仮面ライダー555 ~灰の徒花~   作:大滝小山

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2ヶ月連続無制限ボックスガチャイベントが悪い(言い訳)
大遅刻ですが、新年一発目の更新です。一月も下旬じゃないかぁ……


第8話 B

 顔にケガを作ったまま接客するのもなんだから、と考えた啓太郎は、大牙にクリーニングした衣服を畳ませたりとなるべく裏方に回るように配慮した。

 そして仕事に、日常に戻った訳ではあるが……

 

「木村君、何やってんの?」

「いや、俺ここで何してんのかなと思って。こう、考えたこと無い? 俺には秘められた使命が――」

()()ならあるぞ。さっさとそれ畳め」

 

 大牙の言葉を巧が両断したり、

 

「ここにバイオリンがあって、それが独りでに鳴り出すとどこかで怪物が――」

「お前、なんか映画でも観てきたのか?」

「いや、そうじゃないけどさ……あ、でも怪物が吸血鬼とかだとそれっぽい!」

 

 何というか夢見がちな言動が多いというか。

 

「ねえ啓太郎、どう思う?」

「そうだよ……おかしいよね真理ちゃん」

 

 やはり啓太郎も違和感を感じていたらしい。どうにも今の大牙は――

 

「――あの二人って、いつのまにあんなに仲良くなったんだろう?」

「…………」

 

 脱力。気になるのはそこか、それでいいのか、などなど、様々な感情が渦巻く。

 

「ねえ真理ちゃん、あの二人に何かあったとか知らない?」

「知らないわよっ、馬鹿!」

 

 そんなぁ、と情けない声を上げる啓太郎。

 一応、夢見がちな言動を除けば大牙は普段通り、何らかのゲームなどをしながらギリギリですべてを始めて終わらせる、破滅的なスタイルで仕事をこなしていく。よくこんな働き方が出来るな、と呆れるが。

 

「おい、真理は仕事無いのか?」

「たっさん、今日月曜日だよ?」

 

 真理が反論するより早く大牙が補足する。啓太郎のせいで妙なかんぐりをしてしまう。

 だが真理は、大牙の顔を見て彼の態度の理由に思い至る。

 

「まさかその顔の傷、名誉の負傷とか思ってないわよね?」

「うぐっ……」

「図星かよ……」

 

 巧の追撃にくずおれる大牙に嘆息する。

 

「『弱い者イジメが見てられなくて割り込んだ』、だったか」

「それで殴られるの、ほんと理不尽だ……」

 

 大牙が嘆く様に苦笑する啓太郎がお茶を用意した。

 

「少し休憩しよっか。たっくん、このあと配達頼むよ」

「ああ、わかった」

「たっさん、フーフーしよっか?」

「いいよ、お前の方こそ猫舌だったろ?」

「あ、それで仲良かったんだ……」

 

 啓太郎は十年前の夏の日を思い出す。

 木村沙耶――奇しくも大牙と同じ“木村”姓を名乗る少女がアルバイトの面接に来た日を。この不器用な男は、猫舌という共通点を持つ人間には普段からは信じられないぐらい早く打ち解けるのだった。

 

「……え、なに? どういうこと?」

 

 知らぬは真理、ただ一人。ちょっと悪いけど、内緒にしよう。そう思う啓太郎だった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 最近は車を走らせていると、様々なものが目に留まるようになった。

 それは徐々に迫る死期を前にこの世を名残惜しむ気持ちの表れか、はたまた単なる現実逃避なのか。この日はたまたま河川敷を通って懐かしく思い、ブレーキを踏む。

 

(もう十年も前なんだよな)

 

 アークオルフェノクを打倒し、すべてが終わった――そう思っていたあの日。ここは啓太郎や真理と共にひなたぼっこした河川敷だ。

 既に寿命をすり減らし、もう長くないと悟っていた巧は、それでも生き残った。

 あるいはあのときに灰と散ってしまえば、今のような苦しみはなかったかもしれない。そして同時に、ここまで生き残ったこと自体が巧に求められた運命だったのだろうとも考える。

 

(木村のことを笑えないな)

 

 それこそ真理とファイズのベルトに出会ったばかりの頃だって、ある意味では舞い上がっていたようなものだ。

 だからこそ、次があるのなら覚悟しなければならない。スマートブレインの企みを止めることが正義ならば、その対価は間違いなく己の命だ。

 

