鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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#05

 宇宙に出たシシオは早速コックピットの機器を操作して敵の位置と情報を調べた。その結果モニターに映し出されたのはこちらに向かってくる六機のモビルスーツであった。

 

 六機のモビルスーツの内三機は同じ外見と武装の重装甲モビルスーツで、二機は先の三機とは外見は異なるが重装甲で左肩の色が青と黄と違うモビルスーツ、そして残りの一機は他の五機とは全くシルエットの異なるまるで帽子を被った人のような外見のモビルスーツであった。

 

「六機の内五機はロディフレームのカスタム機で、あの帽子のモビルスーツは……百錬のカスタム機か?」

 

 モニターに映る映像を一目見てシシオは敵の機体の種類を判断する。百錬とはテイワズが販売用に製作したモビルスーツである。

 

「ダディ・テッド暗殺の本命はあの帽子のモビルスーツで、肩が青と黄色のモビルスーツは万が一の為の保険。残る三機は今回の追撃に慌てて集めた数合わせ……というところかな?」

 

『何でそんな事が分かるんだよ?」

 

 モニターを見ながらシシオが呟くとガンダム・アスタロトに乗っているアルジが聞いてくる。

 

「何でって、あのモビルスーツの飛び方を見たら分かるだろ?」

 

 シシオはアルジに答えながらモニターに映る六機のモビルスーツを指差す。

 

 六機のモビルスーツの内三機、帽子のモビルスーツと左肩が青と黄色のモビルスーツは適度に距離を置いて何かがあれば即座に離脱も味方の援護も出来る位置取りをしている。しかし残りの三機は機体が接触するくらいに密集していて、シシオの目には素人にしか見えなかった。

 

『そ、そうなのかな?』

 

「そうなんだって。……さて、先ずは数は減らそうか」

 

 アルジに答えてシシオがコックピットのボタン類を操作する。するとガンダム・オリアスの背中にある大砲二門が展開される。

 

 しかしガンダム・オリアスの背中から現れた二門の大砲を見ても六機のモビルスーツは退避行動を見せなかった。恐らくは砲撃をされても重装甲のナノラミネートアーマーで防ぐか、直前に回避すればいいと考えているのだろう。

 

 それはナノラミネートアーマーで守られたモビルスーツのパイロットとしては正しい考えだと言える。……だがしかし。

 

「ガンダム・オリアスの大砲は他とは違うよ?」

 

 シシオが口の端を上げて呟く。そしてその言葉に応えるようにガンダム・オリアスの二基のエイハブ・リアクターが出力を上げる。

 

「出力上昇。圧縮エイハブ粒子の供給開始……砲弾弾頭の硬化現象を確認。ターゲットロック。射撃準備オーケー」

 

 機器を操作して背中の大砲の射撃準備を終えるとシシオはレバーを持つ手に力を入れる。

 

「『NLCSキャノン』……発射!」

 

 シシオがレバーにあるスイッチを押すと同時にガンダム・オリアスの大砲が火を吹く。大砲から発射された砲弾は、通常の大砲のそれとは比べ物にならない程に弾速が速く、超高速の砲弾は戦場の宇宙に二本の光の線を引いた。

 

「「「………ッ!」」」

 

 六機のモビルスーツの内、帽子のモビルスーツと左肩が青と黄色のモビルスーツが危険を感じ、とっさに回避運動を取る。そのお陰か三機のモビルスーツは、砲撃の衝撃波で機体にダメージを受けながらも吹き飛ばされるだけですんだ。

 

 しかし残った三機、密集しながら飛んでいたモビルスーツ達は、ナノラミネートアーマーで覆われた機体をまるで紙のように砲弾で貫かれ、その直後爆散していった。

 

『な……!? 何だよアレは!?』

 

 たった一撃の砲撃で三機のモビルスーツが破壊された光景を見てアルジが思わず声を上げる。

 

 NLCSキャノン。

 

 正式名称は「ナノ・ラミネート・コーティング・シェル・キャノン」と言い、ガンダム・オリアスの主兵装である。

 

 ナノラミネートアーマーで弾頭をコーティングした特殊砲弾を圧縮エイハブ粒子で硬化させて大出力レールガンで撃ち出す事で非常に強力な破壊力を発揮する兵器。使用する砲弾は通常の砲弾の数倍から十倍のコストがするのだが、命中すればモビルスーツだけでなく戦艦すらも破壊できて短期で最大限の効果を出す。

 

 難点があるとすれば弾頭のナノラミネートアーマーが発射されてガンダム・オリアスから離れた時点で硬化現象が急速に失われ最大破壊力を保てる距離が限られている点で、これを解決した上位互換と言える兵器がレアアロイ製の特殊弾をレールガンで撃ち出す「ダインスレイブ」であるが、これは厄祭戦が終結してからは極めて非人道的な兵器として使用を条約で禁止されている。

 

 ちなみにNLCSキャノンはさっきも言ったように最大破壊力を保てる距離が限られている上(それでも実戦では充分な射程距離なのだが)、反動が大きく使用するにはエイハブ・リアクターと直結させる必要がある為、ガンダムフレームの様に耐久性に優れたフレームを特別に改造した機体でないと装備できない「欠陥兵器」という扱いで特に使用は禁止されていない。……というよりその存在がほぼ完全に忘れられているという現状であった。

