鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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#22

「オルガ達も来たみたいだね」

 

『やっとかよ』

 

『も~! 遅い~!』

 

 オルガ達が交戦宙域にやって来たのを三日月が確認すると、同じくオルガ達のイサリビやハンマーヘッドの姿を確認したアルジとラフタが不満気な声を上げた。

 

『とにかくこれでようやく反撃開始ね。さぁ、いくわよぉ!』

 

『ああっ!』

 

 三日月はオルガ達の奇襲の為に今まで囮の役割を努めていて、その為敵に攻撃されてもろくに反撃することができずストレスが溜まっていたラフタが気炎を上げて言うとアルジもそれに同調する。

 

「それじゃあ、行くか」

 

『『………』』

 

 三日月も反撃に移ろうとし、ガンダム・バルバトスから長距離ブースターを取り外して武器を構えると、さっきまでテンションが高かったラフタとアルジの二人が無言で三日月を見た。

 

「? 二人ともどうしたの?」

 

『ねぇ、三日月? 聞こう聞こうと思っていたんだけど、その武器何?』

 

 そう言ってラフタの乗る百里が指差すのはガンダム・バルバトスの右手にある武器。長い柄に敵を打撃するための柄頭を取り付けた武器、メイスである。

 

 三日月がガンダム・バルバトスにメイスを装備させることは不思議ではない。彼は近距離兵装では剣よりもメイスのようなシンプルでいて破壊力のある武器を好んでいるのは皆が知っていることである。

 

 問題はメイスの大きさ。

 

 柄の長さと柄頭の大きさがそれぞれガンダム・バルバトスの全長くらいあり、柄頭はガンダム・バルバトスの胴体ほどあるもはや鉄塊と言える代物。

 

 ……どう見てもガンダム・バルバトスが最初に装備していたメイスより巨大で、あまりの大きさに三日月は長距離ブースターの外側に無理矢理巨大メイスを取りつけてここまで運び込んできたのだった。

 

「これ? シシオに作ってもらった武器だけど?」

 

 ラフタの質問に三日月は何でもないように答える。

 

 前回のブルワーズの奇襲でマン・ロディと戦った三日月は「まだ太刀がうまく使えない。これだと満足に戦えない」と言い、それを聞いたシシオが自分の宇宙船にあったジャンク品を使い三日月が最も取り扱いに慣れていて、重装甲のモビルスーツや戦艦にも充分なダメージを与えられる武器を作ったのだ。それがこの巨大メイスである。

 

 ちなみに三日月は巨大メイスを一目見た瞬間に気に入ったが、その隣にいたおやっさんは製作者であるシシオに「お前馬鹿だろ!? 頭良いけど馬鹿だろ!」と言ったのは別の話。

 

「……貸さないよ?」

 

『いらないわよ!?』

 

『いらねぇよ!』

 

 三日月の言葉にラフタとアルジがほぼ同時に怒鳴り返す。

 

『全くシシオは……。アイツ、たまにメチャクチャなものを作るのよね……ん?』

 

 呆れたようにため息を吐くラフタだったが、こちらにマン・ロディが三機向かってくるのに気づいて表情を引き締めた。

 

『さぁ、無駄話はここまで! それじゃあ行くわよ! 三日月! アルジ!』

 

『おう!』

 

「先に行くよ」

 

 ラフタの言葉にアルジが答え、新しい武器の巨大メイスを試してみたい三日月が先行する。

 

『あっ!? ちょっと三日月!』

 

「ええっと……確か背中を叩けばいいんだっけ?」

 

 慌てて呼び止めようとするラフタの声を無視して三日月はガンダム・バルバトスを加速させながらシシオからのアドバイスを思い出す。

 

 シシオはこの戦いが始まる前に三日月に、パイロットであるヒューマンデブリの少年達を殺さずにマン・ロディを無力化する為のアドバイスをしていた。

 

 その方法はできる限り攻撃をマン・ロディの背面に向けて行う事。シシオがこのアドバイスをした理由は三つある。

 

 一つ目の理由は単純にコックピットがある胸部を押しつぶさない為。

 

 二つ目の理由はマン・ロディの主なブースターとスラスターが背部にあるから、ここを破壊すれば機動力のほとんどを奪える為。

 

 三つ目の理由はモビルスーツの背中には必ず「物理的な破壊は不可能」と言われているエイハブ・リアクターがある事から、背部を攻撃する事でコックピットのダメージを大分減らせる為。

 

「………!」

 

「よっ……とぉっ!」

 

 三機の先頭を行くマン・ロディの攻撃を回避した三日月は、そのまま先頭のマン・ロディの背後に回り込んで背部に向けて巨大メイスを振るった。その直後……。

 

 ーーーーーーーーーー!!

