「まったく……何をやっているんだよ、あいつらは?」
ガンダム・アスタロトSFのコックピットでアルジがため息を吐く。
シシオが乗っているガンダム・オリアスとローズの乗っているの様子が何やらおかしいから通信回線を開いてみれば、そこから聞こえてきたのは知り合い二人のいつも通りかつ馬鹿馬鹿しい会話。
思わず頭痛がしてきたアルジはノーマルスーツのヘルメットのフェイスガードを取り外して生身の額に右手の義手の指先を接触させる。
熱を持たない義手の指先はひんやりと冷たくて、頭痛が治まっていく。今日ばかりは右手が義手であることを感謝するアルジであった。
「おい……バカ主従。いつまで馬鹿話をしているんだよ」
頭痛が治まったアルジがシシオとローズに通信を送ると、シシオから猛烈な抗議の声が返ってきた。
『バカ主従!? バカ主従って何だよ! バカと呼ぶならせめて頭に『ガンダム』をつけてくれよ! それだったらまだ納得でき……!』
『私は納得できません。あと、私とシシオ様を一緒にしないでください』
『ローズ!?』
自分の言葉を遮って言うローズの名をシシオが呼ぶが、彼女はそれを華麗に無視する。
今のローズの言葉は「シシオが従者の自分より上なのは当然なのだから一緒にしないでほしい」という意味があったのだが、彼女がわざと言い方を悪くした為、今の台詞を悪くとったシシオが明らかに落ち込む。それを見てアルジはもう一度義手の指先を額に接触させる。
「いいからやるぞ」
アルジは短く言うとこちらに向かってきている敵に意識を集中させた。
☆
アルジが敵に意識を集中させるのとほぼ同時に戦闘が始まった。
敵のモビルスーツがまず最初の標的に選んだのは、昭弘が乗るガンダム・グシオンリベイク。
昭弘がガンダムフレーム機に乗るのはこれが初めてということもあり、ガンダム・グシオンリベイクの動きは他の五機よりもぎこちなく、それを見て「この中で一番墜としやすい」と判断した敵のモビルスーツの内二機は彼を狙うことにしたのだ。
「へっ! 俺が狙いかよ。……面白れぇ!」
昭弘に向かうのはタントテンポが要人警護等に用いるロディフレームの発展機ラブルス。それを見て昭弘が不敵な笑みを浮かべる。
今の昭弘に敵に対する恐れなどない。
敵に与し易いと侮られた事に対する怒りもない。
あるのは新たに手に入れた力、ガンダム・グシオンリベイクの性能を早く試してみたいという思いのみであった。
「行くぜ! グシオン!」
ーーー!
コックピットで昭弘が叫んで機器を操作すると、ガンダム・グシオンリベイクはパイロットの声に答えるようにカメラアイを力強く輝かせて二機のラブルスへと突撃する。
「………!」「……………!」
二機のラブルスはガンダム・グシオンリベイクに向けて手に持ったサブマシンガンを撃つ。ブルワーズで使われていた頃の全身を超重量の装甲で固めていたグシオンであれば避けきる事が出来ず幾つもの銃弾を受けていただろうが……。
「当たるかよ!」
しかし今のガンダム・グシオンリベイクは装甲を削るのと引き換えに以前とは比べ物にならないくらいの機動力を得ていて、更に操縦しているのは阿頼耶識使いの昭弘だ。ろくに狙いもしていない銃弾など当たるはずもなく、ガンダム・グシオンリベイクはサブマシンガンの銃弾を回避しながら二機いるラブルスの一機に突撃をしていった。
「オラァッ!」
昭弘は大声を出すと同時にガンダム・グシオンリベイクを加速させる。
ガンダム・グシオンリベイクは右手に専用ライフルを、左手には大型のシールドを装備していて、昭弘の乗るガンダム・グシオンリベイクは大型のシールドを前に出してラブルスに激突する。
「………!?」
「確か……装甲と装甲の隙間を狙うんだったな」
