鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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#34

 新たなガンダムフレーム機、ガンダム・オセの登場に喜んでいたシシオであったが、ひとしきり喜ぶと気持ちを切り替えて真剣な表情となりモニターに映るガンダム・オセを見た。

 

「それにしてもあのガンダム・オセのパイロット、ローズの剣を受け止めるなんてかなりの腕だな……。見たところ『本調子』じゃなさそうだけど……って! マズイ!」

 

 ガンダム・オセの戦力を分析していたシシオは、敵の動きの予兆を感じとると血相を変えてコックピットの機器を操作して、それと同時にガンダム・ボティスと鍔迫り合いをしていたガンダム・オセは次の行動に移った。

 

「………!」

 

『くっ!』

 

 ガンダム・オセは大斧の柄を両手で持って振り抜いてガンダム・ボティスの大剣を弾くと、続けてガンダム・ボティスの胴体に右膝を叩き込もうとする。

 

 普通に考えれば今のガンダム・オセの攻撃はコックピットへの直撃さえ避ければそれほど大したことはない。

 

 しかしシシオは一目見てガンダム・オセの右膝の装甲に何かの武装が隠されているのを見抜き、右膝蹴りが決まるとローズとガンダム・ボティスが大きな傷を負う可能性を感じたのだった。

 

(間に合ってくれよ……!)

 

 シシオは祈るような気持ちでレバーの引き金を引く。するとガンダム・オリアスの背部にある二門のキャノンから砲弾が放たれた。

 

「!? ………!」

 

 ガンダム・オリアスのキャノンから砲弾が放たれた瞬間、ガンダム・オセはガンダム・ボティスから大きく離れてそれを避ける。

 

「あのタイミングで外すか? なんて反応速度だよ……て、オイオイ……」

 

 砲撃を避けられたシシオは相手の反応速度に苦笑を浮かべるが、ガンダム・オセの右膝から先程までなかった螺旋状の溝が刻まれている杭、ドリルが生えているのを見ると苦笑を口元をひきつらせる。もしシシオがキャノンを撃たずガンダム・オセの右膝蹴りが決まっていたら、ローズの乗るガンダム・ボティスは今頃致命的なダメージを受けていただろう。

 

『し、シシオ様、ありがとうございます……』

 

 ガンダム・オセの右膝にあるドリルを見て、ローズも自分が危機的な状況にあったのを理解したのだろう。シシオに礼を言う彼女の声は僅かに動揺して震えていた。

 

「気にするなよ、ローズ。……しかしあのガンダム・オセのパイロット、今のを避けるだなんてやっぱりいい腕をしてるじゃないか」

 

 ローズに返事をしたシシオは、自分では動けないシュヴァルベグレイズの機体を引っ張ってガンダム・キマリスと合流するガンダム・オセを見ながら呟いた。

 

 先程のガンダム・オリアスの砲撃のタイミングは完璧だった。普通のパイロットであれば回避どころか認識すら間に合わず、大破とまでいかなくても大きな損傷は免れなかっただろう。

 

 それを避けられた事に対してシシオは悔しいとは思わなかった。寧ろ今懐いた感情は悔しいとは逆のもの。

 

「ははっ! いいね! やっぱりガンダムはそうでないとね!」

 

 シシオが懐いた感情は歓喜。

 

 目の前にいるガンダム・オセのパイロットが、自分の憧れであるガンダムフレーム機に乗るに相応しい力量を持っている事がシシオは嬉しかった。

 

「さあ、仕切り直しといこうか! ローズ、行くぞ!」

 

『はい。シシオ様』

 

 肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべたシシオはローズと共に、ガンダム・キマリスとガンダム・オセに戦いを挑むのだった。

 

 ☆

 

『おおおっ!』

 

「おっと、危ねぇっ!」

 

 ロザーリオの気合いの声に応じてガンダム・ウヴァルがマイニングハンマーを振り下ろすが、それをアルジが紙一重で避ける。

 

「へへっ……。お前の動き、大体分かってきたぜ」

 

『ぐうっ!』

 

 口元に笑みを浮かべたアルジの言葉にロザーリオが苦々しい顔となって歯噛みする。

 

 アルジの言う通り彼とロザーリオの戦いは、最初こそ戦いの年季が上のロザーリオが優勢であったが、シシオから敵の武装や戦い方を事前に知らされた事もあって徐々にアルジが巻き返していったのだった。勿論巻き返したのは相手の手の内を知っていただけでなく、シシオや鉄華団の面々との訓練でアルジの技量が上がっていた事もある。

 

 見ればアルジの乗るガンダム・アスタロトSFは全身のいたるところに損傷を受けているがそれでも動きに余裕があり、ガンダム・ウヴァルもまた全身の装甲に損傷を受けていた。

 

『本来の歴史』であれば絶体絶命の窮地に追いつめられて自爆一歩手前の奇襲でようやく勝利をつかんだアルジであったが、この『歪んだ歴史』では自分の命を賭け金にする戦い方をする事なく勝利へと手を伸ばそうとしていた。

 

『くらえっ!』

 

「当たるかよ!」

 

 ガンダム・ウヴァルが右肩にあるスパイクシールドを前面に出して体当たりを仕掛けるが、ガンダム・アスタロトSFはそれを難なく避けてみせる。

 

