鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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#10

 ガンダム・バルバトスのコックピットに突きつけられたガンダム・オリアスのライフルは三秒間、銃口からマズルフラッシュと共に大量の銃弾を放った。

 

 イサリビにいる誰もがその時、ガンダム・オリアスの銃弾がガンダム・バルバトスのコックピットを貫き、三日月を殺す光景を予想、あるいは幻視した。

 

 しかしガンダム・オリアスの銃弾はガンダム・バルバトスのコックピットを貫いておらず、三日月も殺してはいなかった。ガンダム・オリアスはライフルの引き金を引く直前に銃口をずらして、全く別の方向に銃弾を放ったのだ。

 

「………あ?」

 

 ガンダム・オリアスの不可解な行動に思わず呆けた声を漏らすオルガだったが、青のガンダムの不可解な行動にはまだ続きがあった。

 

「あれって……もしかして降参のつもり?」

 

 ビスケットがモニターに映るガンダム・オリアスを見ながら信じられないといった風に呟く。

 

 ガンダム・オリアスはガンダム・バルバトスから少し離れると両手を武装を装備したまま上げて動きを止めた。その姿はビスケットの言う通り「降参」のポーズに見えた。

 

「あの野郎……一体どういうつもりだ?」

 

『やれやれ。負けちまったか』

 

 オルガがガンダム・オリアスの意図をはかりかねていると、ブリッジに名瀬からの音声通信が入ってきた。

 

「え?」

 

『え? じゃなくてこちらの負けだと言っているんだよ。約束通り地球への案内役と、マクマードの親父と交渉する場を設ける話は引き受けてやる。詳しい話をしたいから代表の奴何人かでこちらの艦に来てくれ』

 

 戸惑うオルガに名瀬は一方的に通信を切り、イサリビのブリッジは何とも言えない雰囲気に包まれた。

 

 ☆

 

「マルバの野郎は適当に痛めつけてから救命ポットに詰め込んで宇宙に捨てといた。ま、救命信号は出しているし、救命ポットには三日分くらいの水と食糧も入れといたから死にはしないだろう。お前達もそれでよかっただろ?」

 

 タービンズの宇宙船、強襲装甲艦ハンマーヘッドの中にある応接間で名瀬は自ら招き入れた客人達にそう言った。

 

 今この応接間にいるのは名瀬とアミダ、オルガとクーデリアと二人の後ろに立つビスケットとユージンの六人であった。

 

「はぁ……。マルバのことは別にそれで構いません。それよりも本当にお願いできますか? 地球への案内役と、俺達鉄華団をテイワズの傘下に入れてくれるって話……」

 

 ためらいがちにいうオルガの言葉に名瀬が肩をすくめる。

 

「疑り深いな、お前。だから決闘に負けた以上、どちらも引き受けるって言っただろ? まぁ、テイワズに入れるかはお前達次第だぜ? マクマードの親父と交渉する場を設けて俺からも頼んでみるが、最後に決めるのは親父なんだからな?」

 

「それは分かっています。ですが……」

 

「もしかしてあの決闘に納得がいかないのか?」

 

「ええ……」

 

 名瀬の言葉にオルガが頷く。

 

 先程のガンダム・オリアスとガンダム・バルバトスの決闘。あの時ガンダム・オリアスはいつでもガンダム・バルバトスを撃ち殺して勝利を得ることができたはずだ。

 

 しかしガンダム・オリアスはガンダム・バルバトスを殺したりせず降参をして、せっかくの勝利を棒に振ったのだ。それがオルガ達には不可解だった。

 

 オルガが内心で「これは何かの罠なのか?」と警戒していると、そんな考えを読んだのかアミダが微笑みながら言う。

 

「そんなに身構えなくてもいいさ。あの子がわざと負けたのだって、ただ単に『マルバの仕事は嫌だけど、鉄華団の仕事は楽しそうだ』みたいな考えだろうからさ」

 

「え……!? そんなことを勝手に決めていいのですか?」

 

 ガンダム・オリアスが降参したのが罠でも何でもなく、パイロットの個人的な感情だと知って鉄華団の面々が唖然とする中クーデリアが聞くと名瀬は何でもないように答える。

 

「構わないさ。元々マルバがあそこまで腐った野郎だと見抜いたのはシシオだったからな。今回の件はシシオの判断に任せていたんだ」

 

「シシオ?」

 

