Turbine's Mother   作:Scorcher

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「仁義なき戦い」って任侠映画ありますけど、じゃあ仁義のある戦いってあるんですかね。そんなことをふと考えたりしていました。

というわけで処刑回です。ちょっとグロテスクな描写あります。頭が吹き飛んだり、脳みそが飛び散る描写がありますが、ちょっとだけです。え、十分だって?いや、手加減しないとR-18Gにカテゴライズされちゃうかr(ry

コメディ色が強いと思ったら負けです。ネットに毒され過ぎているんだと思います。あともう1回くらい続きます。グロは今回で最後です。次回は若干のエロがあるかもしれません。とりあえず書いておきました。それでは


Phase-12 『報復』

「・・・やったか?」

「ああ、もう動いている奴はいねぇよ。デイン、確認をしてきてくれ。」

 

倒れ込むラフタと、それを抱きかかえるアジー。彼女たちが蜂の巣となる寸前に、彼らは敵となる人間たちを全て無力化していた。

 

「あんた、鉄華団の・・・ええと・・・」

「ハッシュです。ハッシュ・ミディです。もう入って半年は経つんですから、覚えてくださいよ。」

 

小銃を片手に持った青年、ハッシュは半ば呆然とするアジーに苦笑いを浮かべながら声を掛ける。

 

「アジーさんは、どうにか無事みたいですね。ラフタさんは・・・」

「・・・あ、ああ!私は大丈夫だ!だからこいつを・・・ラフタを早く・・・!」

「わかっています。ザックが車で待っていますから、早く運びましょう。おいデイン、そっちは・・・」

 

ハッシュがそう言い終えるまでに前方から銃声が響く。その音に彼とアジーが思わず振り向くと、そこには平然とした顔で倒れていた男の頭を銃で撃ち抜く巨漢の姿があった。

 

「ああ、すまない。また息をしていた奴がいてな。いま終わったところだ。」

「そ、そうか。あとは、そいつを連れ行けばいいんですね。」

 

ハッシュはラフタが捕らえた男に目を向け、アジーに確認をする。

 

「そうだ。そいつに洗いざらい吐かせないと、私たちの立場は悪いままだ。」

「ということだデイン、そいつだけは生かしておいてくれ。」

「ああ、わかった。」

 

巨漢の男、デインは頷くと倒れ込んでいたラフタを抱え、彼らが乗ってきた車へと向かう。そしてその後からハッシュはアジーと共に彼の後を歩き始める。

 

「どうしてここが分かったんだい。ジャスレイの子飼いを捕らえる計画は、鉄華団の連中に話していなかったが・・・」

 

ハッシュたちが駆け付けたことに安堵しながらも、アジーは彼らのことを訝しく思う。それを彼も理解した上で、些か話しづらそうに言葉を返してくる。

 

「すいません、俺たちもラフタさんやアジーさんのことを監視するように指示されていたんです。」

「監視・・・?」

 

決して穏やかではない言葉にアジーは彼に対して不信の目を向ける。それを察したハッシュは弁解をするように、慌てて声を上げて言葉を続ける。

 

「あっ・・・いえ、別に信用していないとか悪い意味じゃなくて。2人がタービンズの人間ということですから、団長と三日月さんに目を離すなと言われたんですよ。」

「オルガと・・・三日月が?」

 

彼を不信に思っていたアジーの目が丸くなり、虚を突かれたような顔となる。そんな彼女を見ながらハッシュは頷き、さらに言葉を続ける。

 

「はい。特に三日月さんは、ラフタさんのことを特別気にしていた感じですから。」

「ラフタのことを・・・?一体なんて言っていたんだ?」

 

アジーの問いかけにハッシュは照れ臭そうにしながらも、三日月の言葉をそのままアジーに伝える。

 

「いつもよりも真剣な顔で俺に言ったんです。『俺の代わりに昭弘の家族を守ってくれ』ってね。」

 

 

 

 

 

 

クリュセでの襲撃事件から数日後。街の外れに建つ廃倉庫には、人間の身体を痛めつける音が鳴り響く。

 

「ごふぅっ・・・!はぁ、はぁ・・・げほぉっ!がっ・・・あっ、あがぁっ・・・!」

 

地面に固定された鉄の台座に縛り付けられ、身ぐるみを全て剥ぎ取られた体格の良い男は、複数の年端もいかない少年たちから暴行を受け続けていた。

 

