鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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今回は短い上に話が進んでいなくて申し訳ありません。
前回の最後でシシオが怒っていた理由が分かります。


#20

 ブルワーズと戦う事を決めたシシオ達であったが、ギャラルホルンとタントテンポの協力を得ているブルワーズと正面から戦うのは得策ではないので、今度はこちらから奇襲を仕掛ける事となった。まずは航続距離の長いモビルスーツを先行させて、ブルワーズがその後ろから母艦が来ると錯覚した所で、大きく迂回した艦が横から奇襲するというのが名瀬達の立てた作戦であった。

 

 そして先行する事になったモビルスーツは、長距離ブースターを装備した三日月の乗るガンダム・バルバトスとラフタの乗る百里、そして……。

 

『しばらく三人旅だね。よろしくね、二人共』

 

「うん」

 

『ああ……』

 

 三日月が乗るガンダム・バルバトスのコックピットに、ラフタの言葉と三日月とは別の男の声が聞こえてきた。

 

 ガンダム・バルバトスと百里と共に先行に出たのはアルジの乗るガンダム・アスタロト・SF(シルバーフェイク)であった。

 

 シシオによって改造されて(本人は整備しただけと今だに主張)背中に高出力ブースター、肩にブレードウィングを装備したガンダム・アスタロトSFは推進力と航続距離が大幅に上がっていて今回の先行に参加していた。

 

「今回の戦闘、面倒な事になりそうだけど付き合わせてゴメン、二人共」

 

 三日月がラフタとアルジに短く詫びる。

 

 今回の戦闘で最初に戦うのはあの緑のモビルスーツ、マン・ロディの部隊でまず間違いないだろう。そしてそのマン・ロディ部隊のパイロット達は昭弘の弟の昌弘と同じヒューマンデブリの少年達だ。

 

 自分達の仕事とはいえ自分の弟が今まで世話になった少年達を殺さなければならない事に悩む昭弘の気持ちに気づいたオルガは、名瀬とダディ・テッドに頭を下げて「出来る限りでいいからマン・ロディのパイロットを殺さないように戦ってほしい」と頼んだのだ。三日月が謝ったのはその事についてだった。

 

『いいっていいって。あんな話を聞かされたらやるしかないじゃん』

 

『そうだな。……家族を思う気持ちは叶えてやりたいからな』

 

 ラフタが屈託なく笑い、アルジがわずかに視線を逸らしながら言う。ガンダムフレーム機に妹を殺された過去を持つアルジは、ようやく再会できた弟をこれ以上悲しませたくないという昭弘の気持ちが理解できた。

 

『おっ? いい事言うじゃんアルジ。そういうところ好きだよ』

 

『えっ!? ああ、そ、そうですか……』

 

 ラフタがアルジにウィンクをして言うと、アルジは視線を顔ごと向こうに向ける。

 

『……? ねぇ、ちょっと? 話をする時はこっちを見なさいよ。何? こっちを見れない理由でもあるの?』

 

『い、いや、それは……』

 

「アルジは女が苦手なんだよ」

 

 首を傾げるラフタにアルジが何か言おうとするが、それより先に三日月が答える。

 

『おい、三日月! お前、何を……!』

 

『え? なぁに? そうだったの?』

 

 アルジはあっさりと自分の知られたくなかった点をバラした三日月に怒鳴ろうとするが、その前にラフタが面白いオモチャを見つけたような表情で口を開き、そんな彼女の表情を見てアルジは猛烈に嫌な予感を感じた。

 

『へぇ~、そうだったんだ。なるほどねー。それじゃあ確かに、今まで何度シミュレーターの訓練に誘っても来なかった訳だ。うん。納得納得』

 

『ぐ……!』

 

 ニヤニヤと笑いながら言うラフタの言葉を歯嚙みをしながら黙って聞くアルジ。

 

 ラフタの言う通りアルジは今までに何度もタービンズの訓練の誘いを断り、代わりにシシオの宇宙船でシミュレーターの訓練をしていた。その理由は今三日月が言った通りで、女性が苦手なアルジとしてはクルーのほぼ全員が女性のハンマーヘッドに行けるはずがなかった。

 

 その後ラフタは女性が苦手な点についてアルジをからかい、それはブルワーズが潜伏していると思われるポイントに着くまで続いた。

 

