仮面ライダー555 ~灰の徒花~   作:大滝小山

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前回のあらすじ
①?「あの日投稿ガバッたのも全部乾巧ってやつの仕業なんだよ……」(反省してます。マジで)
②量産ギア、シータ。これで心置きなく呼ばせることが出来る……
③主流派と現王派、互いに過大評価してる説
④頑張れ三原! 創才児童園の未来は君にかかっている!


長らくお待たせした、三原の危機……
仮面ライダー555 In a flash!(このあとすぐ!)


第7話 A

 紫電とともに振り抜かれた拳は、相手を十メートルもの距離を吹き飛ばす威力を持っていた。

 

「……あ」

 

 シータを殴り飛ばした体勢のまま、三原は困惑した。

 体格が大きく変わるオルフェノクはもちろん、ライダーの体重も、その見かけ以上に増加する。本来のデルタの出力では、そんな冗談のような飛び方はしない。

 

(いや、違う……)

 

 デルタ単体の出力ではない、しかしながらデルタの能力といっても過言ではない力がある。

 三原も話には聞いていた、徳本恭輔らをはじめとするデルタの力に飲まれた流星塾生たち。――彼らに残留した、力。

 

(嘘、だ)

 

 我に返ってみれば、思い当たる節はある。デルタを装着している際の闘争心が高ぶる感覚自体は十年前から覚えていた。――同時に飲み込まれないよう自らを戒め、決して怒りや憎しみのままにデルタの力を振りかざさなかったからこそ、三原はデルタの適合者足りえていた。

 だが、今回はどうだ。身勝手に、そして機械的に惨劇を繰り広げたシータを見て、三原はそれでも怒りを抑えきれていただろうか。

 

「うっ、あ――」

 

 デルタ(悪魔)の正体は他でもない。

 装着者に巣くう闘争心、猜疑心、憎悪に赫怒。

 結局のところ、流星塾生たちは自分たちの心に飲み込まれ、()()したに過ぎなかった。

 十年間、悪魔と相乗りし続けた三原は、ついにその主導権を奪われかけた。言ってしまえば、それだけのことだったのだ。

 

『っ、ヤロウ!』

 ――LEGIN-GLIAR get in to the action

 

 シータがリストウォッチを操作すると、命令(コマンド)を受けたバイク――レギングライアー、という名前らしい――が変形し、デルタの方へと向き合った。状況を把握したAIは、即座に攻撃行動に移る。

 

「なっ……!?」

 

 おもむろに突進。空中をトップスピードで滑るレギングライアーは、出が早く、確実にダメージを与える武装を選択していた。

 前輪に搭載された突撃武装。飛行用とは別にフォトンブラッドの供給を受けたそれが、敵を断ち切る刃となる。

 

「――っ!」

 

 すでに前輪は回転鋸(チェーンソー)のごとく唸り、そこからフォトンブラッドを()()()()する事で光刃を形成している。

 すなわちそれは、ライダー達が利用するブレードとは似て非なる発想で製作された溶断武器――その()を、フォトンカッターという。

 

「ぐああああっ!?」

 

 猛烈な勢いで突進するレギングライアーによる衝撃と、腹部を直撃するフォトンカッターの威力が加わり、宙を舞うデルタ。過負荷によってシステムが緊急停止し、三原は生身のまま空中に投げ出された。

 

「三原君っ!」

 

 真理たちが間に入り、間一髪でコンクリートの地面に叩きつけられるのだけは阻止する。

 役目を終えたレギングライアーが主の元へ帰り、シータはどこかへと飛び去ってしまった。

 

「――――――」

 

 気を失った三原を抱え、真理も里奈も呆然としていた。そうしていても、二人が見た事実は変わらない。

 

「三原君にも、デルタの力が……?」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「――それではもう、こちらにスマートブレインに対抗する術が無いじゃないですか!」

 

 翌日、三原の身に起きた異変を語った真理に反応したのは琢磨だった。

 

「そう言われても、もう三原君にこれ以上戦わせるわけにはいかないじゃない!」

「この状況でそんなことが言えますか!? シータもライオトルーパーも、こちらの事情には頓着しませんよ!」

 

 おまえが言うと説得力が違うな、と巧は思ったが、口にはしなかった。皮肉にしても笑えない。

 

「だいたい、こちらにはファイズギアが有るじゃないですか! それが使えないだなんて、冗談じゃない!!」

「だって、たっくんが死んじゃったら元も子もないよ!」

「そんなに言うなら巧さんではなく、私が変身すればいいでしょう!」

 

 琢磨は言ってからしまったと思ったが、もう遅い。

 さすがに信用出来ないらしく、冷ややかな三対の視線。

 

「……」

「…………」

「………………」

「……………………すみませんでした」

 

