Turbine's Mother   作:Scorcher

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直截なサブタイトルです。原作でもラフタは割とな感じでしたからね。その辺りを引き伸ばしているのが、今作のラフタという感じでもあります。

残念ながら今回は、戦闘シーンというか訓練シーンが僅かだけになってしまいました。一応状況は進んでいますので、次回には対モビルアーマー戦までいきたいと思います。

色々とすっきりした状態で挑むことが出来るヒロインですので、デカ物相手にも善戦出来ると思います。まぁ止めを刺すのは本編の主人公になる予定ですけd(ry


Phase-6 『浮気』

歳星周辺のテブリ帯を飛び回る一機のモビルスーツ。スラスターを最大出力で噴射しているにも関わらず、その機体は開放空間を駆け抜けるように高速機動を展開する。

 

「ラフタ、新型機の乗り心地はどう?」

「すごい・・・獅電は当たり前だけど、百里とも比べ物にならないくらいに動ける。まるで、自分の手足が動いているような感じ。」

 

大型の障害物を蹴り上げ、さらに機体速度を上げていくラフタ。彼女が搭乗しているテイワズの最新型モビルスーツ・辟邪の運用テストは順調に進んでいた。

 

「そりゃあ、あなた専用に調整がされているモデルだからね。これで使いにくいなんて口にしたら、整備班のみんなが怒っちゃうわよ。」

「へへっ・・・私ために頑張ってくれて、嬉しいよ。」

 

通信でエーコの声を聞きながらも、最大速度を維持して宇宙空間を移動し続ける辟邪。新たな機体を受け取り、より強い力を手に入れることが出来たことに、ラフタは戦士として喜びを感じていた。

 

「これなら・・・また、昭弘と一緒に戦うことも・・・!」

「ん?いま何か言った?」

「な、なんでもないよっ!ねぇエーコ、戦闘テストはまだ出来ないの?」

 

独り言を聞かれて僅かに狼狽えるラフタ。それを誤魔化すように彼女はエーコに対して問いかける。

 

「既存の武装は装備出来るけど、専用武器の完成はもう少し先になるわね。機体を同時に開発は進めていたのだけど、軽量化に思ったよりも時間を取られた感じよ。」

「武器が使えるだけで十分だよ。あとは私の力で補うから。」

「頼もしいわね。期待しているよ、エースパイロットさん。」

 

デブリ帯を抜けて広大な宇宙空間で緩やかに機体を静止させるラフタ。息を整えると彼女は再び、たった今通り抜けてきたデブリ帯に向かって辟邪のスラスター出力を全開にして突入するのであった。

 

 

 

 

「それじゃあ、マクギリスの後ろ盾を完璧に得られたということ?」

「そうね。少なくとも、鉄華団が火星で行うことに関して、ギャラルホルンが横槍を入れるということは無いと思うわ。」

 

歳星へと戻る輸送機の中、ラフタはエーコから鉄華団の近況を聞いていた。火星で勢力を伸ばしている鉄華団の躍進は、少なくとも彼女たちタービンズにとっては吉報であった。

 

「地球圏での活動はしばらく無理だと思うけど、火星周辺での活動を容認される程度に、ギャラルホルンに気を使わせているということね。」

「うん・・・オルガも、ダーリンの伝手を上手く使えているみたいね。もう少し不器用な奴だと思っていた。」

 

団長のオルガもまた、名瀬とその背後にいるテイワズの存在を示唆することで、ギャラルホルンを交渉のテーブルへ着かせ、マクギリスだけでなく組織全体の鉄華団への敵愾心を削ぐことに腐心しているのであった。

 

「でも・・・なんだか上手く行き過ぎていて不安になってくるかも。」

「え、そう・・・かな?」

 

ラフタが口にする言葉へエーコが疑問を向ける。そしてさらに彼女は言葉を続ける。

 

「オルガたちがギャラルホルンを丸め込むことに不安はないよ。でも、私たちタービンズ・・・テイワズも一枚岩じゃない。むしろ気を付けないといけないのは、私たちの身内なような気がしてきたんだ。」

「なーによ、頭まで筋肉になっててそんなこと考えてないかと思った。」

「なっ・・・そんな言い方はないでしょ!?私だって、タービンズがどんな立場になるかくらい分かるんだからっ!」

 

深く考えようとする自らを茶化すエーコに憤るラフタ。さらにエーコは笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

「後ろのことは名瀬や私たちに任せて、あなたはもっと前だけ見ていればいいのよ。」

「でも、私だけそんなことは・・・」

「そのほうが昭弘とももっと上手くやっていけるでしょ?名瀬のことも私たちに任せればいいの。」

「あっ・・・!な、何を言って・・・!べ、別に私はあいつのことなんてなんとも思って・・・!」

 

