鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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#29

『よお、ロザーリオ。久しぶりだな』

 

「ジャンマルコか……!」

 

 正体不明の強襲装甲艦から発進した六機のモビルスーツの一機が出した通信をロザーリオが繋げると、ブリッジのモニターにノーマルスーツを着たジャンマルコの姿が映し出された。

 

『よくもまあ、今まで好き勝手やってくれたな? ここまでやったからには当然覚悟はできているな?』

 

「………!」

 

 好戦的な笑みを浮かべるジャンマルコの言葉にロザーリオは悔しげに歯を噛みしめる。

 

「……ジャンマルコ。何故、お前がそこにいる? お前はダディ・テッド達と共にドルトコロニーに入港したのではないのか?」

 

『ああ、確かにダディ・テッド達はドルトコロニーに入ったぜ。だがお前、よくそんな事を知っていたな? 誰かが教えてくれたのか?』

 

 何故ここにいるのかと訊ねるとジャンマルコにからかう様に返されて、そこでロザーリオは全てを察した。

 

 ダディ・テッドは全て知っていたのだ。

 

 ギャラルホルンの計画も。ドルトコロニーの暴動を利用したロザーリオの企みも。全て。

 

 そしてダディ・テッドはこの一連の企みを逆に利用してロザーリオを攻めることを考えたのだろう。その為に最初に行ったのが……。

 

「そちらに送り込んだ諜報員を始末して、偽の報告をこちらに送ったということか……!」

 

 歯噛みしながらロザーリオが言うと、ジャンマルコは彼の内心を読み取ったかのように顔に浮かべている笑みを濃くする。

 

『そこまで分かっているなら話は早いよな。もう俺が何かを言う必要もないみたいだし、手っ取り早く戦闘で決着を着けようじゃねぇか』

 

「くっ!」

 

 ジャンマルコはそれだけを言うと通信を切り、ロザーリオはブリッジを後にするのであった。

 

 ☆

 

(まあ、あのメイドの姉ちゃんは死んではいないんだけどな)

 

 通信を切った後、モビルスーツのコックピットの中でジャンマルコは内心で呟いた。

 

 ロザーリオの推測はほとんど間違ってない。唯一間違っている点があるとすればイサリビに潜り込んでいた諜報員、フミタン・アドモスが始末されていないという点だろう。

 

 ギャラルホルンとロザーリオの計画はジャンマルコとダディ・テッドも予め調べていた上に、マクマードからの情報もあって大体の全容は掴めていた。そこに自分達の仕事のサポートをマクマードから依頼されていたシシオとローズが、諜報員であるフミタンの尻尾を掴んだことで、計画の詳細な予定やダディ・テッドだけでなくクーデリアも暗殺されそうだったという事実も分かった。

 

 ここまではロザーリオの推測した通りなのだが、その後でクーデリアは自分を裏切っていたフミタンを許し、フミタンもこれによって完全にクーデリア達の仲間となって、自らの手で元雇い主のノブリスとロザーリオに偽の報告を送ったのだ。

 

 そしてロザーリオとギャラルホルンが偽の報告で油断している隙に、ジャンマルコ達は鉄華団がブルワーズから手に入れた宇宙船を使ってロザーリオに奇襲を行い、クーデリアとダディ・テッド達はギャラルホルンの計画を阻止するべくドルトコロニーで「ある行動」を行っていた。

 

「おっ。あいつらもモビルスーツを出したみたいだな」

 

 ジャンマルコ達六機のモビルスーツがロザーリオの宇宙船の間近に差し迫ったところで、ロザーリオの宇宙船から複数のモビルスーツが緊急発進してきた。そしてそれと同時に、近くにいたロザーリオと繋がっているギャラルホルンの艦隊からもモビルスーツが数機発進したのをコックピットのセンサーが感知した。

 

「ロザーリオの奴ら、中々いいモビルスーツを揃えてるじゃねえか。だがこっちだって負けちゃいねえぞ」

 

 コックピットのモニターに映る敵のモビルスーツを見てジャンマルコが楽しそうに笑う。

 

 ロザーリオの宇宙船から発進したのはロディフーレムのカスタム機と百錬のカスタム機、ギャラルホルンの艦隊から発進したのはグレイズのカスタム機であるシュヴァルベグレイズ。合わせた数は二十機を超える大戦力であったが、ジャンマルコ達のモビルスーツも彼の言う通り、そんな数の差を物ともしない豪華な面々であった。

