鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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#09

 イサリビから発進する三日月が乗るガンダム・バルバトスをブリッジにいるオルガやビスケットを始めとする鉄華団のメンバーが見送る。

 

 いや、ブリッジにいるメンバーだけではない。イサリビの館内にいる鉄華団の全ての団員達が、三日月と彼が乗るガンダム・バルバトスに注目していた。

 

「いよいよだね」

 

「ああ、そうだな。……頼んだぞ、ミカ」

 

 オルガはビスケットの言葉に頷い後、ガンダム・バルバトスの姿を見ながら呟いた。

 

 ☆

 

『よし。二人とも出てきたみたいだな』

 

 三日月がガンダム・バルバトスを青のガンダム、ガンダム・オリアスの前まで移動させると、コックピットに名瀬からの通信が入ってきた。

 

『今から閃光弾を上げたらそれが決闘の合図だ。決闘のルールはシンプル。どちらかが降参するか死ぬまで戦う、それだけだ。二人とも、準備はいいか?』

 

「うん。いいよ」

 

 名瀬の言葉に三日月が頷く。そしてガンダム・オリアスの方も了承したらしく、名瀬が声を上げる。

 

『よし。それじゃあ……撃て!』

 

 名瀬が乗る宇宙船から一発の閃光弾が発射されると、閃光弾はガンダム・バルバトスとガンダム・オリアスの上方で弾けて強い光を放ち、決闘が始まった。

 

「……!」

 

 決闘が始まって最初に動いたのは三日月が乗るガンダム・バルバトス。

 

 ガンダム・バルバトスの武装は背部の右側にある滑空砲と手に持った巨大なメイスで、ガンダム・バルバトスは滑空砲を展開すると即座にガンダム・オリアスに向けて発射し、そこから更に続けて二発滑空砲を撃つ。

 

「……」

 

 しかしガンダム・オリアスは機体をそらすと滑空砲の砲弾を避けて、続いてくる二発の砲弾も最小限の動きで避けた。

 

「だったら」

 

 滑空砲の砲弾を避けられたガンダム・バルバトスは、手に持った巨大メイスを振り上げてガンダム・オリアスへと突撃すると勢いよく巨大メイスを降り下ろした。

 

 それに対してガンダム・オリアスは左手に持つ盾の表面を巨大メイスの側面に当てて力の向きをそらすと、そのままガンダム・バルバトスの後ろにと回り込んで右手に持ったライフルを撃った。

 

「ぐうっ!?」

 

 ガンダム・オリアスに撃たれた衝撃に三日月が苦悶の声を上げる。

 

 ナノラミネートアーマーで全身を覆われたモビルスーツにとってライフルの銃弾は牽制程度の効果しかない。だがそれはあくまでモビルスーツが「完全な状態」での話。

 

 ガンダム・バルバトスはつい最近三日月が乗り込んで使われるまで施設の発電機の扱いでろくにメンテナンスをされておらず、しかもメンテナンスを行ったおやっさんは元々モビルワーカー専門の整備士でモビルスーツの知識は最低限しかなかったため、ガンダム・バルバトスは完全とは程遠い状態であった。

 

 ガンダム・オリアスが放つ銃弾は全て、ガンダム・バルバトスの整備が行き届いていなくて不具合を起こしている箇所に当たっていて、ガンダム・オリアスの銃弾が当たる度にガンダム・バルバトスの機体が悲鳴を上げる。

 

「コイツ、機体の弱いところを狙っているのか? ……止めろ!」

 

「……!」

 

 ガンダム・バルバトスが巨大メイスを横薙ぎに振るうとガンダム・オリアスはライフルの射撃を止めて後ろに飛びそれを避けた。

 

「何なんだ? コイツ?」

 

 コックピットの中でガンダム・オリアスを見ながら三日月が呟く。

 

