Turbine's Mother   作:Scorcher

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ハーメルンではお久しぶりです。オリジナル作品が完結をしたので、こちらの作品の投稿を再開したいと思います。

なお本作はすでにPixivで完結済みの内容を投稿しております。アカウントをお持ちの方は同サイトで「Turbine's Mother」と検索していただければ思います。

ちなみにこちらでの投稿は毎日1~2話ずつ程度の投稿が出来たら考えております。


Phase-4 『距離』

鉄華団の地球支部撤収から1か月後。火星に支援要員として派遣をされていたラフタ達は、機体整備のためにテイワズの拠点「歳星」へと帰還していた。

 

「今はハンマーヘッドも帰投しているってさ。久しぶりに名瀬やみんなと会うことも出来そうだね。」

「うん、そう・・・だね。」

 

アジーの言葉に生返事となるラフタ。彼女は名瀬と会うことに負い目を感じているようであった。

 

「なんだい・・・昭弘のことが気になって、名瀬に合わせる顔が無いって感じか?」

「ち、違うよ・・・ただ、火星にいる時より落ち着かなくて・・・」

 

火星での生活が長くなっているため、彼女が歳星やタービンズの母艦・ハンマーヘッドで他のクルーと会うことは少なくなっていた。それは自然と火星の鉄華団の団員との距離が近くなり、タービンズのクルーと距離が離れることを促してもいた。

 

「それに私、あの時からずっとダーリンに・・・」

「・・・あいつの気遣いも、この子には悪い薬だったのかもしれないね。」

 

ラフタには聞こえない程度の声で、アジーは名瀬の判断を苦々しく思い言葉を呟くのであった。

 

 

 

 

「よお、久しぶりだな。」

「ああ、あんたも元気そうだな。」

「ダーリン・・・姐さんも、お久しぶりです。」

 

ハンマーヘッドの艦長室。ラフタとアジーはその部屋の執務椅子に座る名瀬と、彼に侍る正妻、アミダ・アルカと久方ぶりの対面を果たしていた。

 

「火星での生活はどうだ。四六時中、身体に重力を感じるっていうのにも大分慣れてきたか。」

「そうだね。最初は煩わしいと思っていたけど・・・今じゃ無いほうが変な気分だ。」

「っ・・・ははっ、まぁ・・・火星の重力も自然な物じゃないが、コロニーや艦の重力比べれば地球に近いものだからな。」

 

火星での生活に慣れ親しんでいるアジーの言葉に、名瀬は笑って言葉を返す。その安堵して緩めた口元を締めると、彼はラフタへと声を掛ける。

 

「お前も・・・元気そうだな。もう、実戦に出ることも出来たのか?」

「うん・・・少し不安だったけど、大丈夫だったよ。アジーにも文句言われちゃったけど、割と平気だったかな。」

「そうか・・・そいつは良かった。ああ・・・安心したよ。」

 

夜明けの地平線団との一戦でラフタは実戦に復帰をしていた。戦果報告を受けて彼女が出撃したとの情報も把握はしていたが、ラフタ自身から話を聞くこと望むくらいに気がかりなことであった。

 

「ねぇダーリン・・・私ね・・・」

「ラフタ、あんた・・・」

 

申し訳なそうな顔となってラフタが口を開こうとする。その彼女の言葉を遮るように名瀬はさらに言葉を続ける。

 

「こっちの事なら心配ないさ。オルガたちが多少派手にやらかしたとしても、まだケツ持ちは出来る。ま、そうはならないためにも、お前たちにはもうしばらく、あいつらのサポートをやっていてもらおうか。」

「う、うん・・・ありがと。」

 

承諾ではなく感謝の言葉を述べるラフタ。彼女は名瀬に対して鉄華団の団員と懇意となっていたこと、とりわけ昭弘・アルトランドとは親しい間柄となっている話を言い出せないのであった。

 

「うちのクルーではない連中・・・それも男と話す機会なんてことも滅多にないだろうからな。嫌な顔をしていなくて、何よりだ。」

「・・・うん。」

 

名瀬はある程度のことを理解して、彼女たちに引き続き鉄華団の補佐をさせようとしていた。タービンズとは対極に位置するであろう、男が大きく割合を占める組織への派遣には、彼なりの狙いがあった。

 

「整備にはもう少し時間が掛かる。それからラフタ、お前の新しい機体のロールアウトがもうすぐ完了する。火星に戻るときはそいつを持っていけ。」

「私に・・・新しい機体?」

「なんだ、扱いきれる自信がないのか?だったらアジーに譲っても俺は構わないが・・・」

 

名瀬の提案に彼女は首を横に振る。そして彼に対して答える。

 

「ううん・・・私が乗るよ。タービンズの中で一番戦えるのは、私なんだからね。」

 

久方ぶりに自信を垣間見せるラフタの言葉に、名瀬は満足そうに笑みを浮かべる。彼は彼女に対して女としての心配をするのと同時に、戦士として立ち直ることも期待していた。

 

「そういうわけだ。もう少しの間、こっちに滞在して羽を伸ばしてくれ。」

「ああ、そうさせてもらうよ。」

「うん・・・それじゃあ、またね。」

 

アミダに軽く頭を下げ、名瀬に一瞥して2人は艦長室を後にした。

 

 

彼女たちが部屋をあとにするのを見ると、彼の傍にいたアミダが口を開く。

 

「本当に良かったのかい?」

「ん・・・?辟邪をアジーじゃなくて、ラフタに託すことか?」

「・・・とぼけるんじゃないよ。あの子の言いたいこと、しっかりと聞いてあげなかっただろ。」

 

ラフタの言葉を遮った名瀬。彼女はそれを理解した上で彼を問い質す。

 

「何も言えなくたって、あいつが過ごしやすい場所だったらそれで構わないさ。言いたくないことを俺に伝える必要だってないだろう。」

「それでも、女の話をしっかりと聞いてやるのが男の務めなんじゃないかい?それとも・・・あんたが聞くのが辛かった、なんて言われたくはないよね。」

「・・・」

 

アミダの言葉に名瀬は無言の肯定を示す。傷付いたラフタがタービンズではなく、鉄華団にいることで癒されていることに、彼は安堵しつつも目を背けようとしていた。

 

「あいつは・・・お前ほど強くはないさ。俺がしっかりと受け止められるほどに強くは・・・な。」

「・・・あんたも、まだ青いわね。」

 

名瀬の弱気な言葉にアミダは笑みを浮かべて返す。彼女の愛する男は、彼女の前ではいつまでも不器用なのであった。

 

「そうだな・・・お前と2人でいる時だけは、ガキのままでいさせてもらうことにするよ。」

 

傷付いた女を持て余している男は、傷を負っても強い女に甘え、彼女たちの帰る場所を支えていた。


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