「はぁ、はぁ・・・てめぇら、自分たちが何をやっているのか分かったんだろうな?てめぇらみてぇがガキが、俺らテイワズに楯突いてのうのうと生きることなんざ・・・がぁっ!」

 

言葉を遮るように一人の青年が男の割れてしゃくれた顎を、勢いよく横から蹴り上げる。その衝撃で数本の歯が折れ、地面へと転がり落ちる。

 

「分かってねぇのはあんたのほうだぜ。のこのこと火星まで出向いて、自分トコの兵隊を皆殺しにされてとっ捕まってんだからな。」

「ぐぅっ・・・!」

 

言葉を失うその男、JPTトラストの代表でありテイワズのナンバー2であるジャスレイ・ドノミコルスを冷徹な目で見るのは、鉄華団の副団長、ユージン・セブンスタークであった。

 

「なぁ、どんな気分だよ。罠にハメたと思った連中にハメられて、身ぐるみ全部引っぺがされて捕まるって気分は・・・」

 

ジャスレイにもたらされた情報。彼が企てた離間策により、後ろ盾であるタービンズ、さらにはギャラルホルンと仲違いをした鉄華団は孤立化、火星に駐留していたタービンズの幹部も彼らを装ったジャスレイの部下に殺害されテイワズの敵となった鉄華団を、テイワズナンバー2として彼は粛清に向かったのであった。

 

「おかげであんたのトコの物資や人員は全部、俺が頂戴出来たってものさ。まぁ、あんたらが宇宙ネズミとバカにしていた奴らにまで裏切られるとは、思っていなかっただろうな。」

 

全てはジャスレイを火星に向かわせるための偽報であった。それだけでなく、JPTトラストに「利用」されていたヒューマンデブリは鉄華団に呼応して造反。彼らによってジャスレイ配下の正規戦力はその悉くが無力化され、満足に戦闘が出来ないまま、首領であったジャスレイは鉄華団の実働部隊によって捕縛されていた。

 

「俺たちみてぇなガキに、こんな惨めな姿を晒すことになるなんて・・・あんたの気分を考えるだけで最高な気分だぜ。」

 

広い廃倉庫の中にいるのは彼らとジャスレイだけはなかった。彼を嬲る鉄華団の団員の背後、そこにはジャスレイの部下「だった」肉塊が無造作に転がっていた。

 

「おいユージン、もう生きてるのはそいつだけなんだからよ。もっと優しく扱ってやったほうがいいんじゃねーの?」

「わかってるよ。つっても俺だって、日頃から鬱憤が溜まっていて・・・」

 

ジャスレイを嬲りながら、ユージンは愚痴を零す。彼を窘める青年、ノルバ・シノは苦笑いを浮かべてそれを見ているのであった。

 

「ん・・・来たみたいだな。」

 

その場にいながら彼らの私刑とも呼べる行為を、ただ黙って見ていたのは鉄華団の団長、オルガ・イツカ。音がした廃倉庫の入り口へ彼が振り向くと、そこには一人の体格良い筋肉質の青年と、一人の若い女が立っていた。

 

「遅かったな昭弘。こいつらが殺さないかと、焦っていたんだぜ。」

「そんな風に思ってたようには・・・見えないな。」

 

仏頂面のまま言葉を口にしながら、屋内へと歩みを進める男とその後に続く女。昭弘と呼ばれた青年は横に並んだ彼女に向かい、表情を変えることのない女へ静かに声を掛ける。

 

「ラフタ・・・」

「うん、ありがと。私は・・・大丈夫だから。」

 

その言葉を聞き、昭弘は自らが所持していた大型の拳銃を彼女に差し出す。虚ろな目のまま差し出されたグリップを握り、彼女は彼の手から銃を受け取ると、若い男たちに拘束され暴行を受けている惨めな巨漢へ近づいていく。

 

「あぁクソっ!いくら殴っても気が済まねぇ!デインのバカが兵隊を簡単に始末しやがるからこいつだけがオモチャに・・・んっ?」

 

ジャスレイを鬱憤の捌け口として嬲っていたユージンが、背後から近付いてくる気配に気づく。振り向いてその姿を見ると、彼は呆気に取られた表情となりつつも彼女の名を呼ぶ。

 

「ラフタ・・・さん。」

 

彼は言葉を失っていた。銃を片手に握り立ち尽くす彼女、ラフタ・フランクランドは、あまりに直視することが躊躇われる姿なのであった。

 