大型のシールドを使った強烈な体当たりにラブルスの動きが止まった隙をついて、昭弘は右手にあるライフルの照準をラブルスの装甲と装甲の隙間に合わせる。
それはこの最近知り合った自称トレジャーハンターにその侍女、そして昔から共に仕事をしてきた仲間から教わった「効率のいいモビルスーツの殺し方」であった。
「……!!」
「……!? …………!」
ガンダム・グシオンリベイクがライフルを発射すると撃たれたラブルスはコックピットを破壊されて動かなくなり、もう一機のラブルスはその瞬間にガンダム・グシオンリベイクの背後に回り込んで手に持った大型のナタのようなブレードで切りかかろうとする。
「させるかよ」
「………!?」
だが、そんなラブルスの奇襲は昭弘も予測済みであった。
昭弘がコックピットの機器を操作するとガンダム・グシオンリベイクのバックパックの一部が変形して内部から二本の隠し腕が現れ、ナタを振るおうとしていたラブルスの両腕を掴んで動きを止めた。
「やっちまえ! グシオン!」
「…………!?」
昭弘が吼えると同時にガンダム・グシオンリベイクの隠し腕は力任せにラブルスの両腕を引きちぎり、両腕を失ったラブルスは為す術もなく虚空に投げ出される。
「これで……終わりだ!」
「………………! ……!!」
両腕を失い、そのあまりの出来事に動きを止めたラブルスに昭弘は超至近距離からライフルを胴体に向けて撃ち、ライフルの銃弾にコックピットを貫かれたラブルスは一瞬機体を痙攣させるとそれきり動かなくなった。
昭弘は敵が完全に死んだのを確認すると、ガンダム・グシオンリベイクが今まで乗っていた機体とは段違いの性能であることを実感する。
「スゲェなこの機体……。これだけの力があるんだ、今度こそ俺は家族を守ってみせる……!」
昭弘は操縦桿を握りしめて弟の昌弘と、新たに出来た家族とも言える鉄華団を守り抜く事を一人静かに誓う。その言葉を聞いているものは誰もいなかったが、ガンダム・グシオンリベイクのエイハブリアクターの駆動音やコックピットの機器の起動音が昭弘を静かに祝福していた。
☆
「へぇ……。昭弘も中々やるじゃん」
昭弘の乗るガンダム・グシオンリベイクが二機のラブルスを撃破するのを見たシシオが呟く。
シシオが乗るガンダム・オリアスの隣にはローズが乗るガンダム・ボティスの姿があり、二機のガンダムの周囲にはコックピットを破壊されて沈黙しているラブルスやグレイズが数機漂っていて敵の姿はなかった。
「まだ動きにぎこちないところがあるけど、初めての機体でモビルスーツを二機も倒せる昭弘は、三日月と同じくらいセンスがあるよ。ローズもそう思うだろ?」
『ええ。シシオ様の言う通り、昭弘様はこれからも強くなると思います』
シシオが通信機越しでガンダム・ボティスのコックピットにいるローズに話しかけると、シミュレーターで昭弘と三日月の訓練に付き合っていた彼女が頷く。
「そうか、それなら良かった。ガンダム・グシオンリベイクを譲った甲斐があった………え?」
ローズの言葉にシシオが満足気に頷いたその時、コックピットのレーダーがロザーリオの宇宙船から一機、ここから離れた宙域から二機、新たなモビルスーツが現れたことを知らせてきた。
最初はまた新手の敵が現れたかとあまり興味を持っていない様子のシシオだったが、レーダーが映し出す情報を見ると驚きと歓喜が入り交じった表情を浮かべて思わず叫んだ。
「……!? おいおい! このエイハブリアクターの反応はガンダムフレームか! それも二機! こんな所で幻ガンダムフレーム機が二機も現れるだなんて! スッゲェ! これってもしかして夢? 俺ってもしかしていつの間にか眠って夢を見てるの!? 夢だったらお願いだから覚めないでくれぇ!」
「……シシオ様が壊れました」
突然のガンダムフレーム機の登場に狂喜するシシオの様子にローズがため息をついた。