仮面ライダー555 ~灰の徒花~   作:大滝小山

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児童養護施設と幼稚園は別物(プチ修正案件)

というか、結構文字数嵩んだ……
戦闘描写は難しいな、主人公血みどろにするのは得意なつもりだったんだが(オイ)

というわけで、変身と戦いです。


第1話 B

 下宿人に大牙を加えて3日――

 敬太郎は、頭を抱えていた。

 

「ちょっと! 早くしなさいよ!」

「あいあい、もう一手だけ動かして……あ、回復足りない」

 

 大牙のスマホから残念なBGMが流れる。それを境に、一度スマホを置いて、

 

「そんで、そいつを受け取ればいいっすか?」

「『いいっすか?』じゃないわよ! こんな不真面目な店、こっちからお断りよ!」

「す、すみません! ちょっと待ってください! ほら、大牙君も謝って!?」

「ありがとうございましたー」

「ちょっとぉ!」

 

 ……こんな調子で、彼はあまりにも態度が悪かった。十年前の巧よりヒドい。

 

「困るよ、もう~ もっと真面目にしてもらわないと」

 

 なんとか帰ろうとした奥さんを捕まえて、配達サービスの無料化でなんとか手を打ってもらった。

 

 ――これで五回目である。

 

 ごめんたっくん、と心の中で謝る。

 

「……だって、働くなら手品師として生きたいからさ」

「それだって下積み時代とかあるでしょ……」

 

 世間を舐めているとしか思えない発言だった。

 接客に限らず、アイロンがけや配達の準備など、どれをやらせてもギリギリまで遊んでいる。

 ギリギリまで遊んで、――手早く終わらせるのである。

 

 それこそ手品かと思うほどの早業で、むしろその早さをいつも発揮してほしいぐらいだ。なのにギリギリまで遊んでいるために人並みの効率しかでない。

 経営者としては、あまりに見逃せない事態だった。

 

「あんまり怒らせんじゃねぇぞ、倒れちまう」

 

 配達から帰った巧が敬太郎への気遣いをみせる。この状況が続くのは流石にまずいと巧も感じていた。

 

「そうだ、これ。 三原のとこから」

 

 巧が運んできたのは、『創才児童園』の職員の制服や、子供たちの衣服だ。

 

 ――三原修二に、阿部里奈(あべりな)

 二人とも、真理と同じ流星塾で育てられた家族であり、――十年前の戦いを、巧たちとともに駆け抜けた戦友だ。

 スマートブレインの管理から抜けてフリーランスとなった創才児童園の経営は、決して順調とはいえないものの、地域の協力――そして『菊池』でも定期的に衣装のクリーニングを請け負うことで応援するなどで、何とか運営してきていた。

 

「要するに、幼稚園と協力してるってこと?」

「ああ、そうなるな」

 

 幼稚園と養護施設では大分意味合いの違う施設なのだが、巧は特に訂正しなかった。あるいは、彼自身もそれらの施設の差異には興味がないのかもしれない。

 

「いっぱい子供たちがいるんだよね?」

「? ああ」

「俺、行ってみたい。子供って、手品を見せたときの食いつきがすげーんだよ!」

 

 珍しく――といってもまだ短いつきあいだが――大牙は、やる気に満ちた様子で手を挙げた。あと、かなり危ない発言だった。

 これに渋い顔を見せるのは巧だ。

 

「そういうことは、せめてここでの仕事をきちんとしてからにしろよ」

「いや、でもいい考えかも!」

 

 やはりというか、敬太郎が食いついた。

 たまに配達に来たときにいくらか会話をする程度であった巧と違い、敬太郎は頻繁に電話をかけ、近況を報告しあっていた。その中で、一度ぐらい外から誰かを招いてレクリエーションがしたい、と三原がこぼしていたことを敬太郎は覚えていた。

 

「俺、早速二人に連絡してみる!」

 

 敬太郎は善は急げと電話をかけた。

 慌ただしく物事が決まっていく様子を大牙は相変わらず何かゲームをしながら見守り、特に気負った様子はなかった。

 

