鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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#27

「ん……?」

 

 目を覚ますとシシオは格納庫の隅のスペースにいた。

 

「ここは……イサリビの格納庫? ああ、そうか。昨日、徹夜でガンダム・オリアスの整備をしていたからここで仮眠をとっていたんだ」

 

 横を見ると先日の戦闘で久々にリミッターを解除した全力戦闘を行なったガンダム・オリアスが無言で立っていた。

 

 そしてここはイサリビの格納庫。シシオの宇宙船は先日の戦闘でブリッジが潰れていて満足な作業ができず、無理矢理ガンダム・オリアスだけイサリビに載せて整備をしていたのだった。

 

「そういえば昨日は変な夢をみたな……」

 

 自分が知っているのとは違う地球と月でヒゲの生えた変わったガンダムと一緒に戦って、最終的には世界の危機を救うという夢。

 

 所々思い出せない箇所はあるがシシオの本能が「思い出さない方がいい」と告げていた。何というか、思い出したら人生が終わるというか、人生の墓場に直行する様な気がするのだ。

 

「ローズも夢に出ていたっけ……」

 

 シシオは昨日ガンダム・オリアスの整備を手伝ってくれて、今は自分の側で仮眠をとっているローズを見る。そのせいか昨日の夢にはローズとガンダム・ボティスも現れたのだった。

 

「……うん。シシオ様、おはようございます」

 

 シシオがローズを見ている彼女が目を覚まして挨拶をする。

 

「ああ、おはよう。ローズ」

 

「……シシオ様。変な事を言うようですが私、昨日変わった夢を見ました。よく思い出せませんけど……とても嬉しい夢だった気がします」

 

「そ、そうか……」

 

 小さく笑いながら言うローズに引きつった表情で答えるシシオ。何故か彼女が見た夢を聞くのは危険な気がした彼だった。

 

「お? お前達、ここで寝ていたのか?」

 

 シシオとローズが話をしていると鉄華団の整備班の代表であるおやっさんが格納庫に入って来た。

 

「おはよう。おやっさん」

 

「おはようございます。今、食事の準備を……」

 

 シシオがおやっさんに挨拶をしてローズがいつもの癖で言うと、それをおやっさんが手で止める。

 

「いやいや、それだったらもうアトラが用意してくれてるぜ。ほら、一緒に朝メシ食いに行こうや?」

 

「そうだね」

 

「はい」

 

 おやっさんの提案にシシオはローズは頷くと朝食をとるために食堂に向かうのだった。

 

 ☆

 

「あれは……」

 

 イサリビの食堂にやって来たシシオは、すでに食堂に来て朝食を食べている鉄華団のジャケットを着た少年達を見つけた。

 

 少年達はつい先日鉄華団の団員になった元ブルワーズのヒューマンデブリであり、その中には昭弘の弟である昌弘の姿もあった。頬に大きな傷がある少年と食事をとりながら会話をしている彼の表情は明るくて、それだけで鉄華団の環境は彼らにとって良いものであるのが分かる。

 

「どうやら彼らはうまく鉄華団にとけ込めているようだな」

 

「そうですね」

 

 シシオとローズが話しながら朝食を受け取ると、鉄華団の炊事係の少女アトラ・ミクスタが二人に話しかけてきた。

 

「あの……シシオさんとローズさんですか?」

 

「そうだけど?」

 

「私達に何か?」

 

 シシオとローズが頷いてみせるとアトラは頭を下げて二人に礼を言った。

 

「昭弘さんとタカキ君を助けてくれてありがとうございました」

 

 礼を言うアトラにシシオとローズが首を横に振る。

 

「え? ああ、いや、お礼を言われるようなしていないよ」

 

「ええ。私達は私達の仕事をしただけですから」

 

「いえ。そういうわけにはいきません。お礼をしたいから朝食を食べ終わったら少し待っていて下さいね」

 

「ん? ああ……」

 

「分かりました」

 

 アトラに言われてシシオとローズは朝食を食べ終えてからそのまま食堂で待っていると、そこに大きなトレイを持ったアトラが二人の所にやって来た。

 

「これは……?」

 

「カンノーリですか?」

 