露骨に狼狽える様子を見せ、言葉を詰まらせるラフタ。シャトルの舵を取りつつ悪戯な笑みを浮かべるエーコに対して、彼女は頬を赤らめて憤るのであった。

 

「んっ・・・あれ、歳星からの通信?どうしたんだろう、そろそろ着くっていうのに・・・」

 

シャトルの操縦席から通信音が響き、エーコは些か訝しく思いながらそれを受信する。コックピットのガラス越しに仮想ディスプレイが展開さえると、そこには神妙な面持ちとなったアジーが現れる。

 

「アジー、どうかしたの?歳星にはもう少しで到着するけど・・・」

 

コックピット席に座るエーコの後ろから、ラフタはディスプレイに映るアジーに声を掛ける。深刻な表情となっているアジーはゆっくりとシャトルにいる2人へ口を開く。

 

「2人とも、落ち着いて聞いてくれ。こちらの整備ドックで事故が発生した。火星から運んできた発掘機体が暴走したんだ。」

「なっ・・・!暴走って・・・!」

「そんな・・・みんなは大丈夫なの!?」

 

エーコは言葉を失い、ラフタは仲間の安否を堪らずアジーに問う。それに対して彼女は冷静を保ったまま言葉を返してくる。

 

「落ち着けと言っただろ。大丈夫だ、怪我をしたやつはいるけどみんな生きている。すまないね、シャトルに通信を入れたのは少しでも早くあんたたちに知らせる必要があると思ったからだ。」

「あっ・・・そ、そうなんだ。ありがとう。うん・・・みんな無事でよかったよ。」

「詳しい話は帰ってから聞くわ。こっちの輸送機を止めることは出来るのかしら?」

「ああ、停泊スペースに被害は無いよ。だから、慌てずに帰ってきてくれ。」

 

僅かに顔を緩ませて返答するアジー。その言葉にラフタとエーコは無言で頷き、彼女との通信を終えた。

 

「火星で発掘した機体って・・・鉱山に埋まっていたっていう、あのモビルスーツみたいなやつことよね。」

「ええ・・・ガンダムフレームに似たような期待だったけど、無人で動くなんて・・・」

 

突如としてテイワズ、そしてタービンズへ襲い掛かった凶事。それが鉄華団のいる火星から持ち運ばれこと。現状と原因を突き付けられた彼女たちは、大きな不安を抱き始める。

 

「あいつら・・・大丈夫かな?」

「きっと・・・大丈夫だよ。鉄華団は・・・三日月や昭弘は強いから。きっと・・・ううん、絶対に大丈夫。」

 

脳裏に過る不安を懸命に振り払おうとするラフタ。それでもシャトルの中には、先程までとは打って変わり、重苦しい空気が漂うのであった。

 

 

 

 

 

 

「アジー!」

 

歳星の艦船ドッグに降りたラフタとエーコ。2人は到着を待っていたアジーを見るや否や駆け寄り状況を聞く。

 

「そう焦るんじゃないよ。万が一を備えて、暴走した機体の周辺に人はいなかったんだから。まぁ・・・壁をぶち破られていたら危なかったけどね。」

「そんなに暴れまわったの・・・?」

「まぁ、実際に現場を見てみれば分かるよ。」

 

エーコの問いに対し、アジーは2人に対してついてくるように促す。言葉に従い彼女たちは足早に件の場所へ向かうのであった。

 

 

「何よあれ・・・まるで砲撃でも当たったような跡じゃない。」

「あそこにいる黒いやつが暴走した機体ね?」

 

整備区画の壁が深く抉り取られた光景に絶句をするエーコ。そこから少し離れた場所に鎮座する、複数のワイヤーに拘束された小型の機動兵器らしき機体を目にしたラフタはアジーに聞く。

 

「ああ。起動してすぐに暴れ始めたが、エネルギーが不足していたのかすぐに壁に突っ込んですぐに止まっちまった感じだよ。それでも・・・凄まじい衝撃だったけどね。」

 

沈黙をしても尚、敵意を感じさせる黒色の小型機動兵器。その姿に彼女たちは恐怖と不安、そして疑いの目を向けているのであった。

 

「確か・・・火星のレアメタル鉱山で発掘された機体よね?ということは、すでに鉄華団には連絡を?」

「もちろんしているよ。似たような機体を発見したら最大限の警戒をするようにとね。あと・・・モビルスーツは絶対に近付けさせるな、と。」

「モビルスーツを・・・?」

 

ラフタがアジーの言葉を訝しく思う矢先、彼女たちの近くへ2人の男女が近寄ってくることに気が付く。

 

「ダーリン・・・!」

「すまないな、帰ってきてこんな騒ぎに巻き込まれるなんて。」

「私は別に・・・艦も無事で、みんなも怪我はなかったみたいだし。」

 

名瀬の姿を見たラフタは負い目があることも忘れ、自らの抱いていた安堵感を言葉にする。その様子を見る彼は話を切り出す。

 