 ☆

 

『シシオ様。三日月達がブルワーズの部隊と戦闘を開始したそうです。艦ももうすぐ交戦宙域に着くとオルガ様から連絡がありました』

 

 ガンダム・オリアスのコックピットの中でシシオは、ガンダム・ボティスのコックピットでイサリビと連絡を取り合っていたローズからの通信を聞いていた。

 

 シシオ達の三隻の宇宙船は現在、ブルワーズに奇襲する為にデブリ帯を航行していて、宇宙船の操縦はイサリビにいるオルガ達に任せてシシオとローズはそれぞれの機体の中で待機していたのだった。

 

「そうか」

 

 ローズからの通信にシシオは短く答える。しかし彼の意識の大半は彼女の声でなく、正面のモニターに映っている前の戦闘でガンダム・ボティスが記録したグシオンの戦闘映像に向けられていた。

 

「……何だよこれ? 不細工にも程があるだろ」

 

『不細工、ですか? 確かにあのグシオンはガンダム・オリアスやガンダム・ボティスと同じガンダムフレームとは思えない外見「そうじゃないって」……え?』

 

 シシオの不機嫌そうな呟きにローズが話しかけるが、彼女の言葉はシシオによって遮られた。

 

「俺が言っているのはグシオンの外見じゃなくてその戦い方だよ。何、部下を先に仕掛けさせているの? 普通これだけの重装甲と高出力だったらまず自分から切り込むべきだろ? 初見でどんな武装を持っているか分からない敵には最も落ちにくい機体で様子を見るだろ、普通? あの戦いだってグシオンが突撃してガンダム・ボティスの体勢を崩してからマン・ロディ達で取り囲んで一斉射撃させるのがベストだろ?」

 

『あ、あの……シシオ様? それをされていたら私もガンダム・ボティスも無事ではすまなかったのですが……?』

 

 シシオの口から出た戦術を聞いたローズは、前の戦闘でグシオン達がその戦術を取った場合を想像して冷や汗を流した。

 

「え? ……あっ!? いや、そうじゃないんだ。別にローズとガンダム・ボティスに傷ついてほしかった訳じゃないんだ」

 

 ローズに言われてシシオは今気づいたように慌てて弁明した後、視線を逸らして言う。

 

「分かってる。このグシオンのパイロットが弱かったからローズとガンダム・ボティスも無事ですんだってことは。……でもな、俺はやっぱりガンダムフレーム機には例え敵だったとしても強くてカッコ良くあって欲しいんだよ。今から三百年前に厄祭戦を終結させた七十二機のガンダムフレーム。それは一機で戦局を左右しうる絶対な力であるべきなんだよ。……だけど」

 

 そこまで言ってシシオは戦闘映像のグシオンを再び見る。

 

 戦闘映像のグシオンは確かに重装甲なのにスピードがあって高出力、その上パイロットもそれなりの腕だがそれだけだ。これならギャラルホルンのカスタム機に乗ったエースだったら充分勝てる相手だとシシオは判断する。

 

 シシオにとってガンダムとは憧れそのものである。

 

 勿論兵器である以上、どの様に使うかはその所有者の自由であるが、最強のモビルスーツ「ガンダム」であるならば、戦闘では絶対的な力でどんな敵も打ち倒す圧倒的な戦いをしてほしいし、そのパイロットもガンダムに相応しい優れた乗り手であってほしいとシシオは思う。

 

 シシオの目から見ればグシオンの戦いぶりは、パイロットの技量も戦術も大したことはない機体の性能に頼りきったものにしか見えず、憧れを汚された様な気がして自分が再び不機嫌になっていくのがシシオには分かった。

 

「……ローズ。グシオンを見つけたら俺がいる方に誘導しろ。このグシオンのパイロットにはガンダムの真の力を教えてやる」

 

『分かりました、シシオ様』

 

 気がつけばシシオはローズにそう命令して、彼女もそれに頷いた。その直後、イサリビから交戦宙域に到着したとういう連絡が入った。




前回の最後に怒っていたシシオの心境は、
「モビルスーツ戦の技量はクジャン公以下のパイロットがアグニカのコスプレをして『私がアグニカの再来だ!』と自信満々で宣言しているのを目撃したマクギリスの心境」
といった感じです。

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