鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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#11

「? アンタは?」

 

 話しかけられた三日月が聞き返すと、話しかけたアルジは三日月の目を見ながら固い声を出す。

 

「アルジ・ミラージだ。……お前があのガンダムのパイロットなのか?」

 

「そうだけどそれが何?」

 

 三日月の言葉にアルジは、何か強い感情を抑え込むように息を吸うと本題に出ることにした。

 

「……お前は、いつからあのガンダムに乗って戦っている?」

 

「はぁ? いつからって……まだ乗り初めて半月も経っていないけど?」

 

「本当だな?」

 

「……何なんだよ、アンタ?」

 

 疑うように質問を重ねてくるアルジに三日月が苛立ち始め、二人の間に張り詰めた空気が流れ始める。

 

「アルジ。彼が言っているのは本当だよ。この機体、俺が見たところ、つい最近まで全く動かしていなかったみたいだ」

 

 アルジと三日月の間に流れる張り詰めた空気をシシオが破り、アルジは三日月から目を離すとシシオを見た。

 

「シシオ、それは本当か?」

 

 アルジの質問にシシオが頷いて答える。

 

「だから本当だって。各パーツの消耗具合を見たらそうとしか思えない。……これは多分だけどこの機体、少なくとも十年以上正座みたいな体勢で放置されて施設の発電装置にされていたんじゃないかな? エイハブ・リアクターがあるモビルスーツを発電装置代りにするのはよくある事だし、それだったらエイハブ・リアクターの出力が不安定なのも、関節部……特に膝の辺りに妙な負荷が残っているのも納得できる」

 

「何でそこまで分かるんだよ……」

 

 シシオの、まるでつい最近までのガンダム・バルバトスの様子を見ていたかのような推察におやっさんが思わず呟き、他の整備班の少年達は驚きのあまり声も出ないといった表情でシシオを見ていた。

 

 そしてそんな整備班の様子を見て、アルジはシシオの推察が当たっていたと分かり、三日月に向き直ると小さく頭を下げて謝罪した。

 

「どうやら俺の考えすぎだったようだ。……疑ってすまなかった」

 

「? よく分からないけど別にいいよ」

 

「そうか。……シシオ。今日はやっぱりシュミレーターの相手は無理そうか?」

 

「ああ、どうやらこの機体の修理と調整はかなり面倒そうだ。すまないな。……ローズ」

 

 三日月に謝罪を受け取ってもらえたアルジが訊ねると、シシオはそれに短く謝ってから携帯端末を使って自分の宇宙船にいるローズに連絡を入れた。

 

『はい。どうかしましたか? シシオ様』

 

「ガンダム・オリアスの予備パーツの内、今からリストアップしたパーツをすぐにイサリビの格納庫に持ってきてくれ。ガンダム・バルバトスの修理に使う」

 

『分かりました。それでは』

 

「よし。それじゃあ、パーツが来るまでにエイハブ・リアクターの調整だけでも終わらせようか?」

 

「お、おう」

 

『はいっ!』

 

 ローズとの連絡を終えたシシオが呼びかけると、今までの会話だけで彼が卓越した機械の知識と技術を持っていると理解したおやっさんと整備班の少年達は同時に返事をした。

 

 ☆

 

「あの……。それでそのシシオってのはどんな奴なんですか?」

 

 ハンマーヘッドの応接間でオルガが名瀬にシシオについて訊ねる。

 

「ん? 何だ? アイツの事が気になるのか?」

 

「ええ、まぁ……。ミカ……ウチで一番腕が立つパイロットを倒した奴ですし、名瀬さんも随分と信頼しているみたいですから……」

 

 名瀬はオルガの言葉に少し考えてから答える。

 

「そうだな……シシオの異名は色々ある。『機械の申し子』、『青鬼(ブルーオーガ)』、『圏外圏一のジャンク屋』。後、これはアイツの自称だが『トレジャーハンター』」

 

「ほ、本当に色々あるんですね。というかトレジャーハンターって?」

 

 シシオの最後の異名にビスケットが首を傾げると、名瀬がシシオの過去を簡単に話す。

 

