仮面ライダー555 ~灰の徒花~   作:大滝小山

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前回のあらすじ
①まぁ無事なんですがね、たっくん(ちょっと悔しい)
②大牙君の方向音痴は天性のものだよ……(慈愛の眼差し)
③琢磨(バスタブに顔を突っ込んで怪しい会話を繰り広げる男……端から見ると相当にシュールでは?)
④逃 げ ら れ る と 思 っ た か ?


◇ ◇ ◇


昼間、未完原稿を投稿してしまい申し訳ありませんでした。すぐに削除対応しましたが、読者の中にはサイトの設定でスマホに通知が来るように設定している方もいらっしゃるかも知れません。心よりお詫び申し上げます。

気を取り直して、本編をご覧いただこうかと……
仮面ライダー555 In a flash!(このあとすぐ!)


第6話 A

「この世界に怪物が住み着いているって言って、信じられるかな」

 

 ハジメの表情が凍りついたことに気づかず、大牙は言葉を継ぐ。

 

「ちょっとイヤなことがあってさ。たっさんがケガして帰ってきたり」

 

 ――ああ、それはワシがやった事じゃ。

 

「ついみんなで聞き出してさ、そしたらこの辺で悪さしてる奴らだったんだ」

 

 ――オルフェノクはスマートブレインに勧誘され、仲間を増やすべく人間を襲うように要求される。

 

「そいつらは、許せない化け物だ。創才児童園で職員が犠牲になったし、俺や一緒にいた女の子が危ない目にあったし、立て続けにたっさんまで。もう、どうすりゃいいんだろう……」

 

 ――今まさに、その化け物が目の前にいるんじゃ。君はどう思う?

 そんな風に聞いたところで、問答無用で責められるに違いない。それだけつらい目にあって、許せないとまで言い切り、今まさに拳を固めている青年に、自分の言い分など、どれだけ通じるだろうか。

 

「ハジメさん?」

「あ、ああ。どうすればいいか、ときたか……」

 

 悩むふりをして、考える。相談と言いながら、彼が欲しているのは後押しだろう。それはつい先ほどのハジメと同じだ。

 果たして、この状態の彼の背中を押すべきか、否か。いずれ対立するかも知れないと知りつつ、それでも。

 

「答えは、出ておるのじゃろう?」

 

 ――――これは恐らく、人間としてハジメに出来る事の一つだ。ならば、人間として意見するべきだろう。

 ハジメの考えは、ただの人間がオルフェノクに対抗する事は出来ないだろうという、無意識によぎった打算も含まれていた。

 

「さっき自分で言っておったじゃないか。『今自分の心の思うままに行動した方がいい』とな」

「あ……うん、そうだった」

 

 人は時に、分かりきったことでも意見を求めることがある。自分の中に答えがあっても、容易に行動出来ないものだ。

 そんなとき、誰かが味方してくれたなら、それは大きな行動の指針となる。『自分は間違っていない』と胸を張って生きることが出来るから。

 

「うん、やるべき事が見えた。ありがとう!」

 

 大牙は快く手を振り、立ち去った。橋にはハジメが一人取り残される。

 

 ハジメは大牙の心の味方になれたかも知れない。しかし彼は依然として人類の敵(オルフェノク)であった。

 

「はあ……」

 

 何故か大牙と会う前より気が重くなったハジメ。無理からぬ事だと知りつつ、やるせない思いが募る。

 

「――――あなたはまだ、人間を襲ってはいないのですね?」

「っ、誰だ!?」

 

 弾かれたように振り返ると、黒服の男が三人、スマートブレインの社章が刻まれたベルトをして立っていた。話しかけてきたのは、そのうちの一人らしい。

 

「……スマートブレインの差し金か!?」

 

 ハジメの誰何には答えず、立てられたバックルに手をかける。

 

「「「――変身……」」」

 ――――Complete

 ――――――Complete

 ――――――――Complete

 

 社章が本来の向きに倒され、次の瞬間には赤銅色の装甲を纏う戦士――ライオトルーパーへと身を転じた。

 すぐさま転送されたアクセレイガンを引き抜き、襲いかかる三人の戦士に対し、ハジメはとっさにベアーオルフェノクに変身しながらその攻撃をかわしていく。

 

「貴様等、そうまでして……!」

 

 人を殺せと命じ、命令を無視すれば排除する。

 種族の繁栄を掲げながら、意に添わない同族を躊躇なく抹殺するその姿は、嫌悪すら抱く。その感情は、両腕の(クロー)となって振るわれる。

 

「グアッ!」

 

 ただ如何せんハジメには経験が足りなかった。クローをかいくぐったライオトルーパーの一人に斬りつけられ、後の二人がそれに続く。シータにやられたとき以上に執拗な波状攻撃は、ベアーオルフェノクの体を吹き飛ばし、元のハジメの姿となって地面に転がした。

 