 三日月はこれまでに三度ガンダム・バルバトスに乗ってギャラルホルンのモビルスーツと戦い、それ以前はモビルワーカーに乗って仲間の昭弘との模擬戦や実戦を何度も経験してきた。しかし目の前にいるこの青のガンダムは、これまで戦ってきたどの敵とも違う感じがしたのだ。

 

 阿頼耶識システムを通じて機体にパイロットの意思を直接送る動きでも、コックピットの機器を操作するだけの動きでも違う、言わばその中間のような動き。

 

 今まで見たことない動きをする青のガンダムに苛立つ三日月だったが、同時に彼は目の前の敵が自分が戦ってきた中で最強だと確信する。

 

「このっ!」

 

 ガンダム・バルバトスが滑空砲を発射するが、ガンダム・オリアスはブースターとスラスターから推進剤を噴出させて上に飛び回避する。しかしそれは三日月も予想していた事だった。

 

 上に飛んだガンダム・オリアスを追いかけて巨大メイスを振るおうとした三日月だったが、その時彼は予想もしなかったものを見る。

 

 ガンダム・オリアスの腰の左右にあるブースター兼アーマーが噴出口が後ろに向くように横に倒れ、脚部の装甲の一部が変形して人間の二本足から馬の四本足の様な形状にと変わる。

 

「変形した? ……速い!」

 

 思わず呟いた三日月の目の前で変形したガンダム・オリアスは腰のアーマーと脚部から大量の推進剤を噴出させて加速するとガンダム・バルバトスを引き離す。

 

 三日月は知らない事だが、ガンダム・オリアスは背部にある主武装のNLCSキャノンを放ってからその場を高速で離脱、また別の場所から砲撃してから離脱するという移動砲台の様な戦いを本来の戦い方としている。だが今の様に一対一であったり、戦う時間が短時間であれば高速で相手を翻弄する高速戦闘にも対応が可能であった。

 

 オリアス。

 

 ソロモン七十二の魔神の一体であり、ガンダム・オリアスの名前の由来となったその魔神は、強靭な馬に乗って右手に二匹の蛇を持った尻尾が蛇の獅子の姿をしているとされている。

 

 四本足となって戦場を駆けるガンダム・オリアスの姿は、まさに伝説にある魔神オリアスの姿のようであった。

 

 ガンダム・オリアスはガンダム・バルバトスの周りを高速で飛び回りながらライフルを構え、ガンダム・バルバトスの機体の弱いところをまるで「分かっている」かのように正確に狙い撃つ。

 

「ぐっ!? このままじゃ……!」

 

 ガンダム・オリアスが撃つライフルの銃弾がガンダム・バルバトスの装甲の装甲を砕き、機体にダメージを与えていく。

 

 コックピットの中で三日月が危険を知らせるアラームを聞きながら舌打ちしていると、ガンダム・オリアスがライフルを撃ちながら突撃してくるのが見えた。ガンダム・バルバトスに止めを差すつもりかもしれないが、こちらに突撃してくるのは三日月にとっても好都合であった。

 

「これでぇ!」

 

 ガンダム・バルバトスが巨大メイスを横薙ぎに振るってガンダム・オリアスを迎え撃とうとするが、相手もそれを読んでいたようで、青のガンダムはブースターとスラスターの向きを即座に逆方向に向けて動きを止めて、ガンダム・バルバトスの巨大メイスはガンダム・オリアスの数メートル手前で空振りした。

 

 しかしここまでは三日月も予想の内。三日月の本命は別にあった。

 

「……終われ!」

 

 巨大メイスを空振りしたガンダム・バルバトスはそのまま機体を一回転させると、巨大メイスの先をガンダム・オリアスの胴体に向けて、巨大メイスに内蔵されているパイルバンカーを出射させた。

 

 至近距離からの電磁力によって高速で突き出される超合金製の長槍。

 

 それは回避はまず不可能で、モビルスーツのナノラミネートアーマーも容易く貫く必殺の一撃。

 