 

「アルジ、いつまでも呆けてないで。まだ敵はいるんだよ」

 

『あ、ああ……。悪い』

 

 先程のNLCSキャノンの砲撃がよほど衝撃的であったのだろう。半分程放心状態であったアルジにシシオが声をかける。そうしている間に生き残った三機は体勢を立て直して二人に向かって来ていた。

 

「へぇ、二手に分かれて来たか」

 

 シシオが敵のモビルスーツ三機の動きを見て呟く。

 

 生き残った三機の内、帽子のモビルスーツはシシオのガンダム・オリアスへ、左肩が青と黄色のモビルスーツ二機はアルジのガンダム・アスタロトへ攻撃を仕掛けようとするのだった。

 

「でもそれは俺にとっても好都合なんだよね。アルジ、その機体は任せたよ?」

 

 どうやらシシオの方も帽子のモビルスーツが狙いだったようで、アルジに他の二機の相手を任せると返事も待たずに帽子のモビルスーツに向けて機体を加速させた。

 

「………!」

 

 自分に向かってくるガンダム・オリアスに向けてライフルを撃つ帽子のモビルスーツであるが、先程の砲撃の衝撃波でセンサー類に故障が生じたのか狙いは甘く、シシオは難なく敵の銃弾を避けながら敵に接近して行く。

 

「……! ………!」

 

「遅いよ」

 

 ライフルの射撃が当たらない事を悟った帽子のモビルスーツはライフルを投げ捨てると、両手に折り畳み式のダガーを持って迎え討とうとするが、シシオからすれば遅すぎた。帽子のモビルスーツがダガーを用意している隙にガンダム・オリアスは急加速をして帽子のモビルスーツに肉薄し、折り畳み式のダガーを手に取った瞬間に先ず相手の左手を蹴り上げ、次に持っていたライフルの銃口を胴体の横側、人間でいう脇腹に突きつけた。

 

 シシオの見立てではこの帽子のモビルスーツは百錬のカスタム機で、百錬のコックピットは人間でいう腹部の辺りある。つまり今シシオがライフルの銃口を突きつけている先はコックピットがある辺りで、更に言えばそこはナノラミネートアーマーで保護されていない部分であった。

 

「悪いね。このモビルスーツにはこれ以上傷をつけたくないんだ」

 

「…………! ……………!!」

 

 シシオがそう言った直後、ガンダム・オリアスのライフルが火を吹き、彼の予想通りの位置にあったコックピットを銃弾で貫かれた帽子のモビルスーツは全身から力が抜けて動かなくなった。

 

「これでこっちはヨシと。それでアルジの方は?」

 

 帽子のモビルスーツからパイロットの生体反応が消えたのを確認してシシオがアルジの方を見ると、そこには左肩が青と黄色のモビルスーツ二機に囲まれて苦戦しているガンダム・アスタロトの姿があった。

 

「何だアレ? アルジってば、もしかしてモビルスーツの素人?」

 

 アルジが操縦するガンダム・アスタロトは動きがぎこちなく、それを見たシシオは一人呟いてから納得した。

 

 確かにアルジはフリーの傭兵だと言っていたが、個人でモビルスーツを所有して戦いに使用している傭兵なんてそう多くない。アルジが今までモビルスーツが乗った事がなく、これが初めてのモビルスーツ戦だと考えるとあのぎこちない動きも納得できた。

 

「しょうがない。援護しますか」

 

 シシオはそう言うと、ガンダム・オリアスが持つライフルの照準を操作して狙撃モードにすると、狙いを左肩が黄色の方のモビルスーツに向けて二発の弾丸を放った。

 

「…………!?」

 

 ガンダム・オリアスのライフルから放たれた二発の弾丸はシシオが狙った通りの箇所に命中して、左肩が黄色のモビルスーツの動きが止まる。

 

 シシオが狙って撃ったのは、モビルスーツの背中にある二基のブースターであった。宇宙空間での動きはブースターとスラスターがほとんど行っており、メインと思われる二基のブースターを破壊された以上、あの左肩が黄色のモビルスーツはマトモに動く事はできないだろう。

 

「………! ………………!」

 

 左肩が青のモビルスーツがガンダム・アスタロトへの攻撃を止めて動けなくなった左肩が黄色のモビルスーツの元に駆けつける。

 

 反撃をするなら今以上のチャンスはないのだが、ガンダム・アスタロトは攻撃を仕掛けようとせず、そのまま二機のモビルスーツがこの場から逃げようとするのを無言で見送った。

 

「アルジの奴、見逃すのか? ……まあ、いいか」

 

 敵を見逃すアルジの行動にシシオは眉をひそめるがすぐに気持ちを切り替えた。

 

 これはシシオの勘だが、恐らくあの二機のモビルスーツはただ傭われただけの傭兵で、ダディ・テッドの暗殺しようとする者の顔……どころか自分達のターゲットがダディ・テッドである事も知らないだろう。だったら今から追いかけて無理に捕まえたり、倒す必要もない。

 

「帰るか」

 

 シシオが操縦するガンダム・オリアスは戦利品である帽子のモビルスーツを引っ張りながら自分の宇宙船へ帰るのだった。


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