「――は、ハジメさん!?」

「……琢磨君、か?」

 

 転がった先に見えた足は、どうやら琢磨のものらしい。琢磨は向かってくるライオトルーパーの部隊を見て、意を決してセンチピードオルフェノクへと変身する。

 

「あなたは逃げてください! 早く!!」

 

 その身体と同様に、無数の棘が生えた鞭を構えると、センチピードオルフェノクは裂帛の気合いをあげて、ライオトルーパーの足止めにかかる。その声を背後に、ハジメは戦場を後にした。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 前川はモニターに写る表示を見て、眉間にしわを寄せていた。蛇神からの助言で、各種ライダーズギアの作動状況を確認しているのだ。

 スマートブレインが開発した戦闘用特殊強化スーツ・ライダーズギアは、各種ツールから発信される信号をはるか上空に存在する人工衛星がキャッチし、分解されたスーツを転送することで装着者を変身させる。すなわち、人工衛星のログをリアルタイムで確認出来るようにすれば、稼働状況の監視は可能だ。もっとも、打ち上げた当初はギアが敵対勢力に奪取される事態を想定していなかったらしく、逆探知や直接の変身妨害は不可能であった。現在地まで特定出来るのは、今のところ試作量産されたシータのみだ。

 

 今、前川の目の前に写るモニターは()()()()()()()()ギアが稼働していることを知らしめていた。消費されたエネルギーや資材から、どの種類のギアが起動したのかは想像がつく。

 

旧世代機(ライオトルーパー)とは、ずいぶんなものを引っ張り出してきたものですね……」

 

 スマートレディによれば、この簡易量産型のギアを開発したのは花形だという。フォトンブラッドを使用せず、純粋な強化服としての機能のみを追求したこのギアを開発した意図を思えば、前川の内心は穏やかではない。

 そのオリジナルとなる六本のベルトは、離脱者のものを除いて十年前の戦いの中で破壊された。それ以降行方が分からなかったベルトと、最低三機は稼働していること、不正な手段が用いられたとはいえ専用コードが登録されていること。

 これらが指し示す意味は明白だ。

 

「現王派のスパイが紛れ込んでいるのは間違いない……」

 

 だが前川は動けない。()()()()()()()()()

 今動いたところで、捕らえられるのはその末端、蜥蜴の尻尾だ。水面下で首謀者と構成員を調べ上げ、一網打尽にするのが理想だ。同時に、シータをはじめとする計画を邪魔させることなく完遂させる。

 

 それでこの世界は終わる。オルフェノクが支配する究極の楽園の完成だ。

 

「馬鹿なものだ。社長の意志、理想的なオルフェノクの世界を理解できない愚か者どもめ……」

 

 まだ計画は動き出したばかりだ。こんなところで邪魔される訳にはいかないのだ。

 

「彼らは、何を怒っているのでしょう? すべてを支配する新たな王とそれによって不死身となったオルフェノクによる永遠の楽園(ユートピア)。これ以上ないほど素晴らしい未来じゃないですか。そのような壮大な計画の一翼を担うことが出来るというだけでも感涙にむせび泣くべきだ!」

 

 いつしか前川の独白には熱が入り、一人きりのオフィスに木霊する。

 狂信者の哄笑が、何時までも最上階のオフィスで響き続けていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「うっ……?」

 

 琢磨は全身を激痛に苛まれながら目を覚ました。見覚えのない天井と数人の話し声から、どうやらどこかの民家であるらしいとあたりをつける。垣間見える窓の向こうは夜の帳が落ち、ソファに寝かされた体は琢磨を叩き起こしたものとはまた別種の痛みを訴える。

 

 あれから無我夢中で戦い抜き、ライオトルーパーの部隊を撤退に追いやったことまでは覚えている。数の不利もさることながら、完成当時のライオトルーパーとは比べものにならないほどの練度の高さ、そして琢磨自身の戦いに対する長いブランクも相まって、元ラッキークローバーとしてはずいぶん不甲斐ない結果ではある。

 同時に、その戦いの結果にどこか安堵する気持ちがあるのも確かだった。だが問題はライオトルーパーの部隊としての完成度だ。何らかの戦闘訓練を施された動きは、例え当時傲慢だった頃の琢磨でも苦戦は必至だ。

 

(ただ、今になってアレが出てくるのもおかしな話ですね……?)

 

 琢磨の耳にも新型ライダーズギアの噂は届いている。眉唾物だと思っていたそれも、テスター候補の話を前川に持ち掛けられた――当然断ったのだが――ことから、笑い事ではすまなくなった。可能な限り情報を集めたが、【オルフェノクの未来を左右する】、【世界を変革する】などといった、抽象的なコンセプトワードばかりが集まっていた。よほど慎重に事を運んでいるのだろう。それでも量産を前提に設計されているという信頼性が高く核心に近い情報を掴み、琢磨は行動を起こしたのだ。

 

(つまりライオトルーパーはもはや旧式……配備が整うまでのつなぎとしてならともかく、あれほど高い練度を保った部隊を組織して運用するというのは、いささか考えづらいのですが……)

 

 しかもすでにテスト機が存在するのだ。普通は試験部隊を結成して、そちらに人員を回す方が自然だろう。

 

(やはり何かがおかしい……これが冴子さんが言っていたこと?)

