鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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#17

『その声……ローズか?』

 

『今、ガンダムって……。それってもしかして三日月さんのガンダム・バルバトスやシシオさんのガンダム・オリアスと同じ……?』

 

 コックピットの通信から聞こえてくる昭弘とタカキの声にローズは頷く。

 

「はい、そうです。この機体はガンダム・ボティス。シシオ様よりお借りしたシシオ様のもう一つの宝物です。昭弘様。タカキ様。ここは私が引き受けますのでお二人はイサリビに……?」

 

 ローズが昭弘とタカキにイサリビに戻るよう言おうとした時、目の前の重装甲モビルスーツから通信が入ってきた。

 

『お前ぇえ~! よくもこのクダル様のグシオンを傷つけてくれたなぁ~!」

 

 通信を繋げるとローズのコックピットに耳障りな男の叫び声が聞こえてきた。見れば目の前の重装甲モビルスーツ、グシオンが胸部装甲にあるローズが先程つけた大きな斬撃の痕を指差していた。

 

「グシオン……? それがあの機体の名前? グシオンと言えば確か………あの、少しよろしいですか?」

 

 クダルと名乗る男の通信を聞いてローズは少し考えてから目の前のグシオンに話かける。

 

『女? 何で女なんかがモビルスーツに……』

 

「突然で申し訳ありませんけどそのモビルスーツ、私に渡していただけませんか? 私の考えが正しければその機体、私の主人であるシシオ様が求めているものかもしれませんので」

 

 クダルの言葉を遮るようにローズが自分の要求を口にする。

 

『なん……!?』

 

「渡していただけたらこの場は見逃して差し上げますし、シシオ様の方からも代金が支払われると思われます」

 

『………!?』

 

「「………!?」」

 

 ローズの口から告げられたクダルなど全く歯牙にもかけていない発言に、クダルだけでなく近くで聞いていた昭弘とタカキも言葉を無くした。だが彼女はわざとかそれとも素なのか、彼らの様子に構わず言葉を続ける。

 

「それでどうでしょう? そのグシオン、渡していただけますでしょうか?」

 

『……………ふ』

 

「ふ?」

 

『ふっっっ、ざっけんじゃないわよーーーーー! ナメやがってこのアマ、ぶっ殺してやる! おい、ガキ共! 一斉にカカレェ!』

 

 クダルの怒声を合図にグシオンの周りにた緑のモビルスーツ達が一斉に動き出す。緑のモビルスーツの数は五機。それがローズが乗るガンダム・ボティスを取り囲みながら襲いかかる。

 

『ローズさん!』

 

『おい、ローズ!』

 

『ヒャハハハ! 両手の剣が自慢のようだけど、二刀流じゃ五機を相手にできねぇだろ!?』

 

 五機のモビルスーツに取り囲まれたローズにタカキと昭弘が声を投げかけ、クダルが勝ち誇ったような大声を出す。しかしローズは微塵も焦った様子を見せず、むしろ口元に小さな笑みすら浮かべていた。

 

「二刀流? 残念ですけどガンダム・ボティスは……」

 

 そこまで言ってからローズはコックピットのレバーとフットペダルを操作し、ガンダム・ボティスが彼女の操縦に従って行動をする。

 

 まず右手に持つ大剣で、右側から斬りかかってきた緑の機体の武器を持つ腕を肩ごと斬り裂いた。

 

 次に左手に持つ銃剣を、左側から斬りかかってきた緑の機体の肩の関節部に深々と突き刺した。

 

 左右の腰のアーマーが先端が鍵爪のアームに変形して前方から斬りかかってきた二機の緑の機体の武器を受け止め、敵の動きが止まった瞬間に内蔵されていた刃を展開した両足で二機とも蹴り飛ばした。

 

 最後に背中に背負っていた二本の太刀の間にある刃が勢いよう射出されて、背後から襲いかかろうとした緑の機体を貫いた。

 

「ガンダム・ボティスは二刀流ではなく『七刀流』です」

 

『『……………!?』』

 

 まさに早業。時間にしてわずか十数秒で五機のモビルスーツを戦闘不能にしたローズにクダルも、昭弘も、タカキも驚きのあまり絶句した。

 

