アニメ本編では描かれませんでしたが、ラフタやアジーの生身での戦闘能力はどれほどのものなんでしょうかね。やはり三日月クラスはあるのか考えてみたりも。
そして今回は死体が転がります。明確に生身の人間が死ぬ描写を描くのは初めてだった気がします。
次回最終話はもっと転がります。たぶん生きている人間より死体のほうが出てくると思います。置いておくだけで演出になるなんて、死体は便利だz(ry
自室の椅子に座り、組んだ足を机に乗せ、片手に電話を持つ男がいる。
「それで、お前さんは俺たちに手を貸すということか。」
「我々にとっては協力というわけではない。しかし現状、お前たちが存続することには利がある、それだけのことだ。」
「どの面下げて、そんなことを都合の良いことを言ってくることが出来るんだか・・・」
彼は話をしていた。相手は決して好ましいとは言えない、敵ともいうべき人間ではあったものの、交渉するに値する人間でもあった。
「名瀬・タービンの死に、私の責があることは承知している。だが、我々にも犠牲が出ているのだ。表立っての糾弾が出来ない以上、こうする以外に手は残っていなかった。」
「ああ、あんたらにも意地ってものがあるのは理解出来るよ。」
男の言葉に彼は納得をする。苦境に立たされた自分たちの状況を顧みれば、無碍にすることなど出来ないのであった。
「我々は既に血を流している。次はお前たちが流す番であると、理解をしてもらおうか。」
「生憎だが、俺たちの血は俺たちのためにしか流せねぇ。あんたたちのことは利用させてもらう。だが・・・血を流すのは他の誰でもねぇ。俺たちのためだ。」
「ふっ・・・勝手するがいい。」
そうして彼らは通信を終える。組んでいた足を降ろし、静かに受話器を戻す彼、オルガ・イツカの目には、怜悧で残忍な復讐の炎が宿っているのであった。
「話は終わったの?」
「ああ・・・この話に乗っちまえば、あとは引けねぇ。だが、乗るしかねぇだろうな。」
椅子に座る小柄な少年に返事をするオルガ。彼はさらにオルガに命令を求める。
「で、次はどいつを殺せばいい?」
「落とし前を付けるのはもう少し後になる。その前に、少し気がかりなこともあるからな。ミカ、準備も兼ねて手伝ってもらうことがある。」
些か訝しそうにオルガの顔を見る少年。しかし、彼がオルガの望むことを拒むことはなく、鉄華団団長であり、家族でもある男の残忍な表情に期待を膨らませているのであった。
◇
「対象を発見。ああ、一人で街中を歩いている」
火星の都市・クリュセ。黒のスーツを着て、小型のインカムを装着した一人の男は、一人の女を尾行していた。既に日は暮れ、人影は少なく、周囲に彼を怪しむ人間はいなかった。
「一人で街へ出歩くとは・・・大した度胸なのか、ただのバカなのか・・・」
物陰に隠れ、男が見つめる先にいる女。金髪を2本に結び、少女ではないが、女にもなりきれておらず、肌を見せる事を嫌うように露出の少ない衣服を着た彼女は、周囲を気にすることなく男の前方を歩き続けていた。
「まもなく繁華街から離れる。対象が死角に入り次第、実行に移る。」
スーツの内ポケットに忍ばせた小型の拳銃。人間を殺傷するには十分な威力があり、急所ではなくとも人体に命中をさせれば確実に動きを鈍らせる代物であった。
「・・・・・・」
息を殺しながら女の尾行を続ける男。戦闘訓練を受けているためか、女は良い姿勢で、服の上からでも鍛えられた身体である見ることが出来た。
「・・・」
