仮面ライダー555 ~灰の徒花~   作:大滝小山

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前回のあらすじ

①啓太郎、髪は帰ってこないんだ……
②前川「神を侮辱するなど、言語道断……!」
③消される!ディ○○ーに消される!
④モブフェノク「シータァ、オンドゥルルラギッタノカ!?」

番外 じりじりと1200UAを突破。めでてぇ&ありがてぇ……


三分の二程度書き上げたのに、半分ほど消して書き直したなんて経験、ありませんか……?(難産でした、はい)

新キャラ登場で交差する思惑!
仮面ライダー555、 In a flash!(このあとすぐ!)


第4話 A

「お前、何もんだ?」

 

 シータは巧の質問に答えず、傍らにあったバイクに跨がり、エンジンを入れた。

 

「おい!」

 

 業を煮やした巧はファイズフォンを取り出し、

 

「やめて巧!」

 

 彼の意図を察した真理に止められた。

 ――巧の腰には、すでにファイズドライバーが装着されていた。

 

「変身しちゃダメ! 巧!」

 

 もう巧は充分に戦ってきた。彼は隠しているつもりだろうが、それは啓太郎にすら悟られるほどお粗末なものだった。

 巧が、真理や啓太郎に何か隠し事をしているらしいということは、イヤでもわかった。

 グローブで隠された両手から、血の気の失せた灰色の肌を覗かせる巧の身体は、すでに限界に近いことを真理に悟らせるには充分だった。

 

 そうして巧と真理がもめている間に、シータは何処かへ走り去ってしまった。

 

「――いったい、何が起こってるんだ?」

 

 巧の疑問は、宵闇の向こうへと溶けていった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

(さて、何やってんだろうな、朝っぱらから)

 

 大牙は息を潜めつつ、昨夜のことを思い返していた。

 

 巧はどうやら間に合ったらしく、改めて合流した後、数日ぶりに大牙は菊池へと帰ることができた。

 啓太郎からこっぴどくしかられ――坊主頭の彼を見て笑いをこらえるのに苦労しながら――ようやくそれが落ち着いた後、一泊することとなった真理にこう頼まれた。

 

 ――みんなが寝ている間に車に積まれたツールボックスをとってきてくれない?

 

(――これは、アレだよな)

 

 創才児童園で里奈が取りに行った物と酷似している。スマートブレインのロゴが刻印されたシンプルなデザインといい、無関係ではないだろう。

 洗濯物のハンガーに隠されたそれを取り出し、せっかくだからと中身を確認する。

 

「これって……」

 

 ベルト、だろうか。バックルに埋め込まれた、用途もわからない謎の機械と、大きめのデジタルカメラに、懐中電灯。ボックスに入れて持ち運ぶにはちぐはぐなツールだ。

 よく見ると、もう一つ何か収まりそうなスペースがあいている。

 

(どうして園田さんはこんなものを……?)

 

 疑問に思いながらワゴン車を降りて、しっかりと施錠する。必要なものだと思って請け負ったが、少し雲行きが怪しい。というより、どうして仲がいいという二人に内緒でこれを求めたのか――

 

「――何してんだ、お前」

「ひょうっ!」

 

 思わず変な声がでてしまった。巧の声だ。

 慌ててボックスを後ろ手に隠し、

 

「お、おはようございます。ちょっと車に忘れ物しちゃったのを、きゅ~に思い出しちゃって」

「何だよ、言ってくれれば開けてやったぞ?」

「い、いやぁ~、なんかこう、今までだいぶ心配かけちゃったし? こんな事で起こすのもどうかな~って」

「……もっとましな嘘のつき方無いのか」

 

 はったりはマジシャンの十八番だろうに。

 そんな巧の追求に口笛でごまかそうとする大牙。

 

「二人とも、どうしたの?」

「園田さん、頼まれたもの!」

「え、ちょっと……」

 

 渡りに船、とばかりにツールボックスを投げ渡す。真理はもちろん、巧も突然投げ込まれたファイズギアを認めると、驚き戸惑う。

 

 その隙に大牙は逃げるようにして菊池を後にしたのであった。

 

