鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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#33

 ガンダム・オリアスのライフルから銃弾が発射される。発射された銃弾はガンダム・キマリスの頭部に命中し、それによってガンダム・キマリスのコックピットに衝撃が走りモニターにノイズが発生した。

 

『チィッ!』

 

「……ふぅん。そうか」

 

 ガエリオは小さく舌打ちするとガンダム・キマリスを上空に飛ばしてライフルの射撃を避け、シシオはその動きを見て何かに気づいたように呟いた。

 

『特務三佐! くっ!』

 

『行かせません、と言ったはずですが?』

 

 ガエリオの元に駆けつけようとするアインであったが、彼の前に再びローズのガンダム・ボティスが立ち塞がる。シシオはそんな二人の様子を横目で見てローズに通信を入れた。

 

「ローズ。相手は慣れていない機体に乗っているみたいだけど油断だけはするなよ」

 

『はい。承知しました、シシオ様』

 

『待て。それはどういう意味だ?』

 

 シシオがローズに忠告をすると、ボティスの通信機を経由してそれを聞いたアインが聞いてきた。シシオは上空にいるガンダム・キマリスが攻撃してくる様子がないのを確認してからアインの質問に答えることにした。

 

「どういう意味も何も、それは貴方が一番理解しているだろう? その機体は元々別の人が使っていたもので、貴方はまだ機体のクセの調整や機体に慣れるための慣らし運転もろくにしていない。違います?」

 

『………っ!?』

 

 シシオの指摘にアインは思わず言葉をつまらせた。

 

 今シシオが言ったことは全て事実であった。アインが乗っているシュヴァルベグレイズは元々ガエリオが乗っていたもので、ガエリオがガンダム・キマリスに乗りかえる時に譲り受けたのである。

 

『何故それを知っている……?』

 

「何故ってそんなの見たら分かるでしょ?」

 

 アインの呟きにシシオは何でもないように答えると、モニターに映るシュヴァルベグレイズの右腕、そこに装備されているライフルを内蔵した専用ランスを指差して説明をする。

 

「まずそのランス。さっき三日月の足止めを命令された時、貴方はランスによる突撃じゃなくてライフルによる威嚇射撃を行おうとした。もし貴方がその機体に慣れていたらランスによる突撃をしていたはずだ。シュヴァルベグレイズの加速力なら十分ガンダム・バルバトスに追い付けるし、効果が薄いライフルの射撃よりも効果がありますからね。

 次にローズに行動を邪魔された時の急停止の動作。姿勢制御の為のスラスターの作動と手足の動作が必要以上に多かった。そういうクセがあるパイロットもいるけど、貴方のは明らかに機体の動作を把握しきれていない無駄のある動き。

 その事から貴方はその機体に慣れていないと思ったんですけど、どうです?」

 

『『………!?』』

 

 ほんの僅かな動作から多くの情報を得たシシオの分析にアインとガエリオは驚愕の表情となって言葉を失った。

 

『……おい、貴様。お前は一体何者だ?』

 

 まるで得体の知れない何かに見るような目で見てくるガエリオの言葉に、シシオは笑みを浮かべて答える。

 

「ふっ……。よくぞ聞いてくれたな。俺はガンダムに心を奪われた圏外圏一のトレ『ジャンク屋』ター、シシオ・セト……って!? おい、ローズ!? 邪魔するなよ!」

 

 ガエリオに聞かれてシシオは勇ましく(本人なりに)名乗りを上げようとしたが、肝心なところローズに邪魔をされて抗議の声を上げる。

 

『ジャンク屋だと……?』

 

「トレジャーハンター! トレジャーハンターですから!」

 

 信じられないといった表情で言うガエリオにシシオは必死で訂正をする。しかしガエリオは全く聞いておらず、プライドを傷つけられたという声で叫ぶ。

 

『ガラクタ漁りしか能のない下賎な奴が俺の邪魔をするなぁ!』

 

「職業差別するなよ! それに俺はトレジャーハンターだって言ってるだろ!」

 

 ガエリオの叫びと共に突撃してくるガンダム・キマリスは槍をシシオは怒鳴り返しながら避けると、その無防備な背中にライフルの銃弾を浴びせた。

 

『ぐぅっ! だがまだだ!』

 

「そうだろうね。むしろその程度で倒れてもらったら困るんだよ!」

 

 銃弾を受けながらも闘志が衰えていないガエリオの言葉にシシオは嬉しそうな笑みを浮かべて言うと、ガンダム・オリアスの脚部を変形させて高速機動形態にとなる。人の二本足から馬の四本足となった脚部にある各スラスターが一斉に推進剤を噴出し、それによって加速を得たガンダム・オリアスはほんの数秒でガンダム・キマリスとの距離を詰めた。

 

『なっ!? 速い!』

 

「ガンダムに乗っているならがっかりさせないでくれよ? セブンスターズさん!」

 

『がっ!?』

 

 ガンダム・オリアスの加速に驚くガエリオにシシオは楽しげに言うと、そのまま盾を使った体当たりを仕掛けてガンダム・キマリスを吹き飛ばした。

 

『き、貴様ぁ!』

 

 ガエリオはすぐにガンダム・キマリスの体勢を立て直すと反撃に移る。

 

 ランスによる突撃攻撃、ランスに内蔵されたライフル、そして肩のアーマーに仕込まれた円盤状の刃を射出する射撃兵器。

 

 ガンダム・キマリスは自分の持つ全ての武器を使って攻撃を仕掛けるが、ガンダム・オリアスはそれら全てを危なげなく避けて逆にカウンター気味にライフルによる射撃と盾を使った体当たりを決めてガンダム・キマリスにダメージを与えていく。

 

