①創才児童園での出来事を真理に伝える啓太郎。まさかのオリ主不在が判明し、しばらく啓太郎の髪も不在となる。
②やっぱりスマートブレインの経営陣はまともじゃなかった。
③いわゆる毒親の描写のつもりが、気づいたらネットを悪用するデマ発信者になっていた。
④前川さん、アドリブで祈りを捧げるのやめてください。あなたのキャラが決定してしまいました。
……遊びすぎたかな? いや、でも前川副社長についてはマジでどうしてこうなったの……?
そんなわけで、今回も注目していただきたい第三話!
仮面ライダー555
「お待たせ、たっくん!」
巧は、げんなりしながら食卓についた。
その上にはここ数日ですっかり見飽きたメニューが並んでいる。
「これは……」
「わかめご飯、こんなのもあるんだって、ちょっとやってみたんだ」
明らかに比率がおかしく、真っ黒なご飯が茶碗に乗っかっていた。
更に巧の追求は止まらない。
「これは?」
「わかめのお味噌汁だよ?」
「味噌の色してねぇよ……こっちは?」
「ひじきの煮物だけど」
「他の具はどこ行ったんだ……そっちの、大きい奴は?」
「海草サラダ、どうしたのたっくん? 嫌いだった?」
「……いや」
あまりに彩りがない食卓に、巧はため息をついた。
「そんなに今の髪型が気に入らないなら、ちゃんと真理に言えよ」
「だから、これは真理ちゃんのせいじゃないって!」
今の啓太郎の髪は、俗に言う坊主頭な状態だ。
「ちょっと気分変えようかな、と思ってこの髪型にしたら、みんなそろいもそろって心配したじゃないか!」
店番をすれば、「失恋でもしたの?」と気の毒そうに声をかけられ、町を歩けばちらちらと注目される。確かに、啓太郎にとっては早く脱却したい状況かもしれない。
「前の、金髪に染めたときの方がましだったぞ」
「あのときだれも、なんにも言ってくれなかったじゃん……」
当時は下宿人全員がそれどころじゃなかったのだから、仕方がない。
ともあれ、巧も席に着くと、二人で朝食を食べ始める。暗黒物質と化したご飯を迷惑そうに睨みながら、巧は口の中へと押し込んでいく。
啓太郎が海草サラダを取り分けているのを見つめ、その皿が一つ多いことに気がついた。
「おい、一枚多いぞ」
「あ、これ? 大牙君の分」
もう一週間ほど帰っていない、もう一人の下宿人の名前が出され、巧は口をつぐんだ。
「――ほんと、どこ行ったんだろうね……」
「知らねぇよ、今までだって何とかしてたんだろ? 大丈夫だろ」
「だって、あんな別れ方になったし……」
あのときの大牙は、明らかに動揺していた。それも無理からぬことだが、だからこそ啓太郎は心配だった。
「もしかして、あの時のことがトラウマになって僕らのところに居たくなくなったとか、どこかで事故にあったとか……」
「落ち着けよ、電話鳴ってるぞ」
一人パニックのただ中にいる啓太郎を横目に、仕方なく巧が電話をとった。
「おう」
『――あれ、もしかして巧?』
「真理か、どうした?」
こんな朝っぱらから電話するなど、今までになかったことだ。巧が妙なこともあるものだと思っていると、真理は少し話しにくそうにして、
『ごめんね、啓太郎に渡してくれる?』
「何だよ、そんなに話しにくいことか、え?」
問いつめる際に語調が強くなるのは巧の悪い癖である。しかし、続く真理の言葉に巧は思わず立ち上がった。
「たっくん?」
「おい、あいつそこにいるのか? ちょっと変われよ!」
「たっくん? ねぇたっくんってば、どうしたの!」
『ごめん、また連絡する!』
「あ、おい!」