「親父にはすでに報告している。火星から持ち運ばれた機体ということも分かっているから、対モビルアーマー用の装備をテイワズ本部から支給するとのことだ。」

「モビル・・・アーマー・・・?」

「あの小型機を生み出す親玉のことさ。並のモビルスーツでは相手ならない、とんでもない化け物だってことだよ。」

 

名瀬の傍にいたアミダが彼女たちに言う。最悪の事態に備え、テイワズは傘下であるタービンズ、そしてその下部組織である鉄華団に事態の収拾を行わせようしていた。

 

「すでに鉄華団と火星のギャラルホルンには連絡をしている。あとは、俺たちのほうから万が一の場合を備えて増援を送るという算段だ。まぁ、何も起きないのに越したことはないけどな。」

「ラフタ、あんたの辟邪が整備を終え次第、火星に戻ってもらうことになるよ。アジーとエーコと一緒にね。」

「姐さん・・・は、はい・・・!」

 

『火星に戻ってもらう』。その言葉をラフタへと口にしたアミダの顔には、どことなく含むものがあるのを彼女は理解するのであった。

 

 

 

 

整備ドッグの片隅。ラフタは一人、急ピッチで行われる辟邪の調整を見つめていた。

 

「・・・・・・」

 

待ち構える大いなる脅威。懐かしくも思える赤き大地と、そこで待つ仲間たちのことを思い、彼女は呆けているのであった。

 

「ずいぶんと落ち着いているね。」

「・・・そうですね。焦ったって、いいことなんてないですからね。」

 

背後より掛けられる声の主、アミダの言葉にラフタは落ち着いた様子で返事をする。

 

「傷の具合はどうだい。まだ直るには時間が必要だと思うけど・・・」

「・・・もう大丈夫ですよ。だって2年前ですよ。戦闘に支障は無いし、何もかも元通りですから。」

「そんなに・・・強がるんじゃないよ。」

 

とぼけるラフタに対して、アミダは真剣な声音となって言葉を発する。それを聞いたラフタは顔を俯かせ、しばらくのあいだ言葉を詰まらせるのであった。

 

「私は・・・姐さんほど強くないです。ダーリン・・・名瀬と正面から向き合うことだって、私にはもう・・・」

「私だってそんなんじゃないよ。支え合うように見えるかもしれないけど、あいつには助けられてばかりさ。」

 

アミダはラフタが言う自らに対する言葉を否定し、愛する男に対する思いを吐露する。タービンズを背負う男の傍に立つ女は、大きな傷跡が目立つ褐色の肌を露にした姿で堂々と立っているのであった。

 

「っ・・・ふふっ、あんたも名瀬も、やっぱりまだまだ若いね。同じように悩んで、同じ顔になるだなんて、私には羨ましく思えるよ。」

「なっ・・・う、羨ましいって・・・!どうしてそんな・・・!」

 

憤りを見せようとするラフタに対して、アミダはそれを遮るように言葉を続ける。

 

「互いに大切なことを話すことが出来ない間になっても、思いは一緒だってことは分かるだろう。愛しているから言うことが出来ないなんて、よくある話だよ。」

「そんなの・・・姐さんが言うのはずるいですよ・・・!」

 

整備ドッグの鉄柵を強く握り俯き続けるラフタ。目からは涙が零れ始め、それは留まることなく彼女から溢れていく。

 

「『同じ傷を背負った』としても、私とあんたは違う。強がって生きるだけじゃ、誰からも助けてもらうことが出来なくなっちまうよ。」

 

本音をぶつけ合うことが全てではない。自らを取り繕い、相手の心を思うこともまた愛の形なのではないかとアミダはラフタに対して説き、彼女の頭を優しく撫でる。

 

「ぐすっ・・・ひぐっ、でも・・・でも私、私は・・・!」

「名瀬が受け止めることが出来なくたって、他に受け止められることが出来る奴はいるかもしれない。お前さん、それも分かっているんじゃないのかい?」

「でも・・・だって、私はダーリンの・・・」

 

自らの思いを頑なに認めようとしないラフタ。タービンズの一員、名瀬の女として、名瀬以外の男に心を許したなど、認めることは出来ないのであった。

 

「一途だねぇ。でも・・・それを貫けるほど、あんたの思いは弱いはずないだろうさ。」

「こんなの・・・ダーリンには絶対、言えないよ・・・!」

「安心しな。あいつは浮気だなんて思わないし、あんたの気持ちを大切にしてやれる男だよ。」

「そんなの、いいよ・・・!私の気持ちなんて、分からなくたって・・・いいんだからぁっ・・・!」

 

背中を抱き寄せられ、アミダの腕の中で泣きじゃくるラフタ。愛する男には決して表すことが出来ない思いを、彼女はその女にぶつけ、自らの感情を零し続けるのであった。


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