ハシュマルの兵器で一番強いと思うのはやっぱりビームキャノンだと思うんですよね。だって射程が半端ないですもの。普通のガンダムシリーズなら戦略兵器級の性能ですよ。なおナノラミネートアーマー
次回は降下戦から火星地表でハシュマルとの直接戦闘という予定です。果たしてラフタは男ロマンである鉄塊で強大な敵を倒すことが・・・出来ないかなぁ。
「火器管制、姿勢制御、異常なし。戦闘システム、オールクリア。これでようやく実戦への投入が出来るわ。」
整備中の辟邪のコックピット内。機体の最終調整を終えたエーコは満足気に笑みを浮かべる。エースが乗る機体を仕上げた達成感に、彼女はこの上ない喜びを感じていた。
「アジーの獅電も大丈夫ですか?」
「ああっ!全く問題ないぞ。武装に関しても120%OKだ。」
機体内から彼女は、外で整備を続けるメカニックへ通信で問いかける。コンソール越しに聞こえる男の声からは、自信に満ちた返事が返ってくる。
「これで準備は完了ね。あとは何も起きずに穏便に事が終わるのを願うだけ・・・か。」
エーコがそう呟いていると、辟邪の近くにその搭乗者が現れ、開かれたコックピットへ顔を覗かせる。
「ありがとうエーコ。この機体を使うことが出来れば、どんな敵にだって負けたりはしないわ。」
「ラフタ・・・ええ、もちろんよ。この辟邪にはタービンズの誇りが詰まっているんだから。戦いになったとしても、絶対に帰ってきてもらうわよ!」
「うん・・・!でもさ・・・少し、気になることがあるんだよね。」
「えっ、どうか・・・したの?」
覇気に満ちた声を上げるラフタとエーコ。しかしその言葉の後に、ラフタは辟邪の外観を見ながら申し訳なそうに口を開く。
「機体の仕上がりが万全だというのは分かるよ。うん。ただ・・・あの腕に付いているあれは・・・何なのかな?」
ラフタが訝しい顔となって見つめる辟邪の右腕。本来シールドを装備するであろうその箇所には、機体バランスを損ねる程に巨大な釘打ち機が備わっているのであった。
「何って・・・あれよ、固くてぶっといのをぶち込む強力な・・・」
「なんでそんな変な言い方するのよ!あれ、私が負けたグレイズに装備されていたやつよね。」
「ええ。エドモントンであなたたちが戦った機体、グレイズアインに搭載されていたパイルバンカーを参考に制作された装備よ。」
一切の悪意もなく、エーコはラフタに向かって包み隠さず物事を話す。ラフタの負った傷を理解してなお、彼女はその装備を辟邪の腕に取り付けているのであった。
「やっぱり・・・怖いかしら?どうしてもあなたに抵抗があるのなら、取り外して火星に向かうことも出来るけど・・・」
エーコの提案にラフタは首を横に振る。その顔、その目には、自らの身に降りかかった惨劇を乗り越えようする覚悟の色が宿っていた。
「そんなことを気にしていたら、命がいくつあったって足りないよ。ドリルだってパイルバンカーだって、敵を倒すためだったら使ってやるんだから・・・!」
「そうだぁっ!鉄塊は男のロマンっ!銃なんか捨てて両腕にそいつ付け・・・」
「2つもいらないわよっ!まったく・・・あのメカマニアジジイの尻にぶち込んでやろうかしら・・・!」
コンソールから響くメカニックの男の叫びに対して、エーコは激怒しながら声を発する。その姿に気圧されながら、ラフタは彼女に声を掛ける。
「ほ、本当に大丈夫なの・・・?」
「それなら心配いらないわ。むしろ、高出力のナノラミネートアーマーを打ち破るには、必須となる装備ね。あんなバカみたいなおっさんだけど、兵器に関する研究ならテイワズで右にも左にも出る人間がいないやつが制作した物だから。」
「まぁ、エーコがそう言うのなら・・・」
パイルバンカーの信頼性を説き、再度不安となり始めたラフタは納得をする。大型の釘を打ち込むのにわざわざ接敵して使用をする必要はあるのか。遠距離から打ち込む手段は無いのか・・・と、無粋な考えを彼女は口に出そうとしないのであった。
◇
「それじゃ、気を付けるんだよ。」
「はい。姐さんもダーリンのこと、お願いしますね。」
「ああ・・・任せておきな。」
「おいおい・・・ずいぶんな扱いをしてくれるじゃねぇか。」
シャトルのモニター越しに、名瀬とアミダの見送りを受けるラフタ達。彼女の軽口に名瀬は笑みを浮かべて不満を述べる。
