「ローズ。まずは昭弘と敵を引き離すぞ」
『はい。シシオ様』
シシオはローズに言うとライフルを撃ち、ローズもまたシシオに答えるとブレードライフルを撃った。
ガンダム・オリアスとガンダム・ボティスが放った弾丸は、昭弘のグレイズ改と今まさに襲い掛かろうとしていた二機のマン・ロディの間を通り過ぎ、マン・ロディ二機とグシオンの動きを止めた。突然の援護射撃に昭弘もガンダム・オリアスとガンダム・ボティスがやって来ていた事に気付く。
『っ! シシオとローズか?』
「ああ、そうだよ。……昭弘、いきなりですまないがそのグシオンは俺に譲ってくれないか? ローズ、お前は昭弘と一緒にマン・ロディの相手をしてくれ」
『なっ!? いきなり何を……』
『分かりました、シシオ様』
モニターに映るグシオンを見ながら言うシシオの言葉に昭弘が戸惑った声を出し、ローズが頷く。
『おい! ローズ、お前まで勝手に……』
『お願いします昭弘様。ここはシシオ様のわがままを聞いてください』
『っ! 分かったよ』
最初は納得していない昭弘であったが小さく頭を下げるローズに引き下がってみせる。
「……すまないな、昭弘」
シシオは昭弘に小さく詫びるとガンダム・オリアスを突撃させた。突然する先は当然、緑の重装甲のモビルスーツ、グシオン。
「………! ………ッ!?」
「反応が鈍い。……十点減点」
ガンダム・オリアスは盾を前面に出した体当たりを行い、前の戦闘で自分を殺そうとしたガンダム・ボティスに気を取られていたクダルの乗るグシオンは体当たりをまともに受け、それを見たシシオはため息を吐いてから呟いた。
『な、何なんだお前は! いきなりヨォ!? お前、あの機体のな……』
「俺はシシオ。この機体、ガンダム・オリアスのパイロットだ。……突然だけどお前がその機体、ガンダムフレームに乗るのに相応しいかテストをするから。ああ、ちなみにさっきの奇襲で十点減点したから残り点数は九十点だから」
ガンダム・オリアスのコックピットにグシオンに乗るクダルから通信が入ってくるが、シシオは全く耳を貸さず自分の要件だけを淡々と告げる。
『はぁ!? 何がテストだよ! ふざけるんじゃ……!』
「テストを続けるぞ」
『っ!』
シシオの一方的な言葉に激昂するクダルだが、シシオはそれを気に止める事なく攻撃を、「テスト」を再開する。
「次は……」
『くうっ!?』
ガンダム・オリアスが右手に持つライフルを射撃し、グシオンがライフルから放たれた銃弾をまともに浴びる。
「回避は……あの重装甲じゃあ仕方ないか。五点減点」
ライフルの銃弾を浴びて動きを止めたグシオンを見てシシオは採点をしながら次の行動に移る。
『こ、このガキが………っ!?』
憤怒の表情を浮かべて悪態をつこうとするクダルだったが、右手に持つライフルをサーベルに持ち替えたガンダム・オリアスが眼前まで迫って来ているの見て顔を青くする。
「はあっ!」
『ぎゃっ!?』
「………ちっ」
ガンダム・オリアスの突撃の勢いを乗せたサーベルを叩きつけられてグシオンが弾き飛ばされ、その光景に攻撃を仕掛けたシシオの方が苛立たしげに舌打ちをする。
今の攻撃、パイロットの技量さえあれば装甲の曲面を活かして受け流すことも、装甲の厚さと出力の高さを活かして受け止めた後、反撃することもできたはずであった。少なくともシシオの中ではそれくらいは余裕で可能なレベルである。
しかしクダルはその両方とも実行できずに攻撃をまともに受けて、ただ重装甲の防御力に命を救われただけ。その技量の低さがシシオを苛立たせた。
「防御が全くできていない。……三十点減点」
