Turbine's Mother   作:Scorcher

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回想と訓練パートになります。若干ですが裸となるシーンもあったりします。ストーリー上で必要になる程度のことですけどね。不必要なシャワーシーンなんてSEED辺りに期待をしていれば(ry

戦闘シーンってのは書くのが大変ですな。ただ動作を書くだけではなく、言葉だけで演出をするのは難しいというもの。書き手の技量が問われるシーンだった気がします。


Phase-2 『悪夢』

「んっ、ふぅぅ・・・はぁ、はぁ・・・あっ、あぁぁぁぁぁっ・・・!」

「ま、またか・・・!?すぐに呼んでくるから・・・!」

 

高熱を発し、息も絶え絶えに苦悶の声を上げる彼女。顔から大量の汗を吹き出し、顔色は悪くなる一方であった。

 

「あ、がっ・・・いっ、痛いっ・・・痛い、痛いのっ・・・あぎっ・・・いやぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

 

全身に打たれていた鎮痛剤の効果が切れ、絶え間のない激痛が彼女を襲い始める。

 

「いやぁっ!いやっ、いやぁっ・・・いやぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

「・・・ラフタっ!おい、早く・・・早くしてくれっ!」

 

アジーに呼ばれた医師とエーコが戻ってきた彼女と共に駆けつけ、速やかに彼女に鎮痛剤を打ち込もうと身体に触れる。しかし

 

「いぎっ・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!」

「ラフタ、お願いだから我慢してね・・・じっとしてくれないと、針を打つことも出来ないから・・・!」

「あがっ・・・がっ・・・あ゛っ・・・あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!」

 

全身の傷に触れられて抑え込まれ、おおよそ女性が出せるような声ではない声で、ラフタは絶叫と悲鳴を上げる。

 

「いやぁっ!もういやぁっ!もうこんなのいやぁっ・・・!もう許して・・・あぎっ、ぎぃぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!」

「くっ・・・ら、ラフタ・・・うっ・・・!」

 

髪を振り乱して激しく暴れる彼女を見るアジーであったが、あまりにも痛々しい姿に目を背ける。生きていることが苦痛であるかのような彼女の姿は、決して多くの人に見せられるようなものではなかった。

 

「ねぇ・・・どうして私、生きているんだろう・・・?アジー・・・私、なんで生きているの・・・!?」

「・・・!!」

「・・・っ!」

 

その言葉にアジーも、彼女を抑えつけていたエーコも返事をすることは出来なかった。死に直面した彼女は、今この時も死を迎える以上の苦しみに身体を蝕まれているのであった。

 

「もう、イヤだよ・・・!えぐっ・・・だって私もう・・・ダメなんだよ。こんなに辛いの・・・もう・・・いやぁっ・・・!」

 

鎮痛剤が効き始め、落ち着きを取り戻し始め彼女は涙を流しながら訴える。無数に出来た生傷からは暴れたために赤い血が零れ、彼女が横になるベッドを朱に染める。

 

「こんなに苦しいのが続くんだったら・・・もう私・・・死にたいっ・・・!死んで楽になりたいよっ・・!お願いだから・・・死なせてよぉっ!」

 

受け入れがたい現実と再び襲い来る激痛の恐怖に襲われる彼女は、悲痛な声を上げて安息を求めるのであった。

 

 

 

 

 

 

「っ・・・はぁっ!はぁ、はぁ・・・んっ・・・はぁ、はぁっ・・・!」

 

自室のベッドから勢いよく起き上がる。全身から大量の汗を吹きだし、息を荒くして意識を起こさせていく。

 

「んっ・・・ふぅぅ・・・また、見ちゃった。最近はあまり見なかったんだけどな・・・」

 

右手で頭を抱えながら、ラフタは久しぶりに見た夢に対して苦々しく言葉をつぶやく。悪い夢から覚めた安堵と、未だにそれを見ることへの嫌悪感に襲われての起床であった。

 

「戦いに出ればいつだって命が危ないのに、どうして・・・」

 

頭を抱えたまましばらく俯き続ける。とうの昔に捨てていたはずの死への恐怖を、ラフタは夢を見るたびに感じていた。

 

「また・・・あいつと一緒に戦いたいな。今度はいつになるだろう・・・」

 

戦場で共に戦う仲間の事を思いながらベッド降りると、彼女は誰もいない部屋で汗に濡れた衣服と下着を脱ぎ捨て、傷を負った身体を隠すことなくシャワー室へと向かうのであった。

 

 

 

 

「くっそぉぉぉぉ!!!!当たれっ!当たれっ・・・!当たれよこの野郎ぉぉぉっ!!!!!!」

「おいライドっ!そんなに撃ちまくっているとすぐ弾切れになるぞ!」

 

苛立ちを露にした言葉が小豆色を基調としたモビルスーツ・獅電のスピーカーから響き渡る。ひたすらライフルを目標へ撃ち続ける機の獅電の近くから、もう1機の獅電が目標との距離を伺いながら様子見をする。

 

「なーによ、本当に狙って撃ってんの?そんなんじゃ動かなくたって当たらないわよ。」

 

最低限の回避行動で獅電から放たれるライフル弾を回避し続ける、薄い黄土色に塗装された3機目の獅電。それに搭乗しているラフタは2機の獅電を相手に軽口を叩きながら、機動戦を繰り広げていた。

 

「ほらダンテっ!あんたもうろちょろしてるだけじゃなくて撃ってきなさいよっ!」

 

様子を伺う2機目の獅電に対して、挑発をするかのようにライフルを撃ち放つ。回避しながら射撃であっても、放たれた訓練用のペイント弾は的確に機体を捕らえる。

 

