鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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#31

「シシオ様、お気を確かに」

 

「はっ!?」

 

 戦場に未知のガンダムフレーム機が二機も現れたことで狂喜乱舞していたシシオであったが、ローズの呼び掛けによって正気を取り戻した。

 

「すまない、ローズ。少し浮かれていた」

 

「少しどころではなかったと思いますが……とにかく、新しく現れたガンダムフレーム機を見てはもらえませんか?」

 

 ローズはシシオに新たなモビルスーツを観察してもらうように頼む。

 

 機械に関してはチート級の知識と嗅覚を持つシシオは、見ただけでそのモビルスーツの性能や武装をほぼ正確に言い当てる事ができる。この敵の性能を予測するスキルは戦闘においては非常に有用で、このスキルのお陰でシシオと彼が乗るガンダム・オリアスはこれまでに多くの宇宙海賊や敵対する傭兵を倒してこれたのである。

 

 ローズは初めて見る敵、それもガンダムフレーム機が現れたのならば早めにその性能や武装を知って警戒するべきだと考えたから自分の主人に頼み、シシオも彼女と同じ考えであった為、言われてすぐにモニターに映る二機のガンダムフレーム機に視線を向けた。

 

「……う~ん。遠くから来るガンダムはまだ機体がよく見えないから何とも言えないな……。ロザーリオの宇宙船から出てきたガンダムは……………んん?」

 

 ロザーリオの宇宙船から出てきたガンダムフレーム機を見た途端、シシオの表情が怪訝なものにとなった。

 

「シシオ様? どうかしましたか?」

 

 シシオの様子を奇妙に思いローズが話しかけるが、シシオは彼女の言葉に耳を貸さず数秒間ロザーリオの宇宙船から出てきたガンダムフレーム機を観察した後でアルジにと通信を入れた。

 

「……………なぁ、アルジ? ちょっといいか?」

 

『ああっ!? 何だよ! 今戦闘中だ!』

 

 シシオが通信回路を開くとアルジの苛立った声が聞こえてきた。

 

 見れば確かにアルジの乗るガンダム・アスタロトSFは一機のシュヴァルベグレイズと交戦していたが、ガンダム・アスタロトSFは敵の攻撃を避けながら距離を摘めると両手に持ったマイニングハンマーでシュヴァルベグレイズのコックピットを破壊した。コックピットを破壊されたことによりシュヴァルベグレイズは沈黙し、それを確認したアルジは一つ息を吐くとシシオに話しかけた。

 

『ふぅ……。それで? いきなり何の用だよ、シシオ?』

 

「ロザーリオの宇宙船から一機新しいモビルスーツが出てきた。機体名は『ガンダム・ウヴァル』。ガンダムフレーム機の一機だ」

 

『何っ!?』

 

 シシオの言葉にアルジは血相を変えて新しく現れたモビルスーツ、ガンダム・ウヴァルの姿を探す。家族を正体不明のガンダムフレーム機に殺されてその仇を探しているアルジにとって、今の言葉は聞き逃せなかったのだろう。

 

 そしてシシオにはもう一つアルジに伝えるべき情報があった。

 

「それとガンダム・ウヴァルの装甲なんだが……多分全体の七割くらい『オリジナル』が使われている」

 

『オリジナル? 何が使われているって?』

 

「『ガンダム・アスタロトのオリジナルの装甲が使われている』って言ってるんだよ」

 

『……!?』

 

 アルジがガンダム・ウヴァルの姿を見つけるのとシシオが新しい情報を口にするのはほぼ同時で、アルジは驚きで言葉をなくしながらもガンダム・ウヴァルを凝視する。

 

 ガンダム・アスタロトSFのコックピットのモニターに映るのは、黒を基調としたカラーリングの左右非対称の外見をしたガンダムフレーム機。そしてそれに使われている装甲が……。

 

『ガンダム・アスタロト本来の装甲……』

 

「そうだ。あと最後にガンダム・ウヴァルが持っている武装なんだけど……」

 

『武装? ああ、あの両手で持っているハンマーか。……ん? ハンマー?』

 

 言われてみれば確かにガンダム・ウヴァルは両手に巨大なハンマーを持っているのだが、よく見るとそのハンマーはガンダム・アスタロトSFが持っているマイニングハンマーとよく似ている……というか全く同じものであった。

 

「あのハンマー、以前俺が武器商人に製作依頼されて作った物だ。まさか敵が購入していたとは……」

 

『お前が作ったのかよ!?』

 

 シシオの告白にアルジのツッコミが入る。

 

「まあとにかく、あのガンダム・ウヴァルはアルジにとって色々因縁がありそうなんだけど……どうする?」

 

