仮面ライダー555 ~灰の徒花~   作:大滝小山

5 / 21
仮面ライダー555 YouTube公式配信
第39話、第40話、本日配信!ついに最強フォームの登場です!(それが言いたいがための昼休み更新)

実は難産だった今話。
ストレスが溜まる人が居ますが、これもファイズならではかな、と思います。
一応、苦手な方は注意してください。


第2話 B

 創才児童園では、未曽有の混乱が起きていた。

 

「――おい、子供を親元へ帰らせろ! こんな場所に居ると殺されるだろうが!」

 

 亡くなった職員の葬儀や、引き継ぎといった雑務もままならず、押しかけてくる保護者達の対応に追われていた。

 

「お、落ち着いてください……」

「どうしてこれで落ち着けというのよ!? 私たちは子供のためを思って来ているのよ!」

「す、すみません……」

 

 その応対に三原がかり出されるのは、半ば必然であった。なにせ、ほかの職員は何があったか聞いていないのだ。子供達は恐慌を起こして話すことはめちゃくちゃで、信憑性は低い。三原と里奈は「追い返した」の一点張りで、不審者の実態は謎のままだ。

 となると、実際に不審者と戦ったという三原が適任には違いなく、子供達の意見も、三原が戦ったという一点だけは共通していたことから、彼にこの一件の説明を任せたのだ。

 

「謝れば済むと思ってんのか!」

「い、いえ、そんなことは……」

「ハッキリしなさいっ、私たちは納得する説明を求めてるの!」

 

 ……問題は、三原の性格が根本的に十年前と変わらない、という一点かもしれない。

 

(どうして僕がこんな目に……)

 

 彼も必死になって戦ったのだ。

 自分たちの居場所を守るために、ひいては、人類を守るために。

 

 ――戦え三原!

 ――俺たちに居場所はない。居場所を見つけるために俺たちは戦わなければいけないんだ!

 ――戦え三原! 戦え!

 

 草加は、三原に戦えと言った。

 三原は途中、紆余曲折はあったものの、戦う決意を固め、身を投じた。

 だが、この十年をそうして過ごすうちに、彼の心はゆっくりと、真綿で締め付けるかのように、そして確実に弱っていた。

 アークオルフェノクを討って以来、人知れずオルフェノクたちと戦う三原達は、どうあっても普通の人間が過ごす日常とは別の非日常に身をおいているのだ。

 

「あの、ぼ……私たちも、突然の事態でして、対応はしましたが、なにぶん、その……」

 

 とはいえ、そんな事実を彼らが知るはずもなく。

 勢いづく保護者の言論は止まらない。

 

「聞けば子供達は『化け物が出た』とか言っているようですけど、どういうこと? 何か隠しているのでは」

「そうよ、意味が分かりません! あの日何があったのか、今日こそはっきりしてもらいます」

 

 実際に化け物と呼べる存在が襲ってきたのだ、と正直に話しても、彼らは納得しないだろう。

 オルフェノクを一度でも見ない限り、到底信じられるものではない。

 

「――集団幻覚、ってやつか? 化け物も不審者も、本当は居なかったんだろう?」

 

 やがて訳知り顔に保護者のひとりがそう語った。

 

「ここに何か、良くないものがあって、それで子供たちが何がしか幻覚でも見たんじゃないか? その事実を隠蔽するために不審者が来たことにしてるんじゃね?」

 

 三原は唖然とした。この男は、とうとう自分の納得するような筋書きをでっち上げたのだ。

 そして恐ろしいことに、その筋書きは一定の信憑性があった。

 

「どういうこと……?」

「俺は薬じゃないかと思うがね。職員でも何でもいいけど、麻薬やらなんやらやってて、子供がまねしたとかな」

「――っ!」

 

 それは、児童園に勤める人々を見下すような、最低な発言だった。

 痛くもない腹を探られている、はずだ。それでも三原の心に刺さるのは、この場所に、確かに危険なモノが存在するからだ。

 

「イヤだねぇ、こんな管理の悪い施設だから“化け物”なんてものが襲ってくる」

「そうよ、子供達が危ないわ。あんたたち……」

「――せ」

 