辺りに人影はなくなり、女は男が望む通り人目の届かない路地裏へと入っていく。計画の成功と期待に逸る心を落ち着かせ、彼は女が入った路へ歩みを進める。
「対象が死角に入った。これより計画を実行する。」
インカムに連絡を入れ、スーツに忍ばせていた銃を取り出し安全装置を外す。そして、路地裏の入り口に背中を預け、男は目標を確認すべく路地へと顔を覗かせる。しかし
「っ!?」
男の視界には誰が映ることもなかった。目標を見失ったことによる動揺。それを満足に抑え込むが出来ないまま、彼は手に持った銃を構え、その路地へと足を踏み入れる。それが命取りであった。
「っ・・・・!!!」
「なっ・・・うぐぅっ!?」
男の視界に人影が入り、その直後に彼は驚きの声を上げる間もなく銃を手放し、咄嗟に両手で股間を抑えながら地に膝をつく。だが下半身から駆け上がる激痛に呻くことも許されず、跪くのと同時に顔面へと重い一撃を受け地に伏していく。
「あっ・・・がっ・・・お、おぉぉぉ・・・!」
ようやく痛みを訴える声を上げた時、男は無様に倒れ込んでいた。しかしそれも長くは許されず、彼は先程目に入った人影に胸座を掴み上げられ、建物の壁に叩きつけられ、自らの頭部に銃口を突き付けられているのであった。
◇
火星の都市・クリュセ。人目に付かぬであろう路地裏で、ラフタは一人の男に拳銃を突き付けていた。
「あんた、JPTトラストの人間なんでしょ。後を付けられたこと、バレてないとでも思っていたの?」
「ぐっ・・・うぅぅっ・・・」
満足に声を出そうとしない男に対して、ラフタは怒気の含んだ声を発し、右手に持った拳銃の銃口をさらに強く、男の頭に押し当てる。
「な、何も話はしないぞ・・・!どうせ名瀬がおっ死んでお前らは、組織としてお終いなんだからな・・・!」
「うるさいっ!誰が・・・誰が終わらせるもんか!ダーリンの・・・名瀬の守ってきたものは私が・・・!」
「ははっ・・・あいつの飼われていたお前らに、何が出来・・・」
そう男が言葉を言い終える前に、ラフタは彼の頭に当てていた銃口を足元へと向け、容赦なく引き金を引く。
「うぐぅっ・・・!お、おおっ・・・」
路地裏に銃声が鳴り響き、男の左足甲を銃弾が貫通する。苦悶の表情と共に呻く彼の頭に対して、ラフタは再び硝煙の臭いのする銃口を擦り当てる。
「答えて。名瀬を手に掛けたのはあんたたちなんでしょ?私たちにはそうとしか考えることが出来ないの。テイワズの中でも・・・あんたたちのボスが私たちを目障りに思っていたのだって知っているだから・・・!」
「ふんっ・・・だがそこまで分かっていて、お前らには何が出来るというんだ。俺を捕まえて、バラして憂さを晴らすだけか。」
「あんた一人を殺したところで、私たちの立場が変わるわけじゃない。少なくとも・・・生きていることに価値は与えてあげるわ。」
あくまでも嘲笑する構えを崩さぬ男に対して、ラフタは底冷えするような声で言葉を言い放つ。その最中、2人が問答をしている路地裏に一人の女が入ってくる。
「・・・アジー。」
「上手くいったようだね。まぁ、名瀬と姐さんの次に狙うとすれば、あたしがあんたのどちらか、だろうからね。」
「そっちは?」
「殺しはしていないさ。まぁ・・・やり過ぎて声を出すことは出来なくなっちまったけどね。」
「そう・・・でもまぁいいわ。こいつはまだ口を利くことが出来る。」
歩み寄ってきたラフタの相棒、アジーに対して首尾を聞く。些か不満を持ちながらも、彼女は自らが得た「成果」をアジーに見せ、その動きを完全に止めるべく右足を撃ち抜く。
「あがぁぁっ!あっ、あぁぁぁっ・・・!」