「がはっ・・・ゲホッ、ゲホッ・・・!イかれたガキ共が・・・あぁ?」

 

私刑を受けていたジャスレイが青痣と血に塗れた顔を上げると、そこには露出度の高い服を着た、一人の女が銃を片手に自らを見下しているのであった。

 

「てめぇは、名瀬んところの・・・」

 

腕や肩には新しい銃創が。露わとなった肌に刻まれる夥しい数の傷跡。とりわけ臍を中心とした腹部辺りには、再生医療でも修復が不可能であっただろう大きな貫通痕が残っており、目にする者に嫌悪感すら与え、降りかかった凶事の凄惨さを物語っていた。

 

「なんだよ・・・おめぇのことも仕留め損ねていたのかよ。まったく・・・使えねぇ連中だな。」

「ええ・・・無能な『男』ばかりで気の毒になりそうだったわ。」

 

男、という個所を強調するようにしてジャスレイへ言葉を返すラフタ。女を蔑むテイワズナンバー2の男を前に、彼女は女として傷に塗れた身体を隠すことなく、自らの全てを見せて対峙していた。

 

「調子こいてんじゃねぇぞ・・・てめぇらみてぇな女とガキだけで、世の中が回せるとでも思っているのかよ。」

「・・・・・・」

「所詮お前らは名瀬のバカに使われているだけの道具だったんだよ。俺達テイワズを敵に回したカス共に、生きていく場所なんて無ぇんだからなぁっ!」

 

愉快そうな笑みを浮かべ、下卑た声で彼女と鉄華団を貶めるジャスレイ。屈辱的な姿になっても尚この男の威勢が衰えぬのは、テイワズという大組織に身を置き、それを誇りとしているからなのだろうか。

 

「家族だ兄弟なんてぬかす甘っちょろい奴らが見れる世界なんざ、クソみてぇに狭いものにしかならねぇだろうな・・・!」

 

計略と打算によって生きてきたであろう彼らしい言葉に、その場にいる鉄華団の団員たちは青筋を立ててその男を睨む。

 

「おい、おめぇもこんな連中に先があると思っているのか?兄貴分だなんて慕っていた男のためだけに頭のネジが外れるような奴らだぜ?」

 

ジャスレイはさらに、目の前に立っているラフタに向かって声を掛ける。

 

「先が無ぇのは分かってんだろ。いっそのこと俺の女にでもならねぇか?あのバカと違って、戦わせることなんかねぇし、食うには困らせねぇ。」

 

挑発なのか籠絡なのか、彼の言葉は聞くにことすら耐えがたい下劣なものであった。この期に及んで誇りを捨てることがないこの男、ジャスレイ・ドノミコルスは彼女や鉄華団と対極に身を置いて、自らを貫く男であるのかもしれない。

 

「お前だけじゃねぇ、名瀬が囲んでいた女ども全部面倒を見てやる。だからよ、そいつでこの頭のおかしいガキ共を・・・んぶぉぉっ!!!!!!」

 

その言葉を遮るように、ラフタは手にしていた拳銃の銃身をジャスレイの口内へ押し込む。二度と言葉を出せないように、名瀬を貶め、鉄華団を陥れ、何よりも愛する者を殺したその男の口を彼女は塞いでいた。

 

「十分よ・・・あんたは私たちを、みんなをバカにした・・・!頭がおかしくたっていいわよ・・・あんたは、殺してもいいやつなんだから・・・!」

「・・・・っ・・・・っ・・・!」

 

何か必死に訴えかけるジャスレイに向かい、ラフタは目に光を宿してそう言い切る。そして、恐怖で小水までをも垂れ流した男を前に、彼女は宣言する。

 

「生き抜いて見せるわ。ダーリンの・・・名瀬が見る事の出来なかった世界を。生きて、生き続けて、絶対に止まらないで・・・絶対に生き抜くわ!」

 

その言葉を言い終え、ラフタは引き金を引く。鈍い銃声が鳴るのと同時に放たれた弾丸はジャスレイの後頭部を突き破り、その衝撃で頭の上半分が宙へと舞う。辺りには血肉が舞い、大量の血液が銃を撃ち放ったラフタへと降り注ぐ。

 

「・・・・・・」

 