「……」

「……うん?」

 

 巧は何となく彼の様子を見ていた。どうにも捉えどころのない奴だと。

 

 

 ――大牙が操るスマホの上端に、スマートブレインのロゴが描かれていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 レクリエーションの開催――『お楽しみ会』と名付けられた――は、すんなりと決定した。この催しに一番乗り気だったのは、言うまでもなく三原だ。

 

「三原くん、すごく喜んでたよ。 成功すれば、もっと子供たちの笑顔が見れる、って」

 

 十年前は、敬太郎と三原達の間に接点はほとんどなかった。二人の行く末を心配する真理の意をくんだ巧が連絡をとり、そのときの話の流れで敬太郎は二人と知り合ったのだ。

 その後、電話口とはいえ、頻繁に会話を交わすまでの仲になったことまでは巧も把握していなかったらしい。今朝、出発する前に彼の様子を見ると、大牙にもわかるぐらいに不機嫌そうな様子だった。そんな巧は今、店番をしている。

 

(完全に蚊帳の外だよな……)

 

 一応、心の中で謝っておく。もちろん、何かが変わるということはないが。

 

 打ち合わせのため、創才児童園に向かう大牙と敬太郎。大牙のダメっぷりはかなり理解できたが、まだ足りなかったらしいと敬太郎は思い知った。

 打ち合わせにいくため、創才児童園の位置を教えて一人で行かせようとしたところ、返ってきたのは方向音痴でたどり着けないという、情けない声だった。

 

「いや、スマホがあるんだから、それ見ながらなら迷わないんじゃない?」

「聞いて驚け、遊園地行こうとして雷門にたどり着いたぐらいだ」

 

 ドヤ顔でのたまった。しかも彼が言う遊園地とは、東京ではなく千葉県にある大型テーマパークのことだ。それを教えれば「東京って書いてんじゃん!」ともっともな文句をたれていた。

 

 そんなわけで、彼の外出には必ず付き添いが必要なことが判明した。ホームレスになったのも、ただ単に帰れなくなっただけではないだろうか。そんな疑問も抱きつつ、二人は児童園にたどり着いた。

 

 児童養護施設とは、かつて孤児院と呼ばれていた施設のことで、現在では虐待を受けるなどして親元で暮らせなくなった子供たちが暮らしていることで知られている。

 ただ創才児童園では、スマートブレイン運営時の性質上、他の児童養護施設に比べると両親を失った孤児の比率は大きい。たまに三原や里奈が孤児たちを何処かから引き取っていることもあり、なかなかその比率は小さくならなかった。

 

「仕方ないことだけど、暗い顔の子供が多いんだ。打ち解けられるように、俺たちも頑張ってはいるんだけど……」

 

 敬太郎達を迎えた三原は、応接室で世間話に花を咲かせていた。本来なら、大牙に支払う報酬などについて話し合うはずが、

 

「あ、それならタダでいいよ。財政難でしょ?」

 

 本人の一言でそれは脇におかれることになった。

 

「え、でもいいの?」

「ストリートマジシャンなんて、本来出来高制なんだよ。俺の手品を見て、そこにいくらの価値をつけるかは、観客が決めることだ」

 

 大牙はそういって、スマホをいじりだした。

 彼の言い分では、価値を決めるのは子供達だということになる。

 

「たけどそもそも、報酬ってのは一種類じゃないだろ? 手品を見て、パフォーマンスを見て、それに感激して手をたたくというのも、立派な報酬なんだぜ?」

「それ、いいなあ。俺も、真っ白な洗濯物を受け取って、ありがとう、って言われると気分が上向いて……」

 

 現実問題、それで生活が成り立つかはともかく。

 たが、大牙の意見は、限りなく敬太郎の理想に近かったのは間違いない。二人して自分の世界に入ろうとするのを、三原は苦笑して現実に戻した。

 

「それで、実行は……」

「三原君!」

 

 血相を変えて駆け込んできたのは、里奈だった。

 目を白黒させる敬太郎と大牙、ただ一人、三原は顔をこわばらせる。

 里奈は一瞬言葉を詰まらせ、慎重に言葉を選んだ。

 

