす。

 

 下忍三人、上忍一人のフォーマンセル。しかし、彼は下忍の指導役である担当上忍というわけではない。

 私の所属する班は、要するに寄せ集め。各人の都合によりはぐれ者となった下忍のまとめ役に、彼が抜擢されたというわけだ。

 

「潜入と、ターゲットである重要書類の保管状況の確認。あわよくば奪取。重要な役割、ですね」

 

 一緒の班の下忍さん。

 いかにもインテリと言わんばかりのオーラを感じる。そんな少年だった。

 

 ちなみに、もう一人は無口な油目一族の人だ。

 

 その少年の確認に、小日向の上忍さんは肩をすくめる。

 

「まあな。だが、きっちりと向こうさんの陽動が動いてくれる。まだ初日だ。こっちはこっちで気楽にやろうぜ? 気楽にな」

 

 その言葉にはどうしても軽い印象を受けてしまう。そして、漂ってくる染み付いたような煙草の匂いと酒臭さに、その印象は増すばかりだ。

 潜入だっていうのに、大丈夫か心配になる。

 

 期限は一週間。

 風の国の打ち捨てられた鉱山を改修して作られた演習用の砦が舞台だ。

 機密情報がそこにあるという設定で、私たちはその書類を回収しなければならない。

 

 この演習、下忍たちに質の良い経験を積ませることがメインらしい。いかにも火影さまらしい考えだ。

 ただ、里のメンツだってある。上忍がなにもしないわけはない。

 

「それで、潜入経路はわかったか? うちはの嬢ちゃん」

 

「まだ……、あっ、来た。……ダメね。やられたみたい。半分くらいしか構造はわからなかったかな……。また送る?」

 

 感知タイプで影分身が得意な私は、こういう偵察にもってこいだった。というわけで、内部構造を把握するために数体、変化をかけた影分身を送り込んでいたところだ。

 

「チャクラは?」

 

「今日はお休みにしてほしいな?」

 

「よし、半分もわかりゃ上出来だ。このまま行くぞ」

 

 私としては、全部、影分身に任せたかったけど、そうはいかないみたいだ。

 行く、といっても、まだ合図があるまで岩陰に隠れながら待機しなきゃならない。暇だ。

 

「少し、いいですか?」

 

 インテリ君が小日向の上忍さんにそう問いかける。

 

「なんだ?」

 

「しっかりと、メンバーの能力を確認しておきたいところなんですが」

 

 なんか、こっち見てる。

 

 なるほど、そういうことか。

 

 砂隠れの里で現地集合、即興で組まれた小隊で、作戦に参加。そんな突飛なスケジュールで、ついさっき、特技を聞かれて、今に至るというわけだ。一週間あるんだから大丈夫だろう、とね。

 現地集合になったのは、だいたいシスイのやつのせい。そのせいでどれだけ私が絶望したか……。

 

 そういうわけで、互いの実力なんて知らない。自己申告だけだ。だから、私が忍として使えるのか使えないのか疑われているというわけ。

 この中で一番年下だし、か弱い可愛い女の子だし、目が見えないし、当然と言えば当然だろう。

 

「二時の方向」

 

 私はそう呟く。

 その台詞に、みんなは揃ってバッと右斜め前に注目した。

 さすがは忍だ。統率が取れていて実にいい。

 

「五、四、三、二、一」

 

 カウントダウンの終わりとともに狼煙が上がる。

 戦いの始まりに、どさくさに紛れて放たれた火遁の煙だ。陽動の合図でもある。

 これで私たちがようやく本格的に動くことができる。

 

「はは、こりゃ、合図、いらねぇな……」

 

 そう一人ごちる小日向の上忍さん。

 私の有用性をアピールできたみたいで良かった。




 最近、調子が悪いのでヤケにひと描写が短くなります。

 更新が遅いのは、ちょっと、血継限界三つくらいぶち込んだチートなオリキャラを考えてたせいです。ただ、主人公以外で出てくるオリキャラはなかなか好みに合わないので、多分、登場しません。はい。

 あと、お気に入りが千を超えたので、アンケートを取りたいと思います。カップリングについてです。
 詳しくは活動報告にて。投稿後に活動報告を書くので、少し時間がかかりますが、ご了承を。

 追記、書き終わりました。
 syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=162630&uid=127986

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