2Bは最初、時間が巻き戻るきっかけとなる26のエンディングを探すところから始めた。その最初のきっかけは、最初の廃工場突入前にうっかり死んでしまったことにあった。気がつけば2Bはまた廃工場突入時に戻っており、自分の中には「エンディング取得数1」というデータと、「取得エンディング:w」というデータが存在していた。これもまた、世界の仕組みを知ったために起こったバグの1つなのだろう。
そこから、2Bはエンディングを探し続けた。物語のレールからひたすらに外れようとした。他の者が見たら頭がおかしいと思われるようなことだってやった。そうしてエンディングを探し続けて、2Bはウィルスに感染し、A2に刺されて死んだ。
その後、気がつくと2Bは廃工場に突入していた。自身の中にあったのは「エンディング取得数0」のデータ。物語の最後まで進んでから時間を巻き戻すと集めたエンディングの数がリセットされてしまうらしい。自分が死んでしまった後の物語はA2に託した武器に記録されたデータを見て理解した。自分の死んでしまった後ではエンディングを集めることはできない。一体どうすればいいのか。考えていても物語は待ってくれない。2Bは先に進むしかないのだ。
何度も繰り返している内に、不思議なことが起きた。ループした時、ポッドが前回の周回の記憶を覚えていたのだ。2Bと何度も行動を共にすることによって彼女の中のバグがウィルスのようにポッドに感染したのだろう。これはチャンスだと、2Bはポッドにエンディングの記録を頼んだ。そして2Bは自分が死んだ後のことを任せるため、何度もA2に託した自身の武器に、自分の人格データを作った。
2Bはこのバグが9SやA2にも感染することを願った。9Sには、共に行動することで。A2には、武器に込めた自身の記憶を渡すことで。バグを内包した彼らが、2Bの死後、残りのエンディングを集めてくれることを願った。それを願って何度も同じ物語を繰り返した。
何度も任務に逆らった。何度も自殺をした。何度も9Sを殺した。何度もパスカルの村を滅ぼした。何度もアダムを殺した。何度もイヴを殺した。何度も司令官を見捨てた。何度もA2に託した。
何度も何度も何度も何度も繰り返して、2Bは脆弱な世界のループ構造にヒビがはいるのをずっと待った。
◇◇◇
「そして私は、今ここで貴方達の前にいる」
2Bのデータはそう言うと、小さなカードのような見た目をした1つのデータを取り出した。
「これは、私が延々と続くループの中で作った『27番目のエンディング』。世界のループ構造にヒビが入ったことによって奇跡的作り出すことのできたデータ。このデータを使えばこれまでデータという形にして集めたエンディング全てを消し去ることができる。エンディングが消えるということはこの世界の物語というシステムは成り立たなくなり、世界のループ構造そのものが消えてなくなる」
【27番目のエンディング・・・一体どうやってそんな物を?】
本当にそんな物で世界のループを破壊できるのだろうか。そんな不安を抱えながらポッド153は尋ねる。
「大したことはやってないよ。ただ、この世界に向けた『言葉』をデータにしただけ」
〈言葉・・・?〉
「そう。言葉。エンディングっていうのはこの世界に対する命令みたいなもの。世界そのものを1つの機械に見立てて、それにエンディングという『言葉』を与えることで決まった動作を起こしているようなもの。だからその命令を全て消したうえで新たな命令で上書きしてしまおうってこと」
2Bのデータは説明しながらポッド達を見る。だが、ポッドの表情はやはり分からない。
「それじゃあ、エンディングのデータを私に渡して」
2Bのデータの言葉にポッド達は素直に従い、26のエンディングを渡す。
その瞬間、ポッド達は現実世界に弾き出された。
「2B・・・君は・・・」
「物語そのものを消しちゃう訳だから、この最後のループが終わればきっと皆全ての周回の記憶を失ってしまうだろうけど、出来る事なら9Sとか、A2とか、みんなのことをよろしくね」
武器の中から声が響く。
「・・・了解」
そう言ってポッドは去っていった。
「ありがとう・・・」
最後までポッドの役割を演じてくれて、これからやろうとしている事を止めないでくれてありがとう。誰もいなくなったその場所で、2Bは独り、そう呟いた。
◇◇◇
コトバはチカラ。そう誰かが言っていた。
2Bが作った27番目のエンディング、世界に向けた言葉には全てのエンディングを消し去り、成り立たなくなったループ構造を破壊する力がある。ポッド達にはそう説明したが、それは半分くらいは嘘だった。確かに27番目のエンディングには2Bのデータが説明した通りの「力」はある。だが、このエンディングに世界そのものを変えられるだけの「強さ」はない。
脆弱な世界に生まれた脆弱な登場人物が作った脆弱なエンディング。そんなモノに世界を変える「強さ」なんて宿らない。
ならばどうするか。遠い昔、どこかの誰かがやっていた。
自分の「存在」を代償に、奇跡を起こす方法。
「エンディングを、全て消し去る・・・!!」
2Bのデータは自身の中に26のエンディングを内包し、そう告げる。自分に言い聞かせるように。
27番目のエンディングは2Bの「存在」を代償に、その「力」を極限まで強化する。データから放たれた眩い光が2Bのデータを包みこむ。
光はデータ世界から現実世界へと広がっていき、武器から放たれた眩い光が世界を包みこんでいく。
そして、世界は真っ白に包まれた。
「これでいいんだよね?2B・・・でも」
白い光で何も見えないデータの中で、光に溶けるように消えていく2Bのデータは語り掛けるように言葉を紡ぐ。
「消えるのは――――」
2Bのデータが消えたその瞬間、世界は終わった。
◇◇◇
アンドロイドはもう、エンディングの夢なんか見ない。
世界に、私達に、無限に続く螺旋はもう必要ないのだから。
NieR:Automata
do androids dream of ending[?]
◇◇◇
それから。
「廃工場内部に突入した。これより、大型兵器の探索に移る」
廃工場に1人のアンドロイドがいた。
なんだか駆け足で進めた感がします。