仮面ライダー555 ~灰の徒花~   作:大滝小山

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①死闘の果てに散る戦士たち
②ハジメの一歩
 ?「ボクサーは目指さんぞ…?」
③やさしさが生んだ決裂
④デルタの担い手は移ろう

12話で一章を締められるのか、13話までもつれ込むのか、それが問題だ(プロットとにらめっこ)

シータの秘密が明らかに!?
仮面ライダー555 In a flash!(このあとすぐ!)


第10話 A

「っ、はあ、はぁっ……!」

 

 用水路を通って何とか広い場所に這い出ることができた。にじむように灰色の異形が色づき、中肉中背の男の姿へと変わる。

 クラブオルフェノクの本性を持つ男は、直撃の寸前に()()()()()難を逃れていたのだ。

 

「あんのやろう……」

 

 男は悪態をついて地面を殴りつけた。何もかも不愉快だ。

 

 思えば今日はツイてなかった。

 まず女に逃げられた。そればかりか、女の兄を名乗る人物に待ち伏せされて詰め寄られてしまった。どうも“こづかい稼ぎ”に使っていたことがばれたらしい。うまく貢がせていたはずなのだが、何かの拍子に知られてしまったようだ。

 だから殺した。散々なぶって命乞いさせて、異形の姿で貫く快感。

 変身した姿を見た時の愕然とした顔など、そうそう見られるものではない。笑いがこみ上げるほどだった。

 

 次は女の居場所を突き止めて、ふざけた真似をした報いを受けさせてやらねばならない。後生大事にしていたようだから、最期にその身体を味わうというのも悪くない。

 ――などと夢想していた時だった。

 

「くそがぁ!!」

 

 あの男、死んでなお手間をかけさせるとは! よりによって同胞(オルフェノク)に助けを求めるとは!

 

「しかも何なんだよあれはぁ! ああ!!」

 

 ドラム缶を蹴りつぶしてようやく癇癪が収まる。これだけの身体能力がありながら、あの妙な機械一つに勝てなかったのだ。

 

「雑魚が、いきがってんじゃねぇ!!」

 

 おさまりがつかない。ようやく再び落ち着いてきたころにはコンクリートの壁はひび割れてボロボロに、拳はいたるところが裂けて血みどろになっていた。

 

 この男、名前を鎌田堅介といい、これまでの人生で悪逆の限りを尽くしてきた。取るに足らない小さな犯罪で満足していた時期が長かったが、一度目の死に前後して状況は一変。

 むしゃくしゃして売ったケンカの相手がもっとやばい奴だった、死の原因はただそれだけだった。

 ある日拉致同然に連れ去られ、浴びせられる銃弾。命乞いの言葉など一秒足らずで紡げなくなり、あっという間に肉塊に変わる肉体を恨めしく思う暇もなく鎌田は死んだ。人が機関銃に勝てる道理などない。

 自分がよみがえったのはどうしてかなど深く考えたことはない。

 ただ五体満足で体が残っていたのは相手の不始末だろうとはわかる。銃創は胴体に集中していた。頭をつぶされていたら、あるいは。

 なんにせよ、その後数か月は復讐に費やした。銃弾などものともしない甲殻は、機関銃をたちまち豆鉄砲以下の鉄くずにした。

 八つ裂きにした奴を池の鯉のえさにした後、鎌田は狂笑を上げた。――それこそが鎌田堅介という男の産声だといわんばかりに。

 

 ――ひととおり鬱憤晴らしをした後、鎌田は自分がどこにいるのかを探り始めた。溺れるようなことはなかったものの、途中何かに引っ張られるように制御を失い、どこともしれない場所に流れ着いた。

 

「なんだこりゃ」

 

 人ひとりが収まるような巨大な試験管がずらりと並ぶ異様な光景。

 医療目的ではないと即座に判断したのは、コンクリート打ちっ放しの粗末な内装からか、無数のチューブがその中身を吸い出しているからか。

 中身は濁った液体に満たされているが、その奥に納められている“なにか”は、灰色だった。

 