 

 宇宙空間に聞こえるはずの無い轟音が響き渡り、背部に強烈な一撃を喰らったマン・ロディがまるでホームランが決まった野球のボールのように凄まじい速度で明後日の方向に飛んで行った。

 

『『………!?』』

 

 ガンダム・バルバトスがマン・ロディを巨大メイスで弾き飛ばす光景に、残った敵のマン・ロディ二機のパイロットだけでなくラフタとアルジまでもが絶句した。

 

「おー……。凄い飛んだな。……死んで無いよな?」

 

 もう姿が見えなくなったマン・ロディが飛んで行った方向を見て三日月がどこか感心したように呟く。そんな彼のコックピットに疲れた顔をしたラフタの通信が入ってきた。

 

『………三日月。アンタ、マン・ロディじゃなくてタントテンポの援軍か敵の母艦を叩いてきなさい。マン・ロディの方は私とアルジの方で「いや、それは出来ない。悪いな」はぁ!?』

 

 ラフタの言葉に割り込む形でアルジが短く言う。

 

『どうやら俺の敵が来たみたいだ』

 

 そう言うアルジはラフタと三日月を見ておらず、その視線の先にはこちらに高速で向かって来る一機のモビルスーツ、前の奇襲でグシオンの危機を救った蒼い百里の姿があった。

 

「あれがアルジの敵なの?」

 

『ヴォルコが言うにはそうらしい』

 

 二機のマン・ロディの相手をしながら訊ねる三日月の言葉にアルジが頷く。この戦いの前にローズから渡された蒼い百里の画像を見たヴォルコはアルジにこう言った。

 

 あの蒼い百里の両腕にあるパーツはガンダム・アスタロトの装甲だ、と。

 

 今のガンダム・アスタロトSFの両肩にあるブレードウィングはシシオが厄祭戦のデータから再現したコピー品で、蒼い百里の両腕にあるパーツこそかつて失われた本物のブレードウィングなのだそうだ。

 

 だからヴォルコは蒼い百里を見つけたらそれを倒して両腕のブレードウィングを回収しろとアルジに言ったのだ。

 

 アルジとしてはガンダムフレーム機のグシオンに乗るクダルの相手をしたかったが、ヴォルコの過去を知った以上彼の意見を無視する気もなかった。

 

『悪いがあの百里は俺がやる。三日月とラフタさんは他を頼む』

 

「分かった」

 

『あーもー! 勝手な事をしてぇ! 分かったわよ!』

 

 蒼い百里に向けてガンダム・アスタロトSFを加速させながらアルジが言うと三日月が短く答えてラフタが怒りながら返事をするのだった。

 

 ☆

 

「どうやら今のところ俺達が優勢のようだな」

 

『そのようですね。シシオ様』

 

 周囲を警戒しながら戦場の様子を確認したシシオが呟くと、彼の背中を守っていたローズがその言葉を肯定した。

 

 モビルスーツの数こそはタントテンポの援軍を受けたブルワーズの方が上だが、戦力の質はシシオ達の方が上でオルガ達の奇襲が成功した今、戦いの流れはこちらにあった。

 

「今ブルワーズの母艦には鉄華団とジャンマルコさんの艦のクルーが白兵戦を仕掛けているみたいだし、俺達はこのまま艦に敵を近づけないように……」

 

『シシオ様! あれを!』

 

 シシオの言葉の途中でローズが乗るガンダム・ボティスが左手に持つブレードライフルの切っ先である方向を示す。その先には数機のモビルスーツとたった一機で交戦している昭弘のグレイズ改の姿があった。

 

 昭弘のグレイズ改と戦っているの二機のマン・ロディ。そして緑の重装甲で全身を包んだガンダムフレーム機、クダルの乗るグシオン。

 

 クダルの乗るグシオンはやはりと言うか、まず二機のマン・ロディを先攻させてからその隙を突く形で攻撃して、それを昭弘が辛うじて避ける。

 

「………」

 

 シシオはクダルの戦い方を無表情となって見つめるが、内心では怒りが爆発する寸前であった。

 

 伝説のガンダムフレーム機の一機に乗っていながらその性能を全く活かせていない。

 

 ガンダムフレーム機の性能はあんなものでは無い。

 

 機体性能に頼りきった上に部下を捨て駒にした戦い方しか出来ないのに、それで得た戦果を自分の実力だと思っている。

 

 厄祭戦を終結させたガンダムフレーム機は、その悪魔の如き力で守るべき者を脅かす敵を完膚なきまでに叩き潰す暴力的な、一騎当千の戦いを魅せるべきなのだ。

 

 一体クダル・カデルはどこまで伝説のガンダムフレームの名を、シシオの憧れを汚せば気がすむのだろうか?

 

 もう、限界だった。

 

「……ローズ、行くぞ」

 

『はい、シシオ様』

 

 怒りのあまり底冷えする声で言うとシシオはローズを連れてクダル達と戦っている昭弘の元にガンダム・オリアスを向かわせた。




最後のシシオの心境。
→家柄だけが取り柄の新米パイロットが、外見がガンダム・バエルそっくりのモビルスーツを練習機にしているのを目撃したマクギリス。

最後のローズの心境。
→内心で怒り狂っているエリオン公の側に立ち、怯えながらも何とか役に立とうと考えるジュリエッタ。

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