仮面ライダー555 ~灰の徒花~   作:大滝小山

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よし、走りながら555おさらいする(諦め)
序盤のある程度は頭の中で固まっているので、マイペースに投稿していきます。……仮に矛盾しても、そのあたりは基本変えられませんのでご容赦を(土下座)


第1クール
第1話 A


「はい、ご覧ください! 何の変哲もない白いハンカチ! これを――」

 

 言いながら、青年はシルクハットを脱ぎ、足を止めた通行人達に中身が見えるように掲げる。

 手品の鉄則。“表向き”にはタネも仕掛けもないことを示すこと。

 

「――この中に入れて被りま~す!」

 

 鉄則その2。仕掛けに意識が向かないように、大仰な身振りで。

 青年は抜け目なく観客を確認し、会心の出来を確信しつつ右手を掲げる。

 

「――one」

 

 ネイティブな発音とともに立てられた指。

 

「――two」

 

 二度目の声で立てた指を増やし、三度目のコールの代わりに高らかと指を鳴らした(フィンガースナップ)

 同時にシルクハットのつばを持つ左手で素早く脱ぎ捨てる――!

 

「ご覧ください! ハットからハトが―― あれ?」

 

 青年が怪訝な声を上げたのは、徹夜で考えたギャグが大コケしたからでは無く。ましてや、予定通りにハトが飛び立たなかったから――それはそれで大問題ではあったが――でもなく。

 シルクハットを脱いだ瞬間、観客たちから失笑の声が漏れ聞こえてきたではないか。彼らは皆一様に青年の頭に注目し、スマホで撮影するものまで現れた。

 ここまで疑問符を浮かべていた青年であったが、白いハトが頭上から肩口に降りてくると事態を把握し始める。

 

 ――天気、快晴。朝から現在、午前十一時半ごろまで雲一つなし。そして頭に手をやれば、大きな白い雨粒一つ。

 

 麗しの彼女(・・)はよほどご機嫌らしく、一張羅のジャケットでくつろいでいらっしゃる。「みたきゃみなさい」と言わんばかりのふてぶてしさだ。

 観客は耐える。突然舞い降りた純白の刺客に。今なお己の腹筋に試練を与え続ける白い女王に。すべては、呆然と固まる青年のために。

 

「――あ、これは、ウンがついたようで」

 

 ダム、決壊。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

(万札入ってるのが、よけいに腹立つわ……)

 

 間違いなく、ここ最近の売り上げトップを誇るマジックだ。同時に、過去最大の損失を叩き出したが。

 トランクケースを牽きながら、青年は思い返す。「いやー面白いもん見せてもらったっちゅーか、兄ちゃん、またよろしく!」とわざわざ手渡された諭吉二名。本音を隠して愛想笑いが精一杯だった。

 

(頼まれてもやるかっ、こんな手品!)

 

 焼き鳥の串を腹いせに噛み潰し、次の串に手を伸ばした。が、ふと足を止める。

 

「……西洋、洗濯舗」

 

 要は、クリーニング店だ。

 青年は、そっと自分の格好を見直した。お捻りを受け取る最中も、受けがいいと思って肩に止まらせていたのが運の尽き。まさかの三発目を投下され、左右対称に汚らしくなっていた。

 頭だけは水を被って何とかしたが、生憎、このジャケットは普通に洗濯すると縮みかねない代物だ。位置的に小脇に抱えると被害が広がりそうで、着の身着のままといった有様。はっきり言って、通行人の視線が痛い。

 迷う必要は、無かった。

 

「すみません」

「ああ、いらっしゃい。ご用件はぁっ!?」

 

 店主、菊池敬太郎は絶叫した。仕立てのいいジャケットを無残な姿にしているのを見れば当然かもしれない。そう青年は考え、すぐに説明にかかる。

 

「あの、これの洗濯――」

「いや、それもそうだけど、食べ物! タレがついたらどうするんですか!」

「――あっ、そっち」

 

