「よし、これで完成っと」
クーデリアとダディ・テッド達が歳星から出発してから三日後。シシオは自分の宇宙船の格納庫で、一機のモビルスーツを見上げながら満足そうに頷いた。
シシオの前にあるのは、黄色を基調としたカラーリングで頭部に二本の角のようなアンテナを装備したモビルスーツ。その横には奇妙な形をした斧のような武器が置かれており、神話にある体が人間で頭が牛の怪物ミノタウルスを連想させる姿であった。
「ほぅ。もう完成させるとは大したものじゃないか」
格納庫にいたのはシシオだけでなく、彼の横に立ったジャンマルコがモビルスーツを見上げて感心したように言う。
「それにしてもこれが『グレイズ』とはな……よくここまでやったもんだ」
ジャンマルコが言う通り、この機体はギャラルホルンで使われているモビルスーツ、グレイズを改造したカスタム機であった。
シシオ達が一緒に行動をしている鉄華団は、これまでに何度もギャラルホルンと戦闘をしていて、その時に撃破したグレイズを何機か鹵獲していた。それを鉄華団が売り払おうとした時、どこからか聞きつけたジャンマルコがほとんど強引に状態が一番良いグレイズを一機購入して、シシオにカスタムを依頼して完成したのがこの機体である。
「どうですか? とりあえずジャンマルコさんの注文通りに仕上げたつもりですけど?」
そう言ってシシオはポケットから一枚の紙を取り出して見せる。それはジャンマルコがシシオにグレイズの改造を頼む時に自らが描いた機体のデザイン画であった。
しかしジャンマルコのデッサン力はお世辞にも高いとは言えず、シシオが持つデザイン画も何と言うか……子供が描いた「ぼくのかんがえたさいきょうのモビルスーツ」みたいな絵という感じである。そんな子供の落書きみたいなデザイン画から改造パーツの設計図を引いて三日で完成させるシシオの技術力はやはりチート級と言えた。
「おう、上出来上出来。本当にいい腕だな。ダディ・テッドとマクマードの親分さんが取り合うのも納得だ」
ジャンマルコはモビルスーツを見上げながら上機嫌で頷くと次にシシオの方を見る。
「なぁ、シシオ? お前やっぱりタントテンポに……というか俺の所に来ないか? 俺の所だったら退屈はしないぜ?」
「おいおい。ちょっと待てよジャンマルコ? シシオは俺達タービンズだって目をつけているんだぜ? それなのに俺の目の前で口説かないでくれよ」
ジャンマルコがシシオをスカウトしようとした丁度その時、格納庫に名瀬が入って来て苦笑混じりに言葉を遮る。
「何だよ名瀬? 別にいいだろ? こちとら人手が足りないんだ。優秀そうな人材は誘っておいて損はないだろ?」
「よく言うぜ。タントテンポの輸送部門を取り仕切っているお前さんなら人材には困らないだろうが」
肩をすくめて言うジャンマルコに名瀬が笑みを浮かべながら言う。
「はっ。それを言うならお前もだろ、名瀬?」
「はははっ! 違いねぇ」
会話を交わしながらお互い笑い合うジャンマルコと名瀬。この二人、仕事や性格が似通っているせいか初めてあった時から気が合って、今では古くから友人の様な関係になっていた。
「ま、今回はそのモビルスーツで我慢しろよ。グレイズのカスタム機なんてそうそうお目にかかれないぜ?」
「しょうがねぇな。……まぁ、俺としてはあっちの方にある機体も欲しいところなんだがな」
名瀬の言葉にジャンマルコはもう一度肩をすくめると、隣にある格納庫に視線を向けてそこにある機体の姿を思い浮かべて言い、それにシシオが申し訳なさそうな顔をする。
「あー……すみません。あれはもうローズの専用機ですから……」
「分かっているよ。それで? あの嬢ちゃんはまだあの機体に乗っているのか?」
ジャンマルコに聞かれてシシオは頷いてから隣にある格納庫を見る。
「ええ。ローズの奴、ようやく『あの機体』に乗れるようになったから少しでも慣れたいって、今もシミュレーターをやっています」
「そうか。ローズも頑張っているんだな。しっかし、あんな機体を隠し持っているなんてシシオも隅に置けねぇ……っと!?」