 ところで、車を止めた理由はもう一つある。

 いつかの自分たちのように草原に寝転がる老人は、明らかに巧の知り合いだった。

 

「山吹じいさん」

 

 巧の呼びかけに驚いたように目を向けるハジメ。分かっていても顔の傷が与える威圧感がすごい。

 

「巧君か」

「――家族は、見つかったのか?」

 

 言いながら、何で分かり切ったことを訊いているのか、そんな後悔が募る。

 

「……すまん、忘れてくれ」

「いや、良いんだ。心配かけたね」

 

 それからしばらく、二人の間に会話はなかった。巧はふと、これからの命の使い方に思いを馳せる。スマートブレインの暗躍のせいか、最近はそんなことばかり考えてしまう。

 

 

 一方、ハジメもまた巧の様子を見て居たたまれなさを感じていた。

 この青年は、自分がオルフェノクであることを――ましてや、命を狙って襲撃したことを知らないのだ。

 

(そういえば……)

 

 なぜ彼が狙われていたのか、ハジメはほとんど知らない。反旗を翻したというなら、彼も元はスマートブレインの社員だったのだろうか。

 ただ対抗手段を持っているらしいことは確かなようで、直撃しなかったというのに左手は疼き、身体には痣のような火傷跡として銃創が残った。

 それらはすべて、赤銅の戦士につけられた切り傷と同じ痛みをハジメに与える。同質のものだと悟るのに時間はかからなかった。

 常よりなお、治りの遅い傷跡が(うず)く。

 

(どういうことだ……)

 

 スマートブレインが狙う、乾巧。

 任務失敗を口実に抹殺をはかる、スマートブレイン。

 両者の関係がまるで見えない。だが確実に何かがある。

 ――それを訊ねてしまえば、少しは楽になるのだろうか。

 

「なあ、じいさん」

 

 巧の声に思考を打ち切って顔を向ける。

 

「俺にも何か、手伝えることはないか?」

 

 

 それが巧が出した答えの一つだった。

 

 ――世界中の洗濯物が真っ白になるみたいに皆が幸せになりますように――

 

 かつてこの場所で願った夢。

 そのために誰かの涙を払いたい。

 この手が届く限り。未だ形あるうちに。

 

「仕事のついでに車をまわすのもいいし、とにかく俺にも何か出来るだろ?」

「それは……そう、じゃが」

 

 迷うように言葉を継ぐハジメに巧は微笑みかけた。

 

「俺だって力になるさ。だから気にするな」

 

 うまく笑えているだろうか。この老人の不安を払えればいいと巧は願った。

 

 

 

 

 少しして巧は車に乗って去っていった。――ハジメは考えておく、とだけ伝えて送り出したのだった。

 

 巧の笑みは達観したような、その歳に似合わないほど老成したように感じた。

 言ってしまえば、死を予見しているかのような、そんな不吉な態度。

 

(彼は――)

 

 気づいているというのか。その上で助けてくれるというのか。

 あるいは逆襲の機会をうかがおうというのか。

 

(ああ……)

 

 彼とて友人のハズなのに、巧を信じることが出来ない。自業自得の疑心暗鬼。

 

 巧の願いとは裏腹に、洗濯物に付いたシミのようにハジメの心は晴れなかった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 三台のバイクが列をなして通っていく。比較的ゆっくりとした速度で走る青年たちは、揃ってバイクを止めた。

 

「何すか、アンタら?」

「こんなところで止められたらメーワクなんだけど?」

 

 同じく三台のバイクが青年たちの進路を阻み、退路もまたふさがれた。

 無論、彼らはツーリングを楽しんでいただけだ。法定速度も守っていたし、三人の内誰かがヤバい橋を渡っているということもないハズだ。

 

「お前たち――」

 

 ――――シータだろう?