「誰だ、オレをこんな所に連れ込んだのは」

 

 本能が警鐘を鳴らし始める。いつでも暴れられるよう心づもりだけはして、あたりを見渡す。

 

「――あら怖い。そんなに身構えなくても大丈夫よ坊や」

 

 答えたのは女の声だった。声だけで脳を蕩けさせるような、そんな妖艶な声。

 状況によっては、逃れられない力を持つ、悪女の()

 

「どこだぁ……?」

 

 誰何の声に応じて人影が現れる。彼の予想に反して、人影は異形の姿をとっていた。

 

「やるのか……?」

「落ち着きなさい。私はあなたと手を結びたいの」

 

 一瞬意識に空白が生じる。

 

「なら、その物騒な姿をどうにかしろよ」

「それはできないわ」

「てめぇ……」

 

 鎌田は全身に力を籠める。――脱皮したばかりの甲殻は柔らかいのだが、背に腹は代えられない。すぐに殺して、あの野郎を殺す。そう息巻いていた。

 

「私はもう人間の姿はないもの。私は今のところ、完全な不死を実現した唯一のオルフェノク」

 

 続く言葉に興味をそそられるまでは。

 

「完全な不死?」

「そのままだとオルフェノクはいずれ灰になって死ぬの。気づいてた?」

 

 どうやらつくづく世界は気に入らないようにできているらしい。

 舌打ちをして、この女の話を聞くことにする。

 

「どうすりゃいいんだ? 不死身の誰かさんよ」

「オルフェノクには王と呼ばれる個体がいるの。彼によって人間の部分を取り除いて初めて私たち(オルフェノク)は完全になる」

「つまりその王様とやらに会えばいいんだろ」

 

 どこにいるんだ、と問うが、彼女は首を振るだけだ。

 

「王はいま、眠っているわ」

「あん?」

 

 彼女が言うには、王は反発する勢力に重傷を負わされ、昏睡している。

 例え目覚めても、反逆者を倒さねば同じことだ。

 

「そしてそのうちの一人はあなたもよく知っているはずよ」

 

 何せ、ついさっき会ったばかりなのだから。

 

「そういうことか……!」

 

 あの妙なベルトこそが対抗手段、オルフェノクの王を討った兵器。せめて手元に置いておきたいのだという。

 

「利害は一致したようね」

「あいつを()るのはオレだ。そのついでにベルトを盗ってこいってことだろ?」

 

 もとよりそのつもりだったのだ。少しばかり面倒が増えたが、見返りは当然――

 

「オレも不死身にしろ。オレはな、まだまだ生きてやることがあんだよ」

「もちろん、掛け合ってみるわ」

 

 彼女――ロブスターオルフェノクの言葉に鎌田が会心の笑みを浮かべる。

 すべてを自分の下に置かなければ気が済まない性分の男は、身に秘めた狂気を隠そうとはしない。

 

 

 より大きな悪意が渦巻いていることまでは、まだ気づいてはいなかった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

(悪く思わないでね、琢磨君)

 

 より多くの戦力が必要なのだ。その点鎌田は性格に難ありだが、上級オルフェノクの中でも随一の実力者といえるだろう。

 

(村上君風に言えば『上の上』ね)

 

 そもそも嘘はついていないのだ。王を斃した三本のベルトの一角、デルタ。

 所有権が移ったことは予想外の出来事だったが、悪いことばかりでもない。

 

(おかげでファイズがどこにあるのかも把握できたわ。事態が好転したわけではないけれど、こちらのいいように傾きかけているのも事実)

 

 そして、シータも確保できた。その解析も数日が経って、軌道に乗り出した。

 ――逆に言えば軌道に乗るまで数日を要し、危うく()()()も出るところだった。

 

「――少しいいですか」

 