 三原は、限界だった。

 自分に何を言われてもいい。だが、他の職員や児童園を貶める言葉を見過ごすわけには行かない。

 

「取り消せ! このっ……!」

 

 うまい言葉が思いつかない。自分自身にとっての児童園がどんな場所なのか、言葉では言い表せない。

 

「……ここでうちの職員が犠牲になってしまったことは事実です。そんな言いがかりはやめてください」

 

 結局、騒ぎを聞きつけた里奈が言葉を継いだ。

 なおも口々に文句を言ったり反論する保護者達だったが、里奈が冷静で言いくるめることは難しそうだと判断すると、悪態をつきながら児童園をあとにした。

 

「大丈夫?」

「う、うん。ごめん」

 

 気遣わしげに三原を見る里奈に、申し訳なさがたつ。

 

「僕は、やっぱりダメだな……」

「そんなことないよ、三原君はしっかりやってるって」

 

 里奈が慰めるが、事実として、三原が何も反論できなかったことは間違いない。

 

「…………」

「あら?」

 

 里奈は、人の気配に気づいて振り返った。

 半開きになったドアから少年が顔をのぞかせていた。

 

「蒼太くん、どうしたの?」

 

 少年――蒼太は、怯えたように身を震わせていた。

 

「あいつら、もうこない……?」

 

 彼は虐待されていたところを保護された少年だった。

 彼の保護者――父親もあの中に居た。彼に言わせれば、ここは自分の子供を奪ったかたきだ。今回の件で取り返すつもりなのだろう。

 もっとも、抗議に来た保護者のほとんどは元々子供を預けることを良しとしない人々だ。その多くは、家庭として機能していない。

 

「大丈夫よ。何があっても私たちは味方だから」

 

 里奈は蒼太を抱きしめ、優しく語りかけた。

 

「蒼太くんが嫌がる以上、俺たちはあの人たちから君を守る。約束するから」

 

 三原もまた、そう言って笑いかけた。この場所こそが、三原にとっての居場所で、やっと見つけた平穏なのだ。

 

 

 

 ――三原の手に紫電が散ったことに、まだだれも気づかない。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ――カシャッ!

 

「よし、これで……」

 

 男は、児童園を撮影し、自分のSNSで注意喚起として投稿しようとしていた。

 ある程度のフォロワーが居れば、その情報は瞬く間に拡散する。フォロワーの数人が顔見知りなら、なおさらだ。

 

(どんな文章にするかが問題だな……)

 

 なるべくセンセーショナルで、オーバーなぐらいが、人の目に留まって広がりやすいことを、彼は経験上理解していた。

 

 この男は、納得できないことがあればすぐに他人にグチを言うようにしていた。それは周りに広まって、いつしか彼が正義であるように扱われたからだった。その心地よい環境に彼は酔いしれた。

 それはグチの場所がSNSに移ったことでさらに加速した。名前も出自も知らない赤の他人が、ある程度拡散しているから「真実である」と根拠もなく確信して、義憤に駆られてまた拡散する。

 

 ――俺は、英雄になれる――

 

 それは大きな誤り、錯覚である。

 だが、男にとってはそれが真実であり、もはやその自己顕示欲は誰にも止められない。

 

 ――――うわあああっ!

 

(!?)

 

 だが、さすがの男も、聞き覚えのある悲鳴に思わず顔を上げる。先に帰ったはずの他の保護者達の悲鳴だ。

 

 スマホのカメラを起動したまま、彼はかけだした。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 同じ頃、悲鳴を聞きつけた三原は、居てもたっても居られず、児童園を飛び出した。もちろん、デルタギアをいつでも起動できるよう、ベルト一式を装着した状態だ。

 基本的に、オルフェノクの襲撃に法則性のようなものはない。だが、つい先日襲撃されたばかりで、何の備えもないまま立ち向かうなどという愚は犯さない。

 

「――あ、あんた、は……?」

 

 襲われていたのは、やはりというべきか、児童園に詰めかけた保護者達だった。すでに何人かは灰化しているようだ。その様子を見た三原は、迷いを捨てた。

 

「……俺が、戦う!」

 

 これ以上、俺たちの場所を失わないために――!

