鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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#04

「それじゃあよろしく頼むぜ、シシオ」

 

「はい。分かりました」

 

 ダディ・テッドからガンダム・アスタロトの修理の依頼を受けた次の日。シシオは自分の宇宙船のブリッジでダディ・テッドの言葉に頷き答える。

 

 シシオ達が宇宙船のブリッジにいるのは次の仕事のためであった。

 

 昨日、ガンダム・アスタロトのエイハブ・リアクターを数時間で稼動状態にした(本来であれば何日間も時間が必要な作業であり、これには本人と呆れ顔のローズを除くその場にいた全員が驚いていた)シシオ達はダディ・テッドから新しい仕事を受けた。

 

 その新しい仕事の内容は、ダディ・テッドをマクマード・バリストンの元へ護衛し連れて行くこと。

 

 今、タントテンポでは内部抗争の気配があるらしい。そしてつい先日ダディ・テッドはある「情報筋」から自分を暗殺しようとする計画を知って、若い頃から密かに知り合いであったマクマードの元に一時身を寄せることにしたのだった。

 

 シシオ達の仕事はマクマードの元へ行く足の提供とそれまでの護衛。ダディ・テッドがわざわざ外部の人間であるシシオ達を護衛に雇ったのは、タントテンポの誰がダディ・テッドの暗殺を計画をしたのか分からないためである。

 

 ガンダム・アスタロトの修理とは別に多額の前金を受け取り、途中で丁度仕事で火星に行っている名瀬達タービンズとも合流する予定があることを聞いたシシオ達はこの仕事を引き受けることにしたのだった。

 

 今ブリッジには六人の人間がいた。シシオとローズ、護衛対象のダディ・テッドに彼のボディーガードである杖をついた少年のヴォルコ・ウォーレンと義手の少年、そして……。

 

「へぇ……。貴方が私達の護衛なのね?」

 

 シシオと同年代くらいの少女が彼の目を見ながら言う。

 

 少女の名はリアリナ・モルガトン。

 

 ダディ・テッドの一人娘で、月の裏側にあるコロニー群に留学していたのだが、今回マクマードの元に行く際に呼び出されたのだ。

 

「ええ、そうですよ。よろしくお願いします」

 

「うん。こちらこそよろしくね。……それにしても意外ね」

 

「意外、ですか? ……何が?」

 

 リアリナの言葉にシシオが首を傾げる。

 

「だって貴方達ジャンク屋なのよね? ジャンク屋ってもっとこう……油まみれで汚れているイメージだったから」

 

「ジャンク屋じゃないです! 俺はトレジャー「ジャンク屋です」って、ローズ!?」

 

 リアリナの言葉に反論しようとしたが途中でローズに遮られてうろたえるシシオ。そんな二人のやり取りを見てリアリナが呆れたよな表情となる。

 

「何だか不安ね。本当に頼りになるの?」

 

「お嬢。その心配はいりません。俺も昨日調べましたが、彼はトレジャーハンターを名乗っていますがジャンク屋、運び屋、傭兵と幅広くやっていて木星圏ではかなり有名のようです。もちろんそのどの仕事も腕は一流です」

 

 ヴォルコがリアリナの後ろから自分が調べた情報を教える。

 

「特に自分のガンダムフレームに乗っての戦いぶりは凄まじく、一部では『青鬼(ブルーオーガ)』という異名で呼ばれて……」

 

「あー、もうその話はいいじゃないですか? それよりも、もう出発していいんですか?」

 

「ああ。早速頼むわ」

 

 自分の事を言われることに気恥ずかしさを感じてシシオが言うとダディ・テッドが頷き、シシオ達は宇宙船を発進させた。

 

 ☆

 

「………」

 

 宇宙船を発進させて月のコロニーを後にしてから数時間が経った頃。操縦席に座り宇宙船を操縦するシシオは、自宅とも言うべき自分の宇宙船の中であるのに関わらず居づらい気持ちを味わっていた。

 

「………」

 

 シシオが居づらい気持ちを味わう原因は彼の隣、副操縦席に座っている義手の少年にあった。

 

 今ブリッジにはシシオと義手の少年しかいなかった。ダディ・テッドとリアリナ、ヴォルコはローズの案内で客人用の部屋にと向かったのだが義手の少年だけはブリッジに残って、何故かシシオに敵意にも似た剣呑な気配を向けてきていた。

 

「え、え~と、その……」

 

 この気まずい空気を何とかするために義手の少年に話しかけようとするシシオであったが、ここで彼は未だに義手の少年の名前を知らない事に気付いた。

 

「………アルジ・ミラージだ」

 

 義手の少年、アルジ・ミラージが呟くように名乗る。

 

「アルジ、か。……それじゃあアルジ? 俺に何か用かな? 昨日初めてあった時からずっと今みたいな目で見ているよね?」

 

「……お前はガンダムのパイロットで、ガンダムフレームのモビルスーツに詳しいんだよな?」

 

 アルジに気になっていたことを聞くシシオだったが逆に質問で返される。しかしその声音はひどく真剣なものであったのでシシオは機嫌を悪くすることなく質問に答えた。

 

「そうだね。それなりに詳しいと思うよ」

 

「だったらガンダムを使っている傭兵や海賊とかの噂は聞いたことはないか?」

 

 二度目の質問にシシオは少し考えた後で首を横に振る。

 

「ごめん。そういう噂には心当たりがないな」

 

「……そうか」

 

 シシオの言葉を聞いてアルジは少し落ち込んだように眼の光が弱くなった。その様子を見て彼は少しためらいながらも義手の少年に聞いた。

 

