鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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話が進んでおらず、申し訳ありません。
今回は鉄華団サイドの話です。
できるだけ原作の雰囲気が出るように書いたつもりですけど、どうでしょうか?


#08

 時を少し遡り、鉄華団が乗る宇宙船、強襲装甲艦イサリビの艦内に非常事態を知らせるアラームが鳴り響く。

 

「何があった!?」

 

 イサリビのブリッジに鉄華団の代表であるオルガ・イツカが入ってくる。それに続いてクーデリアや鉄華団の中心メンバーといえる数人の少年達もブリッジに入ってきた。

 

「前方から所属不明の宇宙船が二隻、こちらに向かってきています」

 

 オルガの言葉にブリッジの通信オペレータ席で作業をしている女性、クーデリアの侍女であるフミタン・アドモスが手を休めず答えた。

 

「所属不明の宇宙船だと?」

 

「はい。こちらに停船信号と共に通信を送ってきていますが……どうしますか?」

 

「繋いでくれ」

 

 オルガの指示にフミタンが手元の機器を操作すると、ブリッジのモニターに白の三つ揃いを着た伊達男、名瀬の姿が映し出された。

 

『よお。アンタらが鉄華団か?』

 

「そうだ。……アンタは?」

 

『俺か? 俺は名瀬・タービン。タービンズっていう組織の代表をやらせてもらっている』

 

「鉄華団代表オルガ・イツカだ。……で? そのタービンズの代表さんが俺達に一体何の用だ?」

 

 お互いが名乗った後でオルガが訊ねると名瀬は一人の男の名前を口にした。

 

『マルバ・アーケイ』

 

「「「………っ!」」」

 

 名瀬が口にした名前を聞いてオルガ達に緊張が走る。しかし名瀬はそれに構わず言葉を続ける。

 

『火星にある民兵組織クリュセ・ガード・セキュリティ、通称CGSの経営者でお前達はつい最近までマルバの下で働いていた。だがCGSがギャラルホルンともめるとマルバはさっさと自分の財産だけを持って夜逃げ。残されたお前達は上の大人達を追い出してCGSを乗っ取ると、鉄華団という名に変えて自分達のものにした。……ここまではあっているかい?』

 

「……アンタ、マルバの知り合いか?」

 

 オルガが警戒心を露にしてモニターに映る名瀬を睨むが、当の本人は特に気にした様子も見せずに話す。

 

『その言葉はイエスと取るぜ? まあ、マルバとは昔一緒に仕事をした仲でな、つい先日火星に立ち寄った時に再会したのさ。その時のマルバはえっらいボロボロで、話を聞いてみるとギャラルホルンともめて困っているって言うんだよ。だから俺はマルバに「力を貸してやろうか?」と言ったのさ。「俺達」だったらギャラルホルンもなんとかできるからな』

 

「俺達?」

 

 名瀬の言葉にオルガが僅かに怪訝な顔をすると、横からオルガに比べてかなり恰幅のよい帽子を被った少年、ビスケット・グリフォンが今さっき自分が調べあげた情報を告げる。

 

「タービンズはテイワズの直系の組織だ。今はまだ規模は小さいけれどあの名瀬って男、テイワズのボスのマクマード・バリストンと親子の盃を交わしている人物だよ」

 

「……そいつは大物だな」

 

 今モニター越しに話している男が予想以上の大物であったことにオルガは驚きながらもどこか不敵な笑みを浮かべ、それをビスケットが不思議そうに見る。

 

「オルガ? 一体どうし……」

 

『おいおい? 人と話している時にこそこそと内緒話か? それはちょっと失礼だぜ。行儀が悪いな、おい?』

 

 ビスケットの言葉を遮るように名瀬が言い、その言葉にオルガが苦笑して視線を名瀬に戻す。

 

「おっと、それはすまねぇ。なにせ育ちが悪いもんでね。……続けてくれ」

 

『そうかい? それでギャラルホルンをなんとかする代価はCGSの資産を全部ウチで管理するって話になっていたんだが……知っての通りCGSの資産の大半はマルバの手元にはなく、お前達鉄華団の所にあるって訳だ』

 

 そこまで名瀬が言うとオルガはもう話は全て読めたとばかりに鼻を鳴らした。

 

「はっ! つまりアンタはマルバから取り損ねたモンを俺達から取り上げに来たって訳だ?」

 

 オルガの言葉にブリッジにいるクーデリアとフミタンを除くほとんどの者が警戒、あるいは怒りの目で名瀬を見る。しかし次の名瀬の言葉は彼等が予想していたのとは若干違うものであった。

 

『……まあ、最初はそんな感じだったんだが、こっちもマルバの野郎とトラブルがあってな。マルバの依頼をそのまま受ける気分じゃないんだよ』

 

「はぁ?」

 

 先程までの眼光が鋭い表情から一転、白けた表情となって言う名瀬に、オルガの隣で話を聞いていた金髪の少年、ユージン・セブンスタークが思わず呆けた声を上げる。

 

『だが一度仕事を引き受けた以上、俺達もハンパに投げ出す訳にもいかねぇ。だからよ……お前達、俺達と決闘をする気はないか?』

 

「決闘だと……どういうつもりだ?」

 

 突然の決闘の提案にオルガが聞くが名瀬は肩をすくめて何でもない様に答える。

 