 アトラが持ってきたトレイにはシシオ達が仕事でマクマードの屋敷に行くと決まってご馳走される菓子のカンノーリが大量にのっていた。

 

「はい。オルガさんに言われて用意していたんです」

 

 そう言われてシシオとローズは、以前オルガが例としてカンノーリをご馳走すると言っていたことを思い出す。

 

「お口に合うかは分かりませんけど……」

 

「いや、そんな事はないって………うん、美味い」

 

「……ええ、確かに美味しいですね」

 

「本当ですか!?」

 

 自信なさそうに言うアトラにシシオとローズがカンノーリを一口食べて感想を言うと、アトラが安心と嬉しさから笑顔を浮かべる。

 

「本当、本当。これは確かに美味い……ん?」

 

『………』

 

 一つ目のカンノーリを食べ終えたシシオが二つ目のカンノーリに手を伸ばそうとした時、食堂にいた昌弘を初めとする元ブルワーズの少年達が自分を、正確には自分が手に取ろうとしたカンノーリを見ていることに気づいた。

 

「……食うか?」

 

「え……!? あの……いいのか?」

 

 シシオが訊ねると元ブルワーズの少年達は一瞬だけ驚き、昌弘が代表して聞いてきた。

 

「ああ、いいよ。これだけ沢山あるんだから皆で食べた方が美味いだろ? ローズもそれでいいだろ?」

 

「はい。私は構いませんよ」

 

『………っ!』

 

 シシオとローズの言葉に昌弘達は我先にと二人のテーブルに駆け寄ってカンノーリに手を伸ばす。その様子をシシオとローズが微笑ましく見ていると、そこにオルガと昭弘の二人がやって来た。

 

「よお、シシオ。ローズ」

 

「こいつらに菓子をやってくれて……すまねえな」

 

 挨拶をするオルガの後で昭弘が頭を下げて、それにシシオが苦笑をする。

 

「謝ったりするなよ。さっきも言ったけど、こういうのは皆で食べた方が美味いんだって。それより何か用か?」

 

 シシオが訊ねるとオルガと昭弘の二人は気まずそうな表情となってオルガが口を開いた。

 

「あー……。それなんだがシシオ、昭弘がお前に話があるらしいんだ。……すまねえが、ここでは話せないからちょっとついて来てくれねえか?」

 

 ☆

 

「シシオ! 頼む!」

 

 シシオとローズがオルガと昭弘に連れられて人気のない箇所に行くと、そこでいきなり昭弘が土下座をする。その際に昭弘の額が床に勢い良く床に激突して「ガゴン!」という音がして思わずシシオは気圧される。

 

「お、おぉう……。た、頼むって一体何をだよ?」

 

 シシオに聞かれて昭弘は土下座の体勢のまま顏を上げることなく自分の頼み事を口にした。

 

「……お前がこの間の戦闘で手に入れたモビルスーツ、グシオンを俺に譲ってくれ」

 

「はぁっ!?」

 

「………!」

 

 予想だにしなかった昭弘の言葉にシシオとローズが驚きのあまり絶句する。

 

「……ちょ、ちょっと待ってくれよ、昭弘? お前、今何て言った?」

 

「グシオンを、ガンダムフレーム機を寄越せ、ですか? 昭弘様? シシオ様がアレを手に入れるのをどれだけ楽しみにしていたか知っているでしょう?」

 

「待ってくれ。シシオ、ローズ。昭弘が筋が通っていない事を言っているのは俺達も分かっているんだ」

 

 昭弘の頼みにシシオとローズがその顔に困惑と苛立ちを浮かべるとオルガが口を開く。

 

 先日のブルワーズから賠償金を要求する時、名瀬とジャンマルコは賠償金を受け取らず、シシオはガンダムフレーム機であるグシオンだけを受け取り、それ以外は全て鉄華団が受け取るという話で決着がついたはずであった。

 

 しかし昭弘はシシオの唯一の戦利品を、彼が求めて止まなかったガンダムフレーム機の一機を譲れと言うのだ。これに困惑や苛立ちを感じるなと言うのが無理な話である。

 