 すごすごといった様子でソファに座り直す琢磨。

 ――三人とも、内心ではそうするのが一番だと理解していた。巧とほぼ互角のオルフェノクである琢磨なら、ファイズの装着者として不足はない。実際、ファイズギアを奪って変身したことがあり、オルフェノクであることを隠していた巧も手を焼かされた。

 そうは言っても、ファイズギアを託せるかといえば、話は別だ。巧こそその視線は呆れを多分に宿したものだったが、二人にとっては元々敵対していた相手であり、――オルフェノクだ。

 

「ファイズの力を使っても、お前じゃ返り討ちにあうだけじゃないか?」

「うぐ……」

 

 助け舟のつもりで、完全にトドメを刺しにいった巧であった。

 巧も当時のライオトルーパーには手を焼いた記憶がある。彼らを倒すには、連携を取られる前に各個撃破するか、連携が意味をなさないほどの力でねじ伏せるかといったところだろうか。

 オルフェノクの力は、ライダーズギアの単純な出力を超えることがある。オルフェノクはそれだけ個体差があるという事だが、琢磨は間違いなくファイズを越える力を持つ強力なオルフェノクだ。そんな彼がライオトルーパーに後れをとったという事実は、本人が思う以上に重い意味を持つ。

 

(真理達の気持ちは分かる、けどな)

 

 やはり自分が戦うべきだろう。この十年を生きてきた意味は、きっと――

 

(――――……)

 

 そう思って、右手を見つめる。グローブの下でわずかに指を動かせば、返ってくるのは革の質感――だけでは、なく。

 もはや長くないことを、嫌でも自覚させられる。

 

(こんな時、木場なら)

 

 どうしただろうか。人間との共存を模索し、絶望し、それでも人間であり続けた心優しいあの青年なら。

 戦っただろうか。人間を守る為に。

 切り捨てるのだろうか。絶望するままに。

 あるいは、迷いながらも立ち上がるのだろうか。――理想の、その先を求めて。

 木場たちや真理や啓太郎とすれ違いながら戦い抜いた十年が、あまりにも遠い記憶にさえ思えた。そこでふと、何か忘れているような気がして、

 

「――……海堂」

 

 ……自分でも驚くほど自然に候補から外していた男の名が漏れ出ていた。

 

「そ、そうだよ、海堂さんもオルフェノクだった!」

「そうです、彼の協力を得られれば!」

 

 巧のつぶやきを聞いて、啓太郎が名案とばかりに叫び、琢磨がそれに追従する。あるいは彼なら、口では不満を言いながらもファイズとして戦ってくれるかもしれない。

 ――問題は。

 

「連絡もとれないんじゃ意味ないじゃない」

 

 真理の言うとおり、最後の戦いの後、いつの間にか行方をくらましていた海堂に連絡をとる手段がない。携帯電話は解約でもしたのか、一切繋がらなかった。

 

 八方塞がり。もはや四人に良案は思い浮かばず、重い沈黙が降りる。しかし、その沈黙を切り裂くように、琢磨の携帯が着信音を奏でる。

 

「――っ、は、はい」

『二日連続で無断欠勤とは感心しませんが、どうされましたか? 琢磨逸郎君』

「……ま、前川、副社長」

 

 どうにかその言葉だけを絞り出し、宙を見上げる琢磨。

 

『あれから、ハジメさんはどうでしたか?』

「は、その……少しだけ問題が」

 

 琢磨はとっさに自分の置かれた立場と前川から言いつけられた命令を勘案し、必死でうまい言い訳を考える。

 

「何者かの妨害を受けてしまいまして、それ以降彼との連絡がとれていない、のです」

『それは問題だ、オルフェノク(神の使徒)を、不遜にも倒そうとする輩が跋扈している……』

 

 琢磨は耳から携帯を離した。

 

『そのような事があってはならない! 社長の悲願が叶うその日まで、我らが希望は健在でなくてはならないというのに! 何者だというのですか!?』

「それですっ!」

 

 三人が何か言葉を発するより早く琢磨は叫び、受話器を耳に押しつけた。彼らが側にいることを気取られるわけにはいかない。

 

「それが、ライオトルーパー――十年前に誕生した量産ギアだったのですよ! あれはスマートブレインが開発したものでしょう? どう言うことですか!?」

 

 だが電話の相手に引きずられるような形で出した大声は、琢磨が踏み込むつもりのなかった部分まで言葉にしていた。

 

『――――なるほど、あなた方のところに現れたのですね』

「……知っているのですか?」

『それは――』

 

 意外な反応を見せる前川だったが、琢磨がさらに踏み込んだ内容を聞き出そうとすると、

 