電話は切れてしまった。おそらく、しばらくは応答できないだろう。
「たっくん、もしかして……」
「ああ」
聞き間違いでなければ、そういうことだろう。
「
◇ ◇ ◇
――約一時間前。
出勤する会社員達もまばらな時間帯に、真理はとあるオフィスビルの前に立っていた。
(……早起きしすぎたな)
あくびをかみ殺し、眠気をとばすために頬をパチンと叩いた。痛い。
そもそも、真理がこんな場所にやってきたのは、先日受け取ったメールが原因だ。送り主は里奈だった。
「三原君が?」
『ええ、そうなの。ちょっと心配で……』
すぐ折り返し電話をした真理は挨拶もそこそこに、メールの内容の確認をした。
文面は、三原の様子がおかしい、というものだった。
『なんだか思い詰めた感じで、デルタの保管場所を聞いてきたの。いつでも使えるようにして欲しい、て』
それを聞いて思い出されるのは、かつて流星塾生の間で起きた、デルタギアの争奪戦だ。まさか、三原もその力に魅了されたのだろうか。
『それ、とも違うかな』
「違う?」
『うん、違う』
里奈が言うには、三原は「あいつらが来たときは俺が相手する」と、こちらが言葉に詰まるほど真剣な様子で語りかけたという。
「あいつら、ってオルフェノクのことよね?」
『そうだと思う。でも――』
里奈はそうは思わなかった。
また別の脅威が迫っているのだ、と彼女は思ったのだ。
「申し訳ございません。現在、社長は留守中で、お取り次ぎできません」
スマートブレインの受付に断られながら、真理はやはりか、と特に落胆することはなかった。
実際、蛇神大地なる人物はそもそも存在するのかも怪しい。メディアに露出することなく、名前もどこか嘘臭い。真理は、何らかの目的ででっち上げられた架空の人物ではとにらんでいた。
(もしそうだとすると、きっと“新しいライダー”が何か関係しているはず)
結局、この新しいライダーが何者かがわからない限り、――味方であるか、わからない限り、動きようがないのだ。
もし、三本のベルトのように、オルフェノクの王の護衛のため、反乱者を粛清するため造られたものだとすれば。
――真っ先に狙われるのは、巧だ。
新たなベルト、ライダーズギアが造られたとしても、最初に造られたデルタ、ファイズの価値がなくなったわけではないはずだ。人類の対抗手段となるこれらのベルトをいつまでも放置しているはずがない。
(……大丈夫、巧は私が、私たちが守る)
真理は自分の心に言い聞かせる。
彼女は、自分が人質としての価値が存在する事に気がついていない。
乾巧との関係性が知られている以上、彼女の身柄と引き換えにファイズギアを要求する事だって可能だ。思い立ったら即行動に移す点は、彼女の長所にも短所にもなる。
幸い、受付の女性は、真理がスマートブレインにとってどれだけ渇望される人間なのかに気づいた様子はない。幸運なことであった。
「それじゃ、副社長を代わりにだして。どうしてもすぐに伺いたいことがあるんです」
「そう言われましても……」
――だめか。
そう真理が諦めたときだった。
「ちょ、ちょちょ、待って待って、落ち着こうぜ? とにかく離せ、
その騒ぎ声の主は、よく聞けば余裕が有るように思えた。いや、こんなタイミングでボケをかますのは、間違いなく余裕が有るに違いない。
真理の注目は、騒ぎ声の主に移った。
彼は妙な出で立ちだった。シルクハットにジャケット、それはまさに手品師といった姿だ。
彼の商売道具なのだろう。大きなスーツケースを手にし、警備員らしき男達に連れられていく青年。
(マジシャン……?)