(ガンダムフレーム機本来の動きが出せていないな……。でもパイロットはマトモな身体至上主義のギャラルホルンの軍人で阿頼耶識を使っていないだろうし仕方がないか。それに武装の特性もしっかり理解して使っているし、少なくとも前戦ったクダルよりはずっと強いな)

 

 シシオは以前自分が殺した今は昭弘が乗っているグシオンの前のパイロット、クダルの事を思い出しながらガンダム・キマリスの分析を続ける。

 

(だけど動きが妙に固い。特に俺が裏をかくような動きをすると二回目三回目はともかく一回目は確実にひっかかる。多分ガンダム・キマリスのパイロットはとても素直な性格なんだけど視野が狭いんだろうな。だから物事の対応力は高い筈なのに、自分の見たものしか信じられなくて予想外の対応が遅れている)

 

 一流のパイロットは相手の機体の動きからそのパイロットの性格を感じとることができるという。

 

 しかしシシオはそれ以上の観察眼を持ってかなり正確にガンダム・キマリスのパイロットであるガエリオの性格を分析して採点を下した。

 

(視野の狭さは戦場で致命的なミスを犯す原因となる……。それを考えたら七十点といったところかな?)

 

『はぁ……! はぁ……! くそっ、ちょこまかと……まさかお前も宇宙ネズミか? 汚らわしい!』

 

 シシオがガエリオの採点を終えた時、丁度本人からの通信が入ってきた。その声は荒く、随分と体力気力共に消耗しているようであった。

 

 これまで鉄華団との戦いの経験によりガエリオの中では「奇妙な動きをするモビルスーツはパイロット=宇宙ネズミ(阿頼耶識使い)」という考えができあがっていて、複雑な動きで攻撃を避けているシシオをガエリオは阿頼耶識使いだと判断して叫んだのだが、その叫びは本人によって即座に否定された。

 

「いやいや、俺は阿頼耶識使いじゃないですよ?」

 

『な、何!?』

 

「俺に攻撃を当てられないのは単に戦闘経験とセンスの差ですね」

 

『何だと!? この俺がお前より未熟だというのか!?』

 

 シシオの言葉にガエリオが怒声を上げる。

 

 本当はガンダム・オリアスの操縦システムもガエリオを圧倒している理由の一つなのだが、それを敵に教えるつもりはシシオにはなかった。

 

『貴様俺を虚仮にするのもいい加減に……!』

 

『うわあああっ!?』

 

 ガエリオがシシオに向けて更に怒声を上げようとしたその時、ガンダム・キマリスとガンダム・オリアスのコックピットに通信機越しに男の悲鳴が聞こえてきた。

 

『っ! アイン!?』

 

「ローズか」

 

 ガエリオとシシオが同じ方向に視線を向けると、そこには四肢を切断されて背中のブースターも破壊されたシュヴァルベグレイズと、両手に剣を持った無傷のガンダム・ボティスの姿があった。

 

『う、ぐ……! 特務三佐から譲り受けたグレイズが……!』

 

『中々に足の速い機体でしたけどようやく止まりましたね』

 

 悔しげなアインの声と淡々としたローズの声が通信機から聞こえてくる。

 

 シシオとガエリオが戦っている間、ローズとアインも戦っていたのだが、ローズとアインではパイロットの技量に大きな差があった。アインはシュヴァルベグレイズのスピードを活かした戦いをして何とか善戦していたのだが、ついにはガンダム・ボティスの剣によって四肢とブースターを切断されてしまったのだ。

 

『それでは終わりにしましょう。……さようなら』

 

『アイン!』

 

 ガンダム・ボティスがもはや戦闘不能のシュヴァルベグレイズに止めを差すべく右手に持つ対艦バスターソードを振り上げ、それを見たガエリオが部下を救う為にガンダム・キマリスを走らせる。

 

 しかし今からガエリオが間に合うはずもなくガンダム・ボティスはシュヴァルベグレイズに向けて対艦バスターソードを振り下ろした。その場にいる全員、当人であるアインでさえもシュヴァルベグレイズがパイロットもろとも真っ二つにされると思った。

 

 だがその予想は全く予想もしなかった形で覆される事となる。

 

『……………え?』

 

 ローズは目の前の光景に思わず呆けた声を漏らした。

 

 ガンダム・ボティスのコックピットのモニターには二機のモビルスーツの姿が映っていた。一機はアインが乗るシュヴァルベグレイズであるが、もう一機のモビルスーツは見たことがなかった。

 

 白と黒のカラーリングで、ここにいる三機のガンダムフレーム機とどこか似た外見をしているモビルスーツ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その白と黒のモビルスーツは高速で現れるとガンダム・ボティスとシュヴァルベグレイズの間に飛び込み、右手に持つ大斧でガンダム・ボティスの対艦バスターソードを受け止め、今まさに殺されようとしていたアインを救ったのだった。

 

『あの機体……まさかアイツなのか?』

 

「おいおい……。ガンダム・キマリスを見たときも驚いたけど、これにもビックリしたよ。いやぁ、本当にビックリしたなぁ……♪」

 

 突然の乱入者に驚いたのはローズだけでなく、ガエリオは白と黒のモビルスーツの姿を見て呟き、シシオはガンダム・オリアスのデータベースがエイハブリアクターの周波数から導き出した白と黒のモビルスーツの機体名を見て口元を歓喜で歪めた。

 

 ASW-G-57「ガンダム・オセ」。

 

 それがあの白と黒のモビルスーツの名。

 

 新たなるガンダムフレーム機に出現にシシオは内心で喜び、感動しながらもある疑問を懐いた。

 

「ガンダム・オセ。『セブンスターズ筆頭イシュー家のガンダムフレーム機』が何でこんな所に現れたんだ?」


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