『どういうつもりも何も今言ったろ? マルバの依頼をそのまま受ける気分じゃないが仕事を投げ出すつもりもないって。その丁度いい落とし所が決闘なのさ。決闘の内容はこちらの代表のモビルスーツとそっちの代表のモビルスーツが一対一で戦って、こちらが勝ったらお前達鉄華団は俺達の傘下で働いてもらう。……安心しな、別に無茶な仕事を押し付けたりなんかしねぇよ。むしろ命を張る必要なんかない真っ当な仕事を紹介してやる』

 

「……何だそりゃ?」

 

 名瀬が提示した「鉄華団が負けた時の条件」を聞いて筋肉質の少年、昭弘・アルトランドが怪訝な表情で呟く。今告げられた条件は仕事に事欠き、資金繰りに苦しんでいる鉄華団の状況を考えればむしろ救いみたいなものであり、とても敗北の代償とは思えなかった。

 

 それはこの場にいる全員が思った事だが、オルガは表情を変える事なく名瀬に話の続きを促した。

 

「……それで? 俺達が勝った場合は?」

 

『お前達の地球までの道案内を俺達タービンズがやってやる。それとテイワズに鉄華団の後ろ盾になってもらうよう俺からもマクマードの親父に頼んでやる』

 

「「「……………!!」」」

 

 名瀬の言葉にオルガ達鉄華団のメンバーは今度こそ言葉を失った。

 

 前の戦闘で鉄華団は勝利はしたものの、地球までの道案内を頼んだオルクス商会に裏切られ、ギャラルホルンに完全に目の敵にとされてしまい、早急に別の道案内役とギャラルホルンにも強い影響力を持つ後ろ盾を必要としていた。だからこそ、その両方を持つテイワズと接触する手段をついさっきまで必死に考えていたのに、こうあっさりと言われては驚くなと言う方が無理な話である。

 

『どうだい? 悪い話ではないと思うがね?』

 

 言葉を失ったまま固まるオルガに名瀬は口元に笑みを浮かべて聞く。

 

 悪い話どころではない。むしろ勝っても負けても願ったり叶ったりの美味い話だ。

 

 あまりに美味すぎて逆に「毒入りなのでは?」と逆に勘繰ってしまいたくなるくらい美味い話だ。

 

 しかしそこまで考えても結局オルガ達が取れる選択肢は一つだけだった。

 

「……分かった。その決闘、受けて立つぜ、名瀬さんよぉ」

 

 どうせこのままでは地球に行く事も火星に帰る事も出来ず、ギャラルホルンに睨まれたまま干上がって鉄華団は破滅だ。ならば例え罠だとしてもこの決闘を受けて勝利をもぎ取るしか鉄華団が生き残る道はない。

 

『よし。そうこないとな。じゃあ、機体のセッティングに一時間やるから、一時間後に代表のモビルスーツを一機出しな』

 

 名瀬はそう言うと通信を終了した。

 

 ☆

 

「悪いな。こっちもやれるだけやってみたんだが、やっぱり機体の調整は完全にできなかった」

 

 オルガと名瀬の会話から一時間後。イサリビの格納庫で唯一の大人である整備班をまとめる整備士、「おやっさん」の愛称で呼ばれているナディ・雪之丞・カッサパが目の前にいる人物に申し訳なさそうに言った。

 

 おやっさんの前にいるのは、彼の半分くらいの背丈しかない黒髪の少年。黒髪の少年の名は三日月・オーガスという。

 

 三日月は鉄華団に二人しかいないモビルスーツのパイロットで、今回の決闘に鉄華団の代表として出るのだった。

 

「別にいいよ。とりあえず動くんだったらなんとかしてみせる」

 

 三日月はおやっさんにそう言うと自分が乗る機体、白いガンダムフレームのモビルスーツ、ガンダム・バルバトスに乗り込む。その背中におやっさんが声をかける。

 

「これは決闘だ。命を取り合う殺し合いじゃねぇ。ヤバいと思ったら降参しちまえ」

 

「しないよ。降参なんて。だってこの決闘に勝たないとオルガは前に進めない」

 

 おやっさんの言葉に三日月はそう言って返すコックピットのハッチを閉め、ハッチが閉まり切る直前におやっさんの「だよなぁ……」という呆れたような声を聞いた。

 

「………くっ! リアクターだけでなく、各部のモーターにも変な負荷がかかってる」

 

 阿頼耶識システムでバルバトスと繋がった三日月は、機体の不具合を直接感じ取り顔をしかめるがすぐに気を取り直して前を見る。

 

「まあ、いいか……。ガンダム・バルバトス、三日月・オーガス、出るよ」

 

 三日月が合図をするとガンダム・バルバトスはカタパルト・ハッチから宇宙船の外に発信した。

 

 名瀬の方の代表はすでに宇宙船から出ており、三日月がやって来るのを待っていた。

 

「あれ? あの青の機体、どこかバルバトスに似ている?」

 

 三日月は自分の決闘の相手を見て呟く。彼の言う通り、右肩に決闘の証である赤布を取り付けた青の機体はガンダム・バルバトスと似ていたがそれは当然であった。

 

 対戦者の機体の個体名はガンダム・オリアスと言い、ガンダム・バルバトスと同じくガンダムフレームのモビルスーツである。

 

 ガンダム・バルバトスとガンダム・オリアス。

 

 白のガンダムと青のガンダム。

 

 互いに魔神の名を冠する二機の兵器の戦いが今始まろうとしていた。




次回はいよいよガンダム・バルバトスとガンダム・オリアスの戦闘で、次回も鉄華団サイドの話です。

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