『――あなたが知る必要のないことです。そうですね、今日はこのまま休んでいなさい』

「は、はい……」

 

 琢磨が思わず承諾すると電話は切れてしまった。

 

「……あの人、やっぱりオルフェノクの事知ってたんだ」

「そう言えば、貴女は会ったことがあるのでしたね」

 

 真理が言葉を交わしたときはおくびにも出さなかった――実際には正体を見せる前に遮られたのだが――前川の本性は、社長を盲信する、忠実な部下。当然、オルフェノクについても熟知しているという。

 

「経営権について、実質的に彼が取り仕切っていると言いましたが、それはつまり蛇神社長が裏切られる心配のない人物を要職に据えているということです。ただ、その、彼はあの通り何がきっかけで“爆発”するか分かったものではないので……」

「まともな奴は居ないのか……?」

 

 琢磨の対処がやたらと手慣れていたあたり、彼なりに苦労しているのだろう。思っていたより次元の低そうな苦労だが。

 

「それでどうすんだ? ずっと此処にいるわけにいかないんだろ?」

「……与えられた邸宅に戻るしかないでしょう。万一訪問者が来るとごまかしがききません」

「――邸宅?」

 

 そういえば彼らはスマートブレインから与えられる特権を知らないのだった。巧は一時ラッキークローバーに所属したことがあったが、その権利のほんの一部――死者蘇生手術(オペレーション)の要請を行っただけだった。

 捕捉したオルフェノクにはスマートブレインに勤めさせるだけでなく、専用の社宅が与えられる。それがかなりの豪邸であり、勤めるだけで衣食住すべてが保証されるのだ。

 

「な、何それ! もしかしてたっくんでもいるだけでウチより良い暮らし出来るって事!?」

「おい、『でも』ってなんだ『でも』って!」

「もちろん、勤める以上は人間を襲わされるわけですが……」

「論外だ」

「それ聞くまではちょっと良いかなとか思ってたでしょ?」

 

 そんなわけ無いだろ、と呆れる巧。そんな事だろうと高をくくっていた。

 だが逆に言うと、それだけオルフェノクの確保に躍起になっているということでもあった。つまり琢磨もまた、スマートブレインから逃れられない。

 

「かつての木場勇治や巧さんのように、スマートブレインに反逆したとされる事件もありますしね」

「どういうことだ?」

「少し前に汚職事件がありまして、かなりのオルフェノクが解雇されました。あくまで噂ですが、彼らはスマートブレインに離叛の意志が有ったとされ――――」

 

 はたと、気づく。

 離叛の意志が有ったとされるオルフェノク。

 ロブスターオルフェノク(影山冴子)の見せた怒り。彼女の言う、スマートブレインの異常。

 

 ――――()()()()()()()()()()()()彼らはね……

 

(どうして……!)

 

 どうしてこんな簡単なことに気がつかなかった。

 

「違う、私には都合がいいからとずっと見向きもしなかった……!」

「お、おい?」

「すみません、すぐに出ます!」

 

 琢磨は玄関へと走った。

 ここ数ヶ月、スマートブレインに勤めていた琢磨は()()()()()()()()()()()()

 十年間続いたルーチンが少し変わっただけ。琢磨が求めた平穏の形からは大きく逸脱しなかったからこそ、その生活があり得ないものであることに気づかなかった。

 

 すぐにでも調べないと、手遅れになるかもしれない。その焦りが琢磨を突き動かし、

 

「「うわあああ!?」」

 

 ドアを開けた瞬間に驚きで焦りも引っ込んだ。

 なぜか顔に大きなあざを作った、シルクハットとジャケット姿の青年が、同じように驚きの声をあげていた。

 

「あんただれ!?」

「貴方こそだれですか!?」

「あれ、木村君?」

 

 真理が帰ってきた大牙に声をかけると、他の二人が慌てて駆け寄ってきた。

 

「木村! おま、どうしたんだその顔!?」

「どこで作ってきたのその青あざ!?」

「あ、えっと……」

「――し、失礼します!」

 

 琢磨はそのまま走り去ってしまった。

 

「え、いやちょっと……」

「手当てしないと!」

「ああ大丈夫。ちょっとケンカに巻き込まれただけで……」

「……誰にやられた?」

「たっさん落ち着いて! お礼参りとかそういうのいいから!」

「お前人のことなんだと思ってたんだよ!?」

 

 たっくん落ち着いて、と啓太郎に窘められる光景を見ながら、真理が持ち寄ってきた救急箱で手当てを受ける。

 

「それで、さっきの人は?」

「昔の知り合いだ」

「赤の他人よ」

「…………えっと」

 

 大牙は啓太郎に視線を向ける。

 家主は困ったように、ただ曖昧な表情をみせた。


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