「――園に、不審者が来てる」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 男は創才児童園と書かれた施設にやってくると、堂々と中へ入っていった。あまりに堂々と立ち入ってくるので、職員の対応が一瞬遅れる。

 

「あの、許可証はお持ちで?」

 

 それでも一人の職員が素性を確かめるために口を開いた。直後、その口からは、別のものを受け入れることになる。

 

 

 敬太郎達が慌てて入り口にやってくると、すでに何人かの職員が灰と化した後だった。彼らの存在を示すのは、灰にまみれた制服だけだ。

 

「おい…… なんだよ、お前……」

 

 大牙が声を震わせてソレを見る。

 灰色の怪物――オルフェノク。大牙はソレを、信じられないという面持ちで見つめていた。

 

 今更ながら、敬太郎達は大牙を連れてきたこと――それどころではなかったとはいえ――を後悔した。

 

「――木村君、早く逃げて!」

「裏口まで案内するから!」

 

 敬太郎が大牙に逃げるよう促し、里奈が逃げ道を案内する。

 彼らを追いかけようとするオルフェノクを、三原が咄嗟に刺又で牽制する。逃れようとするオルフェノクだが、壁に押さえつけられ、なかなか抜け出せない。

 しかし、このままでは持たないだろう。怪人の姿を曝したオルフェノクの膂力は超戦士――ライダーズギアに匹敵、或いは上回ることがある。

 それがわかっているから、敬太郎の行動は早かった。携帯を取り出して、すぐに登録してある番号にかける。

 

 

 ――♪♪

 

「はい?」

 

 かかってきた電話は、巧が応対に出ようとすると切れてしまった。

 

(――何なんだ? あいつ)

 

 朝から店番を押しつけられ、昼を過ぎても帰ってこない。洗濯自体は敬太郎の仕事なので、一切客のこない日というのは、巧にとって半日もの間を無駄に過ごしたような気がしていた。

 

「――ったく」

 

 巧は手にした携帯電話を少し乱暴にテーブルに叩きつけた。

 携帯の特徴的なカードキーが、鈍いきらめきを返していた。

 

 

(――ダメだっ)

 

 敬太郎は携帯を握りしめ、画面の『たっくん』の文字を見つめていた。

 彼は、呼べばやってくるだろう。あの頃のように、いや、あの頃以上に強い意志を持って。

 そしてファイズに変身し、人を襲うオルフェノクを倒すのだ。

 

 ――その後は?

 

 ベルトの力は、オルフェノクに対して非常に有効だ。――その影響は、巧の体にも現れる。諸刃の剣なのだ。

 十年前の戦いでも、何度も彼は変身した。その体はもう、限界に近い。それでも十年、彼は生きてきた。その危うい均衡は、たった一度の変身で崩れるかもしれない。

 

 見たくなかった。電話をかけて助けを求めようとしたとき、変身を解除した巧が、――灰になって崩れ落ちる姿を、幻視したのだ。

 

 一方で、三原の方も限界が来ていた。丈夫で軽いジェラルミン製の刺又が、大きくゆがんでいた。それに、大きな物音がしているからか、子供達がやってきている。

 

「みんな、早く中に入って! ここは大丈夫だから!」

 

 戻ってきた里奈が子供達を屋内に誘導すると同時、刺又が限界を迎え、けたたましい音とともに割れ砕ける。

 

「三原君!!」

 

 里奈が小さなトランクボックスを開き、その中身をセットする。

 特徴的な機械のベルト――デルタギア!

 

 オルフェノクの大ぶりな攻撃をかいくぐり、素早く距離をあける。それは同時に、ベルトを受け取る絶好の位置取り。敬太郎は、二人が十年間戦い続けてきたのだと直感した。

 受け取ったベルトを三原が腰へと装着する。そしてデルタギアの最後のキー――デルタフォンを構えた。

 

「――変身!」

 

 ――standing-by

 

 ――――complete

 

 青白い光のラインが全身に走り、三原の姿は黒を基調とした超戦士――デルタへと変化した。

 首元に手をやり、ぐるりと首を回す仕草。それは同じ流星塾生の草加雅人の癖だ。

 

(君の強さを、俺にくれ……!)