 

 

 突如として青年たち――シータの担い手の表情が抜け落ちるのに前後して、ライオトルーパー隊長はハンドサインを出して、自身もベルトのバックルを倒す。

 都合六度の認証音が響き、さらに銃声が続く。

 

 ――BATTLE MODE

 

 電子音声と共に変形した三台のバイク――レギングライアーが盾となり、手すきとなった一機が旋回とともにマフラーから炎を吹き上げる。

 バックファイアー。本来、エンジンの燃焼不良を原因として起こるそれは、排気筒に偽装されたブースターの作用だ。

 装着者達の周りを月のように回るレギングライアーは、十分な加速を得ると、勢いはそのままに回転のベクトルを上へ。

 ハンマー投げの要領で自身を砲丸としたレギングライアーは、絶妙な姿勢制御で上空へ位置取り、フォトンバルカンを起動させる。

 

 爆炎と砲声、それらが彩る世界でなお、不自然に無感動な青年たちは、バッグから()()を取り出す。

 シータに変身するための装置――ドライバーだ。ただ、他のライダーのそれと違いベルトはなく、バックルにあたるインターフェース部のみの状態だった。

 腰に当てると光の帯が腰をぐるりと周り、分解保管されていたベルトが専用のフォトンストリームを取り囲むように再構成される。運搬の利便性を重視した仕様だった。

 三人は空いた手でデバイスを操作し、待機状態へと移行させる。表示が切り替わり、タッチパネルには現在のステイタスが表示された。

 

 CODE:444

 Transform

 -Standing By-

 

「「「変身…………」」」

 

 シータ、発動。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 出力の面で割を食っている量産型だが、試験機にはなかった機能を与えられてもいる。

 戦闘能力を武装の追加転送に頼ることで実現したベルトの格納機能などはその最たるもので、他にも主に集団戦に特化した調整や機能追加がなされている。

 例えばレギングライアーとの連携を強化する課程で、上空待機した機体を俯瞰カメラとして利用する機能が盛り込まれていたり。

 

 それを本社コンピューターで監視出来るようにするなど、造作もない。前川は反逆者の末路を思い、随喜(ずいき)に震える。

 

「反逆者にその力、見せつけなさい……」




量産型シータ
 形式番号:SB-444
 十年の間研究開発が行われ、量産計画が練られてきた最新鋭ライダーズギア。かつて同じく量産型として造られたライオトルーパーとは違い、フォトンブラッドを用いて動作する。
 それまでのライダーズギア、そして量産前に製作され作中で暗躍しているプロトタイプのシータとは違い、ベルト本体に武器となるツールギアを懸架(けんか)できず、装備はすべてウェアラブル端末型通信装置『シータコマンダー』を用いて追加転送する。
 特徴的な『θ』パターンのストリームは先述の武装を接続するラッチを取り囲むように配置された結果できたもので、「レセプションパターン」と名付けられた。効率よくフォトンブラッドを供給でき、デルタのビガーストリームパターンと同じ理屈で高負荷がかかっても安定して運用できる。
 フォトンブラッドの色は暗緑色。プロトタイプよりは低い出力のようだが、現在詳細不明。バイザーもより廉価なシングルファインダー(ライオトルーパーのものと同等品)に変更されている。その代わり無人偵察機(ドローン)の空撮映像を表示できるなど、外部デバイスとの連携を意識した設計をしている。
 また、ミッションメモリーはデバイスからトランスジェネレーターの機能を解放するために使われるほか、仮想敵である他のライダーからツールギアを奪って運用するためハッキング用の補助プログラムが併せて書き込まれている(この仕様上、プロトタイプと同じくエナジーホルスターが右足に装着されている)。
 スーツ地の黒に白い装甲、フォトンストリームに白い縁取りと随所にがあしらわれたカラーリング。ラッチは両腕、背部肩甲骨部分、胸部、両肩に存在し、フォトンストリームが配置されている他、頭部にも視覚情報を増強させるためのスコープなどを装着できる。バルカンポッドはさすがにちょっとムリかな

 変身に使用するデバイスは【大型タッチパネルを備えた端末】であることが確認されたが……?


Open your eyes, for the next riders!
「ワシの家族をともに探してはくれまいか?」
「デルタを、あなたに預けたいんです」
「もう、俺は戦えない。戦っちゃいけないんだ!」
「いい加減にしてくれ!」
「オルフェノクって何なんだよ! みんな何を隠してるんだ!」
「どうしてなの……?」
「せいぜい、社長の役に立ちなさい。あなた方の価値など、それしかないのだから……」

 ◇ ◇ ◇

ちょっとしたお知らせがあるので活動報告の方もよろしくお願いします。

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