「……! ……なっ!?」

 

 巨大メイスのパイルバンカーを出射した瞬間、三日月は勝利を確信したのだが、そのすぐ後、目の前の光景に驚愕の表情を浮かべる。

 

「……」

 

 ガンダム・バルバトスのパイルバンカーはガンダム・オリアスを貫いてはいなかった。

 

 パイルバンカーの先端はガンダム・オリアスの数メートル手前で止まっており、ガンダム・オリアスは腰のブースターの噴出口とスラスターがある足の裏をガンダム・バルバトスに向けている奇妙な体勢を取っていた。

 

 これはつまりガンダム・オリアスのパイロットは、三日月が攻撃を仕掛ける直前、あるいは初めて巨大メイスを見た時から内部に仕込まれたパイルバンカーの存在に気づいていて、パイルバンカーが出射された瞬間に後方へ急加速してその一撃を回避したということ。

 

「あっ……!?」

 

「……」

 

 予想もしなかった展開に一瞬動きが止まってしまった三日月だが、その隙をガンダム・オリアスが見逃すはずもなく、ガンダム・オリアスは動きの止まったガンダム・バルバトスに容赦なくライフルの連続射撃を浴びせた。

 

 最早ガンダム・バルバトスは限界であり、ただの銃弾とは言えガンダム・オリアスの攻撃に抗う力は残されていなかった。

 

 まず手に持った巨大メイスが弾き飛ばされた。

 

 次に背部にある滑空砲が破壊された。

 

 続いて胸部のナノラミネートアーマーが砕かれた。

 

 そして。

 

「……」

 

 ガンダム・オリアスはガンダム・バルバトスの胸元、ナノラミネートアーマーを砕かれてむき出しとなったコックピットにライフルの銃口を突きつけた。

 

 ☆

 

「三日月が……負けるだなんて……」

 

「そんな、馬鹿な……」

 

 イサリビのブリッジでガンダム・バルバトスとガンダム・オリアスの戦いを見ていたビスケットとオルガが信じられないといった表情で呟く。

 

 二人の呟きはこのイサリビに乗っている者達全員の気持ちを代弁したものであった。

 

 三日月・オーガスは鉄華団で最強のパイロットで、鉄華団がまだCGSであった頃から誰も三日月が負けるところなんか見たことがなかった。その為三日月の力は鉄華団にとって、特にオルガにとって大きな心の支えであったのだ。

 

 それなのにこうして三日月が敗北する瞬間を見せつけられたオルガ達、鉄華団の動揺は一体どれくらいのものなのだろうか?

 

 オルガ達が言葉を失っている間に、ブリッジのモニターに映っているガンダム・オリアスが、ガンダム・バルバトスに突きつけているライフルの引き金を引こうとしているのが分かった。

 

「や、やめろ……。やめてくれ……!」

 

 その言葉を言ったのは誰だったか?

 

 オルガ・イツカか? ビスケット・グリフォンか? それとも鉄華団の誰かか?

 

 しかしそんな声がガンダム・オリアスに届くはずもなく……。

 

「止めろぉぉぉーーーーーーーーーー!!」

 

 叫び声と共に、ガンダム・オリアスのライフルから銃弾が放たれた。




三日月ファンの皆さんごめんなさい!
ガンダム・オリアスのパイロット、つまりシシオと三日月はパイロットの腕が互角という設定なんですけど、今回はお互いの機体の状態(ガンダム・オリアスは装備が充実していて整備も完璧、ガンダム・バルバトスは装備が不十分な上に整備も中途半端)を考えてシシオの勝ちにしました。
あと、ガンダム・オリアスの変形はキマリストルーパーと同じです。
というかガンダム・オリアスは元々、作者が鉄血のパーツをいくつか混ぜて作ったオリジナルのガンプラです。
というかこの作品はオリジナルのガンプラが完成したテンションで思い付き、書き始めたものです。
反省も後悔もしていません。

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