「シシオはジャンク屋の息子でな。ガキの頃から親父と一緒にその辺の宙域から厄祭戦時代のジャンクを集めてたんだ。それで今から何年か前に、どこかの宙域で武装からコックピットまでほとんど完全な状態のガンダムフレーム、お前達も見たあのガンダム・オリアスを発見したんだ。それ以来、アイツは自分の事をトレジャーハンターと名乗っているって訳だ」

 

 名瀬の話を聞いてオルガ達は納得する。

 

 武装からコックピットまでほとんど完全な状態の厄祭戦のモビルスーツとなると売れば一財産だ。それだけの代物を見つけたとなればトレジャーハンターを名乗る気分になるのも理解できる。

 

「まあ、でも俺を含めて周りの人間はシシオをトレジャーハンターじゃなくて便利屋として扱っているんだがな? 何しろ操縦の腕は阿頼耶識システムを使わずにモビルワーカーからモビルスーツ、果てには戦艦だって一流の腕前で乗りこなすし、モビルスーツ戦の腕はお前さん達も見た通り。整備の腕はスリープ状態のエイハブ・リアクターをたった一人で、しかも短時間で稼動状態にできるくらいだ」

 

「……それ、マジですか?」

 

 肩をすくめながら言う名瀬にユージンが唖然とした表情で聞く。見れば他の三人、オルガとクーデリアにビスケットも似た様な顔をしていた。

 

「おいおい? 俺が嘘をついているって?」

 

「い、いえ! そんなことは……」

 

 名瀬の言葉にユージンが慌てて首を横に振る。それをアミダが可笑しそうに口元に笑みを浮かべる。

 

「ふふっ。そう思いたくなるのも仕方ないね。でも全部本当の話だよ? だから私達タービンズもテイワズも、これまで何度もシシオをスカウトしようとしたんだけど毎回ふられちゃっているのさ。しかもあの子、以前マクマードの親分さん本人から親子の盃を交わさないかと誘われて、それを断っているんだよ」

 

『…………!?』

 

 アミダの口から告げられた予想外の事実にオルガ達四人は揃って驚いた。

 

 ☆

 

「……」

 

 シシオの宇宙船の中でローズは、シシオがリストアップしたオリアスの予備パーツを集めてイサリビに運ぶ準備をしていた。その作業を横で見ていたリアリナが話しかける。

 

「ねぇ? 本当にそのパーツ全部持っていくの? 向こうのガンダムの修理を手伝うのはまだ分かるけど、パーツを分けてあげるなんてサービスのしすぎじゃない」

 

「仕方がありません。シシオ様はガンダムフレームの大ファンですので、例え向こうの機体とはいえガンダムフレームが無惨な姿のままなのは我慢できないのでしょう」

 

 リアリナの言葉にローズは彼女を見ることなく作業の手を止めずに答える。シシオはガンダムフレームに強い興味を持つ父親の影響で彼自身もガンダムフレームに強い興味を持っており、そんなシシオを昔から見ていたローズは彼の気持ちが理解できていた。

 

「そう? ……でも本当にいいの? これだけのパーツ、高いんじゃないの?」

 

 リアリナの言っていることは間違っていない。ローズが用意しているパーツはかなりの数で、そのほとんどがシシオが製造した物とはいえこれだけのパーツをタダで分けるとなると出費はかなりのものである。

 

 しかしやはりローズは作業の手を止めることなくリアリナに即答する。

 

「シシオ様の判断です。シシオ様が決めたことなら私はただ従うまでです」

 

「何で……」

 

 何でそこまでするの、と聞こうとしたリアリナであったが、それよりも先にローズは初めて作業の手を止めると彼女の目を見て言った。

 

「私は『ヒューマンデブリ』。つまりシシオ様の所有物ですから」




話が進んでいなくてすみません。
次回、シシオとローズの出会いを書こうと思うので今回はここで切ることにしました。
そう言えば三日月とオルガって、一体どんな出会いをしてあの様な関係を築くまでに至ったんでしょうかね?

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