 

 ジャンマルコが乗るグレイズのカスタム機、リーガルリリー。

 

 三日月が乗るガンダムフレーム機、ガンダム・バルバトス。

 

 アルジが乗るガンダムフレーム機、ガンダム・アスタロトSF。

 

 シシオが乗るガンダムフレーム機、ガンダム・オリアス。

 

 ローズが乗るガンダムフレーム機、ガンダム・ボティス。

 

 最後に六機のモビルスーツの中で一番後ろに飛んでいる薄茶色の機体色をしたガンダムフレーム機。

 

 ギャラルホルンの最新モビルスーツ、グレイズのカスタム機の後を、世界で七十二機しか存在しない伝説のガンダムフレーム機が五機も続くその姿は壮観としか言いようがなかった。

 

 ジャンマルコは自分の機体と共に飛んでいる五機のガンダムフレーム機を見て口元を上げてから、薄茶色のガンダムフレーム機に通信を入れた。

 

「よぉ、昭弘のボウズ。そのガンダムフレーム……名前はなんだったか? とにかくそれの調子はどうだ?」

 

『あ、ジャンマルコさん。はい、いい調子だと……思います。それとコイツの名前は「ガンダム・グシオンリベイク」です』

 

 モニターに現れた窓枠に映し出された昭弘がジャンマルコに返事をする。

 

 薄茶色のガンダムフレーム機に乗っていたのは昭弘であり、そしてこの薄茶色のガンダムフレーム機はブルワーズのクダルが乗っていた「グシオン」を改修した機体ガンダム・グシオンリベイク(焼き直し)であった。

 

 ジャンマルコは昭弘の乗るガンダム・グシオンリベイクを見てから感心したように呟く。

 

「それにしても……あれだけボロボロだった機体がよく直ったよな。というか外見なんか前と全く違うし、別の機体なんじゃねえのか?」

 

『いえ、これは間違いなくあのグシオンです。シシオが一晩で直した……というか改造……をしてくれました。……自分の艦の修理も後回しにして』

 

 ためらいがちに答える昭弘の言葉にジャンマルコは呆れたように口を開いた。

 

「はぁ!? シシオの奴、どれだけガンダムフレームが好きなんだよ? いくらなんでもそこまでするか? 普通?」

 

『当然ですよ!』

 

 まるでジャンマルコと昭弘の会話を聞いていたかのように(というより聞いていたのだろう)ジャンマルコのコックピットにシシオからの音声だけの通信が入ってきた。

 

『この俺がガンダムフレーム機を壊れたままにしておくはずがないじゃないですか? 例え昭弘に譲り渡さなくても最優先で直しましたって、ええ! ……というか皆、後で機体の映像データ全部俺にくれない? ガンダムフレーム機が五機も一緒に行動する光景……是非全員の映像データを繋げた完全版にして永久保存しないと!』

 

 全員の映像データを渡してほしいと言ってくるシシオ。音声だけの通信なのでジャンマルコには彼の顔が見えないが、声音だけで彼が非常に興奮しているのが分かった。

 

 そんな時、ジャンマルコのコックピットに新しい人の声が聞こえてくる。

 

『はぁ……。またシシオ様の病気が出ましたか……』

 

 聞こえてきた声はローズのものであった。恐らく彼女がシシオのコックピットに通信を入れて、その声が通信越しにジャンマルコのところまで聞こえてきたのだろう。

 

 ローズの声は今にもため息をつかんばかりの呆れ果てたものであり、それに対してシシオは猛烈に抗議する。

 

『病気って何だよローズ!? モビルスーツを扱う技術者だったらガンダムフレームに興味を持って当然だろ!? しかもそれが自分達のを入れても五機いるんだぞ! そんなお宝映像、俺と父さんだったらそれだけでご飯三杯は余裕でいける……いや! それを見て鼻血を出せる自信がある!』

 

『そんな変態、シシオ様とシシオ様のお父様だけです』

 

『変態!? 変態とまでいうか!?』

 

(コイツら、今から戦闘だっていう自覚あるのかねぇ……)

 

 通信から聞こえてくるシシオとローズのやり取りにジャンマルコは、思わずやる気をいくらか削がれて内心でため息をついた。


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