 少し想像すれば、飲食厳禁であることぐらい分かっただろうに。敬太郎はこの奇妙な客の相手に頭が痛くなりそうだった。

 気を取り直して、ジャケットの検分を始める。どうやら、両肩の白い汚れ以外に目立った被害はない。それどころか、着慣れた様子の割にシワや型くずれもほとんどなかった。

 

「鳥のフンみたいだけど、何があったらこんなことに……? ガラの悪い人にでも絡まれたとか?」

「いや、不幸な事故だった。 犯人は手品のタネだ」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で、しかしあっけらかんと青年は告げた。

 

「手品? もしかして、マジシャン?」

「ああ、ちょっとね」

「スゴいじゃないか! ちょっと見せてよ」

 

 青年の想像以上に食いつきがよかった。この店主、どうもお人好しのきらいがある。鳥のフンから真っ先に最悪の予想をしていたことといい、こんなのでよく世の中を渡ってきたな、と。

 とはいえ、この場ですぐ見せられる手品となると――

 

「ちょっと紙とペン、借りるぞ」

 

 言いながら、手近な紙に縦横三マス、そしてその中に適当な数字を書き入れていく。

 その間、店主が少年のようにキラキラと顔を輝かす様をみて、先ほどの思いを強くする。

 

「じゃあ、俺にわからないよう、どれか好きな数字を選んでくれ」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 青色のワゴン車を走らせ、男は帰路を急いでいた。背後には新たに受注した洗濯物をハンガーでつり下げている。

 ――そんな生活を始めて、そろそろ十年。店主の仕事であった配達を彼――乾巧が受け持つようになったのは、ほんの数年前だった。きっかけは確か、当時自立するために都内のマンションの一室を借りて生活していた園田真理が、久々に敬太郎の店を訪れ、当時の昔話に花を咲かせていたときだった。

 

「そういえば、敬太郎と初めて会ったとき、洗濯物の配達してたよね」

「うん、いまでも結構配達頼まれるよ」

「体よく家政婦として使えるからでしょ」

「――そういえば」

 

 真理が一人暮らしを始めてすぐ、敬太郎の配達スピードが明らかに落ちたような気がする。それをついうっかり口を滑らせたことが、すべての始まりだった。

 具体的には、真理がキレた。それはもう、他でもない本人が台無しだと称するほど、旧交を温めるという目的を見失ったものだった。

 最終的に、巧が配達業務を請け負うことを確約させられ、ようやく真理の怒りを鎮めることができた。敬太郎は、真理にボロクソに言われたためか、微妙そうな顔をして配達に行く巧を見送る日々が続いていた。

 だが、巧はしばらくして明らかに店の売り上げが伸びていることに気づき、そのことについて指摘しないことに決める。後から聞けば、敬太郎が引き受けていた家事というのは、買い物に犬の散歩、果てはちょっとした水道工事まで多岐にわたり、いちいち引き受けていたら日が暮れること間違いなしだ。あのお人好しは、もはや病気の域だろうか。巧は一抹の不安を覚えた。

 

 そうこうしているうちに、『西洋洗濯舗 菊池』の看板が見え、巧はその駐車場にワゴンを停めた。ハンガーを取って店の中へ入る。伝票とともに敬太郎に渡して、今日の仕事は終わりにするつもりだった。

 

「――あっ、たっくんたっくん! 見てよこれ!」

 

 ――ああ、もうしばらく上がれそうにないな。

 長いつきあいになれば、敬太郎の様子から満足するまで離してもらえないだろうと予想がつく。

 

「何だよ、いきなり……てか」

 

 よく見ると、見慣れない青年が立っていた。彼は、巧の顔を見ると、少し驚いたような顔をしてから、軽く会釈する。

 

「キミ、キミ! もう一回やってよ、今度はたっくんに!」

「……えっと」

 

 青年は困った様子でこちらを見てきた。目が助けを求めていた。

 

「何やったらこうなるんだよ」

「ちょっとした、手品?」

 

 何となく合点がいった。

 

「ガキかよ」

「だって、スゴいんだよ! 最後に止まった数字を言い当てるんだもん!」

 

 何というか、感性が子供だった。

 

「稼ぎにもなんないのに、何で俺こんなことしてんだ……」

 