 

 それは三原の、草加への強い憧れだ。彼の強さが眩しくて、今でも逃げたしたくなる自分を叱咤するためにも、そして彼の姿を忘れないためにも、三原はいつからかこの仕草をとるようになった。

 

 奇妙な威圧感を感じていたのか、オルフェノクは警戒を露わにしていたが、先手必勝とばかりに襲いかかった。

 三原はデルタの高い出力、そして戦い続けてきた経験を元に、オルフェノクの攻撃を避け、拳をたたき込む。何よりも、ここでは場所が悪かった。なんとか外に出さなければならない。

 

(ごめんなさいっ!)

 

 心の中で謝りながら、オルフェノクを抱えて窓ガラスを突き破るようにして外へ転がり出る。躍り出たのは、児童園の運動場である。互いに距離を取って体勢を整えた両者は、再び距離を詰めて殴りかかる。だが、ただ力任せに振り回す大ぶりな拳と、洗練された拳の一突きでは、どちらに軍配が上がるなど自明であった。なすすべもなく吹き飛ばされたオルフェノクを確認し、三原がデルタムーバーにミッションメモリーをセットする。

 

 ――ready

 

「――チェック!」

 

 ――――exceed charge

 

 デルタムーバーにフォトンブラッドがチャージされる。長引かせるつもりはなかった。

 ようやく起き上がったオルフェノクは、直後に動きを制限される。眼前に白い三角錐状のエネルギー場が、体を貫かんと回転する。

 あとは三原が跳び蹴りの要領でこのエネルギー――フォトンブラッドを叩き込むだけだ。

 

 三原は裂帛の気合いとともに跳び蹴りを叩き込む。

 フォトンブラッドの作用とともにデルタはオルフェノクを貫き、オルフェノクの体は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――蒼い(・・)炎と共に燃え盛った。

 

 

「――!?」

 

 慌てて三原は周囲を見渡す。デルタの攻撃によって絶命するオルフェノクは、例外なく赤い炎と共に灰となった。蒼い炎となるのは、三本のベルトの中ではカイザか、ファイズだ。

 となれば、破壊されたカイザではなくファイズ――巧がどこかにいるはずだが、その姿は見えず、燃え盛る背後を振り返れば、黄緑色の紋章が浮かんでいた。

 

「――――θ(シータ)の、文字……?」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ――とあるマンションの屋上。

 

 成果を見届けたライダーは手にしたライフルのスコープを外し、後ろ腰に戻した。

 次いで、バレルを折り畳み、ライフルからθの文字を模した形状――ブレイガンモードに戻す。

 その姿は、今まで巧達が目にしてきたライダーのどれとも違っていた。黄緑色のフォトンブラッドが流れるフォトンストリームには、白い縁取りがなされ、そのパターンは胸部や背部など各所に『θ』の意匠が採り入れられた特殊なものだった。

 

 新たなライダーが、どういうわけか屋上に駐車していたバイクに近づくと、その形状が大きく変わる。

 車輪が九十度回転し、折り畳まれていたのかのようにその全長が伸びる。前後のタイヤに隠されていた推進器によって浮力を得たバイクに、そのライダーはサーフィンボードの要領で乗りこなす。そのままライダーはマンションの外壁を降りていった。

 

 このマンションに住む住民達にしばらく噂されるのは、また別の話であり、ましてやUFOのように飛ぶ機械の存在など、ほどなくして誰も口にすることはなくなったのであった。




Open your eyes for the next riders !

「新しい、ライダー?」
「ここの管理が悪いから、怪物なんておそってくるんだろ!」
「これ以上、ここに子供を預けるわけにいきません」
「次代の王の、手足となる存在だ」
「何をしているんだぁっ!!」

「問題ありません。シータは--」



 ◇ ◇ ◇

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