アンドロイドはエンディングの夢を見るか?   作:灰色平行線

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「もしも遊園地の成り立ちがこんなだったらなあ」と思って書いた話。


my only happiness

 私の名前はソクラテス。機械生命体だ。

 私が配属されたのはボロボロのとある施設だった。その特徴的な造形と機械生命体達の集めた情報から、私はそこが「遊園地」と呼ばれている場所だということを理解した。

 私は他の機械生命体達と共に遊園地の中を探索した。地形を知っておかなければ戦いに勝つのは難しい。その探索の途中、私は1枚の紙きれを見つけたのだ。それはこの遊園地のパンフレットだった。

 パンフレットに目を通した私は感動した。無いはずの心を震わせた。人類文化にはこんなにも楽しそうな場所が存在していたのか!「楽しい」を追求し、「喜び」を分かち合う場所!こんな感動的な場所が過去には存在していたのだ!

 それは戦うための機械でしかなかった私に別の何か、使命感に似た何かを与えた。

 私は自らの意思で機械生命体のネットワークを切った。戦いよりも喜びを求めたからだ。私はこの遊園地を復興させると決めた。

 

 それから長い時間をかけて私は遊園地を開園できる状態にしていった。建物の心配はしなくてもいいため、まず私は一緒にこの遊園地に配属された機械生命体を説得した。仲間を増やした後は動かくなったアトラクションを修理し、ピエロと呼ばれる衣装を作り、パンフレットに載っていた「ロミオ達とジュリエット達」の演劇を練習した。自分のことを「カワイイ」というウサギのような機械生命体には遊園地のマスコットになってもらうことにした。

 こうして遊園地は完成した。ほとんどは元々の遊園地の模倣だったが、努力の甲斐あって遊びに来る者達も増えていった。彼らの喜びが私達の喜びなのだ。遊園地を復興させて本当に良かった。

 

 ある日のことだ。遊園地に1人の機械生命体がやって来た。その機械生命体は「ここで歌を歌わせてほしい」と言った。歌には他者の心を惹きつける力があるらしい。私は試しに彼女をステージで歌わせてみた。

 彼女がステージで歌うようになってから、彼女の歌声は噂になり彼女の歌を聴こうと前より多くの機械生命体達が遊園地に遊びに来るようになった。だが、件の彼女は満足していないようだった。時々、「今日もあの人は来なかった」と言っているのを聞く。誰か、歌声を聞かせたい者がいるのだろうか。

 

 彼女が遊園地に入ってしばらくしたころ。ピエロの1人が行方不明になった。皆で遊園地の中を探し回ったが、結局、彼が見つかることはなかった。

 同じくらいの頃から、歌を歌う彼女は死んだ機械生命体やアンドロイドの死体を集めるようになった。なんでも、体を作り変えてもっと「美しい」を強化するのだとか。

 彼女は「美しい」ということに固執し過ぎているような気がする。私が理由も分からず「喜び」や「幸福」に固執しているように。だが、私が固執するのは皆のためだ。彼女のように特定の誰かのためではない。私と彼女は違う。違うハズだ。

 

 彼女は機械生命体のパーツで体を大きくし、アンドロイドの死体で自らを飾り付けた。構造を変えたおかげか、歌も前より上手くなり、彼女の歌声を聴こうとやって来る客も増えた。しかし、彼女が本当に歌を聞かせたい相手は来ない。

 遊園地の噂が広まると、私達が戦いもせず楽しく遊園地をやっていることを良く思わない機械生命体や、私達を敵として襲ってくるアンドロイドも増えてきた。彼らはお客様ではない。迷惑な奴らには帰ってもらわなければいけない。私は遊園地のスタッフに武装を施し、客ではない奴らを迎撃させた。喜びの価値も分からない醜いクズ共にこの遊園地に来る資格はない。

 

 スタッフ達は私のことを「変わった」と言う。私は変わってなどいない。今も昔も「喜び」を求めているだけだ。彼女は今日も新たに体を作り変えて歌っている。だが、彼女の想い人は今日も来ない。心なしか、変わっていく彼女がひどく醜く見えた。

 

 ある日、彼女は絶叫した。鏡に映る自分の姿に絶叫した。絶叫して我を忘れた彼女はステージに立って暴れ出した。彼女の絶叫は音波となって、機械生命体達に異常を与えた。何人ものスタッフが彼女を止めようとして、破壊された。どうやら彼女は自らの手で機械生命体を殺し、パーツを奪い、アンドロイドを殺し、飾り付けていたようだった。機械生命体は戦いによって成長する。彼女はこの遊園地の他の誰よりも成長していた。

 暴れている彼女が私にはひどく醜く見えた。醜い。醜い。醜い。醜い。こんな醜い奴は私の遊園地にはいらない。私は、スタッフ達が破壊されていく中で、彼女を後ろから攻撃しようとした。

 

 だが、彼女が飾り付けていたアンドロイドの死体の目が赤く光ったと思ったら、次の瞬間、私は地面に倒れていた。

 

 死体ではなかったようだ。彼女はただアンドロイドを飾り付けていた訳ではなかった。生きたまま兵器に改造していたのだ。一体何時からそんな事を始めたのは私には分からない。

 ハッキングを受けたのだろうか。頭の中がごちゃごちゃしているような気がする。ああ、そうか。私もまた、醜い奴らの1人だったのか。私の「喜び」は皆のための喜びではなく、いつの間にか私のための喜びに変わってしまっていた。それがいつからかは分からないが、確かに、私は変わってしまった。

 そして彼女もまた、変わってしまった。純粋に見知らぬ誰かを想う彼女はもうどこにもいない。

 私も、彼女も、遊園地も、変わってしまった。できることならば・・・もう・・・い・・・ち・・・ど・・・。

 

 ◇◇◇

 

 ソクラテスは死んだ。彼女は今日もステージで歌っている。

 それでも、遊園地は動き続ける。ステージには近づかないことを暗黙の了解とし、遊園地のスタッフは今日もスタッフだけで遊園地を動かし続ける。

 それからしばらくした頃。

「何・・・こいつら?」

「なんていうか、異様な雰囲気ですね・・・」

 2人のアンドロイドが遊園地にやって来た。




これ抜かして残り4話です。(ネタは浮かんでいない)

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