「ああ、焦ったマジで……」

 

 いつものシルクハットはなく、息も絶え絶えにしながら、どこかの橋にたどり着いたらしい。案の定、まったく土地勘のない場所にやってきたようだ。

 

「昨日もそれで怒られたばかりなんだぞ……俺」

 

 電話でもして迎えにきてもらおうかとも思ったが、さすがに爆弾を落としてきたばかりだという自覚はある。自分なら間違いなく怒る。

 

「「はあ……」」

 

 大牙のため息が、欄干(らんかん)にもたれ掛かっている老人のものと重なった。

 ふっと隣に目をやり、慌てて戻した。

 

(やばいやばいやばい、ヤッさんだあれぇ!)

 

 顔に向こう傷を付けた白髪混じりの老人だ。しかも、六十か七十といった年頃で、筋力の衰えを見せないいでたち。

 少なくとも、カタギには見えなかった。

 

(よし、落ち着こう。まずカメラ確認……)

 

 「死ぬのは俺が先だと思っていたが、なあ」

 

(ええっと、こう言うのなんだっけ? ハハッ、いくら探しても撮影クルー見つかんねぇや)

 

 一人パニックに陥り続ける大牙。

 

「――っ!?」

(うぉっと!?)

 

 突然老人の肩がはねたかと思うと、

 

 「うわあああああ!!」

「えっ、ちょっ!」

 

 叫声をあげながら腰を抜かしたように後ろからひっくり返った。

 

(待て待て、頭打ったら事だぞ!?)

 

 早かったのは、思考か、行動か。気づくと老人の後ろに回り込むようにして走り、身体を滑り込ませて受け止めた。

 

「――大丈夫かじいさん!?」

 

 目を白黒させる老人に、なんとか声をかけたのであった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

(これは……)

 

 オフィスで報告書をまとめていた前川は、想定外の内容に手を止めた。

 昨日指示した《要注意人物》の排除に失敗したというのは、まだいい。刺客としてはなったオルフェノクは、彼らの相手としては役不足の感は否めなかったからだ。ただ、撮影された映像を見ると、考えを改めねばならなかった。

 

「我々が把握していない、シータ」

 

 念のため、管理下にあるシータの稼働状況を確認したが、この時間にさかのぼってみても活動していた機体はなかった。そもそも、管理されたシータがスマートブレインに逆らうことなど絶対に有り得ない(・・・・・・・・)

 

(モニター機能を外した機体といえば……)

 

 限りなく低い確率だが、有り得ない事はない。それが事実だとすれば、問題は――

 

「スマートレディ」

『はーい❤』

 

 相変わらず、人を小馬鹿にしたような返事をする社長秘書にいくつかの伝言を頼む。

 

「……一刻も早く、管理外のシータ――“TG”タイプを確保する必要がある」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「――えっと、名前はハジメさん」

「ああ、お……ワシは山吹一(やまぶきはじめ)……漢数字のいちと書いてハジメと読むんじゃ」

「で、いわゆるマタギの人で、顔の傷は熊につけられたもの?」

 

 首肯する老人を見て、ようやく大牙は体の力を抜いた。

 

(怖い人じゃなくて良かったぁ……)

 

 話してみれば、娘夫婦と孫に会うために山を下りて東京にやってきたそうで、連絡が付かない娘たちに途方に暮れていた、というのがここまでのいきさつらしい。

 そうして水面をのぞいていると、自分の顔がかつてしとめ損ねた熊のものに見えたのだという。あまりのことで腰を抜かしてしまったそうだ。

 

「……年をとると言うのも、考え物だな……じゃな」

「無理しなくていいって」

 

 顔のせいで幼い孫に怖がられると語るハジメは、せめて外見とのギャップを埋めたいという。実際、ハジメの性格は「温厚で家族思い」といったところだ。

 

「でも、連絡がつかないのは心配ですよね」

「実は、一度だけメールがきたのじゃ。これを見て慌ててやってきたでな」

 

 従来型の携帯電話(ガラケー)を操作して、メールの文面を表示する。そこには『433322224444』という番号の羅列が映っていた。

 