『す、凄え……』

 

「当然です。元々このガンダム・ボティスはシシオ様がガンダム・オリアスと同様に乗る予定だった機体。装備も機体性能も並のモビルスーツとは比べ物になりません」

 

 思わず呟いた昭弘の声にローズは誇るように答える。

 

 ローズが言う通り、ガンダム・ボティスは元々シシオが乗るつもりで用意してセッティングをした機体である。

 

 そしてシシオはいつもローズと二人で行動していた為、戦闘では基本一人で戦っていた。だからガンダム・ボティスは、シシオの戦い方に合わせて単機で複数のモビルスーツや敵の母艦を撃破できる武装や機能を備えていたのであった。

 

 しかしこれらの武装や機能を使いこなすには高い操縦技術を必要としていて、初めての実践でガンダム・ボティスを乗りこなし、五機のモビルスーツを瞬殺したローズのパイロットの腕前は非常に高いものと言えた。

 

「さあ、これで部下の方々はいなくなりましたね」

 

『あ……!?』

 

 緑のモビルスーツ達を全て撃破されて半ば放心状態のクダルにガンダム・ボティスが右手の大剣の切っ先を向ける。

 

「それでどうしますか? グシオンを置いてここから立ち去りますか? それとも戦いを挑んでグシオンを奪われますか?」

 

 クダルに問いかけるローズは相変わらず自分が負けるなど欠片も思っておらず、台詞だけを聞けば自信過剰にも聞こえる。だが先程のローズの戦いぶりを見た昭弘とタカキは、それは自信過剰でも何でもなく確かな実力に裏打ちされた余裕から来るものであることを理解していた。

 

『だ……黙れ黙れ黙れぇ! ガキ共をぶっ殺したくらいでイイ気になってんじゃないわよーーー!』

 

 クダルが怒声を上げながらグシオンをガンダム・ボティスに突撃させる。巨大なハンマーを構えながら猛スピードで向かってくる重装甲モビルスーツのグシオンの姿は驚異的であったが、それでもローズの余裕が崩れることはなかった。

 

「そうですか。では、力ずくで奪わせてもらいます」

 

『…………!?』

 

 ローズはグシオンの強奪を宣言するのと同時に左手にある銃剣を構えて発砲。銃剣から放たれた四発の弾丸は、グシオンの胸部に設けられている四門の砲門らしき箇所に命中してそれを破壊する。

 

「まずは怪しい所を破壊して次……はっ!」

 

『『………!?』』

 

 グシオンの胸部にダメージを与えたローズが次に取った行動は両手に持っていた大剣と銃剣を放り投げる事であった。自ら武器を手放す彼女の行動にその場にいた全員にとって予想外のものだった。

 

『じ、自分から剣を……ぐがっ!?』

 

 ローズの予想外の行動によってクダルが意識を捨てられた剣に向けた時、その隙をついてガンダム・ボティスがグシオンに体当たりを仕掛けて、自分の機体ごとグシオンを近くにあった小惑星に叩きつけた。

 

『ごっ! ごのアマ……がっ!?』

 

 小惑星に叩きつけられたクダルが怨み言を言おうとするが、それより先にガンダム・ボティスがグシオンの上に乗りかかってマウントポジションの体勢に持ちかけてから殴り付ける。

 

 ガンダム・ボティスの両腕には重量のある剣を支える為のサブアーム、かつてガンダム・アスタロトの左腕にあったのと同型のものが装備されていて、近距離で振るえばそれはモビルスーツの装甲に打撃を与える武器にもなった。

 

 ローズの狙いは最初の攻撃でつけたグシオンの胸部装甲にある亀裂。そこを左右の拳で交互に打撃を与えていく。

 

「背中の『ガコン!』刀で『ガコン!』コックピットを『ガコン!』貫いても『ガコン!』よかったの『ガコン!』ですが『ガコン!』それだと『ガコン!』修理が『ガコン!』大変『ガコン!』ですからね『ガコン!』このまま『ガコン!』パイロット『ガコン!』だけを『ガコン!』引きずり『ガコン!』出します『ガコン!』」

 

『うわぁ……』

 

『容赦ねぇな、オイ……』

 