 

 決意と共にデルタフォンを握りしめた三原は、

 

「――――」

 

 突然の闖入者によって、その出鼻を挫かれる事になる。

 

「――――――――」

 

 無言のままの三点バースト、そのまま流れるような連撃。

 どこからか現れた見知らぬライダーは、()()()()()()()()銃剣一体型の武器で無駄なく、そして容赦なくオルフェノクを倒していた。

 

 ――オルフェノクが灰と消えるまで、あまり時間はかからなかった。

 

 緑色の光を走らせるフォトンストリームには、白の縁取りがなされ、胸部や腕、背中などに『θ』の意匠が施されている。

 その緑色のライダーがこちらを振り返る。アークオルフェノクの姿に酷似していた三本のベルトのライダーと比べると、面長となり、バイザー部分に『θ』の下半分を当てたデザインは、根本的な設計思想から異なる事を、端的に示しているのかもしれない。

 

「た、助かった……?」

 

 スマホを握る男が、恐る恐るといった様子で立ち上がり、そのライダー――『シータ』と呼ぶべきだろうか――に歩み寄る。

 

「た、助かった。助かったんだな! まさか本当に怪物がいたなんて、いや、でも、そうか、あんたがあの無能の尻拭いをしてくれたのか! 追い払うだけじゃまた襲うもんな!」

 

 男は三原に振り返る。

 

「ほ、ほら! あんな所に子供達を置いちゃいけないんだ! あんたは責任を持って親元へ帰らせろ! 子供は親の宝なんだよ! だから……」

 

 まくし立てる男の言葉は、胸を貫く衝撃で中断された。

 

「……は?」

 

 呆けた声は、三原と男、どちらのものだっただろうか。

 男はぽっかりと空いた胸を見下ろし、ちろちろと傷口を嘗める青い炎を最後に意識を断った。

 

(…………あ)

 

 三原が見たものは、シータがその右腕に装着した銃が光弾を放ち、次々と周囲の人々を殺害する、地獄のような光景だった。

 住宅街に悲鳴が響きわたり、逃げようとする人を刺し、撃ち、つかみ上げて放り投げる。そのたびに人が死んだ。

 罪のない人が死んだ。今朝挨拶したばかりの人が死んだ。さっきまで口論していた相手が死んだ。

 

「なにを……」

 

 デルタフォンを持つ手が震える。

 なんだこれは。なぜ殺されなければならない。

 

 かつて、様々なすれ違いと思惑によって、巧は木場に『ファイズの力を楽しんでいる』と誤解されたことがある。

 この光景を見て、三原はそれに近い結論を出した。

 

「――何を、しているんだあっ!!」

 

 それは、純粋な怒り。

 そして、野放しにしてはならないという、三原にしては珍しい、強い敵意の叫びだった。

 

「変身!」

 

 ――Standing-by

 

 その怒りは、

 

 ――Complete

 

 悪魔の付け入る隙となる。

 

「あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ っ!!!!」

 

 デルタの攻撃をかわし、武器と一体となっている籠手型の装甲で防ぐシータ。だが、デルタの苛烈な攻撃は終わらない。

 武器らしいものは互いに一つしかない。だが、シータの武装は、デルタのそれと比べると明らかに取り回しが悪かった。徒手空拳で懐に入られると、たちまちシータは防戦一方となる。

 カタール型の刀剣を振り回し、デルタを引き剥がしても、即座に距離を詰められ、反撃に移れない。

 

 一方で、デルタ――三原も、どれだけ殴られても怯む様子を見せないシータに、不気味さを感じていた。

 

「この……っ!」

 

 湧き上がる闘争心に身を委ね、ただひた押しに殴りかかる三原だが、ついに一撃をもらい、たたらを踏む。

 その隙を逃す相手ではなかった。シータはトリガーを引き、光弾で強引に距離をあける。

 

「Fire!」

 

 ――Burst Mode

 

 戦闘は銃撃戦へと切り替わった。光弾を連射するシータに、三原もデルタムーバー・ブラスターモードで応じる。

 こうなると、相手の異常性はより顕著に現れる。光弾が当たってのけぞる三原と、即座に銃撃を再開するシータ。単純な手数の差が、そのまま消耗度の差となる。まるで死をおそれていないシータの攻撃が、徐々に三原の心を押しつぶす。

 

(――ダメだっ、このままだと……)

 

 三原の心に悲観的な思いがよぎる、そのとき。

 

「…………!」

 

 突然シータが動きを止めた。

 油が切れた機械のような、ぎこちない動きで、かんしゃくでも起こしたかのようにめちゃくちゃな動きで、暴れ出した。

 

(――?)