 噂をすれば影、ではないが。

 ロブスターオルフェノクが振り返ると、解析を担当していた研究者だった。

 

「解析が終わったの?」

「いえ、ですが少し気になることが」

 

 そう言って研究者がタブレット端末を操作する。――人の姿を失い、そういった細かい作業はすっかり苦手になってしまった。

 

「これを」

 

 研究者が示したのは、三本のベルトのスペックデータのようだ。そこに重なるようにして無数の数値が並ぶ。

 

「現在わかっている限りで、シータを含めた各ライダーズギアの性能を比較したものです。フォトンブラッドを使用しないライオトルーパーは除いていますが……」

 

 研究者が画面に触れると、シータのものと思われるデータが色づいた。

 

「シータが上回る数値は緑に、下回ったものは赤にしています」

「――ほとんど真っ赤ね」

 

 装甲は材質から変わったらしく、単純比較はできないとのことだったが、およそ戦闘に必要な機能はファイズすら下回っていることになる。

 理由は明白だ。

 

「私もフォトンブラッドの流量が少ない可能性を疑いました。そこで戦闘中に流れると考えられるフォトンブラッドの量をシミュレーションしましたが、技術的に可能な範囲では緑色のフォトンブラッドは生成できませんでした」

 

 三本のベルトを開発した段階で、最も安定してフォトンブラッドを循環させられる量は求められていたのだから、仕方のないことだった。

 

「ただ、安定させる必要がないのなら――」

 

 流量を極限まで抑えるなら。

 

「――当然、全体にいきわたらなければそもそもエネルギー供給を受けれないわけですから、システム全体の動作が不安定になります。それ以前に循環不全で装置に負担がかかって非常に危険です」

 

 製品寿命という観点から見てもそうだが、フォトンブラッドは莫大なエネルギーを有する物質だ。

 きちんと送り込めずに行き場を失えばどんな悪影響があるか、わかったものじゃない。

 

「まだ仮説ですが、動物が余った血を脾臓に蓄えるように、要所で循環を維持できるように保管しているのではないかと」

「それは結構よ、本題があるのでしょう?」

 

 未確定の情報はどうでもいい。

 重要なのはファイズ以下の出力でフォトンブラッドを循環させる意味だ。

 

「第一、量産前提のギアでどうしてそんな面倒な方式をとったの」

「先ほどの仮説が前提になりますが」

「…………」

 

 無言を肯定と取ったらしい。研究者の男は続ける。

 

「シミュレーションはこの方式でシータの稼働状態を再現可能となりました。これをもとに装着者のフォトンブラッド被ばく量を算出した結果――」

 

 あまり愉快ではない結果が、告げられる。




マルチプルプラットフォーム
 量産シータの追加装備。背中に背負う形で装着し、シータ単体では賄いきれないフォトンブラッドの生成をタンクに貯蔵するという形で補う。
 そのほか、四本のアームを備え、大型武器を保持・運搬できる。低下した機動力は簡易式のPFF(フォトンフィールドフローター)で補われる。
 余談だが、フォトンブラスターの出力を支えるにはこの装備に据え付けられた分のタンクでは足りず、コマンダーで呼び出した段階でさらに増加タンクが加えられた(このタンクは二本のアームを使って保持・接続される)。

フォトンブラスター
 砲戦仕様装備。先述の通り燃費が悪く、固定砲台とならざるを得ない。
 こんな無茶な仕様になったのも乾たく……ファイズブラスターのブラスターモードと同じかそれ以上の火力を実現しようとしたせいである。
 増槽を付けてもなおひどいエネルギー効率で、2,3発連射した段階でタンクが干上がってしまった。『第9話 A』でみすみすライオトルーパーたちの目的を達成させた一因である。

*作者の物理力はほぼゼロのため科学的な考証ができていません。シータのストリームはファイズよりフォトンブラッドの流量が少ない事さえ伝わればいいのに、理屈こねた結果がこれだよ!

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