「ふんっ・・・ダーリンにはもう、本当の私なんて見せてあげないんだから・・・!」
「ははっ・・・ずいぶんと嫌われちまったな。」
「安心してくれ。ラフタのことは、私とエーコがしっかり助けるからな。」
「ああ・・・頼んだぞ。必ず、生きて帰ってこい。必ずだ。」
アジーの言葉に対し、名瀬は3人へ強い口調で静かに声を上げる。それに対してシャトルの3人はしっかり頷く。無言の肯定は、家族としての信頼を確かめ合うに十分なのであった。
「うん・・・行ってくるよ。あいつらを・・・ダーリンの大切な家族を、私が守るから。」
通信が切れた後、ラフタは静かに言葉を放つ。前を向くラフタを乗せたシャトルは、火星へと飛び立っていった。
◇
「もうすぐギャラルホルン火星支部の通信網に入るわ。そこで火星の最新状況も分かりそうね。」
「なんだか・・・本当に妙な感じね。2年前までは敵同士だったのに、今は協力してくれる間柄になるなんて。」
「形式上だけど、2年前に地球圏で戦った時も鉄華団とギャラルホルンが戦っていただけで、テイワズは無関係だったからね。その鉄華団も、今ではマクギリスと良好な関係というわけで・・・」
ラフタ達を乗せたシャトルは火星の周辺宙域へ到達していた。着陸にはギャラルホルンの許諾が必要ではあったものの、鉄華団と協力関係にあるタービンズの艦船が止められることはなく、これまでも民間船と同様に航行しているのであった。
「あら・・・早速、通信が入ったわ。ずいぶんと早いわね。」
シャトルのコンソールから通信音が響き、操縦をしているエーコがそれに応じる。
「こちらはタービンズの輸送シャトルよ。マクギリス・ファリド司令に火星着陸の許可は得ているはずだけど・・・」
「ギャラルホルン火星支部、新江・プロトだ。事情はファリド中将から聞いている。しかし、今はそれとは別に早急に伝えておく必要あってだな・・・」
「早急に・・・?」
「ああ、落ち着いて聞いてくれ。」
ギャラルホルン火星司令の言葉に、シャトルの3人は訝しく思い身構える。そして、次に彼から発せられる言葉は彼女たちにとって良からぬ話であった。
「現在、火星地表で戦闘が発生をしている。場所はクリュセ近郊のレアメタル採掘場。鉄華団の管轄している地域だ。」
「なっ・・・!」
「そんな・・・まさか、もう・・・!」
淡々と告げられる状況に絶句をするラフタ達。それを意に介さず、男はさらに言葉を続ける。
「我々ギャラルホルンからも既にファリド准将とその僚機が支援に向かっている。しかし、戦況を変えられるかは微妙なところだ。」
「やはり、モビルアーマーが暴れているってことなのか・・・!」
苦虫を潰したような顔となるアジー。同様にエーコとラフタもまた、緊張と不安が彼女以上に顔へと出る。
「火星へのシャトル着陸許可はすぐに出すとしよう。しかし・・・そこからモビルスーツを出撃させるほどの猶予は残されていないだろう。」
「それじゃあ、私とアジーは・・・」
一刻を争う状況に、彼女たちの取るべき手段は限られていた。
「戦闘区域の座標を送信する。周辺宙域へと向かい、機体を火星へ直接降下させたほうがいいだろう。」
◇
赤き星の上空。ラフタ達を乗せたシャトルはギャラルホルンに指定された大気圏降下ポイントに到達していた。
「広域レーダーに複数のエイハブ・ウェーブ反応。まだ戦闘は続けているようね。」
「それじゃあ、鉄華団はまだ・・・」
僅かに安堵をした声を発するエーコとラフタ。戦闘が行われているということは、友軍が健在であることを意味しており、鉄華団が生き残っているということでもあった。
「モビルスーツにはナノラミネートアーマーが施されているから、余程のことが無い限り熱暴走を起こして爆発はしないわ。念のため、2機ともグレイズ用のシールドを携行させておくわ。」
「念のためって・・・私たちが大気圏内で喧嘩でも始めるっていうのかい。」
「何バカなことをいっているのよアジー。無いよりかはマシ。気休め程度にはなるってことでしょ。」
「そういうこと。降下後はすぐにパージして戦闘態勢に移行してね。」
すでに自機へと乗り込んでいたラフタとアジー。彼女たちの乗機、辟邪と百錬の前面のハッチが開かれ、発進の体勢を取る。