 

 当然、三原は訳が分からない。

 前後の行動になんら繋がりが無く、突然腕を振り回したかと思えば、こちらに向けて砲撃し、突然苦しむようにうずくまり……

 その様子はまさに狂乱というべき有り様だった。

 

「……っ!」

 

 ――Ready

 

 三原にとって、絶好の機会。

 訳が分からないまま、しかし、罪のない人々を虐殺した事実を思えば、ここですべて終わらせるしかない。

 

「Check」

 

 ――Exceed Charge

 

 三角錐状のポインターマーカーがシータを捉える。狂乱する戦士に、悪魔の鉄槌を下すために。

 

 

 

 

 三原は変身を解除し、辺りを見回した。

 背後の赤い残り火が、戦いの勝者を讃える。

 だが、三原にとっては、それが何も守れない自分を揶揄するかのように見えた。

 狂乱する戦士の様子が、彼にとっては哀れに見えた。あまつさえ、そこに自分の末路を暗示するようなものを感じたのだ。

 

 炎が、立ち尽くす三原を嗤うように、パチリとはじけた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

『……それで、わざわざ報告に来たわけか』

「…………はい、申し訳ありません」

 

 前川は、やはり蛇神の怒りを恐れながら、それでも緊急事態を伝えた。

 

『勘違いしないでくれ。僕は、滞りなくとは言ったが、イレギュラーで遅れた分には理解を示すつもりだ。

 無論、対処できるに越したことはないけどね』

 

 ああ、わかっている。

 自分を拾った社長が、そんなに狭量であるはずがないと、よくわかっている。

 

「それでも、こんなにも早く破壊されるなど、有ってはならない事態でした。申し訳ありません」

『……僕が怒りを見せるとすると、それこそ今の君のような人間に対してだ』

「……っ!」

 

『意味もなく謝るな。人はどうも、過ぎたことに拘りすぎる。謝る暇があるなら、再発防止の為に頭を働かせろ』

 

「……………………」

『――この僕が直々に経営手腕を教えたんだ、もちろん、覚えているな?』

「はいっ」

『ならいい、次の案は有るんだろう?』

 

 前川は、より尊敬の念を深め、無意識に祈るように手を組み――慌てて手を戻す。

 咳払いを一つ、それで気持ちを切り換えた前川は、スマホを取り出して操作する。

 

「実のところ、()()()()()()()。ただ計画を次の段階に進めるのが()()()可能性ができてしまったのかもしれません」

『なるほど、懸念はそこか』

 

 前川の手が止まり、あるファイルにアクセスする。それは、スマホの指紋認証と十六桁のナンバーの二重にロックが掛けられた、極秘ファイルだ。

 そのタイトルは【Commander 444】。

 

「すなわち、第二フェイズ。――シータの量産計画の始動を承認いただければ、と」

 

 王の親衛隊は、ふたたび組織されようとしていた。




Open your eyes for the next riders!

「あなたが、木村君?」
「だってだれも迎えに来ないんだもん」
「私が副社長の前川と申します」
「あの人、何というか--」
「木村君、逃げて! 早く!」

「お前は--」


◇ ◇ ◇


というわけで、変則的な更新となりましたが、どうしても言っておきたくてあんな形となりました。

さて、これでまず一つ目の伏線の回収と相成りました。

次世代のライダー達に刮目せよ!

複数形なのがポイントなのです。
ところでこの作品、主人公どこ……? 誰……?

5/19 タグ追加(量産ライダー)
   また、あらすじを変更しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。