「体当たりが得意なのはお前だけじゃないんだよ!」

 

 アルジがそう叫ぶとガンダム・アスタロトSFの両肩にあるシールドウィングが展開。それと同時に背後のブースターの出力を最大にしてガンダム・ウヴァルに向けて突撃する。

 

 展開されたシールドウィングの翼は高硬度の刃でもある。ガンダム・アスタロトSFはガンダム・ウヴァルの横をすり抜けると同時にシールドウィングの翼を敵の左腕に当てる。その結果……。

 

『何ぃ!?』

 

 ガンダム・ウヴァルの左腕が斬り飛ばされる。しかも斬り飛ばされた左腕は主武装であるマイニングハンマーが握られていて、これで敵の戦闘力は半減、いやそれ以上に下がる事になった。

 

『勝負あり、だな。降参しな、ロザーリオ。アルジとの決闘だけじゃなくこのケンカ、お前の負けだよ』

 

 ガンダム・ウヴァルの左腕が斬り飛ばされたのを見てジャンマルコがロザーリオに通信を入れる。

 

 ジャンマルコの言う通り、この戦いは決着が付きつつあった。ロザーリオの乗るガンダム・ウヴァルはもうマトモに戦える状態でない上に、ロザーリオの部下やギャラルホルンのモビルスーツ部隊は三日月と昭弘によってほとんど倒されていた。

 

 もはや自分に勝ち目がないのはロザーリオにも分かっているのだが、敗北を認めればその先には身の破滅しかない為、それを認める事は出来なかった。

 

『ぐうう……! ま、まだだ! まだ私は……っ!? これは?』

 

 苦しげな表情を浮かべながらロザーリオが口を開いたその時、ガンダム・ウヴァルのセンサーがある反応を捉えた。それは十数機ものシュヴァルべグレイズとグレイズによるギャラルホルンのモビルスーツ部隊であった。

 

「ギャラルホルン!?」

 

『おいおい、新手かよ』

 

 新しく現れたギャラルホルンの部隊を見てアルジとジャンマルコは武器を構えるのだが、十数機のシュヴァルべグレイズとグレイズはアルジとジャンマルコには目もくれず、ロザーリオの乗るガンダム・ウヴァルを取り囲む。

 

「……何?」

 

『こりゃあ一体どうなっているんだ?』

 

『な、何だと!? 何故私を!?』

 

 予想だにしなかったギャラルホルンの部隊の行動にアルジにジャンマルコ、ロザーリオが疑問の声を上げる。特に味方の援軍だと思っていたモビルスーツ部隊に取り囲まれたロザーリオは酷く狼狽えていた。

 

 しかし一機のシュヴァルべグレイズに乗るギャラルホルンのモビルスーツ部隊の隊長は、そんなロザーリオの狼狽振りなど気にすることなく機械のような冷たく固い口調で通信を入れる。

 

『ロザーリオ・レオーネ。我々ギャラルホルンは、貴様をドルトコロニーの労働者達に武装蜂起するように煽動した民衆煽動罪の主謀者として拘束する』

 

『な、何だとぉ!? き、貴様! それは一体どう言うことだ!?』

 

 モビルスーツ部隊の隊長からの通信の内容にロザーリオが悲鳴のような大声を上げるが、モビルスーツ部隊の隊長はそれに耳を貸すことなくまるで「用意された台本の台詞を読み上げているかのように」淡々と言葉を続ける。

 

『ロザーリオ・レオーネ。今すぐに投降せよ。投降しない場合、我々はすぐに貴様に攻撃を仕掛ける』

 

「ちょっと待てよ、何だよそれ……」

 

『ふん。これがギャラルホルンのやり方か』

 

 モビルスーツ部隊の隊長のあまりに一方的な態度にアルジが面食らい、ジャンマルコが表情を嫌悪で歪めて鼻を鳴らす。

 

『待てと言っている! この件には貴様らギャラルホルンの……!』

 

『ロザーリオ・レオーネは我々の投降勧告を無視。徹底抗戦をする模様。全機攻撃準備』

 

『『了解』』

 

 ロザーリオの叫びをモビルスーツ部隊の隊長の言葉が遮り、同時に全てのシュヴァルベグレイズとグレイズがハンドアックスを構える。

 

『………!? ギャラルホルン、私を切り捨てると……』

 

『攻撃開始』

 

 モビルスーツ部隊の隊長の命令で十数機ものシュヴァルベグレイズとグレイズが一斉にガンダム・ウヴァルに襲い掛かる。しかし呆然としていたロザーリオはそれに反応できず、ガンダム・ウヴァルは全身に、特に胴体にハンドアックスの刃を受けてしまう。

 

『ご、が……! ば、馬鹿な……』

 

 シュヴァルべグレイズとグレイズの攻撃によりコックピットが変形して身体を押し潰されたロザーリオはそれだけを言い残して無念の表情で事切れた。

 

『味方に裏切られて死ぬ、か……。ダディ・テッドを裏切ったお前には相応しい最後だな、ロザーリオ』

 

「これがギャラルホルンのやり方かよ。無茶苦茶すぎるだろ……」

 

 ロザーリオの最後を目にしてジャンマルコはどこか寂しそうな声で呟き、アルジはギャラルホルンの強引すぎるやり方に怒りを通り越して呆れた表情となるのであった。


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