見たところ、年齢的にも自分と同じか下ぐらいだろう。ここまで特徴が揃っていると、嫌でも想像してしまう。
「あの――」
「あ、良かった助けて! 投獄される!!」
「いや、そこまではしない」
警備員の一人が反論した。
真理は、聞いていた特徴とかなり一致していることに感心しながら、確認するように訪ねた。
「もしかして、あなたが木村君?」
「え、何で俺の名前……?」
「――――木村大牙君、ね」
ドンピシャだった。
◇ ◇ ◇
「ごめん、また連絡する!」
『あ、おい!』
巧には悪いが、早々に電話を切った。
隣に座るのは、木村大牙。行方不明になっていた西洋洗濯舗「菊池」の新たな下宿人だ。
そしてたった今、対面に座った男は――
「まさか、あなたがいらっしゃるとは、思いもよりませんでした」
差し出された名刺には、『SMART BRAIN 副社長 前川裕也』と記されていた。
この男が、新たなスマートブレインのナンバー2。新たなライダーが、スマートブレインの開発だとすれば、その事情にもっとも詳しい人物だ。
「――まずは、そこのあなた。木村君と言いましたね?」
「んお?」
件の大牙は、なにやらタブレット菓子を食べていた。
「ちょっと、木村君」
「仕方ないじゃん。朝から何も食ってないんだし」
「……いえ、これは我々の配慮不足ですね。君」
前川は部屋の外にいる社員を呼びつけると、食事の用意をするようにと命じた。
「しかし、あのような場所で寝泊まりしては、我が社の社員のみならず、多くの方のご迷惑となります。今後はきちんとご自宅に帰って体を休めることをおすすめしますよ」
「いや、帰れたらそもそも公園で寝泊まりしてないし」
「あなた、どこで何してるのよ……」
これは、疲れる。真理はあの二人に心底同情した。
ほどなくして、高級レストランもかくや、というぐらいの、立派な朝食がテーブルに並んだ。どうやら、かつてこの場所に案内されたときに食したものとほとんどグレードは変わっていないらしい。
「食べていいの?」
「いや、待って大牙君。まず謝らないと」
「かまいませんよ。冷めないうちにどうぞ」
「いただきっ!」
「ます」をつけなさい、としかるまもなく大牙は料理に口を付け始めた。真理もただただ呆れるだけである。
(手の掛かる弟、というか……)
「あっち! あつつ……」
「ちょっと、もう…… 大丈夫?」
慌ててスープを飲んだ大牙が熱さにうめいた。
「本当にすみません」
「いえいえ、悪意はなかったようですし、何より――」
前川は大牙のズボンのポケットに収まっている彼のスマホに目をやった。
「我が社の製品をご愛顧いただいているようですしね。そんな青年が、初代社長令嬢と共に現れた。是非とも、お話を伺いたい、と思いましてね」
まだ熱いらしく、「フッフゥーフフゥー、フッフゥー」と妙な韻を踏みながらスープに息を吹きかける大牙。
「……単なる偶然ですよ」
「それでもです」
「はぁ……」
「
「――ほう」
食事を頬張りながらの大牙の言葉は不明瞭ではあったが、前川はその意味を理解できたらしい。
「聞きたいこと、ですか」
「はい」
――ここからが正念場だ。
「単刀直入に聞きます。――新しいライダーはなんのために開発したのですか?」
「む? 何のことでしょう?」
「とぼけないで!」
真理は立ち上がって彼に詰め寄った。その拍子にテーブルの食器がガチャガチャと音を立てる。
「また何か企んでいるでしょ? またオルフェノクの王を復活させるとか」
「落ち着いてください。そもそも、オルフェノクとは何ですか」
「な……」
真理は一瞬言葉を失った。
この男は、本気で言っているのだろうか。スマートブレインなら知らないはずはないのに。
「しらばっくれるつもり!? あなたたちが集めている怪物よ? ううん、あなたたちがオルフェノクを集めて、人を襲うように仕向けてきたじゃない!」
「――なに?」
前川はやおら立ち上がった。
真理の視点からは彼の目を窺うことは出来なかったが、前川の目は狂気を宿し、異教徒を狩る狂信者そのものである。
だが、前川は何も言うことは出来なかった。
真理の隣から、皿が割れる音が響いた。
「――か、怪物……? あれが、オルフェノク?」
「木村君? どうしたの、大丈夫!?」
大牙は、その身を震わせ、肩を抱き寄せるようにしていた。
その様子から、真理は自分の過ちに気づいた。
創才児童園での出来事は、彼の心に大きな傷を負わせていたのだ。
「あいつらが、みんなを……!」
「木村君、しっかりして! 大丈夫、私がついてるから!」
必死に励ます真理。そのかいあって、大牙の震えは徐々に治まっていく。
その様子を、前川は冷ややかに見つめる。
侮蔑が籠もったその視線に、二人が気づくことはなかった。
なろうのオリジナル作品もゆるりと更新再開しております。
よろしければ、下のアドレスから見ていただければ幸いです。(ダイマ)
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文字だけじゃ伝わらない小ネタ
「フッフゥーフフゥー、フッフゥー」
「プ・ト・ティラーノ、ザウルスー!」