「んがぁぁぁっ!!!!ち、畜生・・・!同じ機体のはずなのに、どうしてこんな・・・!」

 

実戦経験の乏しい鉄華団の団員と、タービンズの主要戦力であるラフタの技量差は歴然としていた。長期のブランクを感じさせることなく、ラフタは新米に等しいライドとダンテの2人をあしらい続けているのであった。

 

「おいラフタ、そろそろ勝たせてやってもいいんじゃないか。このままだとあの2人、今日だけで10連敗だよ。」

 

呆れた声でラフタへ通信を入れるアジー。彼らの根性に感心を見せながらも、不甲斐ない結果であり続けることに業を煮やしていた。

 

「分かっているわよ。でも、こうもヘッタクソだと、当たり用がないって・・・ああもうっ!じゃあ2人いっぺんに殴りかかって来なさいよっ!」

 

彼女のさらなる挑発に対して、見事に反応する2機のパイロット。すかさず手持ちの銃器を投げ捨てると、携行していた訓練用の片手メイスをそれぞれ獅電に握らせ、ラフタの駆る獅電へと襲い掛かるのであった。

 

「こんのぉぉぉぉぉっ!!!!!!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!」

「へぇ・・・やっぱり接近してからのほうがいい動きじゃない。」

 

ラフタもまた獅電の武器をマウントして徒手空拳になると、2機から繰り出させる打撃を片腕で防ぎ、蹴りや体当たりをして反撃をする。

 

「さすがに素手は舐めすぎだろ・・・と思ったけど、案外どうにかなっているのは考え物だね。まぁ、腕が鈍っていなくてよかったよ。」

 

アジーは遠距離から2対1の戦闘を見守り、武器を持った2機のMSに丸腰で相手をするラフタに安堵をしていた。

 

「さすがに・・・2体いっぺんは厳しいわね。でも、私だってこれくらいじゃないと、リハビリには・・・!」

 

振りかざされるメイスによる打撃を的確に防御をしていく。自身の機体へ攻撃が命中する度に鈍い金属音が鳴り響くが、ダメージと衝撃は最小限に抑えられていた。

 

「そろそろ私も・・・本気を出させてもらうわよっ!」

 

防戦だったラフタが2体の獅電を振り払い、若干の距離を置いて本格的な反撃に出ようする。しかし、それを1体の獅電が追撃をして許そうとはしなかった。

 

「そんな無造作に突っ込んで来たら、敵のいい的に・・・」

 

機体の体勢を整え、追い打ってくるライドの攻撃を捌こうするラフタ。だが、彼の機体が放って来たメイスの先端による打突は、彼女の思考を瞬時に止めてしまう。

 

「・・・っ!」

 

コックピットに迫りくるメイス。その瞬間、ラフタの脳裏に「あの時の」記憶が甦り、自らの身体が動かなくなる。

 

「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」

「い、いやぁっ・・・!」

 

掘削機のような音と共に迫りくる巨大な鉄塊。コックピットを突き破り、その先端が自らへと触れ、肉を裂き、鮮血を噴き出した恐怖と痛みを思い出し、ラフタは戦意を喪失する。

 

「うぐぅっ・・・!」

 

豪快な金属音を鳴らしながら、彼女の搭乗していた獅電は訓練用メイスの一撃を受けて突き飛ばされると、そのまま地面へと倒れ込むのであった。

 

「ラフタっ・・・!」

 

思いも寄らぬ一撃を受けたラフタに対して、アジーが咄嗟に通信で叫ぶ。

 

「あ、当たった・・・」

「あ、ああ・・・でも、今のラフタさんの動きって、なんだか・・・」

 

ラフタを打ち倒したことへの達成感よりも、予想だにしなかった一撃を加えてしまったことへの違和感を口するライドとダンテ。一瞬とはいえ棒立ちとなっていた彼女に対して、彼らは不安を覚える。

 

「大丈夫かい?」

「いたたぁ・・・う、うん・・・大したことないよ。やっぱり丸腰で2体を相手にするのは厳しかったかな。」

「そう・・・だね。まだ、あまり無理はしないほうがいいだろうな。」

 

アジーの通信越しに応答をするラフタ。明るく振舞う彼女の言葉を離れた場所で聞くアジーの表情には、隠しようのない不安が滲んでいた。

 

「さてと、あんたたちの成長を見ることも出来たし。今日はここまでにしましょうか。」

「は、はい。」

「ありがとう・・・ございます。」

 

スピーカー越しに聞こえたラフタの言葉に、訓練を受けていた2人も訝しさを感じながら返事をするのであった。

 

 

 

 

「・・・本当に大丈夫かい。」

「平気だって。もう・・・アジーは心配性なんだから。」

 

訓練を終えて基地へと帰還し、合流したアジーにラフタは心配される。彼女のことを全て知る者として、アジーはラフタの言葉に大きな不安を持つ。

 

「急に動けなくなったりするんだったら・・・まだモビルスーツには乗らないでくれ。ラフタ、私はあんたのことを信頼して背中を預けたいんだ。」

「・・・」

 

突き放すように厳しい言葉をぶつけるアジー。自らのためという言葉の中には、ラフタの身を案じる彼女の気遣いが含まれていた。

 

「分かってるよ・・・アジーだって、私だって、戦いに出ればいつも命が危険に晒されるんだし。死ぬ覚悟だっていつも出来ていた。でも・・・」

 

軽口を叩いていたラフタの顔が次第に暗くなる。長い付き合いとなるパートナーの前で、彼女は取り繕うことは出来なかった。

 

「やっぱり・・・怖かったよ。痛くて、苦しくて・・・もう、あんなのはイヤなんだから・・・!」

 

死に直面をした時の苦痛、それを思い起こすたびに彼女は心の傷を深めていくのであった。


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