表情を変えることなく、ラフタはジャスレイだった肉塊を見つめる。頭部の上半分を失ったその身体は、僅かに躍動を見せた後に機能を止め、吹き飛んだ眼球や頭蓋骨、鼻などの人体の一部は彼女の足元に落ちていた。

 

「殺し続けるわ、生きるために。そして楽しんであげる、生きることを。」

 

物言わなくなったジャスレイ・ドノミコルスだった肉片を前に、ラフタはそう言葉を述べる。そして、足元に落ちていたそれを彼女は渾身の力で踏み抜いた。脳髄が飛び散り、頭蓋骨が砕け、人間の身体であったそれは廃倉庫の汚れと化すのであった。

 

 

 

 

廃倉庫に通信音が鳴り響く。その発信源である電話をオルガは手に取り、椅子に拘束されたままの死体を眺めながら応対する。

 

「ああ、いま終わったぜ。親父・・・いや、マクマード。」

『オルガ・・・お前、自分が何をしているのか分かっているんだよな。』

 

電話の相手はマクマード・バリストン。テイワズのトップであり、先程この場で亡き者となったジャスレイ・ドノミコルスの上司であった。

 

「殺ったのは俺たちじゃねぇ。こいつは名瀬の敵討ちで、俺たちはそれに手を貸しただけだ。」

『覚悟は、出来ているんだな。』

「覚悟?笑わせんじゃねぇ。てめぇの部下も満足に扱えねぇ耄碌したあんたに、覚悟なんざ問われる筋合いは無いぜ。」

 

父親同然の人間を相手に、オルガは決定的な挑発を行う。電話越しに歯ぎしりの音が聞こえるほどに激しているマクマード。そして彼が声を発する前に、オルガはスーツの内ポケットに手を入れ、さらに言葉を続ける。

 

「名瀬の女は俺たちが面倒を見てやる。老いぼれた爺さんは野心なんざ捨てて、精々食い扶持が無くならねぇように気を付けることだな。」

 

電話の電源を切り、スーツの内ポケットからオルガが取り出したのはマクマードと交わした契りの盃。彼はその盃を右手から滑り落とし、廃倉庫の汚れた床で割り捨てるのであった。

 

「へっ・・・俺も、色々とスッキリ出来たぜ。」

「おいおい、あんな言い過ぎちまったら、あの爺さん血管切れて死んじまうじゃねぇの?」

「俺らが抜けたところで何とも思わねぇだろう。まぁ・・・ジャスレイを野放しにした落とし前はあいつらにも付けてもらうけどな。」

 

シノの言葉へ愉快そうに返事をするオルガ。そして彼はその場にいる鉄華団の団員に向かって声を上げる。

 

「これで俺たちは最初に逆戻りだ。だがゼロになったわけじゃねぇ。あの時にはなかった戦う力が俺たちにはある。大切なものを守れる力がある、手段と選択がある。決めるのは俺だ。お前らの意思で俺が決めてやる。」

 

彼の目は真っ直ぐだった。迷いはなく、貫き通そうとする意志が宿っていた。同時に悪魔へ魂を売ったような笑みに、彼らは惹きつけられるのであった。

 

「勝ち取れるかなんて知らねぇ。だが俺たちは俺たちの意思で生き続ける。生きている限り前に進み続ける。だからよ・・・絶対に、止まるんじゃねぇぞ!」

 

彼は覚悟を示した。示すべき者たちに示した。見せるべきものは希望ではなく結果。鉄華団の団長として彼、オルガ・イツカはそれを見せる覚悟を彼らに示したのであった。

 

 

 

 

オルガの言葉を聞きながらも、昭弘は血に塗れた彼女に目を向けていた。

 

「・・・ラフタ。」

 

名を呼ばれた彼女は彼へと顔を向ける。血で汚れたその顔には虚無感が漂い、虚ろな目で彼を見ていた。

 

「お前は・・・これでよかったのか?」

「私は、迷わないよ。ううん・・・もう、迷えないんだよ。」

 

笑みを浮かべるラフタに、彼はさらなら不安を覚える。死線を越え、何かが壊れたような雰囲気を漂わせる彼女へ、彼がそれ以上問いかけることはなかった。

 

「これから大変になりそうね。でも・・・これからもよろしくね、昭弘。」

 

微笑みながら言葉を口にするラフタ。返り血を浴び、銃を片手に握ったまま気丈に振舞う彼女に対して、昭弘はただ頷くのであった。


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