「司令官。2Bさんから報告書が届いています」
「報告書?珍しいな」
バンカーの司令部で6Oからの言葉に司令官は少し驚いた。
「口では言えない内容か?それにバンカーにデータを同期すればどのみち伝わるだろうに」
「なんでも急ぎの用事があるとかで、報告だけはしておきたいから報告書を送ったらしいですよ?」
「そういうことなら仕方ないか・・・」
現場のことは現場の者が1番よく知っている。レジスタンスに何か頼まれたのかもしれないし、報告書という形になるのも仕方のないことなのかもしれない。
「それじゃあ開きますねー」と、6Oがデータを開く。
◇◇◇
●月×日
アンドロイドはアジを食べると死ぬかもしれないらしいという話を
レジスタンスのアンドロイドから聞いた。
教えてくれたアンドロイドはそう言った舌の根の乾かぬ内に
私にアジを渡して「食べてみてくれ」と言ってきた。
とりあえずアジはショップで売ることにした。
「これ、報告書じゃなくて日記じゃないか?」
「2Bさん、日記を書く趣味なんてあったんですねー。大雑把に見えてマメな部分もあるんですね」
「いや、そうじゃなくてだな・・・」
●月×日
海で釣りをしていたらアジが釣れた。というよりアジしか釣れなかった。
そういえば司令部から何か任務があったはずだ。
まあ、ちょっとくらいサボっても言わなきゃバレないだろうヘーキヘーキ。
任務は明日から頑張ろう。
「報告書(?)で思いっきりサボりを告白されてるんだが」
「こ、告白!?そんな!2Bさん、私とは遊びだったんですか!?」
「何の話だ」
●月×日
海で釣りをするとやっぱりアジしか釣れない。
そう言えばアジでアンドロイドが死ぬかもしれないという話を思い出した。
万が一にも死にたくないため9Sに無理矢理食べさせてみた。
本当に死ぬとは思わなかった。
「さらっととんでもないこと書いてるぞ?そういえば前にバンカーで9Sを見かけたような・・・」
「その時は確か21Oさんがひっそりと泣いてました」
「・・・今度、食事にでも誘ってやるか」
●月×日
死んだ9Sが戻って来た。
死にはしたが、味はとても良かったらしい。アジだけに。
なんとかして死なないように食べる方法はないだろうか?
もっと味わって食べてみたいものだ。アジだけに。
「・・・なんか、背筋が寒くなりません?」
「・・・私は、ものすごい虚無感を感じているよ」
●月×日
ふと気になった。アンドロイドがアジで死ぬのなら機械生命体はどうなのだろう。
試しに機械生命体にアジを食わせてみた。普通に死んだ。
まさかアジが機械生命体にも効果があるとは思わなかった。
これは使える。
「アジを利用した兵器でも考えとくか」
「ブラックボックスと同じくらいの諸刃の剣になりそうですね」
●月×日
ここ最近、釣りでアジしか釣っていない。
使い道もないので商業施設で見つけた料理本を参考にアジの料理を作ってみようと思った。
しかし、料理をしようにも材料がない。出来たのは焼き魚くらいだった。
作ったはいいがどう処分しよう。
「ところで、これ何についての報告なんだ?」
「今更それを聞きますか?」
●月×日
いろいろ工夫したり材料を探したりしてなんとかアジのフライを作ることに成功した。
他にもアジの煮つけ、刺身、たたきを作ることにも成功した。
料理のレパートリーは増えていくが相変わらずアジを食べる事はできない。
とりあえず出来た料理は機械生命体にでも食べさせることにする。
「あれ?やり方はともかく意外と戦いに貢献してるのか?」
「司令官、騙されちゃダメです」
●月×日
どうやらアジの体液がアンドロイドや機械生命体に悪い影響を与えているらしいことが
分かった。ならばアジの干物なら食べれるのではないだろうか。
血を抜いて乾かしてしまえば体液の問題は解決するのではないだろうか。
そこらへんどう思います?
「これ私はどう返事してやるのが正解なんだと思う?」
「さあ?」
「急にドライになったなお前」
●月×日
早速干物を作って9Sに食べさせてみた。結論から書こう。失敗した。
血を抜いて乾かすのでは体液の除去は不完全だったのか、
アジの体液の成分がアジの身に染みこんでいたせいなのか。
上手くいかないものだ。
「アジの何が2Bをここまで突き動かすんだ・・・」
「2Bさんっはアジにゾッコンですねー」
●月×日
9Sが「アンドロイドも機械生命体もアジで死ぬんですよね。
アダムやイヴといったアンドロイドに見た目がそっくりな機械生命体もいますし、
案外、アンドロイドも機械生命体も同じ存在なのかもしれませんね」と言っていた。
私は「何をバカな」と9Sの言葉を笑い飛ばすことができなかった。
「・・・」
「司令官?どうかしました?」
「・・・いや、何でもない」
●月×日
もしかしたら、9Sは気付き始めているのかもしれない。
そのきっかけがアジだなんてくだらなすぎて笑えない話であるが。
だが、もし本当に9Sが真相に気付き始めているのなら、
私は―――
◇◇◇
その瞬間、司令官はデータを閉じる。
「し、司令官?どうし―――」
6Oの言葉は最後まで続かず、動力の切れたラジコンのようにばたりとその場に倒れる。
司令官が何かした訳ではない。
6Oを始めとして、司令部にいる他のアンドロイド達も次々と倒れる。
しばらくして全員が一斉に起き上がる。そんな彼女達を見て、司令官は目を見開いた。
彼女達の目は機械生命体のように光っていた。
「やあ、私達は機械生命体だよ?予想以上に展開が早まったからさ。バンカー、落とすね?」