「2人とも、必ず生きて帰ってきて。ううん・・・みんなで、必ず帰ってきて。」
「ああ・・・分かっている。まだ死ぬつもりはないさ。ラフタの惚気顔を見るまではな。」
「ちょっとアジー!こんな時に何を言っているのよ!」
「ラフタ、名瀬への別れ話は自分の口から切り出さないと。」
「エーコまでっ!も、もう・・・バカっ!」
張り詰めた緊張感を解そうと、3人は互いに冗談含みの言葉を絶やそうとはしなかった。
「必ず帰ってきてよね・・・約束なんだから・・・!」
「ええっ!ラフタ・フランクランド、辟邪、出るわ!」
エーコの言葉に返事をした後、ラフタは辟邪のスラスターを噴射させてシャトルから飛び立つ。
「アジー・グルミン、百錬、出るぞっ!」
それに続いてアジーが搭乗する百錬も発進をする。漆黒の空間へと飛び出した2機のモビルスールは、スラスターを全開にして火星の地表を目指すのであった。
「本当に・・・約束だからね、ラフタ、アジー・・・・」
シャトルのコックピットから、エーコは小さくなっていく2つの光を見つめていた。
◇
「新型の調子はどうだい?」
「大丈夫、いい感じよ。テストの時よりも調整が出来上がっているわ。」
「そいつは何よりだ。たが、武器の運用テストは・・・・」
出撃後から大気圏へと突入する束の間の会話。アジーは辟邪の駆るラフタに問いかける。
「右腕のこいつ以外は百里のものと同じだし、問題は無いわよ。ただ・・・モビルアーマーに通用するかは分からないけど。」
「確かに・・・そいつを言ったら何も聞けないな。ま、私の方も背中のこいつでどれだけ効果があるか、という感じだからな。」
アジーが搭乗する百錬の背には、機体重量を増大させるほどの巨大な砲塔が備え付けられていた。
「こいつも男のロマンってやつなのかねぇ・・・まったく、理解し難いものだ。」
「一発限りの大口径徹甲弾・・・鉄華団の連中だったら目がキラキラしそうな代物よね。」
男のロマンを理解出来ないことに愚痴を零す2人が乗るモビルスーツは、大気圏への突入準備を開始する。
「姿勢制御には十分に気を付けろよ。いくらナノラミネートアーマーがあるとはいえ、機体が損傷をしたら熱暴走でお陀仏だからな。」
「分かっているわ・・・それくらいどうってこと・・・」
そうラフタ言葉を返そうとした直後、辟邪のコックピットに突如として警告音が鳴り響く。通信越しにそれを聞いたアジーは咄嗟に声を上げる
「おい、どうしたんだ・・・!?」
「ロックされた?何これ・・・まさか、地表から・・・」
訝しいと顔となりながら、ラフタは火星の地表を凝視する。するとそこからは小さな光が発せられ、彼女はその光源に異常なまでの恐怖を感じて辟邪の大きく変える。
「っ!?」
「ラフタっ!?」
次の瞬間、辟邪が通っていた軌道上を極太の光線が駆け抜け、数秒後には何事もなかったように、その空間は漆黒に包まれていた。
「な、何なのよ・・・あれ。」
「地表からの攻撃なのか・・・ウソだろ、こっちはまだ大気圏外にいるんだぞ・・・!」
見えざる敵からの先制攻撃。それは歴戦のモビルスーツパイロットアジーを戦慄させ、彼女が対峙するものへの恐怖を増大させていた。
「あんなものを降下中に当てられたら一発で終わりだっ!ラフタ、ここは軌道を大幅に変更して戦闘区域から離れ場所へ降下を・・・」
その言葉を遮るように、ラフタは彼女に対して言葉を放つ。
「アジーは軌道を変えて降下して。私はこのまま突っ込むわ。」
「ばっ・・・何を言ってるんだ!」こんなところで死ぬつもりかい!?」
声を荒げるアジー。それに対して冷や汗を流しつつ、ラフタは言い返す。
「面白いわ・・・やってやろうじゃない。私と辟邪の力・・・見せてあげるわ!」
「おい、ラフタっ!ああもう・・・!調子が戻ってきて、私は嬉しいよ!」
自らの言葉に聞く耳を持たなくなった相棒に対して自棄となりながら、アジーは彼女の言葉に従って降下ポイントから離脱していく。
「さぁ・・・掛かってきなさい。火星に降りて、あんたの面(ツラ)を見るまで、私は絶対やられたりしないわよ・・・!」
恐怖を乗り越えた先に訪れるのは闘争の心。見えざる敵からの挑戦に対して、ラフタは戦士として臨もうとしていた。そして、軌道を修正した辟邪は彼のものが待ち受ける赤き大地へ突き進むのであった。