 執拗にグシオンを殴りながら話すローズ。言葉の合間にモビルスーツを殴り付ける打撃音を挟ませる彼女の言葉に、流石のタカキも昭弘も引いていた。

 

 そしてそうしている内にグシオンの胸部装甲が破壊され、コックピットの姿が現れた。

 

「逃げるなら今の内ですよ? 早くしないと貴方を握り潰してでも強制的にコックピットから出しますよ」

 

『ひ、ひいぃ!?』

 

 むき出しとなったグシオンのコックピットに手を伸ばすガンダム・ボティス。迫り来る鋼鉄の悪魔の手に悲鳴を上げるクダル。

 

 これでこのまま勝負がつくかと思われたが……。

 

「っ! これは!?」

 

 ガンダム・ボティスがグシオンのコックピットに手をかけようとしたその時、突然襲撃を警戒するアラームが鳴り響き、それを聞いたローズがほとんど反射的にグシオンから飛び退くと、つい数秒前までガンダム・ボティスがいた空間を蒼い影が切り裂いた。

 

「あれは……百錬?」

 

 ローズが突然現れた蒼い影を見て呟く。彼女の言う通り、蒼い影の正体はラフタが乗っているのと同じ百錬を青と黒でカラーリングした機体であった。

 

『あっ! ローズさん、アイツ!』

 

『あの蒼い百錬……あのデカブツを助けに来たのか?』

 

 タカキと昭弘の言葉を聞いてローズが見てみると、二人の言う通り蒼い百錬はグシオンの手を引いて高速でローズ達の元から高速で離脱していくところだった。

 

「逃しましたか……。しかしさっきの蒼い百錬、あの機体は……?」

 

 もう姿が小さくなったグシオンの後ろ姿を見ながらローズは悔しそうに唇を歪めるが、すぐに蒼い百錬の姿……正確にはその両腕にあったパーツを思い出して思案する表情となった。

 

 ☆

 

「お帰り、ローズ。よくやってくれたな」

 

 昭弘とタカキを無事イサリビに送り届けてからローズが自分の宇宙船に戻るとシシオが出迎えてくれた。

 

「ありがとうございます、シシオ様。全てこのガンダム・ボティスのお陰です」

 

 ローズの言葉にシシオは首を横に振って言う。

 

「そんな事はないって。昭弘とタカキが無事だったのはローズのお陰だよ。オルガ達だってローズに感謝していたぜ。……それで三日月は? まだ帰ってきていないみたいだけど」

 

「三日月でしたら無事なようで今戻ってきているみたいです……噂をすれば」

 

 シシオの言葉にローズが答えると携帯端末にモビルスーツが近づいてきているという報告が入り、シシオが携帯端末を操作すると画面にガンダム・バルバトスの姿が映し出された。画面に映っているガンダム・バルバトスは機体に損傷は少なく、特に問題はないように見えたのだが……。

 

「三日月の奴、何を持っているんだ?」

 

 携帯端末を見ながらシシオが首を傾げる。画面に映るガンダム・バルバトスは右手に「あるもの」を持っていた。

 

 それは昭弘とタカキを襲った緑のモビルスーツの一機であった。

 

「あれは……敵の捕虜でしょうか?」

 

「捕虜? ……それにしてはかなりボコボコなんだけど?」

 

 ローズの言葉にシシオが眉をひそめる。

 

 シシオが言う通り、ガンダム・バルバトスが持ってきた緑のモビルスーツは、四肢が切断されたダルマ状態で胴体も損傷が酷いスクラップ同然の姿であった。あれでは中のパイロットも、例え生きていたとしてもかなりのダメージは免れないだろう。

 

 そんな事をシシオとローズが話していると、携帯端末からガンダム・バルバトスに乗った三日月からイサリビに向けた通信の内容が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、昭弘? 昭弘ってさ、弟とかいる?』




今回はローズとガンダム・ボティスの無双回で、ローズを強く見せるためにグシオンを原作以上にヤラレ役にしてしまいました。
グシオンはリベイクになるまではこれからも更にヤラレ役にするつもりです。
グシオンファンの皆さん申し訳ありません(クダルファンとは言ってない)。

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