「緊急通信?」
名瀬がシシオにからかう様に言おうとした時、シシオ達の側にあった携帯端末から緊急の通信を知らせる電子音が鳴り響いた。シシオが携帯端末操作して通信を繋げるとひどく焦った表情をしたユージンの顔が携帯端末の画面に映った。
『シシオか!? そこに名瀬さんはいるのか!?』
「名瀬さんならここにいるけど一体どうしたんだ、ユージン?」
『どうもこうもねぇよ! 哨戒に出ていた昭弘とタカキが所属不明のモビルスーツ数機に襲われているんだ! 今、三日月が駆けつけてくれたが救援を頼む!』
「……!」
ユージンの言葉にシシオが顔を上げると、話を聞いていた名瀬とジャンマルコが頷いて携帯端末から自分達の艦に連絡をいれる。それを見てからシシオは、携帯端末の画面に映るユージンに向けて言った。
「分かった。丁度一機、すぐに出せる機体がある。そいつに向かわせる」
☆
最初は単なる哨戒任務のはずだった。
いつもと違うことと言えば、最初はモビルスーツに乗った昭弘が一人で行くところに「外での仕事を覚えたい」と言う鉄華団の年少組のまとめ役であるタカキ・ウノがモビルワーカーに乗ってついてきたくらいで、始めのうちは何の問題もない哨戒任務であった。
しかし、昭弘とタカキが哨戒任務中に会話をしていた時、「そいつら」は突然現れた。
全身を緑の重装甲で固めた初めて見る数機のモビルスーツ。
その緑のモビルスーツ達は問答無用で昭弘達に襲いかかり、モビルワーカーに乗るタカキを守りながら戦う昭弘が苦戦を強いられたその時、歳星でのガンダム・バルバトスの整備を終えた三日月が長距離ブースターで駆けつけたのだった。
「三日月か!?」
『殿は俺がやる。昭弘はタカキを連れてイサリビに戻って』
昭弘が通信を入れると三日月が緑のモビルスーツ達を相手にしながら返事を返す。
「……分かった。スマン、三日月」
『すみません、三日月さん』
三日月の言う通り、タカキを連れたままこの場にいても危険なだけだ。昭弘とタカキは短く詫びるとイサリビに向かって機体を急行させた。
……しかし「敵」はそんな昭弘とタカキを見逃したりはしなかった。
「っ! 何だ!?」
『また敵!?』
急いでイサリビに戻ろうとしていた昭弘とタカキであったが、そこに別口の敵が襲いかかってきた。先程まで二人を襲っていたのと同じ緑のモビルスーツ達と、それより一回り大きい背中に巨大なハンマーを背負った重装甲モビルスーツ。
完全に虚を突かれてしまった昭弘は対応が遅れ、その隙をついて巨大なハンマーを背負った重装甲モビルスーツが接近する。
「しまっ……!?」
重装甲モビルスーツが背中にあった巨大なハンマーを昭弘が乗るグレイズ改に振るおうとしたその時、「その機体」は現れた。
突然見たこともないモビルスーツが昭弘のグレイズ改と重装甲モビルスーツの間に割れこみ、自らが持つ武器を振るって重装甲モビルスーツの機体を弾き飛ばしたのだ。見れば重装甲モビルスーツの胸部装甲には大きな損傷があった。
「な、何だあの機体は……?」
突然現れて自分達を救ってくれたモビルスーツを見て昭弘が思わず呟く。
青と赤でカラーリングされた機体。
左手に持った銃身の下に長刀を取り付けた銃と背中に背負った二本の太刀。
そして何より目につくのは右手に持つ機体の全長を超える巨大な大剣。
全身を刃で武装したモビルスーツは昭弘とタカキを守る様に重装甲モビルスーツと緑のモビルスーツ達の前に立ち、そのコックピットの中で「彼女」は告げた。
「ローズ、そして『ガンダム・ボティス』。主人の命により戦闘に参加します」
ようやくローズの機体を出すことができました。
ちなみに知り合いにガンダム・ボティスの画像を見せたら「ヒロインの乗る機体じゃない。これは中ボスあたりが乗る機体だ」と言われました……。
別にいいじゃないですか、ヒロインがゴツい機体に乗っていたって……。
○ーパーロボット大戦の○ミアだって、○ァイサーガに乗っていたんだし……。