「ねぇ? 随分とガンダムにこだわっているみたいだけど、どうしてそんなにガンダムにこだわるんだい?」

 

「……………ガンダムは、俺の仇だからだ」

 

 義手の少年は憎々しげな表情を浮かべ、ありったけの憎悪をこめて吐き捨てるように呟いた。

 

 憎悪のこもった言葉をきっかけに、アルジはシシオに自分のことを話し始めた。

 

 数年前にガンダムフレームらしきモビルスーツが起こした事故によって自身の右手と両親、そして妹を失ったこと。

 

 家族を失ってからは傭兵となって各地を転々としていたが、ある日ダディ・テッドの暗殺計画に誘われたこと。

 

 ダディ・テッドがガンダムフレームの一体の所有者、つまり自分の仇かもしれない人物であると知らされて暗殺計画に参加するが、復讐心が先走って計画の実行日を待たずに単独でダディ・テッドの元に行った挙句あっさりと捕まってしまったこと。

 

 結果としてダディ・テッドはアルジの仇ではなく、アルジは殺されても不思議ではなかったのだが、何故かダディ・テッドに気に入られてボディーガードとして雇われ、今に至ること。

 

(なるほどね。つまりダディ・テッドが自分の暗殺計画を知った『情報筋』は彼って訳か。そして……)

 

 シシオは横目でアルジを見て内心で頷いてから口を開いた。

 

「俺はアルジの仇かもしれないって事か」

 

 ガンダムフレームの一体、ガンダム・オリアスを所有しているシシオは、アルジの右手と家族の仇である可能性がある。それが昨日初めて会った時からアルジがシシオをどこか敵意のある目で見ている理由であった。

 

「……見た感じ、お前は俺の仇じゃない……と思う。だけど俺は……っ!?」

 

 アルジがそこまで言ったところで宇宙船の内部に警報が鳴り響き、それを聞いたシシオが即座に操縦席の機器をチェックする。

 

「何だ!?」

 

「エイハブ・ウェーブの反応が多数接近! 恐らくはモビルスーツ!」

 

 思わず声を上げたアルジだったがシシオの言葉を聞いて顔を青くした。

 

「多数のモビルスーツ!? それってまさか……!」

 

「俺もそのまさかだと思うよ」

 

 アルジの言葉にシシオは機器から目を離すことなく頷く。

 

 この状況で近づいてくる多数のモビルスーツなんて一つしか考えられなかった。間違いなくこのモビルスーツの集団はダディ・テッドを暗殺する為の追っ手。

 

 ダディ・テッドがシシオ達の宇宙船で脱出した情報をどこからか掴んだ追っ手は、シシオ達ごとダディ・テッドを殺そうとこうしてモビルスーツを出してきたのだろう。

 

「ローズ! いるか?」

 

『はい。シシオ様』

 

 シシオがローズがいるはずの部屋に通信回線を繋げるとすぐに彼女の顔がブリッジのモニターに映し出され、ローズの後ろにはダディ・テッドとリアリナ、ヴォルコの三人の姿も見えた。

 

「分かっていると思うけど敵の襲撃だ。俺が迎撃に出るからローズはすぐにブリッジに来て宇宙船を操縦をしてくれ」

 

『はい。分かりました』

 

 モニターの中のローズがシシオの指示に一礼して答える。するとローズの後ろにいたヴォルコが彼女の隣まで進み出て口を開いた。

 

『おい、野良犬』

 

「何だよ?」

 

 ヴォルコが口にした「野良犬」という言葉にアルジが機嫌悪そうに反応する。どうやら今の「野良犬」というのはヴォルコがアルジに対して使う呼び名らしい。

 

『お前はいつまでそこにいるつもりだ? さっさと自分の『仕事』をしろ』

 

「チッ! 分かってるよ」

 

 モニター越しのヴォルコの言葉にアルジは一つ舌打ちをして返事をするのであった。

 

 ☆

 

「……アルジ、本当にいいのかい?」

 

 パイロットスーツに着替え、ガンダム・オリアスに乗り込んだシシオはコックピットの連絡回線を使ってアルジに話しかける。

 

 アルジが今いるのはガンダム・アスタロトのコックピットの中。ヴォルコが言った「仕事」とは、ガンダム・アスタロトに乗って追っ手のモビルスーツを撃退することであった。

 

 ガンダムに家族を殺された者がガンダムに乗って戦う。それは皮肉にも程がある。

 

 シシオがアルジを心配して話しかけると、通信モニターに映るアルジが首を横に振る。

 

『いや、いいんだ。……確かにガンダムは俺の仇だ。だけど俺にはそれを倒す力がいるんだ』

 

 そのガンダムを倒す為の力がガンダム・アスタロト。

 

 ガンダムを使って仇のガンダムを倒す。アルジの目に宿る覚悟の光を見てシシオはそれ以上何も言えなかった。

 

「そうか。分かったよ」

 

『ああ。……ありがとうな』

 

 アルジもシシオが自分を心配してくれているにが分かったのだろう。言葉最後に小さく礼を言い、それを聞いたシシオが小さく笑った。

 

「ローズ、頼む」

 

『了解。カタパルト・ハッチ展開』

 

 シシオがブリッジにいるローズに指示を出すと宇宙船のモビルスーツを発進させる為のカタパルト・ハッチが展開される。

 

「シシオ・セト。ガンダム・オリアス。行きます!」

 

『アルジ・ミラージ。ガンダム・アスタロト。出る!』

 

 ガンダム・オリアスとガンダム・アスタロト。

 

 二機のガンダムが敵を倒す為に宇宙の戦場にと飛び立った。


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