 

 とにかく、ここにいてはまずい。何も知らない住人をオルフェノクとの危険な戦いに巻き込めば、今度こそハジメは協力しないと言うだろう。今は協力者を募る上で余計な不信感をもたらしてしまうような行動は慎まなければならない。

 身じろぎをした琢磨に気づいた住人がやってきて、話しかけてきた。

 

「大丈夫か?」

「ええ、ありがとうございまあああああああああああああ!?

 

 住人の顔を見た瞬間、琢磨は訳も分からず叫んでいた。いや、訳は分かるがこれはあんまりすぎる。

 

「んだよ、化物でも見るかのように」

 

 不機嫌を隠そうとせずに対応していたのは、乾巧だった。

 

「な、何故!? 何故ここに!!」

「そりゃこっちのセリフだ。なんで店の前で倒れていた?」

 

 どうやら、ライオトルーパー部隊を撤退させた後、傷だらけの体を引きずりあてどもなくさまよっていたようだ。やがて限界が訪れ、倒れ込んだ場所が菊池の前だったというわけだ。

 

「もしかして、当時直接ここを攻めればもっと楽にファイズもカイザも奪い取ることが出来たのでは……?」

「させると思うか?」

「すみませんすみません! 待って、誤解です! 戦うつもりはありませんから! 信じてください!!」

 

 明らかに目が据わっている巧の顔を見て慌てて戦意がないことを強調する。

 

「そんなの信じられない。今更何しにきたの!」

 

 遠巻きに琢磨を責めるのは園田真理だ。その後ろには何故か坊主頭の菊池啓太郎が箒を手に警戒している。

 よく見ると、真理の腰にはファイズドライバーが巻かれ、ファイズフォンを片手に臨戦態勢だ。彼女は変身できないはずなのだが。

 とはいえ、今の琢磨にとってはあまり良くない状態だ。

 

「か、勘弁してください! さっきもスマートブレインの刺客に襲われてひどい目にあったばかりなんですから!」

「何だって?」

「スマートブレイン!?」

 

 巧の疑問に啓太郎の驚愕が続く。

 

「というかお前、ラッキークローバーじゃなかったのか? なんでスマートブレインに追われなきゃならないんだ?」

「今の私はスマートブレインに居たくて勤めているわけじゃありませんよ……そもそもラッキークローバーは解散しています」

 

 ラッキークローバー、幸運を運ぶ四つ葉(CLOVER)。四人一組の、オルフェノクの中でも“上の上”の存在。

 かつての琢磨は、その一員であることが誇りになっていた。

 

「現在のスマートブレインは、完全に社長を頂点とした支配体制です。常に外出中とされていますが、何らかの方法で会社に指示を出している様子があります。ただ指示がない限り、企業の運営は社長の腹心の部下が全権を任されています」

「……じゃあ、蛇神大地は、実在する?」

「――少なくとも、そのように呼ばれる人間が居ることは、確かです」

 

 真理の疑問に答え、ようやく彼女の警戒をとくことに成功する。ファイズフォンを下げただけだが、大きな進歩だった。

 

「――それで、なんでスマートブレインに襲われたんだ?」

「あるオルフェノクを誘って、人間として生活しないかと提案したのです。提案は蹴られてしまいましたが……」

「当たり前じゃない……」

 

 何故か真理に呆れられてしまった。

 

「木場達のようにか?」

「ええ、私はオルフェノクとして生きながらえることに、拘るつもりはありませんから」

「それで、そのあとどうしたの?」

 

 啓太郎の質問に、ロブスターオルフェノクとの邂逅と交わした会話、その後、不安に駆られて隠れ家を飛び出した先で提案を蹴ったオルフェノクがライオトルーパーの精鋭に襲われていた事を打ち明けた。

 

「水辺に影を写して、会話できるってのか?」

「ライオトルーパーって、木場さんと一緒に現れて照夫くんを狙った?」

「精鋭じゃおかしい、ってどういうこと?」

 

 巧に真理に、啓太郎。次々とぶつけられる疑問に一つ一つ答えていく。

 

「――ですから、シータという新型ギアがある以上、ライオトルーパーの精鋭部隊があるのは不自然なのです」

「「「……」」」

 

 黙り込む三人。

 量産型ギア、シータ。

 啓太郎が見た三原に先んじてとどめを刺したであろうライダー。

 真理の危機を救ったライダー。

 そして巧を助けたライダー。

 

「あれが、シータ……」




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