『ふざけんじゃないわよ! 何が減点だ! 何見下してんだテメェ!? これでも……喰らいやがれぇ!』
シシオの失望した口調にクダルが怒り、グシオンが背中のブースターと手に持ったハンマーに内蔵されているスラスターを一気に点火し、ハンマーを高速で振り回しながらガンダム・オリアスに突撃する。……しかし。
『おら! おらおらおらぁ! ……何ィ!?』
「この程度で驚くなよ」
気合の声を発しながら放った攻撃をあっさりと避けられて驚くクダルと呆れた声を出すシシオ。
ハンマーを高速で振り回しながら突撃するグシオンの攻撃は当たりさえすれば強力だし見た目も迫力がある。並のパイロットであればその迫力にのまれて動きが固まり、ハンマーの直撃を受けて機体ごと命を破壊されるだろう。
しかしシシオは並のパイロットではなく、彼から見ればグシオンの攻撃は見かけだおしの単調な攻撃でしかなかった。これで攻撃の途中で強引にハンマーの軌道を変えてフェイントをするのならばまだ評価もできるのだが、それすら出来ないなら減点対象でしかない。
「攻撃がおおざっぱで単調。次の行動の繋がりも考えていない。十五点減点。……ん?」
『おのっ! おのれぇ! 死ね! 死になさいよォォ!』
ハンマーの攻撃を避けられた挙句、更に減点をされたクダルは怒声を上げると共にグシオンの胸部に内蔵されている四門の火砲をされる。しかしシシオはグシオンから発射された四発の砲弾を近くにあったデブリを使って避けて、デブリに当たった砲弾が爆発した爆風だけシールドを使って防いだ。
(あれがローズの言っていた『胸部にある怪しい所』か。……勿体ないな)
シシオは戦いが始まる前にローズから聞いた報告を思い出しながら内心で呟いた。
今の火砲、対艦ナパーム弾並の威力でハンマーと同様に当てるのは難しいが威力は高く、至近距離から受ければモビルスーツなどひとたまりもないだろう。
だからこそ勿体ないな、とシシオは思う。
さっきのハンマーの攻撃の直後に火砲を使えばシシオの虚を突けてガンダム・オリアスに多少なりのダメージを与えられたかもしれない。しかしクダルはそれをすることなくシシオに避けれるだけの距離と構える時間を与えて四発とも不発に終わってしまった。
「武装の使うタイミングがメチャクチャ。十点減点。弱いな……。お前、ガンダムに乗る資格ないよ……」
『だから見下してんじゃないわよ! 何がガンダムに乗る資格だ! こんなモン、大昔のポンコツじゃないの! それをこのクダル・カデル様が有効に使ってやってるんだからむしろ感謝するべきだろうが、この何の役にも立たないデブモビルスーツはよぉ!?』
「…………………………!?」
クダルの口から出た言葉を聞いた瞬間、シシオの中で何かが「バキリ……!」という音を立てて壊れた気がした。
「………自分の乗るモビルスーツに敬意も愛着も持っていない。三十点減点」
底冷えする冷たい声で減点を告げるシシオ。
これでクダルの持ち点は零となり、シシオの中で彼の処罰が決定された。
「クダル・カデル、落第。……これから補習を始める」
『ああっ?』
感情が抜け落ちたような無表情となったシシオの言葉にクダルが怪訝な顔をする。しかしシシオはそんなクダルの態度など気にせずに言葉を続ける。
「ガンダムについて何も知らないお前にガンダムの真の力を教えてやるよ。……行くぞ! ガンダム・オリアス!」
『………!』
シシオがそう叫びコックピットの危機を操作すると、ガンダム・オリアスのツインアイがまるで彼の内にある怒りに応えたかのように真紅に輝いた。
シシオのガンダムフレーム機搭乗資格テスト
クダル・カデル→0点
三日月、ローズ、アルジ→80点代