 ブツクサ言いながら、青年は3マス四方の図形を書き、再び数字を書き入れる。

 

「まずは、この中から好きな数字を選んでくれ」

 

 青年は先ほどと同様に巧にも数字を選ばせた。ここから幾つかの操作をさせて、最後に止まったマスの数字を言い当てるらしい。

 

「じゃあ、名前の音と同じ数だけマスを移動してくれ。ただ、斜めに動くのはなしで、必ず上下左右の一マスに動いた時点で一回の移動だ」

「なんか投げやりじゃないか?」

「……今日だけで二十回目なんだよ、これやんの」

 

 言うまでもなく、その相手は敬太郎である。

 その後、移動先のマスに書かれた数字と同じ数だけ移動するよう青年に言われて、指示通りに動かす。

 

「じゃあ、そのまま今止まってるマスと同じ数だけ時計回りに動いてくれ」

「――これ、真ん中の9に止まったらどうすんだ?」

「そう、そうなんだけど、何回やってもそこだけには止まれなくてさ!」

「おまえ、ちょっと黙ってろ!」

 

 後ろでひどい、とぼやく敬太郎を無視して目で時計回りにマスを追いかける。心なしか、青年の顔もひきつっていたが、ふと青年が口を開く。

 

「まぁ、絶対8のマスに止まるようになってるんだけどな」

 

 ちょうど巧の視線は、8のマスで止まろうかというところ。

 ギリギリアウトなタイミングだった。

 

「ああっ! ネタばらししないでって言ったじゃん! せっかく一生懸命考えてたのに!」

「十九回も見せたんだから気づけよな……」

 

 青年はもう、かなりくたびれた様子であった。

 どうしてこうなったのか、少し考えて、本来の目的を思い出す。

 

「と言うか、これ(ジャケット)洗ってほしいんだけど……」

「あっ、ごめん。すぐ準備するね! ――あれ、伝票どこやったっけ?」

「これだろ」

「あっ、おい!」

 

 巧から紙を奪い取って敬太郎に渡す青年。

 なぜ8にしか止まらないのか、必死に考えていたところを邪魔された形だ。巧は不満な様子を見せる。

 

「えっと、名前が木村大牙(きむらたいが)で――」

 

 敬太郎は、思わず目を剥いた。

『西洋洗濯舗 菊池』では、伝票に配達希望と、配達に必要な住所を書く欄が存在する。この配達サービスこそ、『菊池』における最大の売りであり、大きな収入源となりうる。――店主が一文の足しにもならない奉仕活動をしなければ。

 青年――大牙は、配達希望ということで該当欄に丸がかかれている。そこまではいい。

 もちろん、住所も書かれている。これも、まあいい。

 ――その住所が、明らかにどこかの公園のそれでなければ、の話だが。

 

「あの、君、木村君? 家は?」

「ないっす」

 

 大牙は、軽い調子で言い放った。

 思い出したように、焼き鳥を咥えながら。

 

「おまえ、今までどうやって過ごしてきたんだ?」

 

 流石の巧も、本気でこの青年を心配して尋ねる。

 

「まあ、大学出るまでは寮暮らしだったんで、家なくしたっつても……あれ、一年たってんのか」

「お、お金とかは!? なに食べて過ごしてるの?」

 

 今日は臨時収入が有ったんで、と何枚かのお札をひらつかせて大牙は答える。

 

「――おい、敬太郎」

 

 巧はいやな予感がした。この状況にある種のデジャヴを感じたのだ。

 が、時すでに遅し。

 

「じゃあさ、ここで働きながら暮らすってどう!? 家が無いだなんて、そんなのだめだよ!」

 

 巧は頭を抱える思いだった。

 

 何よりも真っ先に削られるだろう自分の時給に、今から気が重かった。




原作キャラの語りがおかしいなどあれば、どんどんご報告ください

4/18 誤字修正
5/8 場面転換の記号を統一(*→◇ ◇ ◇)
6/3 誤字修正9マス四方→3マス四方
9マス四方と言うことは、全部で81マスもあるのか(困惑)

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