「俺も止めたんだが昭弘の奴、『ダメ元でいいから頼ませてくれ』って聞かねえんだ」

 

「そうか……。それで? 一体どうしてグシオンを譲れなんて言い出したんだ?」

 

 オルガの言葉にシシオはひとまず昭弘に事情を聞いてみることにした。その声がかなり不機嫌なものであったが、それは仕方がないことだろう。

 

「……俺はこの前の戦いで大勢の家族ができた……いや、いたことに気づいたんだ」

 

 シシオに聞かれて昭弘はぽつりぽつりと話し始める。

 

「死んだものと思っていた昌弘と再会できて、その昌弘が世話になったガキ共と出会って……。それを助ける為に鉄華団の皆が手を貸してくれて……。それで気づいたんだ。もう家族なんていないと思っていた俺にも帰る場所が、家族ができていたことに。

 俺はもう二度と家族を失いたくないんだ……! 今度こそ家族を俺の手で守りたいんだ。その為には力がいる。シシオ……あのグシオンはお前のガンダム・オリアスと同じガンダムフレーム機で、使いこなせばスゲェ力になるんだよな?

 だから頼む! 無茶な事を言っているのは分かっている! だけどどうか俺に家族を守れる力を、グシオンをくれ!」

 

「……………」

 

 土下座をしながら言う昭弘の言葉に、シシオは難しい顔で無言となってしばらく何かを考えた後、やがて口を開いた。

 

「……………分かったよ」

 

「! ほ、本当か!?」

 

「シシオ様!?」

 

「いいのかよ!?」

 

 呟くようなシシオの言葉に昭弘が顏を上げ、ローズとオルガも驚いた顏となる。そんな三人を前にシシオは渋い顏をしながらも頷く。

 

「ああ……。昭弘は嘘を言うような奴じゃないから家族を守りたいというのは本当なんだろうし、土下座までしての頼みを無視するわけにはいかないだろ。それに俺が所有していたらグシオンはガンダム・オリアスの予備機としてほとんど格納庫の中だ。……それだったら別のパイロットに乗せて存分に戦わせてやった方がグシオンにはいいのかも……しれない」

 

「シシオ……」

 

「ただし!」

 

 土下座の体勢から身体を起こして礼を言おうとする昭弘にシシオが指を突きつける。

 

「ただし! そこまで言ったからには必ずグシオンを使いこなしてみせろよ! もし俺の前であのクダルのようにグシオンに無様な真似をさせたらその時は即座に、力づくでもグシオンを返してもらうからな!」

 

「ああ! ああ! 約束する! ……すまねえ、シシオ。この借りは必ず返す!」

 

 指を突きつけながら言うシシオに昭弘は頭を深く下げて礼を言うのだった。

 

 ☆

 

「シシオ様。……よろしかったのですか? せっかくのガンダムフレーム機を譲ったりして」

 

 オルガと昭弘と別れてからしばらくした後、ローズがシシオに訊ねる。するとシシオは残念そうだがどこかスッキリした様な複雑な顔で答える。

 

「……いいんだよ。もう決めたことなんだから。それに昭弘だったらグシオンを使いこなしてくれると思うからな。ローズだってそう思っているんだろ?」

 

「ええ。昭弘様でしたらそこいらのパイロットよりずっと腕も立ちますし、機体に使われることもないと思います」

 

 これまで何度も練習に付き合い、共に実戦で戦ったことで昭弘の実力を理解しているローズはシシオの質問に頷いてみせた。そしてそれを見たシシオは、自分の予想が外れていなかったことに安堵を覚えると、すぐに思考を別のものに変えた。

 

「それにしても家族を守りたい、か……。それだったら俺達も『仕事』を急がないとな……」

 

 シシオは自分に言い聞かせる様に呟くと、自分がローズと一緒にこのイサリビにやって来た本当の目的を、出来るだけ早く実行しようと思うのだった。

 

 何故ならシシオ達の「仕事」の正否次第ではこれからの行動に支障が出るばかりか昭弘の言う家族……鉄華団にも危険が降りかかるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 一体誰と通信をしていたんですか? ………『フミタン・アドモス』さん」

 

「貴方は………!?」


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