「おいおい・・・私みたいにやり過ぎないでくれよ。」
「分かってるわよ・・・!あとはこいつと、あんたの捕まえたほうを鉄華団に引き渡して、私たちの話を・・・」
彼女たちの計画は順調だった。名瀬を謀殺した組織の人間が次に狙う標的。そしてそれがどこで行われるか。ラフタとアジーはそれを完璧に予測しており、その刺客となる者たちを捕らえることに成功していた。そう、この時までは
「・・・ん?おいどうしたんだ、ラフ・・・」
ラフタが言葉を止めたことに訝しさを感じ、声を発するアジー。しかし、その時ラフタの目には映っていたのは、アジーの背後で彼女に銃口を向ける第3の男の姿であった。
「っ・・・!!!」
咄嗟の判断であった。アジーに向けて銃を構える男を見たラフタは、彼女と入れ替わるように2人の間へと割って入る。そして次の瞬間、男の前に立ちはだかったラフタの身体へと無数の銃弾が突き刺さる。
「・・・!!!」
骨が折れ、突き刺さるような痛み。しかしそれを感じる間もなく、彼女の身体は空へと向き、仰向けとなって地へと倒れ込む。暗くなり始めた視界で最後に映ったのは、狼狽えて泣き叫びそうになる親しき仲間、家族の顔であった。
◇
「っ・・・!!!!!」
アジーは涙を堪えて自らの銃を手に取ると、ラフタを銃撃した男に向かい発砲する。撃った弾丸は男の眉間へ突き刺さり、頭部から少量の血を流しながら地に伏していく。
「お前ら・・・よくも・・・!」
さらに彼女が後ろを振り向くと、そこには両足を撃ち抜かれて重傷を負っていた男が這い蹲り、地面に落ちた銃を拾って反撃しようとする光景であった。
「このっ・・・!」
アジーは振り向きざまに男の顔面を蹴り飛ばし、拾おうとしていた拳銃の元から吹き飛ばす。そして、空いた左手で地面に落ちていたそれを拾い上げると、倒れ込んだ男の両手に向かって容赦なく発砲する。
「簡単に殺してなんてやらないよ・・・!全部、洗いざらい吐いた後に殺ってやる・・・!」
そして、両手に持った銃を捨てたアジーは、自らを庇って倒れたラフタの傍にしゃがみ、彼女を抱き上げる。
「ラフタ・・・おい、ウソだろ・・・!?どうして、どうしてお前なんだよ・・・!」
いつかと同じ光景。自らではなく、仲間であり家族が死に直面することに、アジーは再び自らを呪い、そして物言わぬ彼女に問いかける。
「名瀬がいなくなったタービンズを守るんだろ?姐さんの代わりを務めるんじゃないのかよ・・・!おいっ!何か言ってくれよっ!」
大粒の涙を溢し、アジーは彼女に対して声を上げ続ける。彼女と同様に自らも血に染まることを意に介さず、アジーは必死に問うのであった。
「守ってなんて死ぬなよ・・・死ぬんだったら、戦って、戦って・・・!」
落涙するアジーの元に、再び何者かが近寄ってくる。存在を隠そうとせず、敵意を剥き出しにした数人の男たちは、路地裏の惨状を見るや跪き泣き叫ぶ彼女に銃を構える。
「・・・・・・」
男たちのほうへと向き、彼女は抗おうとした。抱きかかえるラフタが手に持つ銃を取り、敵対する者達へ銃を向けようとする。しかし、彼女が握り締めた銃は、決して彼女の手から離れようとはしなかった。
「・・・ふっ。」
その瞬間、アジーは泣くことを止め、口元に笑みを浮かべる。それは、戦士として倒れた彼女に対する満足感を得た微笑みであった。
「ああ、笑って死んでやるよ。あんたのため・・・」
そう言い終える前に無数の銃弾が放たれて血肉を飛び散らせる。彼女が眺めるその先には、亡き者となった男たちの血の海が広がっているのであった。