 シシオに聞かれるアルジであったが考えるまでもなく答えは決まっていた。

 

『俺が戦うに決まっているだろ。シシオ、ローズ、お前達は手を出すなよ』

 

 家族を殺した仇かもしれないガンダムフレーム機であるのに加え、ガンダム・アスタロト本来の装甲を装備し、オマケに自分と同じ武装を持つ敵。

 

 その様な敵を前にして何もしなかったり誰かに任せたりする事などアルジには出来るはずなかった。

 

『分かりました。アルジ様、ご武運を』

 

「了解だ。アルジ、俺が見た感じガンダム・ウヴァルの武装は両手に持つマイニングハンマーと右肩のスパイクシールドだけだ。多分ブースターの加速を活かした接近戦とスパイクシールドの体当たりが基本戦術だと思う」

 

『ああ、分かった!』

 

 アルジはローズの言葉とシシオのアドバイスに頷くとガンダム・アスタロトSFをガンダム・ウヴァルの元へと走らせた。

 

「さて……それじゃあ俺達はもう一機の方に行くか」

 

『はい、シシオ様』

 

 ガンダム・ウヴァルに向かっていくアルジのガンダム・アスタロトSFを見送ったシシオとローズがもう一機の敵のガンダムを見ると、もう一機のガンダムは三日月が乗るガンダム・バルバトスに高速で向かっていた。

 

 ☆

 

 自分のところへ向かってきたラブルスとシュヴァルベグレイズを全て倒した三日月は、他の仲間の援護に向かおうとしたところで新手の敵の襲撃を受けた。

 

 新しく現れた敵は、白と紫のカラーリングをしたどこかガンダム・バルバトスに似た外見のモビルスーツと、全身が紫のカラーリング。シュヴァルベグレイズだった。

 

「コイツら何なんだ?」

 

『やっと会えたな宇宙ネズミ! 火星での借りをここで返させてもらうぞ!』

 

「その声……?」

 

 ガンダム・バルバトスのコックピットに目の前のモビルスーツからだと思われる通信が入り、どこかで聞き覚えのある男の声に三日月は眉をひそめた。脳裏にとある事故がきっかけで出会い、そして宇宙に出る時に火星の空で戦ったギャラルホルンの軍人の顔が浮かび上がった。

 

「名前は確か……ガリガリ?」

 

『ガエリオ・ボードウィンだ! 人を馬鹿にするのも大概にしろぉ!』

 

 ガエリオの怒声と共に白と紫のカラーリングの機体が右手に持っていた槍を構えてガンダム・バルバトスへと突撃する。

 

「っ! 速い……!?」

 

 予想以上の敵の速度に虚を突かれた三日月だったがそれでも何とか迎撃しようとした時、青い影が二機のモビルスーツの間に割り込み、青山影は左腕に装備した大盾で敵のモビルスーツの槍を弾いた。

 

『何だっ!?』

 

「ガンダム・オリアス。シシオ?」

 

 ガンダム・バルバトスと敵のモビルスーツの間に現れたのはシシオの乗るガンダム・オリアスであった。

 

 ☆

 

「やぁ、三日月。冷たいじゃないか。ガンダムフレーム機と遊ぶんだったら俺も誘ってくれって……アレ?」

 

『? シシオ、どうしたの?』

 

『シシオ様? 今度はどうしましたか?』

 

 敵の攻撃からガンダム・バルバトスを庇ったシシオだったが、軽口を叩こうとした時モニターに映る敵のガンダムフレーム機を見て固まってしまい、それを不振に思った三日月とローズが通信機越しに聞く。

 

「……なぁ、三日月? 何でここにガンダム・キマリスの姿があるんだ?」

 

 どこか固い声のシシオの質問に三日月は首を傾げる。

 

『ガンダム・キマリス? あの白と紫のモビルスーツのこと? 知ってるの?』

 

「知っているもなにもガンダム・キマリスって言ったらセブンスターズの一角ボードウィン家の初代が厄祭戦時代に乗っていたボードウィン家の象徴とも言える機体だ。それがどうしてこんな所にあって三日月と戦っているんだよ?」

 

『ほぅ? 中々物を知っている奴もいるじゃないか?』

 

 シシオの説明に白と紫のモビルスーツ、ガンダム・キマリスに乗るガエリオがどこか嬉しそうな声で言う。しかし先程まで戦っていた三日月はというと……。

 

『セブンスターズ? 厄祭戦? それって何?』

 

『『知らないの!?』』

 

 三日月の言葉に本人を除くこの場にいる全員が驚きの声を上げた。


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