「暗号かよ……」

「よくわからんよ。こんなことは初めてだ」

 

 しかし、どことなく不穏な雰囲気を感じるメールだった。慌てて打ち込んだような、そんな不自然さだ。

 

「――娘さんの家、行きましょう?」

「えっ、じゃけど……」

「突然押しかけたら迷惑とかじゃなくて、アレだ、サプライズだって思えばいいじゃん!」

 

 サプライズ、そうだ、サプライズだ! いい響きだと一人得心して、無理やりハジメを連れ出した。

 

「ところで、娘さんの家ってどこ?」

「……いつもなら、幸彦くんに迎えにきてもらってたんじゃが」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「――とにかく、巧はもう戦っちゃダメ!」

 

 真理はファイズフォンとツールボックスを掲げ、ヒステリックに叫んだ。

 

「おい、わかったからせめて携帯返せ! 啓太郎もなんか言ってくれよ!」

「僕に言われても……」

 

 結局、大牙にツールボックスを投げられた後、真理がボックスを回収した。さらに取り返そうとした隙をつかれ、ファイズフォンすらも真理の手に落ちた。

 

「大体、どうして今になってあんなのが出てくるんだよ? あれは、ファイズと似たようなもんだろ? え?」

 

 昨夜、真理の危機を救ったシータ。自分たちと同じようにスマートブレインに敵対する者なのか、それとも全く新しい勢力なのか。

 

「わかんない。わかんないよ。でも、もう巧が戦う必要はない」

「なんでだよ……何でそんなこと!」

「――次戦えば」

 

 啓太郎は長い間懸念していたことを口にした。

 

「次、たっくんが戦えば、たっくんが死んじゃうかも、しれないから」

「お前ら……」

 

 真理は涙を浮かべ、三人の中ではムードメーカーのような存在である啓太郎も、沈鬱な表情でうつむいていた。

 

「――巧? どこ行くの!?」

「配達だ、そろそろ時間だろ」

 

 携帯代わりのファイズフォンだけ回収して、巧は“家”を出た。

 

 

 そんなやりとりの結果か、無愛想に拍車がかかった巧の午前中の仕事は、早々に片づいてしまった。

 運転中、信号待ちの時、巧は物思いに耽る。

 

 もはや言うまでもなく、啓太郎や真理はオルフェノクである巧を受け入れてくれているかけがえのない友人だ。――いや、いっそ“家族”と言ってもいい。少なくとも巧はそう思っていた。

 そんな彼らに、オルフェノクの宿命について話したことはない。巧自身、目をそらしていたい気持ちがあったのも事実だ。

 まだ信号が変わりそうにないのを確認すると、巧はハンドルに置いた手を見つめる。

 

(露骨だった、かもな)

 

 こぼれ落ちる(身体)に蓋をするように、グローブで手のひらを隠すようになって、どれぐらいがたっただろう。

 

(せめて、あいつが俺の代わりになってくれればいいんだがな)

 

 真理の依頼を完遂して走り去った大牙の姿を思い浮かべる。

 ある意味、彼の存在は巧にとって救いであるかもしれない。手の掛かる男だが、それはそれで自分が居なくなった後の二人の心の傷を癒してくれるだろう。気を紛らしてくれるだけでも、立ち直るまでの時間は変わってくるものだ。

 

「っと」

 

 信号が変わり、巧は車をゆっくりと走らせた。

 目下の悩みは、このまま帰って二人に顔を見せるのが気まずい事だろうか。行きのハイペースが嘘のように、ゆったりと走っていく。

 

「ん、あれは……」

 

 橋の上にさしかかったとき、巧は見覚えのあるシルエットと、それについて行く老人を見つけた。

 巧は窓を開けて呼びかけた。

 

「おい、木村!」

「っと、わあっ!」

 

 大牙は頓狂な声を上げ、逃げ出した。当然、巧も追いかける。

 

 片や生身の人間、片や自動車。

 その結果について、あえて語る必要はないだろう。




今後の更新について、活動報告をあげています。

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