 初めて聞く名前にオルガが首を傾げると、名瀬は口元に笑みを浮かべて言う。

 

「さっきの決闘でお前達のガンダム……バルバトスだっけか? それと戦っていた青のガンダムのパイロットだよ。確か今、お前達の艦に行っているはずだぜ?」

 

「「「「………!?」」」」

 

 名瀬の言葉にオルガ達四人は驚きのあまり絶句した。

 

 ☆

 

「あり得ねぇ!」

 

 ハンマーヘッドの応接間で名瀬の口からシシオの名前が出た頃、当のシシオはイサリビの格納庫でガンダム・バルバトスの機体情報を映し出すタブレットを見ながら叫んでいた。

 

 決闘が終わった後、自分が壊したガンダム・バルバトスの事が気になったシシオは、イサリビに乗り込むとガンダム・バルバトスの修理の手伝いを名乗り出たのだが、肝心の機体の状況を見てそのあまりの酷さに驚きの声を上げたのだった。

 

「……え? ええっ!? いやいや、あり得ないってコレ? 決闘のダメージを差し引いても酷すぎるって言うか、あり得ないって! スクラップ一歩手前じゃん!? こんなんで戦闘に出るなんてあり得ねぇ!」

 

 タブレットの情報を何度も見直してあり得ないあり得ないと叫ぶシシオに、それを聞いていたおやっさんが怒鳴る。

 

「うるせぇぞ! 悪かったな、半端な整備しかできなくて! こちとら……!」

 

「モビルワーカー専門の整備士。モビルスーツの整備の知識は皆無じゃないけど素人に毛が生えたぐらい。ガンダム・バルバトスの整備は向こうにある、まだ分かりやすいグレイズの機体を参考にしたってところでしょう?」

 

「な、何……?」

 

 シシオはタブレットの画面を見ながらおやっさんの言葉を遮って言うと、タブレットから目を離すことなく続けて言う。

 

「機体の整備した跡を見たらすぐ分かりますよ。モビルスーツもそうですけどモビルワーカーで大切なのは情報伝達系の機器。他はお粗末だけど情報伝達系の整備は完璧。特にコックピット。元々阿頼耶識システムはモビルスーツのために開発されたものとは言え、モビルワーカー用の阿頼耶識システムをほぼ完璧にガンダム・バルバトスに適応させている。……いい腕ですね」

 

「……! わ、分かればいいんだよ。分かれば」

 

 自分の仕事を褒められておやっさんは照れくさそうに顔を背け、シシオとおやっさんの会話を聞いていた整備班の少年達は驚きで目を丸くしていた。

 

 そして丁度その時、格納庫に三日月と昭弘が入ってきて、シシオの姿を見つけた三日月が首を傾げる。

 

「……誰、アイツ?」

 

「ああ、タービンズの方からやって来た奴でな。何でもバルバトスの修理を手伝いに来たんだと」

 

「バルバトスの修理を?」

 

 三日月の疑問におやっさんが答え、それを聞いたシシオが振り返る。

 

「まあね。この機体をここまで壊したのは俺だからね。これからしばらく一緒なんだから修理くらいは手伝うよ」

 

『………え?』

 

 シシオの言葉に三日月やおやっさんを初めとした格納庫にいた全員が固まる。しかしシシオはそれに気付かず、別の事に気づいたようで三日月を見る。

 

「もしかして君がガンダム・バルバトスのパイロット? 俺はシシオ・セト。さっきまで君と戦っていた青のガンダム、ガンダム・オリアスのパイロットだ。ヨロシクね」

 

『………はぁ!?』

 

 シシオの自己紹介に格納庫にいたほぼ全員が一旦遅れて驚きの声を上げ、三日月がもう一度首を傾げる。

 

「ジミオ?」

 

「ジミオじゃなくてシシオだよ! 何だよジミオって! あれか!? 地味な男で地味男(ジミオ)って意味か!? というか何で俺のアダ名を知っているんだ!」

 

「当たっているのかよ……」

 

 三日月の言葉にシシオが顔を真っ赤にして怒鳴り、それを昭弘がつっこむ。その時、一人の男が三日月に近づいて声をかけた。

 

「ちょっといいか?」

 

 三日月に声をかけたのは、ガンダム・アスタロトのパイロット、アルジ・ミラージであった。




シシオは機械を扱わせればチート級のハイスペック。
だけど地味。
顔が地味。雰囲気も地味。
つまり地味男(ジミオ)。

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